【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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 先週の相棒は初参加の脚本家さんでしたが、今週も初参加の方みたいですね。
昔からヒットを打っている方の脚本もうれしいのですが、新しい脚本家による新しい風も期待しています。

 なお、あとがきに告知があります。


第57話 預かりもの

 右京と尊は、再び五反田の自宅を訪れていた。

 五反田の母親は息子の下を再度警察が訪れたことに一瞬驚きと警戒を見せたが、右京の穏やかな物腰と、イケメンな尊の微笑みにすぐ心を許し、2人をリビングへと案内した。

 しばらくリビングで待っていると、作業中だったのか煙草の匂いを濃く纏いながら五反田が現れた。五反田はひとまず、二人を自身の作業部屋へと案内する。

 五反田は怪訝な表情を崩さないまま、二人に椅子に座るよう促し、自身も椅子に腰掛ける。そして、灰皿に置いた吸いかけの煙草を一口吸うと、口を開いた。

「アイの事件の犯人、自殺したって報道されているが、今更俺に何の話を聞きたいんだ?」

 右京は五反田の問いに対して、前置きをすることなく本題に入った。

「アイさんの事件のおこる一週間前、アイさんがこちらを訪ねていますよね?そして、貴方に預けたものがある」

 意表を突いた質問だったのか、五反田は面食らった表情を見せた。

「な、なんでアレのことを警察が……」

「やはり、アイさんが来ていましたか」

 右京の切り返しに、五反田は自身がかまをかけられたことを悟ると、大きく舌打ちをした。

「かまかけたな、杉下警部」

「申し訳ありません。ただ、我々もアイさんが貴方のもとを訪ねたという確たる証拠は持っていなかったものですから」

「証拠はなくても、確信はあったんだろう?じゃなければあれほど自信をもって話をふることはできないはずだからな」

 そう話すと、五反田は頭を乱暴に掻いてから深くため息を吐いた。

「くそ……演技に駄目だしをする側の人間が一般人の演技で騙されるとは、俺も焼きが回ったか」

「アイさんが来た時のことを話していただけますね?」

「……確かに、事件の一週間ほど前だったか、アイが突然ウチを訪ねてきた。当然、アポなしだ。……あいつ、社会人としての常識をどこにおいてきたんだか」

 五反田は観念したのか、渋々といった様子で語り始めた。

「アイドルを家にあげて小一時間話したってだけでやれ男ができただの、枕営業だのと騒がれる業界だ。流石にアイツもあそこの事務所も記者に張り付かれないように対策ぐらいはしていたんだろうが、長居させると面倒なことになる可能性はあった。だから、俺も玄関先でアイツに会って、さっさと帰らせようとした」

 そこで言葉を切ると、五反田は席を立ちデスクへ向かった。

 デスクの下に設けられたスチール製のデスクワゴンを開くと、中から二つの小型のマチ付き封筒を取り出して右京の前のテーブルに置いてみせた。

 一つの封筒には『お兄ちゃんへ☆15になるまであけちゃダメ!』、もう一つの封筒には『ルビーへ♥15になったらあけてね』と可愛らしい丸文字で書かれていた。

「これは……」

 尊はその筆跡に見覚えがあった。菅野の部屋に貼ってあったポスターやタペストリー、サイン色紙などに書かれた文字と同じものだったからだ。

「アイさんの筆跡ですね」

 右京の言葉に、五反田は頷く。

「いきなり俺のところに来て何の用だと思っていたら、こいつを渡された。アイ曰く、未来に向けたビデオレターだそうだ。早熟……あぁ、アクアとルビーが15歳になったら渡してほしいと言われて、預かった。それだけだ。アイは俺にこれを勝手に預けてとっとと帰っちまった」

「何故、五反田監督に預けられたのでしょうか」

 尊の問いに対し、五反田は呆れたように首を横に振った。

「俺も、自分で渡せって言ったさ。そしたら、アイツ、なんて言ったと思う?」

 尊には、アイの回答が皆目見当もつかなかった。隣に座る右京も同様だった。

「何と言ったのでしょう?」

 すると、五反田は当時を思い出したのか少し愉快そうにしながら答えた。

「『私が持ってたら絶対紛失するでしょ?』だそうだ。確かに、アイツは一年後の時点で忘れてるだろうし、なくしてるだろうからな。妙な説得力があったよ」

「五反田監督は、中身をご存じで?」

 五反田は尊の問いに対して首を振るうことで答えを示した。

「アイには、俺は中身を見るなって言われてる。それに、これだけ厳重に封されてるのを見ればわかるだろ?俺はこれを開けてない。15歳のあいつらに宛てたビデオレターってこと以外は何も知らねぇよ」

 確かに、五反田の目の前でテーブルに置かれたマチ付き封筒には厳重に紐で封をされている。

「こちらの中身を見せていただいてもいいですか?」

 右京の問いに、五反田は眉間に皺を寄せながら答える。

「こいつは、前に言ったB小町のドキュメンタリーの映像とは違って、完全にアイの個人的なものだ。アイの事務所の許諾も俺のクリエイターとしての信念もこいつの開示には関係ない。が……」

