とりあえず、生存はしております。なんとか相棒Season22放映前に間に合いました。
苺プロを後にした右京と尊は、尊のGT-Rに乗り込んだ。
「でも、斉藤社長はどうしてこのタイミングで失踪なんてしたんでしょうね。よりによって、アイさんの葬儀の当日未明ですよ。まさか、社長が今回の事件の犯行に関与していて、雲隠れしたなんてことはないでしょうね」
運転席に座る尊が助手席の右京に話しかける。右京はシートベルトを締めながら答えた。
「可能性としては否定できませんが、僕はその可能性は限りなく低いと思いますよ」
「どうしてですか?」
右京は、ハンドルを握る尊に答えた。
「まず、動機がありません。自社の看板アイドルの過去最高の晴れ舞台、その当日にアイドルを殺害するとは考えにくい。それに、斉藤社長の立場であれば、仮に彼がアイさんを殺害したとしても、自殺に偽装する工作を行うことも容易にできるはずでしょう。態々、ストーカーによる刺殺などという殺害方法を取ることに合理的な理由がありません。アクア君から聞いた当時の状況によれば、アイさんがドアにチェーンをかけるか、覗き穴から訪問者を確認していれば菅野による犯行は失敗した可能性が非常に高い。斉藤社長がアイさんを殺害することを考えたのならば、それも、ドーム公演当日に殺害しなければならない理由があったのならば、もっと確実にアイさんを殺害できる方法を選んだはずです」
「なるほど、確かに斉藤社長ならばもっと穏便なかたちでアイさんを殺害した後の混乱を治める方法も取れますし、態々ドーム公演当日に殺す必要があったにしては菅野を使う方法は確実性に欠ける。アイさんがドアチェーンを使う習慣がないことを知っていたとしても、アイさんが訪問者を不審に思えばドアを開けない可能性だって十分ありますからね」
確かに、斉藤にはアイを殺害する動機はないだろう。仮にアイと斉藤の間に自分たちがまだ把握できていないトラブルがあったとしても、自社の看板アイドルのドーム公演を控えたタイミングで殺害するとは考えられない。
ドーム公演が開催できなくなることによる損害の負担が苺プロにかかってくるのかは分からないが、グッズ販売やDVD販売まで含めればドーム公演中止によって大幅な減収になることは間違いないし、アイという文字通り絶対的なセンターを失ったB小町というグループが衰退することは不可避だろう。
苺プロとしてみればアイの死はデメリットしかない。
斉藤にアイを殺害せざるを得ない理由があったとしても、確かに右京の指摘したとおり、自殺に偽装するなどやりようはいくらでもあったはずだ。それこそ、雨宮吾郎のように死体を遺棄し、行方不明にすることだってできたはず。
ストーカーによって刺殺されるというセンセーショナルな状況をつくるよりも、穏便にかつ確実にアイを排除することができたはずなのに、それをしない理由は今のところはみあたらない。
納得するように頷く尊であったが、すぐに疑問を口にした。
「ただ、殺人の動機なんてものは時に損得勘定を度外視するものでしょう。動機がないというだけでは、斉藤社長が犯行に関与していないと考えにくいのでは?」
尊の指摘に対して、右京は淡々かつ丁寧に答える。
「雨宮吾郎の死体遺棄現場に残されていた足跡は、斉藤社長の足のサイズに比べて明らかに小さい。少なくとも、斉藤社長は雨宮吾郎の死体遺棄に直接関与していないでしょう。雨宮吾郎の死体遺棄に関与した人間と、今回アイさんの情報を菅野にリークした人間、アイさんの周囲に菅野と繋がりを持ち、別々の殺人に関与した人物がいると考えるよりは、二つの事件で菅野と繋がりを持っていた人物がいる。そう考える方が自然だと思いますよ。捜査一課の捜査で仕事関係以外に特段親しい人物が見つかっていない以上、アイさんの交友関係は非常に狭いようです」
尊は右京の話を聞きながら、納得したようにうなずいた。
