いや……色々と思うところはありましたが、とりあえずプロットに影響はないので安心しているところです。
あとは、あかねの父親が警察官で、しかも大分お偉いさんということに驚きました。あかねが12歳のころの時点で警視正ってことは、中園参事官や大河内監察官と同格ですからね。
しかも、まだ40代半ばってことは、推しの子本編開始時点で出世競争を勝ち抜いていれば、甲斐次長とか衣笠副総監クラスになっていても不思議はないという……
「4年間一度も連絡してこなかった良介君から、しかもドーム公演の当日に、公衆電話から電話があってまず最初は戸惑いました」
しかし、そんな困惑とは裏腹に、菅野の口から飛び出した言葉は再会を喜ぶものでもなく、支離滅裂な告白だった。
「アイを刺したっていきなり言い出して……最初は何を言ってるのか分からなかったんですけど」
動揺しながらも何とか菅野の言葉を聞き取ったニノだったが、その内容を理解するにつれて表情が青ざめていった。
アイドルでありながら男をつくり、子供を身ごもった挙句にそれを隠して芸能活動をしていたアイを許せなかった菅野がアイを刺し殺したというのだ。
「アイは殺されて当然なんだとか、先に裏切ったのはアイだとか、宮崎で流産させていればとか、ずっとブツブツ言ってるんです。身勝手な言い訳を一方的にまくし立てて……」
自分を捨てアイに乗り換えただけに飽き足らず、自分勝手な理由で失望して殺意を抱き、自分を犯罪の共犯者にした挙句、本当にアイを殺害した菅野の身勝手さについにニノの中で何かが切れる音がした。
「正直、良介君に何を言ったのか、逆に何を言われたのか、ほとんど覚えていません。ただ、アイを殺した良介君を罵って、訳のわからない切れ方する良介君に怒鳴られて、4年前のことを言われて忘れようとしていたあの時の景色がフラッシュバックして、もう感情がグチャグチャになって……最後に、『もう死んでよ!!』と言って電話を切ったことは覚えてます」
「何でもいい。菅野があなたとの電話で話したことについて、覚えていることは?」
三浦の問いに、ニノは諦観を窺わせる乾いた笑みを浮かべる。
「悪いのはアイで俺は悪くないとか、騙された、とか、俺は唆されたんだとか……とにかく、そんなことばかりで。私のことなんて何も触れずにただ自分とアイのことだけを捲し立てていましたよ」
「では、菅野を唆すような人に心当たりはありませんか?」
ニノはその問いに一瞬逡巡した。そして、三浦はニノが見せた一瞬の躊躇を見逃さなかった。
三浦はその僅かな反応を逃さず、すかさず畳みかける。
「心当たりがあるようですね」
その言葉に、ニノは思わず肩を震わせる。
しかし、ここで神木輝の名前を出すことは三浦は敢えて避けた。こちらから神木輝の名前を出すよりも、ニノが自発的に神木輝の名前を出した方が供述の信憑性が増すと考えたからだ。
ニノが黙秘することがあればその時には神木輝の名前を三浦から出さざるを得ないが、ニノの口から直接神木の名前が聞けるならそれに越したことはない。三浦はそのまま質問を続けることにした。
「そもそも、貴方と菅野がアイさんが入院している宮崎の病院を知るはずがない。アイさんの新居の情報だってそうだ。貴方たちに、その情報をリークした人がいる。違いますか?」
ニノは口を開くべきか迷っている様子だった。三浦はもう一押しとばかりに言葉を続ける。
「警察だって給料泥棒じゃない。ちゃんと調べてるんですよ。アイさんの入院先、そして新居の住所。その両方を知る人物には当たりをつけたうえで貴女から話を聞いているんです」
敢えて核心に触れないギリギリの言葉で、被疑者に心理的圧迫をかけることで自白に追い込む。ひと昔前なら許されていた強引な取り調べができなくなった結果、三浦が選んだのがこの取り調べスタイルだった。
そんな三浦の思惑通り、徐々に追い込まれていく感覚に襲われたニノはとうとう観念したように項垂れてしまった。
「……多分、良介君はカミキさんからアイの住所や入院先を聞いたんだと思います。良介君の周囲の人で、私以外にアイと繋がりがある人なんてカミキさんぐらいしかいないから。良介君がカミキさんから無理やりに聞き出したか、カミキさんと話をする中で偶然知ったのかは分かりませんけど」