 五反田の言わんとすることを察して、右京はゆっくりと頷いた。

「墓場までアイさんが持って行った嘘をすべて暴くことが正しいと今の自分には思えない。それをやるには、それなりの理由が必要ということですか」

 以前の自身の言葉を引用されたことに対して苦笑いを浮かべつつ、五反田は続けた。

「そういうことだ。これは、アイが未来の我が子に対して贈ったメッセージ。それを他人が無遠慮に覗き見するのは無作法だろうが。それに、アイを殺したヤツはもう死んでるんだろ?今更、このビデオレターの中身を知る必要がなんであるのか俺には分からん」

 五反田の言い分は正当だと尊は思った。しかし、それでも事件の真実に迫るためにここで引くわけにはいかなかった。

「菅野が四年前、医師を殺害していたことはご存じですか?」

「あぁ、それならニュースで見た」

 口にしていた煙草が短くなったことに気付いて、五反田は吸っていた煙草を灰皿に押し付けてから言葉を続ける。

「宮崎で見つかった白骨遺体の件だろ?時期的に考えて、アイがあのガキ共を産んだころだ。その医師も、アイが出産のために入院していた病院の関係者じゃねぇのか?」

 右京は五反田の問いかけには答えずに話を続ける。

「菅野は、アイさんの自宅を知るはずもなければ、入院している病院を知るはずもありません。菅野の背後には、協力者がいたはずです。ですが、現状、その協力者による協力を裏付ける証拠がありません」

「その証拠が、このビデオレターの中にあると何で分かる?」

「ビデオレターの中に、証拠があるかどうかはわかりません。ですが、アイさんが殺害される直前に預けたビデオレターです。たまたま、監督に預けたタイミングが犯行の直前だったと考えるよりも、何かの予兆を感じ取って自らの死後に備えて託したものと考えた方が自然ではありませんか?」

 五反田には捜査情報故に説明しなかったが、アイが神木に連絡した直後に五反田にビデオレターを託したことは、アイの足取りを検討した結果間違いない。

「アイさんが、アクア君とルビーちゃんを妊娠したのも15歳。自身が妊娠したころと同じ年になった我が子に向けたビデオレターを、事件の直前に貴方に託した。どうも、僕にはそのビデオレターの中身が、今回の事件に無関係だとは到底思えないのですよ」

 右京の言葉を受けて、五反田は首を捻りながら腕を組んだ。やがて、ため息とともに呟いた。

「……あくまで、それはあんたの推測に過ぎん。そんな理由じゃ悪いが、こいつは渡せない」

 五反田がテーブルに置かれた封筒に手を伸ばそうとしたその時、尊が勢いよく頭を下げた。

「お願いします!そのビデオレターを僕たちに見せてください」

  戸惑う五反田をよそに、尊はさらに続ける。

「アクア君は、目の前でお母さんを殺されました。理不尽に幸せな日常を奪われました。目を背けていても、悲しみに暮れふさぎ込んでいても、誰も責められることではありません」

 でも、と続けて尊は再び頭を下げる。

「彼はその事実に真正面から向き合っている。そして、真実を知りたいと思っている。四歳の男の子が家族を失った悲しみを受け入れるだけでも想像を絶する苦痛でしょう。それでも、彼は前を向いている。ならば、アクア君の代わりに全力で真実を追求するのが警察官の仕事でしょう。そのためには、どんな小さな可能性でも検証しなければならないと僕は考えています」

「それが、故人の遺志に背くことになってもいいと?」

「故人にはひょっとすれば恨まれるかもしれませんね。ただ、アクア君はこの事件が終わったとは思っていません。真実が分からなければ、アクア君はあらゆる人を疑い続けることになるかもしれない。そして、親しい人だって疑わなければならない自分に苦しむことになる」

「アイは腐っても芸能界の人間だ。あの世界の闇は業界人の端くれである俺が言うのもなんだが、底知れねぇ。そんな闇が真実に関わっていたとしたら、アイツらにとって残酷な真実になるかもしれない。それでも、アイツらは真実を知るべきだと?」

 五反田の真剣な眼差しを受け止め、尊は答えた。

「アクア君は、目の前で母親が殺されたという事実を真正面から受け止める強さを持っています。彼なら、きっとどんな残酷な真実であろうと、それが真実ならば乗り越えられるはずです。それに、アクア君は周囲の大人にも恵まれています。真実を受け入れ、アクア君が傷つくことがあっても、支えてくれる人たちがいます」

 暗に、五反田もその一人だと告げる言葉に、五反田は肩を竦めてみせた。

「……生の感情が乗った熱い言葉。正直、意外だ。神戸さんだっけ?あんた、見かけによらず、熱い男なんだな」

 五反田はそう言うと、テーブルに置かれた二つの封筒を右京たちに差し出した。

「俺の負けだ」

 右京と尊は、差し出された二つの封筒を受け取ると、深々と頭を下げた。




 ついにアイが託したDVDまでたどり着いた特命係ですが、ここから杉下右京VSカミキヒカル最終R、アクアとルビーに対する真実の説明と物語が一気に終わりへと進んでいく予定となっております。おそらくは5、6話程度になるでしょうか。
 ここからいよいよ最終局面に入るということで、最終話まで書き終えたところで念入りに推敲をして投稿したいと考えており、つきましてはここまで週一更新を目指してきましたが、次回の更新は最終話まで書き終えたところで投稿するため、しばらく時間がかかる予定です。
 相棒の最終回までに投稿できればなぁとは考えていますが、如何せんいろいろと手を入れなければならないことが予想されるため、ひょっとすると4月に入ってしまう可能性もありますが、それまで気長に待っていただければと思います。
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