【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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 次回の相棒、また亀山君が襲われるみたいですね。
 銭ゲバ女にバットで脛を強打され、改造エアガンで滅多打ちされ、汚職警官にボコボコにされ、今度は刺されるんですか……


第49話 高千穂の夜に

 トリオ・ザ・捜一に引き渡されたニノは、そのまま取調室に入れられた。

 取調室に設けられたスチール製の机を挟んで、ニノと三浦が座る。最初は伊丹が取り調べを担当しようとしたのだが、三浦がそれをやんわりと押しのけて自ら買って出たのだ。

 三浦には、あからさまに強面の伊丹が取り調べをすれば、ニノがそのプレッシャーから萎縮してしまうだろうという配慮があった。自らの犯行を認めようとしない往生際の悪い犯罪者や、口の固い容疑者に対しては伊丹の強面と高圧的な態度は効果抜群だが、既に自らの犯行を認め、諦めている犯罪者に対しては過剰な圧力になりかねない。三浦はそれを危惧したのである。

 そこで、三人の中では年の功もあって最も落ち着いている雰囲気のあるという自負のある三浦が、あえて自分から取り調べ役を買って出たのだった。

 しかし、席についた時からニノは俯いたままで、正面に陣取る三浦の顔すら見ようとしない。

 まさか、最初から何も話すつもりがないのか?三浦はそう訝しんだが、予想に反してニノはボソボソとした口調で話し始めた。

「最初は、良介君の様子がおかしいと思ったのがきっかけでした」

 4年前、ニノは交際相手である菅野が同じグループのメンバーであるアイに向ける視線が妙に熱っぽいことに気が付いた。しかし、それを直接菅野に問いただすようなことはしなかった。

 問いただして、菅野が交際相手である自分よりもアイの方をより大切に思っているという事実を突きつけられることを恐れたのである。

そんな折、菅野から宮崎に旅行に行く話が持ち上がる。

 病気療養の名目で休業中のアイの入院先を見舞うためにいっしょに来ないかと誘われたニノは、旅行日に予定されていたイベントを病気を理由に欠席することを決めた。

 菅野の雰囲気が、ただの見舞いには到底思えなかったからである。そして、何よりも自分の知らないところで菅野がアイと会うというのが許せなかったからだ。

「……今思えば、良介君が私を宮崎に連れていこうとしたのは、アイの妊娠という不祥事をグループ内に、事務所に周知させて、アイを引退に追いやりたかったからなのかもしれません。良介君も、アイが世間の批判に晒される形でアイドル人生を終えることに対しては流石に抵抗があったみたいですから」

 ニノはそのまま話を続ける。

 菅野に連れられて宮崎のアイが入院している病院に向かった彼女は、そこで初めて菅野の口からアイが妊娠を理由に病気休養に入ったこととその日が出産予定日の前日であることを聞かされた。

 当初はまさかと思っていたニノだったが、菅野が直接アイと会えば妊娠しているかどうかははっきりすると主張するので、それを疑うことは出来なくなった。

 ニノも、アイに対しては妬みや嫉妬の気持ちがないわけではない。自分よりも年少で可愛い上に運営の手厚いバックアップのある彼女に対して激しい劣等感を抱いてもいた。だからこそ、彼女の足を引っ張り、あわよくばグループのセンターの座どころかアイドル生命まで奪ってやることのできる好機だとも考えていた。

 病院には、叔父の見舞いに来た兄弟という設定で潜入し、入院患者のいる病棟を二人で手分けして探し回るも、中々アイの病室を見つけることが出来ない。

 面会時間が終わり、病院の建物内に関係者以外の出入りが制限されたところで、ニノは菅野にアイの姿が見つからない以上今日のところは諦めて引き返すべきだと提案した。

 しかし、菅野はそれに耳を貸そうとはしない。それどころか、彼は建物の外で見張り続けると言い出した。

 いつ出てくるか分からないアイをこの寒空の下で待つことは、時間の浪費にしかならないとニノが主張するが、菅野は一つだけ宛てがあるとだけ言って譲らない。

 なんでも、昼間の散策中に、名札にアイのキーホルダーを入れている医師を見つけたのだという。

 病院内をくまなく探したが、星野アイという患者が入院している病室が見つからなかったのだから、おそらくはアイは偽名を使って入院しているとみて間違いない。

 そして、アイのキーホルダーを名札に入れるほどのファンなら、偽名で入院しているアイに気づいていないはずがない。さらに、名札には所属は産婦人科と書かれていたから、ひょっとするとアイの担当医である可能性もあるのだと菅野は主張した。

