【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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先週の相棒は亀ちゃんの死亡シーンづくめでしたね。
まぁ、結局新・Wの悲喜劇みたいな妄想だったのですが。
しかし、今季相棒はゲスト俳優が豪華です。


第56話 アイが持ち出したもの

 拘置所を後にした尊は、警視庁の片隅にある特命係の小部屋に戻ってきた。

 しかしそこには右京の姿はなく、隣の組織犯罪対策五課の角田が一人コーヒーカップを傾けていた。

「おかえり。忙しそうだね」

 小部屋の住人の帰還に気が付いた角田が声をかける。

「例の、アイの事件だろ?こないだ一課のやつらが元恋人の大学生とやらを任意で引っ張ってきてたが、あれも結局、立件するだけの証拠がないみたいだな」

「流石、お耳が早いですね」

「伊丹のヤツがぼやいてるのをうちのやつらが聞いたんだよ。それで、どうなんだ?」

 角田は興味津々という様子で身を乗り出してきた。

「どうとは?」

「だから、本当にその大学生とやらが、お前らが見込んでたこの事件の黒幕ってやつなのか?」

「杉下警部はそう見ているみたいですけどね」

 そう言いながら尊は自分のデスクに向かうと鞄を置いた。

「それで、警部殿はどうしてるんだ?……って、噂をすれば」

 振り返ると、丁度、外出から帰ってきたらしい右京が組織犯罪対策課のフロアを抜けてこちらに向かってくるところだった。

「ただいま戻りました」

「おう、おかえり。コーヒーもらってるよ」

 特命係の小部屋に戻ってきた右京に、角田が軽くコーヒーカップを掲げた。

「おや、君も戻っていましたか」

 右京はコートを脱ぐと、先に戻っていた尊に声をかける。

「ええ。僕もさっき戻ってきたところです」

「小笠原元准教授は、なんと?」

 尊は驚いた。今日、話を聞いてみたい人がいることは右京に話していたが、誰から話を聞くかは伝えていなかったからだ。

「ん?小笠原って確か、一昨年の恵稜大学の爆破事件の犯人じゃなかったか?」

 角田が聞き覚えがあるという風に言った。

「ええ。教え子と被害者の意識を誘導し、自身が手を下すことなく事故に装うことで犯行を完遂させようとした元心理学者です」

「どうして、僕が小笠原元准教授に話を聞きに行くと?」

 尊は思わず訊いた。

「僕が、アイさんや神木の関係者に話を聞きに行くと言った時、君は、他に話を聞いてみたい人がいると言いました。当然、この言い回しでは、被害者と容疑者の関係者以外で話を聞くべき人がいるということになります」

 そこまで一気に言うと、右京は少し言葉を切り、 次にこう言った。

「神木が今回の菅野の犯行を予測していなかったとも、関与していなかったとも思えない。だから、話を聞きたい人がいる。にもかかわらず、事件の関係者以外から話を聞きたいとなると、その候補は限られます。君の口ぶりからして、僕の推理が現実的に可能なのか、専門家の意見を聞いてみたいと思っていると考えたまでです。小笠原元准教授は、その点ではこれ以上ない適任だったというだけですよ」

「相変わらず、まるで見てきたように話すねぇ……」

 角田はあっけに取られて呟いた。

「違いましたか?」

「いえ、そのとおりです」

 確かに、右京の言う通りだった。とはいえ、全てこの嫌なほど推理力の高い上司の手のひらの上かと思うと、少々面白くないのも事実だ。

 いつか、この上司の予想を裏切ってみせることが出来ればと思う。

「それで、小笠原元准教授はなんと?」

「予想はついていると思いますが、杉下警部の見解を否定することはありませんでした。第三者の思考を誘導し、殺人へと向かわせることは不可能ではないと」

「それだけですか?」

 他にも何か言っていたのではないかと暗に右京は問うていた。

「気になりますか?」

「ええ。彼女の経歴を鑑みれば、彼女が僕の推理に対してどのような意見を口にしたのか。非常に興味があります」

 自身の心理学者としての学識を用いて完全な殺人教唆を成立させかけた人物の意見だ。確かに、今回の事件とよく似ている。犯人としての思考、心理学者としての知見からどのような考えに至るのか、右京からしても気になるところだったようだ。

「他者を犯罪に誘導できたとして、その手法は犯人の資質に依存するところで、論理的な実証が難しいと言ってました。ただ、その一方で、誰かを操って人を殺させることができたとしても、その人を信じて殺人を任せることはできないと」

