【偶像×相棒】   作:後藤陸将

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 お久しぶりです。
 4月くらいには投稿したいと前回のあとがきに書いておきながら気が付けば既に5月も半ば……。
 一応執筆自体はしており、現時点で第63話までは書き終えております。
 ただ、現在執筆中の第64話が色々と難産でうまく台詞が出てこず、筆がなかなか進まない状況です。
 第65話か第66話には完結になるとは思いますが、書き終えるまでしばらく時間がかかりそうなので、とりあえずうまく展開的に区切りがついている第58話だけ生存報告兼ねて投稿することにしました。
 第59話『杉下右京VSカミキヒカル 第3R』以後については最終話までほぼひとつながりの展開になる関係で、最終話まで書き終えた状態で投稿するつもりなので、しばらくお待ちください。


第58話 最後の希望

 特命係の小部屋に戻った二人は、早速五反田から預かったマチ付き封筒を机の上に広げた。

 封筒は二つ。『お兄ちゃんへ☆』と書かれた方はおそらく双子の兄、アクアに宛てたものだろう。もう一つの封筒には『ルビーへ♥』と書かれていることからルビー宛てのものとみて間違いない。

 右京はそのうちの片方、『お兄ちゃんへ☆』と書かれた封筒を手に取って、中身を検め始めた。尊もその隣で、もう片方の封筒を手に取り、中身を取り出していった。

「サイズと五反田監督のお話から予想していましたが、やはりDVDのようですねぇ」

 封筒から取り出した青のインデックスカードが入ったDVDディスクのケースを見ながら、右京が言った。

「こっちも、DVDだけでした」

 尊の方も同じであったらしく、手にした赤のインデックスカードが入ったDVDディスクのケースを掲げて見せる。

 そして、尊にはこの2枚のDVDに見覚えがあった。右京がアイの部屋を訪れていた際に気にしていた行方知れずの2枚のインデックスカードが入ったDVDと同じものだったからだ。

 まさかあの段階でここまで予測できていたとまでは尊にも思えなかったが、相変わらず細かな違和感から事件の真相に迫る右京の嗅覚に、尊は思わず舌を巻いた。

「それで、どっちから見ますか?」

「どちらからでも構いませんよ」

 尊の問いに対して右京は淡々とそう答えた。どうやら、右京はどちらから見ても結果は変わらないと考えているようだ。

「では、こちらから」

 そう言うと、尊は赤のインデックスカードが入ったケースからDVDを取り出し、愛用しているノートパソコンの外付けDVDドライブに入れる。

「……入っているデータは、映像ファイルが一つだけです。やはり、五反田監督の言っていたとおり、これはアイさんが子供達に宛てたビデオレター」

 尊の言葉に頷きながら、右京が言葉を続ける。

「神戸君、作成された日付を見てください」

 右京に促され、尊はパソコンを操作して、映像データの作成日時を確認する。

「作成日は……3年前?」

 尊は違和感を覚えた。星野アイが殺害される直前に、親しかった五反田に預けたビデオレターと聞いていた彼は、てっきりアイが自身の死期を予期してビデオを作製したものだと思っていたからだ。

「まずは、映像を見てみましょう。アイさんがこのDVDに託した真意は、それを見なければわかりません」

 右京の言葉に従い、尊は黙って映像を再生させた。

 まず、映像に映ったのは、ラフな私服を着たアイの姿だった。

『撮れてるかな?』

 アイの背後には、アクアとルビーの一歳の誕生日を祝う飾りつけがなされた室内が広がっている。その風景だけを見ると、どこにでもある幸せな家庭の風景を切り取ったようにも見える。

 その室内は、右京と尊が訪れた部屋とは似つかないことから、アイが転居前に住んでいた家だと推測できた。

『こういうのを残しておくのもいいと思ってね~』

 そう口ずさんでアイは一瞬画面から消える。しかし、すぐに両腕に双子の赤子を抱いて戻ってきた。どうやら双子は熟睡しているようで、可愛らしい二つの寝息をマイクは拾っていた。

 そして、アイは双子を腕に抱いたまま母としての願いを語る。そして、ルビーの将来への希望、一緒にあんなことがしたい、こんなことがしてみたいと目を輝かせながら語る様子からは、とてもこのビデオレターが自身の死を予期して残したものだとは思えない。

 結局、アイはこのビデオの最後まで我が子のことしか語らなかった。アイ自身についても、双子の父親についても何も語っていない。

 いつか、このビデオレターを見ながら、大人となった双子と一緒に昔を懐かしみながら、語り合いたいと思っていたのかもしれない。ビデオレターを最後まで見た尊は、そんなことを思った。

「どうやら、本当にただのビデオレターだったみたいですね」

 そう言って、尊は小さく溜め息を吐いた。

「神戸君、まだアクア君宛てのDVDが残っています。結論を出すのは、そちらを見てからでも遅くはないと思いますよ?」

 右京に促され、今度はルビー宛てのDVDを取り出し、代わりにアクア宛てのDVDを外付けDVDドライブに挿入する。こちらにも二人の予想どおり映像ファイルが一本入っていた。

