【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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 原作ではリョースケについては「自死」としかその結末が描写されていなかったので、拙作ではオリジナル設定でリョースケの最期を描写してます。


第5話 自死

 特命係の二人が五反田泰志の自宅に向かっていたころ、トリオ・ザ・捜一の面々はアイの殺害現場となったマンションの周辺で聞き込みを行い、防犯カメラに写っていた人物の足取りを追っていた。

「証言によれば、こっちの方向に逃げたはずなんだが……」

 三浦が地図を片手に周囲を見渡す。周囲は5、6階ほどの高さのビルが建ち並んでいる。

「このどこかに潜伏されたとなると厄介だな。ビルに入っていくところを誰かが見ていればいいんだが……」

 伊丹がそう呟いたその時、彼らの耳にカンカンカンと金属を何か硬いもので叩くような音が聞こえてきた。

「ん?何の音だ?」

 そして、芹沢がそれに気が付いた。

「せ、先輩!!あれ、あそこ!!」

 彼が指差す先には五階建の鉄筋コンクリート造のビルがあった。そして、ビルの外壁に沿うように設置された金属造の非常階段を登る黒いパーカーを着た男の姿が見えた。

「あの黒いパーカー、まさかアイツ!!」

「間違いない、防犯カメラに写ってたヤツだ!」

 伊丹たちも慌てて非常階段の方に向かった。しかし、既に男は非常階段の中ほどに達しようとしている。

「伊丹、芹沢は階段を、俺は中のエレベーターで最上階まで昇ってみる」

 三浦は伊丹らと別れ、ビルの内部のエレベーターで最上階に向かい、伊丹たちは人影に続いて非常階段を駆け上ろうとする。

「まさか、飛び降りるつもりじゃねぇだろうな!!」

 下の階から誰かが駆け上ってくる音に、その男も気づいていた。下からの音に急かされるように、彼は屋上に向かって最後の数段を一気に駆け上がった。そして非常階段と屋上を隔てる鍵のかかったフェンスを飛び越える。

「おい!止まれ!!」

 非常階段を登りきった二人もフェンスを飛び越えて追いつこうとしたが、一瞬早く男は屋上の端にたどり着いた。

「……終わりだ、もう俺は終わりだ。なんだよ、どうして」

 男は一歩でも踏み出せば落下する位置に立ちながら、ぶつぶつと独り言を言い始めた。

「裏切られたんだ。そうだ、でも、いや、俺はなんで、どうしてこうなったんだ!!どうして!!」

 男の叫びが空しく空へと消えていく。伊丹は思わず声をかける。

「早まるな!!今ならまだ間に合う、だから……」

 しかしその言葉を聞く前に、男は両手を広げて身を乗り出した。

「アイツが裏切ったんだ!!でも、こんなはずじゃ、こんなはずじゃなかったんだ!!あの時も、今も俺は、俺は!!」

「よせ!!」

 伊丹が止めようと男に向かって駆け出す、だが、間に合わない。

「うわぁぁぁぁ!!!」

 そして、男の身体は宙に投げ出された。

 伊丹が次に見たのは、15m下のコンクリートの地面に叩きつけられ、ぐしゃりとひしゃげた男の姿だった。

 遅れてエレベーターで駆けつけた三浦は、屋上の隅で項垂れる伊丹の姿を見て事態を察し、即座にエレベーターで一階へと降りていった。

 そして、血だまりの中に倒れこむ男に歩み寄るが、既に男の命が失われていることを確認して悔しそうに顔を歪めた。

 

 

 

 米沢から連絡を受けた右京は、五反田宅を後にして尊の愛車で容疑者の死亡現場へと向かった。

 現場を封鎖する警察官に手帳を提示してすんなりと封鎖線の中に入った二人はすぐに目的の人物を見つける。

「米沢さん、連絡ありがとうございました」

「杉下警部、お疲れ様です」

「容疑者が自殺したとか」

「ええ、こちらです」

 挨拶もそこそこに、米沢は現場を案内する。

 案内された現場では、アスファルトに浮かぶ血の池の中に、男がうつ伏せで倒れていた。

 服装は確かにアイの殺害されたマンションの防犯カメラに写っていた人物のソレと同一のものであり、顔についても同一人物のものに尊には見えた。

「飛び降りですか……」

「あのビルの非常階段の最上段から飛び降りたようです」

 米沢が空を指さす。指さす先には高さ15mはあろうビルが聳え立っている。ビルの側面には金属造の非常階段が設置されていた。

「非常階段は一階部分は施錠されていないので、だれでも自由に出入りできた状況だったそうです。最上階から飛び降りる姿が確認されていますから投身自殺とみて間違いないでしょう」

