【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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いよいよ来週相棒Season23がスタートしますね。
まさかあの少年Aが新人警察官Aとして再登場するとは……彼が特命係と出会い、救われ、同じ背中を目指すことになったことに熱いものを感じずにはいられません。


第41話 見栄

「なるほどな……確かに、無理心中にしては妙だ」

 長野県警から姫川夫妻の心中事件の資料を持ち帰った芹沢は、翌日警視庁の捜査一課のフロアで先輩の伊丹と三浦に先日事件現場を訪れたことも含めて事件の経緯を説明していた。

 なお、特命係の二人が便乗して軽井沢にまでおしかけ、芹沢よりも先に資料に全て目を通していたことも、特命係の二人が事件現場の別荘の鍵を手配していたことも芹沢は口にしなかった。

 右京が事件現場となった別荘で語った推理も、あたかも芹沢が資料に目を通し、現場を確認し、自分なりに事件の真相を推理したかのように伊丹たちに伝えた。

 特命係の二人におんぶにだっこだったという真実を口にしたところで伊丹の機嫌がさらに悪くなるだけだからだ。

 芹沢自身、自分も軽井沢くんだりまで行って遊んでいたわけではないと伊丹に見栄を張りたかったというのもある。

「でも、まさか朝ドラ女優が不倫してその相手と子供までこさえてたってのは発想が飛躍しすぎじゃないか、流石に」

 言外に、いささか行き過ぎた推論ではないかと三浦が指摘する。

「ただの無理心中ではなく、殺人に偽装する必要があったというところまでは俺も同感だ。だが、どこの誰とも知らない間男に罪を着せるためにっていうのはちょっとばかし突飛だ」

 しかし、三浦の指摘に芹沢はあらかじめ準備してあった反論で返した。

「姫川愛梨の相続税の申告も確認しましたけど、死亡保険をかけてはいませんでしたし、財産だって朝ドラ女優にふさわしい金額がありました。よくある、死亡保険の免責要件を免れるために自殺を他殺に偽装したって線が薄い以上、この推理そう外れてないと思いますよ」

「突飛とはいえ色々と辻褄が合うってのも間違いない……ん?」

 伊丹が訝し気な表情を浮かべた。だが、それは芹沢が語った推理の内容に対するものではない。

 芹沢が自信満々に推理を披露したことそのものに対する疑問が浮かんでいた。

 伊丹はその悪人面にふさわしい剣呑な表情で芹沢を睨みつけた。

「お前、まさか軽井沢まで特命係を連れてってねぇだろうなぁ」

 芹沢は顔を引きつらせながら、視線を逸らした。

「妙にすっきりした推理をすると思ったらお前……」

「特命を頼るために連れ出してどうするんだよ!!」

 伊丹と三浦は芹沢に食って掛かった。しかし、芹沢にも言い分がある。

「いや、別に特命を連れ出したわけじゃなくて……というか、事件資料の持ち出し申請やらやっての全部こっちなのに、何なら俺より先に下佐久署で資料閲覧してたんですよ?」

 そう、芹沢は積極的に特命係に知恵を借りたわけではない。

 芹沢が下佐久署に資料の貸出申請をしたことを知った右京が、申請に便乗して申請者である芹沢よりも先に資料を閲覧したのであって、芹沢はむしろこの点では被害者である。

「じゃあ、上原清十郎が姫川愛梨の不倫相手に罪をなすりつけようと現場で工作して心中したって推理はお前の推理なのか?」

「いや……それは、まぁ…………」

 しかし、事件の現場となった別荘で現場検証できるように鍵の手配をしたのも右京の指示を受けた尊であるし、上原夫妻の心中の真相を現場の状況や違和感を見逃さない鋭い観察眼から上原清十郎の末期の奇妙な行動の意図を看破したのも右京である。

「警部殿の推理を素直に拝聴して、それを自分の推理であるかの如く振舞ってんじゃねぇよ!!」

 厚かましくも右京の推理を自分の手柄だと主張するなと伊丹は芹沢の頭部に張り手を見舞う。

 傍らでは三浦がため息をついた。芹沢の言い訳の見苦しさに対するものが半分、そして残りは芹沢の資料持ち出し申請に便乗して芹沢より先に事件資料を閲覧していた特命係の――正確には、杉下右京の図々しさに対するものだ。

