【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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 ヤンジャン最新話、衝撃の展開でしたね。
 あと、本編の矛盾については、割り切ることにしました。
 アシュラマンに手足を引き抜かれたって試合終了後したら元に戻ったり、悪魔将軍にスピン・ダブルアームをかけられているはずなのに観客席にいたり、登場人物紹介でいつの間にか別人にされた例だってあるんだから深く気にしてもしょうがない。
 刑事ドラマとしての致命的な破綻さえなければ自分が納得できるようにすればいい。
 ということで、カミキの独白に則って、姫川愛梨の心中はアイの妊娠直前という形にしました。
 それに併せ、多少プロットと、過去投稿話(具体的には第3話、第4話、第30話)に手を加えて、このまま突っ走ることにします。


第36話 電話の相手

「きました、きましたよぉ~、照会結果!!」

 捜査一課のフロアに、芹沢の興奮気味な声が響いた。

 机に頬杖を突きながらぼんやりとテレビを見ていた伊丹は、芹沢の声を聞くなり慌てて身を起こした。

 連日の泊まり込み勤務で疲労困憊だった伊丹だが、芹沢が持ってきた知らせに眠気など一瞬で吹き飛んでしまったらしく、その目はギラギラと輝いている。

 一方、隣の机では伊丹ほどの若さが残っていないためか、ぐったりとした様子で新聞を広げていた三浦が億劫そうに目を上げた。

 ここ数日、彼らは目の前で被疑者に飛び降り自殺されたことに対する責任と、特命係に面倒ごとを押し付けられた苛立ちとに突き動かされ、寝る間も惜しんで事件解決に向けて奔走していた。

 被害者――星野アイの生活範囲を特定し、スケジュールから彼女が公衆電話を利用できるだけの時間的余裕のある時間帯にある電話ボックスと照らし合わせ、絞り込んだ電話ボックスの通信記録を照会すると同時に鑑識を動かして絞り込んだ電話ボックス内の指紋を採取。

 徹夜で都内の電話ボックスを駆けずり回った米沢の努力の甲斐あり、渋谷の公衆電話からアイの指紋が見つかった。

 アイが渋谷に行くことができた時間帯と、その時間帯における公衆電話の利用履歴、そしてアイの指紋が発見されたプッシュボタンの位置から、アイがこの公衆電話を利用してかけたと見られる番号を特定した彼らは、通信会社に連絡をとり、その番号の持ち主の個人情報を照会していたのである。

「それで、どこのどいつだ。ガイシャ(被害者)が電話した相手ってのは」

 伊丹の言葉に、芹沢はもったいぶるように咳払いをした。

「いや、それがですね、まさかのお相手で俺もびっくりしちゃいましたよ。なんせ」

 芹沢が最後まで言い終える前に、我慢の限界に達した伊丹が乱暴気味に芹沢の掲げていた茶封筒をひったくった。

「あぁ、ちょっ……!!」

「勿体ぶってんじゃねぇよ、面倒くせー」

 芹沢の制止を振り切り乱暴に封を開けて中身を取り出した伊丹は、書類に視線を走らせて怪訝そうな表情を浮かべた。

「ん?……姫川愛梨?なんだ、女か?」

 アイが公衆電話を使ってまでその関係性を隠そうとした相手であり、かつ新居の住所を教えてもらえるほどの親しい関係ということから、電話の相手はアイの子である双子の父親である可能性が高いという右京の推理が外れたことに対して伊丹は困惑半分、がっかりしたような気持ち半分といった様子だった。

「……まぁ、携帯の契約者と使用者が同じとは限らねぇか。とっかかりとしてまずはこの姫川愛梨って女をあたるぞ」

 そう言って椅子の背に引っ掛けていた上着を手に取り、足早に部屋から出て行こうとする伊丹の姿に三浦と芹沢はコイツまじかという表情で顔を見合わせた。捜査一課のフロアにいた他の刑事たちも、伊丹の発言に対して同様の表情を浮かべている。その様子を見て、伊丹は自分の言動の何がおかしかったのかが理解できず首を傾げる。

「なんだ、なんか俺おかしなこと言ったか?」

「いや、その……先輩、姫川愛梨って名前に聞き覚えがありませんか?」

被害者(ガイシャ)の関係者にそんな女いたか?」

 遠慮がちながらもはっきりと質問を投げかける芹沢の様子に違和感を覚えつつ、伊丹は素直に答えた。そんな伊丹の反応を見て、今度は三浦が大きくため息をついた。

「お前……ほんっとうにテレビ見ないんだな」

「まぁ、アイの名前すら初耳だったみたいですしねぇ」

 芹沢が呆れた様にそう言うと、伊丹はますます訳が分からないというように眉を顰めた。どうやら本気で心当たりがないらしい様子に、三浦と芹沢は再び顔を見合わせ呆れた表情を浮かべるしかなかった。二人の反応に、ようやく伊丹も姫川愛梨なる女性がメディアで報道されているような有名人であることを悟る。

「結構前の作品ですけど朝ドラの主演もやってましたし、清涼飲料水とか色々なCMにも出てたこともある有名な女優ですよ。ほら、どこかで顔見たことありません?」

 芹沢がスマホで検索した姫川愛梨の顔を表示して見せると、そこには整った顔立ちの女性の顔写真が映し出されていた。清楚な雰囲気を纏った黒髪ロングストレートヘアーのモデル風美人といったところだろうか。

