ヴィランな少女は学園生活満喫中、ついでに雄英高校潜入中   作:シャンデラ

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第1話 フィジカル弱者

 「ふああ……」

 

 寝不足だった。

 

 ガラにもないとはこのことだ。雄英高校ヒーロー科一年A組、人型雛。その肩書に、ついついテンションが上がってしまった。

 初登校が楽しみで思わず早起きして誰よりも早く教室につくなど、我ながらどれだけ浮かれているのかと思う。黒霧あたりに聞かれたら散々からかわれそうだ。考えるだけで嫌になる。

 

 それでも、普段ヴィランなんてやってたらお日様のもとで堂々と過ごすなんてできやしないのだ。

 普段まともに語れる社会的地位がないだけに、私の写真が印刷されている学生証が温かい。なんにしても名乗れる名前があるというのは幸せなことだ。たとえそれが本当の名前じゃなかったとしても。

 

 ピカピカの制服にそでを通し、席に座ってウキウキと新生活の始まりを待つ。多分今の私は誰よりも純粋な入学生だ。

 ヴィランの名が聞いてあきれると自分でも感じる。それでもここから敵地のど真ん中でスパイのようなことをしなければならないからこそ、きっと楽しめたほうが良い。そう考えて私は自分を正当化した。

 

 教室で待っていると、続々と私のクラスメイトになる人が教室に入室してきた。

 

 まだ最初のホームルームも始まっていない。どうせ話しかけられないだろうと高をくくっていた私に、大声で声がかけられた。

 

 「初めまして!!僕は私立聡明中学出身、飯田天哉!!君のクラスメイトになる者だ。これからよろしく頼む。ところで君の名前を教えて欲しい!!」

 

 「うひゃっ!?」

 

 ダダダっと、奇妙に角ばった動き方で接近してきた眼鏡の男子生徒に話しかけられる。ついビックリしてしまったが、向こうから話しかけてきてくれるならばそれはそれでありがたい。

 

 少し息を吸って調子を戻し、相手の方を見て自己紹介をする。挨拶は大事だ。

 

 「こちらこそ初めまして飯田さん。私は人型雛。よろしくお願いしますね。」

 

 そう返すと更に彼と話す猶予もなく今度はすぐそばから別の人に話しかけられた。ピンク色の肌と角を持つ女の子だ

 

 「あー!もう話してる人がいる。初めまして!私は芦戸三奈!飯田君と雛ちゃん、!仲良くしてね!それで雛ちゃんは何処出身なの?」

 

 「え、私?私はね……」

 

 ……流石ヒーロー科だ。全員積極的で距離感の詰め方が早い。

 

 まさか「中学校には行ってないのよ。毎日回ってくる”仕事”をこなしていたわ。」なんて言えるはずもない。

 私はちゃんと準備していた「人型雛」のプロフィールを小出しにしながらも、可能な限り質問をかわす。完全に噓で尚且つバレにくいよう工夫したため、そう馬脚を露しはしないつもりだがここには最長3年もいることになる。

 ついうっかりで私の正体がばれたらシャレにならない。一貫した噓をつき続けるというのは、ちゃんと準備していないと結構難しいのだ。

 

 そんな感じでクラスメイト達と話をしながらこっそり教室の様子をうかがう。

 

 どうやらいつのまにか殆ど全員の生徒が来ていたようだ。随分と騒がしくなった教室だが、そこに声が響いた。

 

 「ハイ、静かになるまで10秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね。」

 

 手入れのされてない長髪。無精ひげ、寝袋に入ってやってきた不審者。胡散臭い男が教室に入ってくる。

 

 (お!あの人は……)

 

 「担任の相澤消太だ。よろしくね。」

 

 そんなこんなで、私の雄英生活は始まった。

 

 

 

 私はこの男を知っている。プロヒーロー、イレイザーヘッド。”個性”は抹消。

 

 黒霧周りの調査をしていた時に調べた人物の一人だ。あまりメディアに出るタイプのヒーローではないため、調べ物に少し手がかかったのを覚えている。

 

 (雄英高校の先生をしていたことまでは掴んでいたけれどまさか本当に担任とはね。黒霧に依頼された仕事で関わりを持つことになるなんて世界は狭いわ。)

 

 入学試験の時のアナウンスをしていたプロヒーロー、プレゼントマイクも黒霧の関係者だ。まあ彼は元をたどればここの在校生なので母校に知り合いがいることは普通にあり得る話なのだが、それにしても奇妙な縁ではあった。

 黒霧はあれでいて生前は明るく友達も多かったようなのでその関係なのだろう。今の彼にも少し位可愛げを分けてあげてほしい。

 

 そんなことを考えながら相澤消太を観察する。彼はけだるそうにクラスを一瞥すると、ビッと寝袋から洋服を取り出す。雄英高校指定の体操服だ。

 

 「早速だがこれ着てグラウンドに出ろ。」

 

 先生は、そう宣言した。

 

 ――――――――――

 

 「「個性把握テストォ!?」」

 

 広いグラウンドに大声が響く。

 

 入学式やガイダンスは?と困惑する女の子を躱し、相澤は説明する。

 

 (つまりは体力テストね。”個性”アリでどれだけの運動能力を出せるかの検査。日本では聞いたことない類の測定法だけど、まあこういう高校ならよくやることなのかしら……?)

 

 その場合見るものは”個性”そのものの性質や出力、そして応用力を見るのだろう。個人的には入学式に参加してみたかったが、確かに合理的ではある。

 

 考えている間にデモンストレーション。爆豪と呼ばれた生徒が前に出て、測定用のソフトボールを受け取った。

 

 「死ね!!!!!!」

 

 (……死ね?)