「となると、やはりアイさんを失ったショックで自暴自棄にでもなったんですかね。アイさんを見出して、アイドルとして育ててきたのは社長自身だったそうですから、それなりに思い入れもあったでしょうし」
「ショックがあったことは間違いないでしょう。自分の人生を賭けていた最高の逸材を失ってしまったのですから、自棄になって酒に溺れているということも十分に考えられるでしょう」
右京の指摘は尊にも納得できるものだった。
「仮に、斉藤社長が自棄酒を呷っているとしたら、正直幻滅しますね」
尊は愛車のハンドルを握ったまま、大きなため息をついた。
「おや、中々厳しいものいいですねぇ」
尊が被害者の関係者、それも、大きな衝撃を受けたに違いない相手に対してこのような感想を抱くことは珍しかったので、右京は少し驚いたようだった。
「右京さんも見たでしょう?ミヤコさんも社長業務とマスコミ対策、アイさんの子供たちの世話でいっぱいいっぱいで」
尊は先ほど苺プロの事務所で目にしたことを回想していた。ミヤコの姿は酷かった。憔悴しきっていて、目の周りは真っ黒に腫れあがっていた。化粧で誤魔化しているが、それでも隠しきれないクマがあるのが分かるほどだった。
育児ノイローゼ、事務所の顔と呼べるトップアイドル殺害に揺れる事務所、特ネタを求めて群がるマスコミ、そして夫であり事務所をここまで育て上げた社長の失踪。ミヤコにかかる負担が尋常ではないことは明白だ。
「……流石にあのままにはしていられませんよ」
尊の呟きに右京も頷いた。
確かに、右京から見てもミヤコは心身ともに限界を迎えつつあるようだった。しかし、右京は別の理由から斉藤の行方を追う必要を感じていた。
「彼女を放ってはおけないというところには賛成します。ですが、僕はもう一つ、斉藤社長が失踪した動機を疑っています」
「斉藤社長が犯人ではなくて、自棄をおこしたわけではない……まさか」
そこで、尊は一つの可能性に思い当たる。
「斉藤社長はアイさんの敵討ちをしようとしている?」
「あくまで一つの可能性ですがね」
右京の答えを聞いた尊の顔色が変わる。
「どういうことですか? まさか、斉藤社長にはアイさんの情報を菅野にリークした犯人が分かったってことですか?」
「現時点で、斉藤社長が犯人にまでたどり着いているのか、もしくは探している最中なのかは分かりません。ですが、姿を晦ます理由としては十分ありえるでしょう」
「それで、杉下警部は一体どうするおつもりなんですか?」
尊の問いに右京は答えた。
「たとえどのような事情があろうとも、復讐を理由とする殺人を正当化することはできません。斉藤社長の所在を突き止めて、止めなくてはなりません」
それは、右京の信念であった。どんな理由があれど殺人を犯すことを許してはならないという警察官としての矜持である。
「杉下警部は斉藤社長の居場所のあたりはついているんですか?」
尊の問いかけに右京は首を横に振った。
「残念ながらまだ。ですから、これから探すことになります」
その返答を受けて、尊は思わずため息をつく。
「それで、まずはどこから調べるんですか?」
「そうですねぇ……まずは、社長のクレジットカードの利用履歴から調べてみましょうか」
そう言うと、右京はスマホを取り出して電話をかけ始めた。
「お暇ですか?」
実は、前回の投稿後いまさらながらコロナに初感染し、もだえ苦しんでました。
熱が引いても後遺症が残って、日々辛い感じですが、ようやく少しだけ余裕ができたので執筆を再開してみました。
前回の投稿以後推しの子は色々と大きな展開があったみたいで、多分ここから進展していく感じですよね。
今後は本日幕をあげる相棒Season22を見ながら、推しの子本編の進展を見ながら、少しずつ執筆意欲をあげて無理のない範囲で投稿していきたいと思っています。