警察が捜査を全くしていないってことが確定しましたね。
ついでに社長の言動と行動と思考が完全に支離滅裂になりました。あの人の言葉、もう何も信じらんない……。
原作のままだと右京さんが出張る難事件でもなんでもなく、山村ミサオか矢部謙三で十分な事件になってしまいますよね。
「社長を吐かせれば解決」という安易な結末に至らずとも不自然ではない展開になるよう、色々とオリ補完を加えてどうにか完結まで進めていくつもりではありますので、今後ともご期待いただければと思っています。
「え?姫川愛梨!?」
コソコソと特命係の小部屋に顔を出した米沢がもたらした捜査一課で盗み聞きした情報を聞き、尊は驚きを露にした。
「おいおい、姫川愛梨っていやぁ、何年か前の朝ドラのヒロインだろ?」
いつものように特命係の小部屋にコーヒーをもらいにやって来た角田が、愛用のパンダマグを片手に言った。
「女房も、ウチのガキたちも見てたよ、ほら『サンサンファミリー』」
「私も、放送当時は全話録画してみていました。今をときめく若手役者たちが揃い踏みした朝ドラ史上屈指の名作と言っても過言ではないでしょう。それだけに主演の姫川愛梨が亡くなったと知った時はショックでした」
米沢は感慨深げに言う。
「確か、4年前に軽井沢の別荘で夫の上原清十郎さんと一緒に心中して亡くなっていましたね」
「お、警部殿も覚えていたか」
「当時は随分とニュースになりましたから」
右京は淡々と答えた。
「そうそう、売れない役者をやってた夫が大女優としてチヤホヤされていた妻を憎んで、道づれにした無理心中じゃないかって当時の週刊誌では随分騒がれてたもんだが、結局真相は分からずじまい」
コーヒーを飲みながら角田は言う。
一方、尊は別のことに引っかかりを覚えたようだった。
「その姫川愛梨さんの名前で契約された番号に、アイさんが事件の一週間前に公衆電話から電話をかけたんですね?」
「アイさんの指紋がプッシュボタンから発見されていますし、アイさんの指紋が残ったボタンの番号が姫川愛梨名義の番号と一致していました。通話があった時間帯はアイさんのオフの日で、時間的な整合性もとれていますからまず間違いないかと」
そこまで言って、米沢は少し声を潜める。
「一課は、その線で姫川愛梨の関係者と、アイさんの関係を追うようです」
「まぁ、これが一般人の携帯の番号だったら、ヤクザとか闇金が弱み握って巻き上げたんじゃないかっていう線でも追うんだろうが、相手が芸能人じゃその線は薄いだろうからなぁ。一課の見立てどおり、関係者が姫川愛梨名義の契約を勝手に引き継いで使ってるってのが妥当だろ」
角田はコーヒーのお替りを入れながら淡々と語った。
「ですが、親族ならともかく関係者が契約を引き継げるものでしょうか?」
「姫川愛梨から携帯を預かることができて、料金の引き落とし口座も把握している関係なら十分可能だろ。携帯キャリア各社も、契約者が本人だとか、生きてるか死んでるかどうかなんて確認しないからな。一度契約してしまえば契約プランの更新とか、長期間利用がないだとかの理由がなければ確認しないんだよ。ウチからも、犯罪の温床になるから確認を強化するように通達は出してるが、効果はお察し」
やれやれとばかりに、角田はため息を吐いた。
「下種な勘繰りかもしれませんが、姫川愛梨に愛人がいたとすればそのようなことも可能かもしれませんな」
米沢は顎に手を当てて考えるように言う。
「杉下警部はどう思いますか?」
尊の問いかけに、右京はいつも通り静かに答える。
「殺人を犯した人間が、犯行後に自ら命を絶ったという点で、姫川愛梨さんの事件と今回の事件は共通しています。そして、二つの事件の被害者に共通する関係者がいる。現時点では、その人物を特定することが唯一の糸口でしょう。姫川愛梨さんの事件についても、まずは現場を確認して資料を見なければ何も言えません」
「確かに、現状では唯一の手がかりと言えるでしょうな。一課もその線で動いているようで、伊丹刑事と三浦刑事が関係者への聞き込み、芹沢刑事も長野県警に足を運んで態々資料を借りてくるようです」
米沢の説明を聞いて右京は再び口を開く。
「ですが、直接資料を受け取りに行くとは、随分と性急ですねぇ」
「どうやら、内村刑事部長が送検を急いでいるようです。注目度が高い事件ですが、既に犯人が死亡していますからね。送検を遅らせれば世間から色々と勘繰られるのは避けられません」
米沢はそう言って肩を竦めた。
すると、角田がパンダマグから口を離し、思い出したかのように言う。
「ああ、週刊誌じゃあ警察がストーカー被害の相談を受けてたんじゃないかとか、不審者情報があったのにパトロールもせずに放置していただとか色々勘繰ってるみたいだね。内村刑事部長もそういう追求受けてピリピリしてるんだってさ」
角田の話を聞き終えると、右京はカップに残っていた紅茶を飲み干してから立ち上がった。
そして上着を羽織り、外出の準備を始めた。
「ん?出るのか」
「ええ。課長、今日はおそらくもう帰りませんので消灯はお任せします」
右京はそう言うと、思い出したかのように上着の内ポケットから封筒を取り出し、米沢に渡す。
「ああ、それと、米沢さん。もしよろしければこちらを」
「これは?」
「古今亭鵬太郎師匠*1の独演会のチケットです」
「おお!ありがとうございます!事件解決の暁には是非鵬太郎師匠の名人芸を堪能させていただきます!」
喜びをあらわにする米沢を残し、右京は特命係の小部屋を後にする。
「神戸君、行きますよ」
「……まさか、これから軽井沢ですか?」
「それ以外のどこに行くというのですか?」
さも当然のように言う右京に、尊はため息を漏らす。おそらく、今日は定時までに警視庁に戻ることは不可能だろう。
二人は警視庁の地下駐車場に向かい、そこに停めてあった尊のGT-Rに乗り込んだ。
SEASON19第13話『死神はまだか』
相棒では 昇太師匠が落語監修をしていたり、SEASON4では米沢さんが右京さんから昇太師匠の独演会のチケットをもらったりとちょくちょく落語が絡んできます。
ストーリーにがっつり絡むのは、この話を除くと他にはSEASON1第3話『秘密の元アイドル妻』と、SEASON22第16話『子ほめ』くらいしかないのですが。
今回名前だけ登場した古今亭鵬太郎師匠は、右京さん曰く相棒世界の落語家の中では渋い顔ぶれの一角だそうです。
因みにこの回は聖人化した内村部長の『デュープロセス』初登場回でもありますが、そのせいか右京さんの暴走はやや控え気味。
個人的には、伊丹さんの「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン」が印象的な回です。