「どうやら、こちらの映像も作成日がルビーちゃん宛のDVDと同じ日付ですね。同じ日に撮ったんでしょうか」

「ですが、日時は先ほどのものより少しだけ後です。順序としては、先にルビーちゃん宛ての映像を撮った後に、アクア君宛ての先ほどの映像を撮ったのでしょう」

 そう言いながら、右京は尊に映像の再生を視線で促す。

 それを察した尊は、再度マウスを操作するとDVDに収められた映像を再生させる。

 尊のノートパソコンの画面には、先ほどのルビー宛てのDVDに映っていたのと同じ背景、同じ服を着たアイの姿が映し出された。どうやら、右京の推測どおり、時系列としては先ほどの映像の続きとなるようだ。

『15歳おめでとうアクア』

 画面の中のアイが口を開く。

『15歳。私が君達を宿した歳。大人になったアクアなら、この話も受け入れて貰えるよね?』

 しかし、どこか先ほどの映像に映っていたアイとは雰囲気が違うように尊は感じていた。

『君達のお父さんのお話。そして、私から大人になった君達へのお願い』

 そんな前置きと共にアイはかつての彼女の恋人にして、双子の父である男性について語り始めた。

 その男が命の重さに押し潰されそうになり、アイに依存していたこと。そして、そんな彼を救うために別れる決断をしたという経緯。

 さらに、アイはその男と一緒に居たかったという本心を語る。

『彼の背負ってるものを一緒に背負って、彼の子供達と一緒に……一緒に未来を生きたかった。愛とかよく分かんない私が愛したいと思った初めての人だから』

 尊はいつの間にか食い入るようにして液晶モニターを見ていた。愛を知らない、嘘をついてばかりだった少女の中に秘められていた純粋な想いから目を背けられなかった。

『大人になった君達へのお願い。彼が今も迷ってるなら、彼を救ってあげてほしいんだ。私と一緒に』

 アイのその言葉で、映像は終わった。

 最後まで、アイは『彼』の本名を出すことはなかった。しかし、最後までアイが『彼』を案じ続けていたことは尊にも分かった。

 ただ、その愛し方は不器用すぎ、そして彼女には他者の心情を察し、慮るということが致命的なほどに苦手だったのだろう。

「……結局、アイさんは神木の名前を出しませんでしたね」

「ええ。ですが、アイさんの言う『彼』が神木であることは間違いありません。彼自身、双子の父親であることもアイさんとの関係自体も認めていますし、DNAからもそれは立証されています」

「そうでしょうね。でも、このDVDから判明した新しい情報と言えば、アイさんが神木と別れた経緯ぐらいじゃないですか。神木を立件するのに使えそうな新事実、ありました?」

 これといって新たな発見がなかったことを残念がるように肩を竦めて見せた尊だったが、それに対して右京はいつもの飄々とした調子で切り返す。

「収穫はありました。アイさんの話では、神木は命の重さに潰されそうになっていた。そして、芸能界の闇に侵されていたそうです。文脈からすれば、これはアイさんが妊娠する前の話ですから、恐らくは姫川愛梨さんの事件のことを示唆しているのでしょう」

「神木は、姫川さんの事件に責任を感じていたと?」

「姫川愛梨さん夫婦が心中という結果に至った一因が、夫婦の間に生まれた子が実は神木の子であったことを知れば、まだ精神が成熟しきっていない少年が罪悪感を抱いてしまっても不思議ではありません。さらに、彼は小学生のころに姫川さんから性被害を受けています。幼くして彼が負った心の傷、そこに姫川さん夫婦の事件による罪悪感や自責の念が加わったとすれば、精神的に不安定になってもおかしくはありません」

 右京は冷静に状況を整理していく。

「そんな時に半ば依存までしていたアイさんから別れ話を切り出されれば、アイさんに対して殺意を抱いたというのは十分ありえると思いませんか?別れてから4年経ってもなお殺意を抱いていた理由がこれまでどうにも腑に落ちませんでしたが、アイさんの話でようやく納得できました」

「神木がアイさんを殺害した動機が、結局のところフラれた恨みってことですよね?もともと想定されていた動機で最も王道でありきたりなモノでほぼ確定したってだけで、それで神木を追い詰められるとは到底思えませんが、どうするつもりなんです?杉下警部もこのまま終わるつもりはないんでしょう?」

 尊の頭脳では、この状況を打開し神木を逮捕するだけの策は思い浮かばない。

 とはいえ、親を理不尽に奪われてもなお健気に立ち上がろうとしている双子の姿を見ていながらこの事件をこのまま終わらせることなど、尊には到底許せなかった。

 だからこそ、尊は期待を込めて右京へと問うのだ。いつも自分の想像を超える推理と行動力で事件を解決してきた右京ならば何か考えがあるはずだ、と信じて疑わなかった。

「……現状、神木による殺人教唆を裏付ける証拠は何もありません。ただ、完璧な犯罪などというものもまた、この世には存在しません」

 右京は尊の問いかけに答えることなく静かに告げる。

「『誰かを操って人を殺させることができたとしても、その人を信じて殺人を任せることはできない』」

 それは、尊が先日東京拘置所で会った小笠原の言葉だった。右京の発言の意図を図りかね、疑問符を浮かべている尊をよそに、右京はさらに続ける。

「神木がどこまで菅野を信じることができたか、そこに賭けてみましょう」




 今更になりますが、相棒Season23最終回前後編面白かったですね。
 真野さんらしい大風呂敷を広げた構成で、かつこれまでの作品のような乱暴な終わり方ではなく丁寧にたたまれて終わったところも好感触ですが、さらに課長や大河内さんの警察官としての矜持を物語の筋に沿いながら描写したところもよかったです。
 ただ、今Season総括して甲斐さんの出番が非常に少なかったところはちょっと残念です。
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