他にご都合主義に頼らずにカミキ逮捕まで話をすすめている二次創作を寡聞にして知らないのですが。
右京が苺プロダクションに社長へのアポイントメントを取り付けると、意外なほどすんなりと予約が取れた。
アイの事件だけでなく、時効で起訴はされなかったとはいえニノの事件関与が発覚したこともあって事務所はてんやわんやだろうが、それでも社長の斎藤は右京との面会を優先したようだった。
とはいえ、流石に日中に時間を割くことは難しかったらしく、右京と尊が苺プロを訪ねたころには既に日は沈み、街には帰路につくサラリーマンがあふれていた。
斎藤は前回と同様応接室で右京たちを出迎えた。
部屋には、斎藤の妻であるミヤコと、アイの子供である双子の兄妹、アクアとルビーが同席していた。
斎藤は一言一句聞き逃さないとでも言わんばかりに右京と尊を睨みつけている。一方、ミヤコはどんな事実が告げられるのか分からず、緊張の面持ちで右京と尊を交互に見ている。
そして、斎藤とミヤコの間に座る双子の表情もまた、真剣だった。とても4歳児とは思えない真剣なまなざしに、尊は内心舌を巻く。
「本日は、アイさんの事件が解決したことをご報告に参りました」
「……あぁ、知り合いのディレクターから聞いた。警察が今朝から色々と慌ただしく動いてるってな」
右京が単刀直入に話題を切り出すと、斎藤は吐き捨てるように応じた。
それから、彼は忌々し気にため息を一つ吐いてから続けた。
「それで、どこのどいつだ。アイを殺したクソったれ野郎は」
斎藤の口調には、犯人を糾弾する強い意志がにじみ出ていた。
それに対し、右京はまるで信者に教えを説く聖職者のように落ち着いた声で答える。
右京の口から、事件の経緯が語られた。
5年前、アイと元恋人だった少年との出会いと、妊娠。そして少年との決別。
決別を契機にアイに対する執着とその裏返しとなる殺意の芽生え。
菅野亮介を唆して行われた4年前の宮崎の殺人と死体遺棄、そして、アイの殺害。
右京と尊が突き止めた、事件の全貌が語られていく。
しかし、右京は神木の名前と、身元の特定につながるような出身、所属大学等の情報だけは報道が予定されている情報に則り伏せていた。
およそ、30分程で全貌が語られた。
右京の報告が終わった室内は、沈黙に支配された。しかし、音のない空間に渦巻くのは、重苦しい空気と張りつめた緊張。
斎藤は歯を食いしばり、その双眼に憤怒の炎を燃やしていた。
それはあの日以来彼がずっと斎藤の胸の内で燻り続けていた復讐心という名の感情だった。
そして、長い静寂を打ち破ったのは斎藤だった。
「何故、アイを殺したクソ野郎の名前を伏せてるんだ」
「犯人は未成年です。少年法に則り、実名を明らかにすることは出来ません」
右京はそう答えるが、斎藤が納得できるわけがない。
「少年法か……あのクソは、それで守られるってことか。実名報道もされねぇ、裁判だってクソ温い家庭裁判所での審判で終わる可能性だってある。それであのクソが、のうのうと娑婆を歩き回れるのか」
右京の答えは、斎藤の神経を逆なでしただけだった。
拳が白くなるほど強く握りながら、斎藤は吐き捨てるように言う。
声を荒げたり、その拳を机に叩きつけたりしなかったのは、隣に涙を堪える二人の幼子がいたからか。あるいは、すごすごと家に帰ったあの夜、妻に泣かれ、罵られ、殴られた末にぶつけられた言葉を思い出したからか。
はたまた、偶然立ち寄った花の里での幸子との会話が彼の心に一石を投じたのか。
いずれにせよ、その激情を飲み込む理性が働いたことは明白だった。
以前の花の里での態度から斎藤が激情に駆られないか心配だった尊も、彼の理性的な反応に一先ず胸をなでおろした。
しかし、斎藤は激情を飲み込んだが、その怒りは消えていなかったらしい。彼は右京と尊に鋭い視線を向けながら続ける。
「グループのためにニノを追い詰めた俺のような野郎にアイツを糾弾する資格はねぇのかもしれねぇがな、それでも言わせてくれ。何でアイツみたいなクソ野郎が法で守られんだ!!」
その怒りに、嘆きに、憤りに、右京は正面から向き合っていた。法の持つ残酷さ、それによって守られるものの非情さ、正義と法の対立。それは右京が長い間向き合ってきたものだ。
警察官という法の守り手だからこそ、法による理不尽からも目を背けるわけにはいかないと右京は自らに課してきた。
ただ、隣に座る尊は右京ほど法によってもたらされる理不尽を座して受け入れることはできずにいた。
法に沿った結果生まれる悲劇を是としてよいのか。それが正しいのか。今の尊には、確固たる答えは出せずにいた。
そんな尊の内心を知ってか知らずか、これまで沈黙を保っていたアイの忘れ形見である双子の片割れ、ルビーが口を開いた。
「……教えてよ」
幼児らしからぬ理知的で、冷徹な瞳。その瞳の色は彼女の名前の如く紅玉のように赤く煌めいていた。
さらに、その声音には年不相応のぞっとするほど冷酷な響きが混じっていた。
「センセを、ママを殺した犯人の名前を教えてよ」
ルビーは、その小さな体に似つかわしくない憎悪のこもる声を発した。
「そいつを殺してやるから」
「ルビー……」
傍らに寄りそうミヤコが、その小さな肩を抱き寄せ宥めようとするが、彼女はその手をはねのけると立ち上がる。
「なんで!!ママを殺したヤツがどこの誰かも分かんなくて!!なんで!!ママを殺したヤツはのうのうと生きていられるの!?」
ルビーは、その瞳に憎悪と殺意を宿しそう叫んだ。
その小さな体から放たれたとは思えぬほど強い意志のこもった叫びが尊の耳朶を打つ。
このままでは、少女は憎しみに囚われ、復讐の鬼になりかねない。そう尊が危惧した時だった。
「君も、同じ考えですか?」
右京が問いかけたのは、激情に駆られるルビーではなく、彼女の隣でじっと黙って話を聞いていたアクアに対してだった。
この時、尊は初めてその少年の異質さを認識した。
怒りを露わにする斎藤、悲しみにくれるミヤコ、感情を制御できずにいるルビー。
彼らの喧噪をよそに、これまでアクアはただ一人能面のように表情を変えていなかったことに、尊は今更ながら気付いた。
アクアは母親の死を認識していないわけではなく、また、母親の殺害現場を直視したことで心が壊れたわけでもない。そのことは、これまで幾度かアクアと接する中で、尊もなんとなく察していた。
では、何故アクアはここまで冷静にいられるのか。
尊にはそれが分からなかった。
しかし、右京はそんなアクアの内面を見透かしているかのように、あるいはこれまでの彼の態度から既に何かの確信を得ているかの如くアクアに問いを投げかけた。
右京の柔和な笑みと裏腹な鋭い視線を正面から受けても、アクアの表情は変わらない。
しかし、右京が次に発した言葉が、アクアの能面のような表情のその内側にある何かを暴きだした。
それは、尊にとっても全く予期せぬ一言だった。
「刑法第41条。君は、この法律を知っていますね?」
あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!
おれは推しの子の二次創作を書いていたと思ったらいつのまにか重曹も、MEMちょも、あかねもフリルも登場させることなく約20万字の作品を完結させていた(ry
というわけで、次回で最終回となります。