「言われてみれば確かにどこか見覚えのあるような……まぁいい。とりあえず、そいつに話を聞きにいくぞ」

「ちょっと待てよ伊丹。それは無理だ」

 さっさと部屋を後にしようとする伊丹を三浦が呼び止める。訝しげに振り返る伊丹に向かって、三浦は苦々しい表情で言葉を続ける。

「死んでるんだよ、姫川愛梨は」

 三浦の口から出た思わぬ言葉に、伊丹は驚きのあまり言葉を失った。だが、これは世間一般では既に周知の事実であり、各種マスコミが散々に持ち上げた挙句世間には飽きられたニュースである。知らぬは伊丹ぐらいのものだ。

「軽井沢のコテージで夫婦共々心中してるんですよ。三、四年くらい前の話ですが、当時はワイドショーとか週刊誌はその話題で持ちきりだったんですから」

「あ~もういい!!わかった、姫川愛梨って女については分かった!!それよりも問題は、どうしてそんな前に死んだ女の携帯の契約がまだ生きていて、そこに被害者(ガイシャ)が連絡を入れていたかだ。それも、犯行のあった日の一週間前に!!」

 いささか強引な話題の切り替えではあったが、伊丹の言うこともまた正論ではあった。

「携帯の利用料が口座からの引き落としになっていて、その引き落とし先の口座を解約せずかつ携帯の契約自体も解約せずにいたなら、まだ姫川愛梨名義の携帯を使えても不思議じゃないですけどね」

 芹沢の言うとおり、スマートフォンや携帯電話のようなサービス提供をしている通信事業者は、通常契約者の死亡により契約を解除することとなるが、原則として死亡の届け出は契約者が行うものであり、事業者側が契約者の死亡の有無を調査するものではない。

 利用料の引き落とし口座が利用者の死亡に伴い凍結もしくは解約された時に、利用料の支払いがされていないことを理由に契約者に確認をとることはある。しかし、利用料金の支払いが円滑に行われており、料金プランの廃止や契約の継続確認をする事情がない限りは態々利用者の状況を確認することはしない。

 相続人が不明な孤独死を除けば、携帯の利用者が死亡した場合に金融機関の解約や各種契約の解約は相続人らが自主的に行うという前提がこの時代の日本にはまだ残っていたのである。

「態々解約せずに何年も残しているところが、妙にきな臭いな。死人の契約をそのままにしておくなんてことは普通はない。何か後ろめたい目的で使っていて、足がつかないように態々死人の契約を残しているってことか?」

 三浦も伊丹の言葉に頷きながら、自身の考えを口にする。

 裏社会の人間が借金が返せなくなった人間を携帯の名義人にして、その携帯を裏社会の人間が詐欺や違法取引の連絡手段として使うというのはよくある手口だ。

「いや、それにしては通話履歴が少なすぎる」

 伊丹は、芹沢が取り寄せた姫川愛梨の契約関係の照会回答に添付されていた通話履歴の書類をテーブルの上に広げてみせた。伊丹の言うとおり、その資料にはアイが転居の直後にかけたと思われる公衆電話からの着信を除き、一切の通信履歴がない。

 通信履歴は直近の三ヵ月分しか確認できないため、それ以前には他の通信があった可能性は否定できないものの、裏社会の人間が利用している番号だとすればアイからの着信以外の利用がないのは不自然だった。

「それに、その姫川愛梨。心中だって言ってたな」

「ええ。夫と一緒に軽井沢の別荘で」

「似てると思わねぇか?」

 伊丹が言わんとしていることを悟り、芹沢の表情がこわばる。

「そういえば、姫川愛梨の事件も、無理心中を図ったって話らしい」

 当時、連日のように報じられていたこの事件に関する記事の内容は、被害者の知名度も相まって三浦はよく覚えていた。

「夫が姫川愛梨を殺害し、その後自殺を図ったと長野県警は結論づけたそうだ」

「心中というと、男と女がつれあって自殺したって印象が強いが、大概が一方がもう一方を殺害し、自ら命を絶つってパターンだ。被害者と加害者の関係性は違えど、今回の事件と構図は同じじゃねぇか」

「そして、今回の事件の被害者が、何年も前に無理心中で殺害された女の携帯に事件の直前に連絡を取っていた……」

「これ、やっぱり二つの事件の裏には何か繋がりがある感じですよね。具体的には、杉下警部が推理していた黒幕、推定双子の父親の、X」

 伊丹は勢いよく席から立ち上がった。

「よ~し、まずは姫川愛梨の当時の関係者に聞き込みにいくぞ。おい、芹沢は軽井沢行ってこい」

「ちょっ!?先輩!?」

「長野県警から資料を取り寄せてる時間がもったいねぇ。所轄から資料を借りがてら、現場にも寄ってこい。俺たちが聞き込みを終えるまでには用意しとけよ、いいな!」

 そのまま足早に部屋を出て行く伊丹と三浦。

「え、えぇ~!?」

 慌てて聞き込みに行くために飛び出した伊丹と三浦も、面倒な仕事を押し付けられて嘆く芹沢も気づかなかった。

 一課の別の係に資料を届けるためにたまたま一課のフロアに足を運んでいた米沢が、その大きな身体を縮こまらせながら彼らの話に耳をそばだてていたことに……。




相棒Season23の情報が解禁されましたね。
10月の初回スペシャルが今から楽しみです。
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