 

 ヒーローの卵にしてはかなり物騒なセリフと共に彼の右手が爆音を放った。ボールがはるか彼方に飛んでいくのを呆然と見守る。

 

 「まず、自分の最大値を知る」

 

 ピピッと測定器が音を立てる。705,2m

 

 (……すごいわねあの”個性”、あまりお目にかかれないレベルの強能力じゃない。)

 

 「それがヒーローの素地を形成する合理的手段だ。」

 

 一呼吸おいてざわざわとどよめきが走る。

 

 「なんだこれ!すげー面白そう」「”個性”思いっきり使えるんだ!!」

 

 ……現代日本は”個性”を自由に発揮できるようになっていない。だからこそ”個性”を持て余している人は多い。体力テストに関しても基本”個性”は使用禁止なのだ。

 

 だからこそこの期待に満ちた反応は理解できる。ここは雄英高校ヒーロー科、日本一の“個性”が集まる場所。

 おそらく殆どの生徒は程度の差はあれど抑圧されていたのだろう。全力を出せない、ということに人間は耐えられるように出来ていない。

 

 しかし私はそれどころではない。まさか何の準備もさせてもらえずにこういう場へ出されるとは予想していなかった。

 

 私の”個性”は風よりも早く走り、パンチ一つで岩を粉砕するような、そういう分かりやすい物ではない。

 

 (ちょっと不味いかもしれない……)

 

 そんな私に追い打ちをかけるように担任はこう続ける。

 

 「……面白そう…か。ヒーローになるまでの3年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 なんだか恐ろしく機嫌が悪そうだった。私はほんのりと嫌な予感がする。

 

 「よし。トータル成績最下位のものは見込みなしと判断し。除籍処分としよう。」

 

 (えぇ……)

 

 黒霧の交友関係が心配になってきた。こんなに極端な人だったのかイレイザーヘッド。

 

 ――――――――――

 

 当然、非難轟轟。抗議する生徒たちを相澤はなんか意識高いことを言って黙らせる。ヒーローなら理不尽と戦うものとかどうとか……。

 

(まあ洗礼ってやつよね。新入社員研修で強制的にキッツい山登りに行かせて意図的に心の許容量をぶっ壊すみたいな……)

 

 どちらにしてもヒーローを目指しているわけではない自分としては、ただただ迷惑な話だった。

 

 ただ流されるままに第一種目である50メートル走のスタートラインに立つ。隣の生徒は緑の髪のそばかすの男子生徒だ。確か名前は緑谷……だったと思う。

 ……恐ろしく思いつめた顔をしているが大丈夫だろうか。

 

 コースは直前に口の悪い金髪が爆発しながらコースを駆け抜けて行ったのでどこか焦げ臭い。

 

 (実際本当に困ったな。どうしようかしら……)

 

 私の悩みをよそに個性把握テストは始まる。掛け声を聞いて諦めて私は走り出した。

 

――――――――――――――

 

「これはひどい」

 

 思わず独り言も出てしまう。

 50メートル走9秒53、握力15kg、その他も似たような結果がずらり。

 

 確かに私は身長も低いし非力な方だと思っていたけど流石に少し想定外だった。自分の体力のなさを舐めていた。

 あまりの結果の悪さにクラスメイトが遠巻きに私を見ている。まさかこんな形で注目されることになると思わなかった。とても悲しい。

 

 さみしさを紛らわすため同じくパッとしない成績の、緑谷という名前の生徒に声をかけてみる。あなたも死にそうな顔をしているし励まし合いましょう?

 

 「あはは……お互い大変ね?もしかして貴方もこういうのが苦手な”個性”の人?」

 

 「ブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツブツ」

 

 「ダメみたいね。」

 

 私の声は届かなかった。というかいくら何でも追い詰められすぎだ。真剣になる気持ちは理解できるけど、はたから見ていると正直怖い。

 

 「緑谷君はこのままだとマズイぞ……?」「ったりめーだ、無個性の雑魚だぞ!」

 

 (無個性……?)

 

 気になって聞き耳を立てる。話しているのは飯田と爆豪だ。

 

 「無個性だって!?彼が入学式に何をなしたか知らないのか!?」「は?」

 

 少し引っかかる会話だが次の測定は私だ。あえて聞いた話を頭の隅っこに追いやる。

 

 というか素の身体能力の差で、最下位なのは自分自身なのだ。緑谷の事を心配している場合じゃなかったりする。

 

 「大丈夫雛ちゃん!?頑張って!」

 

 さっき少しだけ話した芦戸ちゃんが話しかけてきてくれる。私はあいまいに笑って誤魔化した。

 

 (……正直、まさか本当に除籍するとも思えないのよね。こんなの”個性”が向いてないならどうしようもないじゃない。イレイザーヘッド自身だってこのテスト方式じゃ無個性で勝負することになるはずなのだけれど……)

 

 「おい」

 

 そんなことを考えていたらイレイザーヘッドが私の方にずいと近づいてきた。そして彼は恐ろしく低い声で話しかけてくる。

 

 「一応言っておくが、見込みのないやつは本当に除籍する。ここを辞めたくないなら本気でやれ。」

 

 ……流石にこんなにすぐ除籍されるのは困る。これでも一応仕事ではあるのだ。

 

 私は肩をすくめてボール投げの円の中に向かった。どうやら雄英高校ヒーロー科、甘くはないらしい。




人型 雛 (ひとがた ひな)

 雛’s頭 賢い。性格はちょっと悪い。
 雛’s体 よく言えば華奢。悪く言えば貧弱。
 雛’s腕 腕相撲は小学校低学年クラス
 雛 ’s足 細いし遅い。
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