「それで、特命はその姫川愛梨の不倫相手の男の目星はつけてるのか?」

「さっき、突飛な推理って言ってませんでした?思いっきり意識してるじゃないですか」

 芹沢の推理を聞いて眉唾物だと思って聞いていた伊丹が、その推理が右京のものだと知るや否や掌を返した。

 実績と信頼の杉下右京ブランドの推理となれば、いかに特命係を毛嫌いしている伊丹と言えども、自身の意見よりもそちらに従うらしい。

「うるせぇ!!そんなことよりどうなんだ」

 まるで犯人に対して取り調べするかのような剣幕に芹沢は思わずたじろいだ。

「目星はまだつけてないみたいですけど、なんか、あてはあるみたいですよ」

「あて?」

 三浦が怪訝そうに眉を寄せた。

「なんでも、杉下警部には被害者(ガイシャ)と姫川愛梨の双方に接点がある関係者に心当たりがあるそうで。そこで聞き込みをするつもりだって言ってました」

「で、その心当たりってのは?」

 伊丹も気持ち身を乗り出して芹沢に先を促す。

「劇団ララライだそうです」

「……ん?それって確か、上原清十郎が所属していた劇団だろ?」

 三浦が記憶の糸を手繰りながら、伊丹に確認する。

「ああ。上原清十郎はそこの古株の一人だったらしい。姫川愛梨もララライ主催の舞台に何度か出演していたはずだ。だが、それと今回の事件(ヤマ)になんの関係があるってんだ?」

「なんでも、アイの自宅に劇団ララライで作成した練習用の台本があったらしくて。それに、アイの事務所で昔のB小町のスケジュールを確認したら、劇団ララライのワークショップの参加歴があったみたいです。時期もアイが妊娠する少し前のようですし、そこで今回の犯人(ホシ)がアイと姫川愛梨と接点を持ったと推理しているみたいです」

 芹沢がペラペラと右京の推理を二人に伝える。

 伊丹は眉にしわを寄せながら、こめかみを押さえて苦い表情を浮かべた。

「……仕方がねぇ。特命の後乗りってのが気に喰わねぇけど、その劇団ララライってとこに行ってみっか。おい、芹沢」

 伊丹は芹沢に向き直ると、有無を言わさずに本日二度目の張り手をその脳天に叩き込んだ。

「いったぁ……」

「くだらねぇ見栄張った罰だ。反省しろ」

 三浦は、そんな二人の様子を呆れたように眺めていた。




 前回、『ボーダーライン』を個人的相棒鬱回ランキング2位として紹介させていただいたところ、ランキングの開示の要望が感想欄でありましたので、こちらで開示させていただきます。
 選考はPreSeasonからSeason22までのテレビ放映分全話と劇場版4作+スピンオフ劇場版2作、DSソフトと公式ノベライズ作者によるオリジナル小説5巻から行っております。
 なお、どれも名作ではありますが、後味が悪すぎてあまりいい気分にはなれない作品ばかりです。





個人的相棒鬱回ランキング

第1位 SEASON10第2話『逃げ水』

 大切な息子を殺された被害者遺族の哀しみはもちろんのこと、加害者家族が直面する辛さ、そして、被害者遺族も加害者家族も無茶苦茶にしておきながら、自分勝手にふるまうだけの加害者本人。
 物語の最期まで誰一人として救われない話でした。唯一の救いは、ただ被害者遺族のために寄り添い続ける渡さん演じる弁護士の献身くらいです。
 個人的には加害者の姉の最期のどこか重荷を下ろすことができた安堵が滲む台詞と、加害者の父親の最期の慟哭が心に刺さりましたので、第1位とさせていただきました。


第2位 SEASON9第8話『ボーダーライン』

 詳細は前回解説してるので割愛しますが、現代社会にある弱者の悲哀と悲痛な叫びが聞こえてくる印象的な作品です。


第3位 SEASON10第4話『ライフライン』

 絶賛公開中の映画『ラストマイル』に通じる、運送業者の悲哀と過酷な現状を題材にした作品です。
 鬱ポイントは、被害者本人が殺害されたことに感謝するほどに追い詰められていたことと、被害者遺族も自殺ではなく殺害されたことに色々な事情があれど安堵していたこと、そして真犯人が被害者を指して口にした「自分を見ているようで」のセリフ。



 どの作品もコナンや科捜研で活躍する櫻井脚本というところで、あの人に現代社会の暗黒面を扱うサスペンス書かせたら右に出る人はいないなぁと思います。
 そして、神戸君期の作品であるところも共通点ですね。
 亀山君ならSeason5第8話『赤いリボンと刑事』のように、最期に人情派な彼らしいところが出て少しは救いがあるのですが、神戸君はそのあたりドライというか、淡々と受け止めるだけというか……直情型の亀山君と違うそこが魅力であり、ドラマの重さを引き立てていることは事実ですが、鬱回に救いを残してくれるようなキャラじゃないこともあって鬱回に拍車をかけている気がします。

 鬱回ばっかり紹介しておいてなんですが、相棒には神回も多いので気分が暗くなりそうと敬遠せずにお昼の再放送から気軽に見ていただくことをおすすめします。
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