 しかし、アイのファンである医師ならば、アイと同じグループに属するニノの顔も知っている可能性がある。そのため、ニノは近くに隠れ、菅野一人で目的の人物を探すことになった。

 ニノが物陰に隠れて一時間ほど経過し、そろそろ諦めて引き上げないかと菅野に連絡を取ろうとしたその時、ニノの目の前を菅野が慌てふためいた様子で駆け抜けていった。

 その後を追いかけるように白衣を着た一人の男性が姿を現す。風貌からして、彼が菅野の話していたアイの主治医と思しき男性だと分かったニノは、自身の顔が知られている可能性が高いと判断し、咄嗟に身を隠した。

 男性は菅野を探しているのか、菅野が走り去った方向に向かって歩いていった。それからしばらくして、身を隠していたニノのスマホに着信が入る。それは菅野からのものだった。

 電話越しに聞こえてくる菅野の声は、ひどく狼狽していた。尋常ではない様子に嫌な予感を覚えたニノはすぐにその場を離れて菅野のもとへと急ぐ。

 病院の傍の遊歩道を幽鬼のようにフラフラと歩く菅野を発見したニノが一体何があったのかと恐る恐る尋ねると、菅野はニノの手を強引に掴んでそのまま山道を駆け下り始めた。

 いったいどこへ連れて行くつもりなのかと問い詰めるニノに対し、菅野は何も答えようとせず、ただひたすら走り続けていく。そして、辿り着いた先には頭部から夥しい出血をして倒れている男性の姿があった。

 ニノはとっさに救急車を呼ぶべくライト代わりに使っていたスマートフォンで通報しようとするも、その手は菅野によって阻まれてしまう。

 何故止めるのかと咎めたニノの肩を掴み、菅野は要領を得ない言い訳を始めたのだという。

「殺すつもりはなくて、でも、追いつかれそうになって、それで気が付いたら突き飛ばしてて……そんなことを、良介君は言ってたと思います」

 ニノは当時のことを思い出したのか、俯いて涙を流し始める。そんな彼女の様子を痛ましそうに見つめながらも、三浦は努めて冷静に尋ねた。

「雨宮医師を殺害したのは貴女ではなく、菅野だと?」

「私は誰も殺してません!!私は、良介君に言われるがまま運んだだけなんです!!」

 ニノは、泣きながら叫ぶようにして訴えた。

「良介君に怒鳴られて、訳も分からずにあの人の足を持たされて、そのまま洞窟にあの人を隠して……私は、私は…………」

 嗚咽を漏らしながら、ニノはその後に起こった出来事について語り出す。

 ニノが語るところによれば、その後二人は逃げるように夜の山道を走り病院まで戻ると、タクシーを呼んで市内のホテルに向かったそうだ。

 そこで、警察に出頭するかどうか、ニノと菅野は口論になったという。

 最初の内は罪の意識に苛まれるニノと、アイに責任を転嫁して自身を正当化する菅野の言い合いであったが、次第に自身のアイドル生命を菅野の犯罪に巻き込まれる形で絶たれる恐怖に駆られたニノが自分は無実だと菅野を責めるようになり、対して菅野はニノがどう取り繕うと死体を一緒に遺棄し、その存在を隠匿した事実からは逃れられないと自分のみを正当化するニノを否定した。

 そして、その醜い罪の押し付け合いと自己正当化のやり取りの果てに二人は破局を迎えることになる。

「その翌日の朝、互いに連絡先を消去して、今日のことは絶対に口外しない、そして、もう二度と会わないと約束して別れました。それが、良介君と会った最後です。でも……あの日、4年ぶりに彼から電話があったんです」

 自身の死体遺棄が公になれば、アイドルではいられなくなる。それどころか、元アイドルの犯罪者というレッテルが張られれば芸能界に復帰することも絶望的だ。

 今回の犯行のきっかけになったアイの妊娠についても、公表されれば出産時の主治医の行方について注目が集まり、芋づる式に自分たちが犯した犯罪について明らかになる恐れがあったため、口を噤むことしかできなかった。

 それから4年。

 いつ秘密が暴かれるか人知れず怯え続けてきたニノは、自身がより華やかに輝けば罪の意識も罪が暴かれることへの恐怖も忘れられると信じてステージに立ち続け、ついにドーム公演の日を迎えた。

 そして、ドーム公演当日。

 自宅を出ようとしていたニノのスマートフォンが鳴る。

 画面に表示されていた発信先が公衆電話であったことから不審に思いつつも、事務所関係者からの緊急の連絡である可能性も捨てきれず、恐る恐る電話に出たニノの耳に飛び込んできたのは、4年ぶりに聞く菅野の声だった。




 取り調べシーンはもうちょっと続くんじゃ。
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