「なるほど……」

 尊が告げた小笠原の言葉に、右京は思案げにうなずいた。

「まぁ、そうだよな。どこぞのマンガに出てくるような凄腕の殺し屋でもなければ、信じて殺しを任せるなんてことはできねぇだろ」

 角田ももっともだという様子で頷く。

「それで、杉下警部の方はどうだったんですか?被害者と神木の関係者から話を聞きにいったそうですが」

「神木やアイさんの古い知り合いや関係者に話を聞いて回りましたが、これといった収穫はありませんでした」

「進展なしですか」

 尊が溜息をつくも、右京は構わず続けた。

「明日、五反田監督を訪ねてみようと思います」

「なんでまた五反田監督なんですか?」

 尊が尋ねると、右京が自席のパソコンを操作して動画ファイルを開いた。

「米沢さんにお願いして、アイさんのマンションのエントランスとエレベーターに設けられた防犯カメラの映像を送ってもらいました。日付は、事件の一週間前」

「確か、その日ってアイさんが神木に電話をした日ですよね?」

 右京に促され、尊が画面を覗き込む。そこにはちょうどエレベーターを降りてエントランスにやってきた女性の姿が映し出されていた。

 女性は黒い帽子を目深に被り、サングラスをかけている。

「ここに映っている女性がかぶっている帽子とサングラス、手に持っているハンドバックはアイさんの自宅にもありました。顔は判別できませんが、この映像に映っている女性がアイさんとみて間違いないでしょう」

 角田も尊の後ろから興味津々で覗き込む。

「これがあのアイか!?言われなければ全然分かんねぇな。芸能人って普段こんな格好してんだねぇ」

「課長、興味本位なら仕事に戻られたらいかがですか?」

 尊と右京の暗に退室を促す視線を受けて角田は居心地悪そうにそそくさと戻っていく。それを見送ると、右京はさらに画面を操作する。

「さらに、この3時間後の映像です」

 今度は、先ほどの映像に映っていたアイが外からエントランスに入り、エレベーターに乗り込んでいく場面が映し出された。

「この映像がどうかしたんですか?神木に連絡するために外出して、戻ってきたってことでしょう?」

「神木のーー姫川愛梨さん名義の携帯に公衆電話から着信があった時刻は、アイさんがこのマンションを後にした40分後です。公衆電話まで、マンションから公共交通機関でおよそ40分ですから、アイさんはマンションを出たその足で直接電話をかけに行ったのでしょう。それからすぐに家に帰ったなら、多めに見積もっても外出してから1時間半で自宅に戻れる計算になります。ですが、彼女が自宅に戻ったのは外出から3時間後。その間、アイさんはどこに寄っていたのでしょうか」

「買い物にでも寄っていたんじゃないですか。態々公衆電話で電話をかけるためだけに外出するというのも勿体ないですし、近くのお店でショッピングしたり、何か食べたりしたって不思議じゃないでしょう」

 右京はさらに、画像を切り替えてエレベーター内部の画像も同時に表示する。

「アイさんがマンションを出たのが午後4時頃ですから、帰宅までの間に飲食をしたというのは時間帯からすると考えづらいでしょう。そのつもりなら、もっと早く家を出ればいい話です。それに、ここ」

 右京は画面に表示されているアイの持つハンドバッグを指さした。

「買い物をしたのなら、外出時に持っていなかった袋を持っているか、あるいは買い物でハンドバックが膨らんでいるはずです。ですが、これを見てください。バッグが僅かに、萎んでいるように見えませんか?」

 確かに、右京の指摘するように外出時と帰宅時でアイの持つハンドバックのサイズ感には僅かな差異が見られた。

 エントランスの防犯カメラでは判りづらいが、エレベーター内の防犯カメラを見ると、ハンドバッグの開口具合がまるで違うことは一目瞭然だった。

「買い物をしたんじゃない……逆に、何かを持ち出した?」

「ええ。そして、帰宅までの間にその何かを、誰かに渡したとすれば、どうでしょう」

 そこまで右京が口にしたところで、尊ははっとして顔を上げた。そんな様子の彼に呼応するように、静かに右京がうなずく。

「……公衆電話があった地点から、五反田監督の家に寄って、そこから30分ほど話をしてから帰宅したなら、アイさんが帰宅した時刻にも辻褄があう」

「アイさんが外出時に何かを持ち出しており、そして帰宅時にはその何かを持っていなかった。勿論、郵便物を出した可能性や、五反田監督以外の誰かに何かを渡したという可能性も十分に考えられます。ただ、アイさんと親しい関係にあった人物は非常に限られますから、まずは一番話を聞きやすく、事務所関係者以外で付き合いのあった五反田監督から話を聞いてみるべきでしょう」

 右京はそこで言葉を切ると、目を細めた。

「ドーム公演を目前に控えたタイミングで、元恋人にして双子の父親に連絡した後に誰かに渡した何か……ハンドバッグに収まる程度のそれですが、一体それが何なのか。気になりますねぇ」

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