力なく呟くようにそう言った瞬間、三浦の顔が険しくなる。やはりそうかと思いながらも、それを表に出さないよう気をつけながら三浦は慎重に言葉を選んで尋ねる。
「その人と、貴女たちの関係は?」
「カミキさんは私と良介君の友人でした。三人でカラオケに行ったり、ご飯に行ったりしてました。カミキさんもB小町のファンで……多分、アイの交際相手だったんだと思います」
「多分?それは、本人から聞いたというわけではないのですか?」
三浦の質問に、ニノは小さく頷く。
「少なくとも、私はカミキさんからそんな話を聞かされたこともないし、良介君もそういう話はしてませんでした。でも、たまにカミキさんが語るアイの話を聞いていて、なんとなく、そう思ったんです。でも、カミキさんはとてもいい人だし、宮崎の件で落ち込んでいた私を励ましてくれた彼を、アイと付き合っていたことを理由に責めることはできなくて……」
ニノはここで一度言葉を切ると、沸々と思いが込み上げてきたかのように体を震わせた。
「カミキさんと違って、結局良介君は私のことなんかなんとも思ってなかった。せめて、私が死んでよって言ったから死んでくれたのなら、少しは許せたのかもしれませんけど、テレビのニュースだと警察に追い詰められて、捕まらないために死んだんですよね。最後まで、本当に身勝手で、アイのことしか考えていなかったんですよ、良介君は」
まるで吐き捨てるようにそう言い切ったニノは、怒りとも悲しみともつかない複雑な表情を浮かべていた。
「良介君さえ、余計なことをしなければ私は」
「自分は何も悪くない、まさか本気でそう思ってるんじゃねぇだろうな」
それまで沈黙を保っていた伊丹が口を開いた。突然のことに驚いたニノがその声の主に視線を向けると、そこにはその強面をさらに歪めて憤怒の形相を浮かべている伊丹の姿があった。
「全部菅野がやったこと、自分は巻き込まれただけとでも言いたいんだろうがな、そんな理屈が通用すると思うんじゃねぇぞ」
鬼のような形相を向けられたニノは一瞬怯むが、すぐに気を取り直して負けじと言い返す。
「宮崎であの医者を殺したのは良介君で、今回アイを殺したのも良介君じゃない!!」
「目の前で血まみれになって倒れている雨宮さんを見て、どうして助けようとしなかった!!すぐそこは病院だ、血まみれの雨宮さんをすぐに病院に運び込めていれば、死なずにすんだかもしれないだろうが!!」
「でも、あの時あの人はもう死んでいて……」
「雨宮さんが死んでいることを確認したのか?息は、脈は!?」
あくまで自分の正当性を主張するニノであったが、伊丹の剣幕を前に次第に勢いを失っていく。
「目の前で救えたかもしれない命を見捨てて、犯罪の隠蔽を図っていながら自分は何も悪くないなんて思うなよ。お前も、菅野と同じ立派な犯罪者だ」
「……でも、死体遺棄の時効は3年です。私を逮捕することはできないはずです」
ニノの、精一杯の抵抗だった。だが、伊丹は呆れたように鼻を鳴らすと、冷たい視線を向けたまま淡々と言い放つ。
「時効で罪に問えねぇからって、犯した罪が消えると思うなよ。罪は償うまでずっと消えることはないんだからな。もう一度言ってやる。お前は、立派な犯罪者だ」
伊丹の言葉に言い返す言葉を失ったニノは、もう悔しげに唇を嚙み締めることしかできなかった。
原作の警察よりも優秀なトリオ・ザ・捜一が犯行後即座にリョースケを発見し、追い詰められた末の飛び降り自殺となったことで、ニノの心境にも原作と異なる変化が生じています。
原作では、リョースケに「もう死んでよ」と言い捨てたことがきっかけでリョースケが自殺したと思われますが、拙作では警察に追い詰められた末の自殺という顛末になっていることから、ニノの胸中には自分の一言がリョースケを殺したという呵責がなく、カミキによる扇動の効果も現時点では大分薄いものとなっています。
私見ですが、原作のニノはリョースケをアイに取られ、そのリョースケを自分の一言で殺してしまい、心の負担がピークになったところをカミキに付け込まれて一気に堕ちていったのではなったのではないでしょうか。
なお、年内の更新はこれで最後となります。
次回は相棒元日スペシャルの直前に投稿する予定ですが、年末年始は色々と忙しいので、ひょっとすると一週間ずれるかもしれません。
それでは皆様、よいお年を。