「飛び降りる姿が目撃されていましたか」

「ええ。それも、警部がよく知る人が目撃者です」

 その時、右京の姿を捉えた伊丹が頭を抱えながら米沢に苛立ち交じりの声をかけた。

「あぁ……またやったな米沢ぁ!!」

「杉下警部、目撃者の伊丹刑事です」

「そうでしたか」

 淡々と進められるやり取りを前に、伊丹は額に筋を立てる。

「そうでしたかじゃなくて、なんで特命が首を突っ込んでくるんですかねぇ。米沢!お前も当たり前のように呼んでんじゃねぇよ!!」

「伊丹刑事、遺体発見当時の状況を教えていただけませんか?」

「……相変わらず人の話を聞かないからもうこの人は。悪いですが、捜査員でない警部殿に話すことは何もありません」

 臍を曲げた伊丹を尊が宥める。

「まぁまぁ、こっちも情報を集めたらそちらに提供しますから」

「そもそも、特命係には捜査して情報を集めることは求めてないのですが?」

「そちらもお忙しいところでしょう。ここは、持ちつ持たれつということで」

「前提からしておかしいんですけどねぇ!!」

 流石に見かねたのか、ここで芹沢が宥めに入った。

「先輩、ここは杉下警部から情報が入るようにしといた方がいいですよ。この事件、下手に見落としとかがあったりしてそれが後になってバレたら世間的な注目もありますし色々と面倒なことになるかも」

「警部殿が現場に首を突っ込むのはいつものことだ。だったらもう諦めて話しちまおう。どのみち警部殿なら調書見るなり米沢に頼むなりして勝手に調べるさ」

 三浦も宥めに入り、伊丹は観念したようにため息をついた。

「……周辺住民から聞き込みをしていたら、防犯カメラに写っていた人物とよく似た背格好の人物が血相変えて走っていく姿を見たって話を聞いたんです。それでこのあたりを探してたら、金属の階段を駆け上る音が聞こえて、顔を上げたら、犯人の姿が見えました。追いかけたのですが、追いつけず、アイツは屋上の端に立ってそのまま身を乗り出して……」

 伊丹はそこで言葉を詰まらせた。その先を言わずとも右京と尊は察することができた。

「何か、彼は最後に口にしていませんでしたか?」

 右京の問いに、伊丹は苦々しい表情を浮かべた。

「どうしてこうなったんだ、とか、アイツが裏切ったんだ!!、とか、こんなはずじゃなかったんだ、とか言っていました。主語もないので、意味はさっぱり分かりませんが」

「なるほど」

 伊丹の話を聞き終えると、右京は米沢の方を振り向いた。

「米沢さん、彼の身元が分かるものは」

「残念ながら、所持品はスマホと財布だけ。財布の中には身分が証明できるものはありませんでしたし、スマホも落下の衝撃で壊れているらしく、すぐには中身は分かりません」

「そうですか」

「スマホの中身が確認できない限りは身元の特定は難しいでしょうなぁ」

 米沢の言葉に右京は小さくうなずく。

「……もうよろしいですかね。我々も部長に呼ばれているものですから」

 三浦が遠慮がちに口を開く。

「ありがとうございました」

「それでは、我々はこれで」

 トリオ・ザ・捜一の三人は自分たちの車に乗り込み、その場を後にした。

「世間的な注目が高い人気アイドル殺人事件の犯人を目の前で死なせたとなれば刑事部長も黙ってはいられないでしょうなぁ」

「伊丹さんから状況を聞いた限りでは、仕方ないとは思いますけどね」

 米沢が同情するかのように呟く。しかし、尊も伊丹の行動には一定の理解を示していた。

「お咎めなしとはならないでしょうが、なるべく軽い処分になるといいんですけどね」




 本来の原作では自死とだけ描写のあるリョースケですが、原作の世界では誰に追いつかれることなく飛び降りて自殺したものの、この世界では伊丹たちが早期にリョースケにたどり着いたことから、その自死の瞬間を目撃される結果となったという設定です。
 つまり、原作の警察よりも早くリョースケにたどり着いたトリオ・ザ・捜一の面々は原作の警察よりかは優秀なんですよね。
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