どうにか推しの子2期放映開始までに戻ってまいりました。
久々の更新となった理由について言い訳しますと、前回の更新の後、ヤンジャン最新話でカミキの過去が触れられるようになり、それを読んでいると拙作の中での「ホワイダニット」と原作の「ホワイダニット」にちょっと無視できない乖離が生じることに気づきまして、どうすべきかと悩んでおりました。
色々と考えている間に時間が過ぎ、仕事が繁忙期に突入し、相棒Season22が終わり、アニメ推しの子第二期放映が迫り、カミキについて色々とヤンジャン最新話で明かされていく中で、自分なりにある程度構成の見直しができたので、更新を再開していくことができるようになりました。
再構成した後でもまだ折り返し地点に達していない拙作ですが、今後ともよろしくお願いします。
「これがあのアイが使っていた携帯ですか……」
苺プロを後にした右京と尊は、警視庁に戻るとすぐに鑑識課の部屋を訪ねていた。
米沢は右京から手渡された一世代ほど前の携帯をしげしげと眺めている。
「アイさんが出産したころまで使っていたものだそうです。米沢さん、中のデータは見れますか?」
「勿論です」
米沢は引き出しを開けるとパソコンに繋いだケーブルを携帯に接続した。携帯のデータ解析は、国民のほとんどが携帯を持つ今の時代では日常的な作業である。
当然、鑑識課でもあらゆる種類の携帯に対応する接続ケーブルや、データ解析ツールを取り揃えてあった。
パスワードも、指紋認証も、パターンロックも、その解除は手慣れたものだ。
作業を進める米沢を見守りながら、尊がぽつりと口を開いた。
「天才アイドルの遺伝子のなせる業なんですかね、あの早熟さは」
「アクア君とルビーちゃんのことですか?」
右京の問いに、尊はうなずいた。
「早熟な子供というものがいることは知っているつもりでした。ですが、あの双子は別格ですね。ところどころ、歳相応の精神性が垣間見えるとはいえ、普通の未就学児と比べたらまるで違いますよ」
右京もうなずく。右京の目から見ても、双子は明らかに異質だった。
「生まれ持った遺伝子に起因する、同世代の子供に比して突出した知性と精神性を兼ね備えた子供たち。欧米ではそのような子供をギフテッドと呼ぶそうですよ」
「なるほど、神または天から与えられた正に、『天賦の資質』というわけですか。しかし、お二人のお話を聞いていると、そのアイの隠し子というのは、天才児というよりも、まるで某国民的ミステリー漫画に登場する見た目は子供、頭脳は大人の主人公みたいに思えます」
米沢の言葉に、尊は思わず吹き出した。
「大人を子供に変える毒薬なんてものが本当にあったら是非お目にかかりたいものですけどね。まぁ、あの双子に関して言えば、宮崎の病院にそれこそアイさんの妊娠中からの記録もあるはずですから、どこぞの漫画のように怪しげな組織が開発した薬を飲まされて若返った子供なんていうことはまずありえない話ですが」
「事実は小説よりも奇なりとは言いますが、物語でも荒唐無稽と言われるような天才が世の中にはいるものなのでしょうねぇ」
「杉下警部がそれを言います?」
右京の言に、尊は思わず苦笑する。
尊の知る限り、天才という形容が最も相応しい人物は杉下右京である。
その思考速度、判断力、行動力は常人のそれを遥かに凌駕する。そして、彼は自分の興味関心のない事件には見向きもしない。天才と変人を兼ね備えた存在、それが右京なのだ。
「僕なんかは本物の天才に比べれば足元にも及びません。まだまだですよ」
右京は謙虚に言った。
「参考までに聞きますが、杉下警部はどんな子供だったんですか?」
「僕ですか?担任の教師に言わせれば、僕は問題児だったらしいですねえ」
意外な答えに尊は一瞬目を丸くした。
「え?杉下警部が問題児*1ですか?」
思わず聞き返した尊だったが、考えてみれば思い当たる節がある気がした。いや、ありすぎると言うべきか。
尊の妙に納得した表情を見てか、右京はやや憮然として言う。
「……何ですか、その納得したと言わんばかりの顔は?」
「あ……いえ……。まぁ、杉下警部のことです。周囲の子供と和気藹々としている姿がどうにも想像できなかったものですから。周囲からはさぞ浮いていたのだろうなぁと」
「なるほど、納得のいく考察ですな」
米沢も尊の分析に納得顔で頷いた。
「私も、子供のころは周囲と合わず、浮いた存在でした。乗り鉄、落語と小学生らしからぬ趣味を持っていたもので、同級生からは変わり者扱いされていましたので、気持ちは……いや、杉下警部はそのようなことを気にするタイプではありませんでしたな。私と同様、周囲から変人とは思われていたのでしょうが、いささかベクトルが違ったでしょうし」
杉下右京という人間に、周囲に対する協調性を求めることの方が間違っている。
自身の論理を第一義とし、例えどんな相手であろうと容赦なく論破していく少年時代。何と可愛げのない子供だろうか。
友人と呼べる存在がいなかったことは容易に推測できる。
教師が友人をつくるように勧めたとしても、おそらく無駄であっただろう。むしろ、教師を論破して教師からも距離を置かれていたに違いない。
加えて、右京自身が周囲の子供と比べて優秀すぎたために、周りからのやっかみを買ってもいたはずだ。そういった諸々の要素によって、右京少年は孤独になっていったことだろう。
「あの子たちも、学校に通う年になったら苦労させられそうですよね、教師が」
