【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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 相棒正月スペシャル、なんとなくSeason5のバベルの塔に似た雰囲気を感じましたね。
 政治家の女性スキャンダルとか、人質取られて不本意な行動させられたりする被害者だとか、テロと見せかけて実は個人的な復讐に走る肉親だとか色々と被る要素が多かった気がします。
 でも、これぐらいごっちゃごっちゃしてて、最終的には風呂敷を綺麗にたためるくらいが正月スペシャルとしては楽しめると思うので、面白かったです。
 近年の正月スペシャルではもやもやした要素を残す終わり方が多かったのもあって、個人的には好印象でした。

 そして本日放送の「33人の亀山薫」……うん、予告から笑ってしまいました。


第52話 任意の事情聴取

 神木輝が大学の授業を終えて自宅アパートに帰るタイミングを見計らい、トリオ・ザ・捜一の三人は彼の自宅を訪問した。

 そこで彼らは神木輝に声をかけ、星野アイ殺害事件について任意の事情聴取のために同行するよう求めたところ、神木は拍子抜けするほどあっさりと承諾した。

 任意同行に応じた神木は、トリオ・ザ・捜一が手配した取調室へと連行され、伊丹が尋問を担当することとなった。

「あっさりと任意同行に応じたみたいですが、ここで素直に白状すると思いますか?」

「さぁ、どうでしょうねぇ」

 取調室の外、マジックミラーを隔てた隣室に立ちながら、尊と右京はマジックミラー越しに取調室の様子を伺っている。

「一筋縄ではいかない相手だと思いますけどね」

 尊がそう呟いたとき、ちょうど伊丹が口火を切った。

「神木輝さん、あんたと、新野冬子、そして菅野良介はどんな関係で?」

「関係といいましても……ただの友人ですよ」

「友人ねぇ……世間の注目を集めているアイドルと殺人犯、その両方と関係がある友人ってのは、ちょっと普通じゃないと思いますが?」

 伊丹の問いかけに、神木は少し困ったような表情を浮かべる。

「よく言うじゃないですか、知り合いの知り合いを辿れば、6回で全世界の人間に繋がるって。案外、世間って狭いものなのかもしれませんよ」

「その、狭い世間とやらでどんな風に二人と知り合ったんですかねぇ」

 伊丹は鋭い視線で神木の表情を観察しながら質問を続ける。

 しかし、神木はそんな視線を受けてなお余裕のある態度を崩さない。

「……あの、これって任意の事情聴取なんですよね? なんか、まるで犯人として尋問されているようなプレッシャーを感じるんですが」

「仰られるとおり、あくまで任意の聴取です。ただ、我々としても犯人死亡ということもありまして、できる限り関係者の方全員にお話を伺うことで真相を解明したいと考えているところなんです。何せ、菅野は宮崎での余罪が見つかりましたからね。他にも余罪がないかを含めて徹底的に調べ上げたいと思っておりますので」

 出入口の横に立つ三浦が、落ち着いた声でそう説明する。

「この人の顔が怖くて、プレッシャーを感じているかもしれませんが、別に怒ってるわけでも、疑ってるわけでもないんですよ、普段からこんな怖い顔なんで、許してあげてください」

 芹沢が口にしたフォローかどうか微妙なラインの言葉に対して、伊丹はジロリと睨みつけることで応じた。

「……それで、質問に戻りますが、お二人とどのような関係だったのですか?」

 伊丹は神木に向き直ると、芹沢の指摘を気にしているのか先ほどよりも少し丁寧な口調で尋ねる。

 なお、本人は表情も少し柔らかくしようと意識していたようだが、無理に微笑みを浮かべようとしてかえって強面度が増してしまっており、図らずも神木に対してより強い圧力をかける形になってしまっていた。

 とはいえ、神木は特に動揺した様子もなく質問に答えていく。

「元々は、B小町のイベントの帰りに同行の士だった良介君と話すようになって、誘われてご飯やカラオケに行く仲になったんです。そのうち、良介君からニノさんを紹介されて、3人でよく遊ぶようになりました」

「親しい間柄であったということは否定しないのか」

「態々僕から話を聞きたいって警視庁まで同行をお願いされたんですから、刑事さんも僕がアイや良介君、ニノさんと関係があるって何か確証があったんですよね?なら、ここで否定したって何か隠しているんじゃないかって疑われるだけでしょう。それに先日大学に訪ねてきた刑事さんも僅かな言葉の違和感から僕の嘘を見破ってましたから、下手な嘘をついたところで誤魔化せないんじゃないかって思ったんです」

 そう話す神木の表情は、淡白なものになっていた。

 もしも右京の推理を聞いていなければ、伊丹も神木がただ聞かれたことに対して正直に答えているだけだと思っただろう。伊丹がそう感じるほどに神木の態度はとても自然なものだった。

 とても、3人の人物を間接的に死に追いやった人間の態度とは思えないほどである。

 その後も、神木は伊丹の質問に淡々と答えていった。

 神木が菅野やニノと親しくなったのは、ちょうどアイと神木の関係が終わり、アイが病気療養という名目で産休に入る直前だったという。

 このころ、二人にはアイとの関係を話したことはなかった。B小町のファンと、アイの同僚に対して自分がアイと交際していたということは、例え既に終わった関係であったとしてもとても話せるものではなかった。

