寂しい気持ちもあり、これでもうどんでん返しはないという安心感があり……色々と複雑ですが。
慶明大学を後にした特命係の二人は、鑑識の米沢に神木が使用していたカップの鑑定を依頼した。
その後、鑑定の結果が出たと知らされて鑑識の部屋に向かった二人を待っていたのは、米沢とトリオ・ザ・捜一の三人だった。
「おや、皆様おそろいで」
「除け者にしようったってそうはいきませんよ、警部殿」
わざとらしく嫌味を口にする伊丹をいつものようにスルーして、右京は米沢に視線を向けた。
「米沢さん、鑑定の結果は」
「お預かりしたカップを鑑定した結果、唾液からDNAが、カップから複数の指紋が検出されました」
米沢が証拠品保管用のビニールの袋に入ったカップと、採取された指紋を整理したシートを指さしながら説明を続ける。
「カップの指紋は2種類。おそらくは、杉下警部が仰っていた神木輝の指紋と、このカップに飲料を入れて販売したキッチンカーのスタッフの指紋でしょう。そして、指紋の重なり具合からこのうち、片方の指紋が神木の指紋であると判断しました」
「で?照合したんだろ。結果はどうだったんだ?」
伊丹が、米沢をせっつく。
「まず、DNAからですが、星野アイさんのお子さん二人のDNAと比較検討した結果、お子さん二人と唾液から採取されたDNAには親子関係があると断定されました」
星野愛久愛海と星野瑠美衣のDNAについては、事件現場で社長夫妻の同意を得て採取されていた。
現場検証を始めた直後は犯人の正体をまだ警察は掴んでいなかったため、犯人を特定する手がかりとなる遺留品の採取を事件現場で行っており、その際に双子のDNAについては犯人のものと思われるDNAと区別するために採取されていたのである。
「ということは、あの双子の父親は神木で確定ってことですか。アイさんが最後にかけた電話番号の使用者であることも間違いないですし、これは杉下さんの推理どおり、アイさんは双子の父親である神木に自分の住所を教えて、その神木が菅野に住所の情報をリークしたってことですかね?」
「何故アイさんが神木に連絡を取ろうとしたのかはわかりませんが、双子の父親である以上、連絡を取ろうとすることが不自然な相手ではないでしょう。宮崎の病院の住所についても、神木ならアイさんから連絡を受けていた可能性は十分にあると思いますよ」
右京の推理に、尊は納得して頷く。
「なるほど……じゃあ、やっぱり宮崎で雨宮吾郎を殺害した菅野の共犯も、神木なんですかね?」
「それなのですが……カップから採取された神木の指紋と、宮崎の雨宮吾郎殺害現場に残されていた菅野以外の人物の指紋は一致しませんでした」
米沢の説明に、三浦が首をひねる。
「ん?……ちょっと待て。菅野が宮崎で雨宮吾郎を殺害した時、死体遺棄に関わった人間が菅野以外にもう一人いたってことは指紋と
「え!?で、でも、菅野が宮崎の病院を訪れる理由なんて
芹沢の反論に、伊丹は苛立たし気に舌を打つ。
「そのあたりどうなんですかね、警部殿。菅野に
伊丹に話を振られた右京が口を開く。
「菅野にアイさんが宮崎の病院で入院していることを教えたのは、神木で間違いないでしょう。それと、僕は何も菅野にアイさんの入院先を教えた人物が共犯者で、宮崎で指紋が採取された人物と同一人物であるなどとは言っていませんよ」
「まぁ、菅野にアイさんの引っ越し先を教えた人物とアイさんの入院先の病院を教えた人物が別にいたとは考えにくいですからね。そうなると、片方はその情報を知りえる社長夫妻のどちらかが菅野に教えたということになりますし。ですが、菅野は神木以外の人物と一緒に宮崎を訪れたということでしょうか?」
尊が、右京の推理を補足する。
「ええ。おそらく、菅野の共犯者は情報提供者の神木以外に少なくとももう一人いて、その人物と共に菅野は雨宮吾郎の遺体を洞窟に遺棄したのでしょう。菅野にアイさんの新居や入院先の情報を吹き込んで襲撃に向かわせることができるのなら、態々同伴する理由はありませんからね。今回のアイさん殺害にまで宮崎の事件での共犯者が関与していたかどうかまでは現時点では分かりませんが」
「……でも、聞き込みでは菅野の関係者で殺人に加担してもおかしくないくらい親しい間柄の人物なんていませんでしたよ?」
「あぁ、大学でもそれといった友人がいたって話はなかったし、アルバイト先でも口数が少なくて親しくしていた人物はいないって話だったな。携帯の通信記録も確認したが、特定の人物と頻繁にやりとりしている様子はなかった」
芹沢と三浦が、菅野の交友関係について確認する。
「菅野に
尊の言葉に、トリオ・ザ・捜一の三人も右京に視線を向ける。
「あぁ、それなら」
右京が口を開こうとしたとき、鑑識の電話が鳴り響いた。
「はい、こちら鑑識」
米沢が電話を取る。
『私だ』
受話器から中園の不機嫌丸出しの声が響いた。
『そこに伊丹たちがいるな』
米沢が伊丹の方を振り返る。
「中園参事官からです」
伊丹が米沢から受話器を受け取る。同時に米沢は母機を操作し、スピーカーホンに切り替えた。
「代わりました、伊丹です」
『今すぐ、部長室へ来い。お前たちが菅野の送検作業をさぼっていることは調べがついている』
「いえ、自分たちは」
『特命も絡んでいるのは分かっているんだ。あいつらも首根っこ引っ張ってこい。いいな、今すぐにだ!今すぐだぞ!!』
伊丹が弁明する間もなく電話は一方的に切れた。
「お呼び出しですね」
尊が、右京に声をかける。
「そのようですねぇ」
右京の緊張感や反省が一切感じられない態度に、トリオ・ザ・捜一の三名はそろって無言で天を仰いだ。