「今は昔と違って教師の立場も大変ですからなあ……っと出ました」
米沢の声に二人がパソコンの画面をのぞき込む。そこには携帯のデータ解析結果が示されており、電話帳、通話履歴、メールボックスに画像フォルダのウィンドウが開いていた。
「米沢さん」
「分かっております。先に一課が押収したアイさんのプライベート用、仕事用のスマホに入っていたデータ、それと、この携帯のデータ。既に削除されたデータも可能な限り復元した上で、杉下警部のパソコンへ」
相変らずの阿吽の呼吸で会話を交わす二人に尊は呆れ顔になる。
「いつも助かります」
「いえいえ、このようなことしかできないことが歯痒いくらいで。事件解決の糸口になるのならばよいのですが」
その時、鑑識課の部屋の入り口から声がかかった。
「鑑識課のよ~ね~ざ~わ~」
聞き覚えのある独特のねっとりした節回し。しかし、どこかいつもよりも深い怨念がこめられているように感じさせるその声に、尊は思わず振り向く。
そこにいたのは、徹夜でもしたのか目の下にくっきりとクマを作った伊丹だった。さらに、伊丹に続いて三浦、芹沢といつもの面々が顔を出した。皆一様に疲労の色が濃い様子だ。
伊丹はいつもの強面の顔に恨み骨髄といった表情を浮かべて特命係の二人を一瞥すると、米沢の方へ歩み寄った。
「米沢、お前確か、現場で『一警察官として事件の早期解決のために全力を尽くす』とか言っていたよなぁ……」
クマを浮かべて迫力の増した強面をずいっと近づける伊丹に、米沢は思わずのけぞった。
「え、ええ、まぁ……」
さすがの米沢もたじろいだ様子で答える。
「『早期解決に力を惜しんではいられない』とも言ってましたよね」
「有言実行、プロの矜持とやらを見せてもらおうか」
芹沢と三浦が畳みかけるように言う。
「ええと、それは一体どういうことでしょうか……」
嫌な予感を覚えつつ、恐る恐る尋ねる米沢に答えたのは、右京だった。
「なるほど、アイさんが使った可能性のある公衆電話を絞り込めましたか。そこからアイさんが使った公衆電話を特定するために米沢さんに指紋を採取してもらいたいということでしょう」
「え?……でも、都内にある公衆電話と、アイさんの行動範囲のすり合わせができたところで、条件に合致する公衆電話の数はそれこそ何百台くらいはありそうなものですが、それを、全部ですか?」
尊の言葉に米沢は顔を引きつらせる。
「そ、そんな無茶な!?」
「生憎、我々もそんな無茶ぶりをするつもりはありませんから。当然、ある程度絞り込んだ上で作業を依頼しにきています。面倒な仕事を誰かに押し付けて好き勝手に動き回っている誰かさんたちとは違うんですよ~」
伊丹たちが右京と尊に向けた視線には非難めいたものが多分に含まれていることは言うまでもないだろう。
しかし、右京はいつものとおりその視線を全く意に介していない。
「そもそも、全ての公衆電話とアイさんの活動範囲を照らし合わせるという行為自体、非効率的です。アイさんは双子の父親との接触については非常に用心していたようですから、少なくとも変装をせずに公衆電話を使うことはないでしょう。関係者が多く、変装が見破られる可能性もあるテレビ局の周辺も敬遠するでしょうし、会話を聞かれることを恐れて電話ボックスを利用していた可能性が高い。そのうえで、車を持っておらず、幼い子供の世話をするために仕事以外では長時間の外出ができないアイさんのプライベートの生活範囲と照らし合わせれば、絞り込みも然程難しくはないでしょう」
「然程難しくないって……あの後、俺たち徹夜したんですがね!」
「杉下警部も、絞り込み方を考えていたなら教えてくださいよ、そうすればもう少し早く終われたのに……」
暗に、途中までは馬鹿正直にすべての公衆電話から絞り込みをしていたことを漏らした芹沢の頭部に、余計なことは言うなといわんばかりに伊丹と三浦の張り手が決まった。
「それでは、皆さんは電話ボックスの件について調べておいてください。二桁は該当箇所がありそうですが、お任せします。僕は、アイさんの携帯のデータを見ておきますので」
「え?ちょっ、杉下警部!?」
戸惑いの声を挙げる米沢を残して、右京は鑑識課の部屋を後にする。
尊も少し遅れて後に続いた。
残された米沢は助けを求めた手を宙ぶらりんにした状態で固まる。そして周囲を取り囲むトリオ・ザ・捜一の面々の徹夜続きで充血した目が無言の圧力を加えてきたため、米沢は諦めて大きな溜息をつくのだった。
SEASON22第17話『インビジブル』
右京さんVS天才少年。
劇場版第一作といい、Season22第14話『亀裂』といい、右京さんとチェスでガチンコにやりあう人は大概ろくなやつじゃないということですね。
ギフテッドと、児童養護施設出身者という出自から周囲からどうしても浮いてしまわざるを得なかった少年の孤独と、その支えだった存在を失ったことに対する復讐がとてもよくまとまっていた回でした。
後、この回では珍しく、右京さんの少年時代の様子が触れられています。
他に右京さんの少年時代の描写がある回は、Season14第17話『右京の同級生』くらいでしょうか。
中学生になって小説を書いていたということはSeason4第8話『監禁』で触れられていましたが、特にそれ以外に右京さんの少年時代に触れるエピソードが思い浮かばないですね。
とりあえず、昔から右京さんは右京さんだったみたいです。