 しかし、神木曰く、今思えば菅野はこのころから既に神木とアイの関係に気づいていたのではないかということだった。

 宮崎でアイの主治医が殺害された事件の数日前、神木はアイから出産に立ち会わないかと予定日と入院先を聞いていた。そして、連絡を受けた神木は、自分の元恋人が宮崎で子供を産もうとしていて、立ち会うべきか悩んでいるということを言葉を濁しながら菅野に話した覚えがあるという。

「僕は良介君のことも、ニノのことも、友人だと思ってました。他の人には話しづらいような情けない失敗談や相談事なんかも自然に相談できるような良い友人だと」

 そして、アイが殺害される数日前にも、神木の下にアイから連絡があり、新居の住所と子供と顔を合わせないかという話を聞かされたのだという。

 この時も、神木は居酒屋で菅野と飲んだ際に自分の元恋人が子供を見せたがっているという話をしていた。

 神木はその際、菅野に対して自分はまだ彼女と子供たちに会う勇気がないことを話し、住所を教えるので自分の代わりに彼女の家のドアの前に花束を置いてきてほしいと頼んだのだという。

「良介君がB小町のファンだということは知っていましたが、まさかあそこまでアイに執着しているとは思ってもいませんでした」

 ここまで話すと、神木は少し疲れたようにため息をついた。

「結果論ですが、僕が迂闊にアイが入院している病院や、住所を良介君に教えなければその産科医の方も、アイも死なずに済んだのかもしれません。そう思うと、僕も責任の一端どころか元凶と言っても過言ではないのかもしれませんね」

「菅野が宮崎で殺人と死体遺棄をしていたことを知らなかったのか?」

 伊丹の問いかけに対し、神木は力なく首を横に振った。

「……あれは、宮崎で出産に立ち会おうか悩んでいると話した少し後のことだったと思うのですが、良介君の様子が明らかにおかしかったんです。……急に考え込んだり、何かに怯えていたり、何もない場所でブツブツと独り言をいっていたり」

 それからしばらくして、菅野の様子を心配した神木は、菅野をカラオケボックスに連れ出したのだという。そこで菅野はそのまま懺悔するように話し始めたのだそうだ。

「そんなつもりはなかったとか、突き落とすつもりはなかったとか言いながら泣くものですから、最初は何かの冗談かと思ったんですが……自分も、演劇をかじっていた人間なので、良介君の苦しみが演技じゃないことは分かってました。ひょっとすると、本当に良介君は何かしでかしたんじゃないかって思いました」

「なんでその時点で自首を勧めなかったんだ」

 伊丹の指摘に、神木は一瞬言葉に詰まる。

 その顔に僅かに後悔の色が浮かんだことを察した伊丹は、更に追及する。

「嘘言っているんじゃないことが分かってたんだろ?なんで、それを警察に言わなかった」

 ようやく、観念したように神木は答えた。

「……良介君が人を殺せるような人だって、信じたくなかったんです。良介君は、本当にいい友達だったんです。何度かご飯に行ったり、カラオケに付き合ったりしている内に良介君の様子も前みたいに明るくなっていったので、きっとあのころは一時的に精神的に参っていただけで、悪い夢でも見たんだろうって自分に言い聞かせていました」

 ここまで、神木の口からは二つの事件についてその関与を窺わせる言葉は一切出てきていない。

 神木の供述が真実だとすれば、神木は菅野を結果的に二件の殺害に駆り立てたと言えるものの、同時に彼の発言が犯行に結び付くものだとは到底言えないものでもある。

 殺害を指示したわけでも、殺意を煽ったわけでも、殺害に繋がる誤解を招いたわけでもない。神木は、まさに何もしていないのだ。

 予想していたことではあるが、殺人教唆の事実を示す証拠は何もなく、また本人もそれを否定する証言をしている以上、これ以上この件について問いただしても逮捕に必要な証拠や証言を得ることは不可能に近いと伊丹は感じていた。

 とはいえ、神木の供述どおりだとすれば、それは神木にとって都合が良すぎることもまた否定できない。どうにか、神木の供述をひっくり返したいところであるが、その手段が伊丹の脳裏には全く思い浮かばないのである。

 手詰まり感が漂い始めたその時だった。それまで沈黙を保っていた右京が動く。

「杉下警部?」

 訝しげな表情を浮かべる尊を引き連れると、右京は取調室の扉を開け放つ。

 そのままずかずかと室内に入り込む右京の姿を見た伊丹はこれ見よがしにその強面を顰めた。

「事情聴取中なんで、部外者は出ていってもらえますかね?」

「申し訳ない。どうしても気になることがあったもので、つい」

「ついって……取り調べは警部殿の好奇心を満たすためにやってるんじゃないんですよ」

 苛立ち交じりの声を浴びせる伊丹に、尊がやんわり仲裁に入る。

「まぁ、いいじゃないですか。あの杉下警部が何が気になっているのか、伊丹さんたちも興味あるでしょう?それに、このまま聴取を進めるよりも、進展があると思いますよ」

 伊丹は尊の言葉を否定しなかった。代わりに、大きなため息を吐くと、神木の正面の席を譲った。

「どうぞ」

「どうもありがとう」

 右京はにこやかに礼を述べるとゆっくりと椅子に座り、神木の正面へと向き直った。




次回、『杉下右京VSカミキヒカル 第2R』
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