ヴィランな少女は学園生活満喫中、ついでに雄英高校潜入中 作:シャンデラ
全くの突然で申し訳ないが、私はボール投げの測定のリングの中で履いていたスニーカーの靴紐をほどいた。
別に急に靴を脱ぎたくなった訳ではない。欲しいのは紐だ。しゃがみ込んでごそごそと靴紐を引き抜く。
唐突に謎の行動を始めた私にクラスメイトの視線が刺さる。恥ずかしいから他所を見ていてほしい。
手に入れた靴紐はおよそ40センチ。それを手に取り、いじくる。
ほどなくして、私は簡易的な人型を作り上げた。紐をなんとなく人間の形に整えただけの雑なもので人形と言い張るにも無理がある粗末なものだ。
しかし今はこれで十分。
([コスト1 起動])
頭の中で指令を下すと、身長10㎝程の紐人形は、まるで生きているかのように動き出す。
異様な光景にクラスメイトがざわめく。それをよそに私は人形を地面に下ろす。
無理やり人の形に整えられたそれは、その細い体を器用に動かして地面に直立する。
私はソフトボールを手に取り人形へ近づける。人形はその紐の両腕を伸ばし、体に対して大きな球を受け取った。
([保持したまま、できるだけ遠くへ走れ])
私は頭の中で再度指令を下す。
――――――――――
私の”個性”は「生命造形」だ。
ルールは基本的に単純だ。
『無生物に命を吹き込み動かすことができる。しかし対象は自分が作った造形物のみ。』
さらにわかりやすく言うならば、私は自分が作った編みぐるみの人形、自分が折った折り紙の鶴、自分が書いたライオンの絵などに命を与えることができる。
そして私が創り出した「造形物」はそれ自身が考え、行動する一個の生命として独立する。その主たる私は命を宿した造形物に対して絶対的な命令権を持つ。
それが私の能力だ。
今回のソフトボール投げの場合、私が作ったのは靴ひもで造った簡易的な人形だ。作品としての造りが雑すぎて命の定着や知能に問題を抱えているがそれでも簡単な指示ぐらいはこなせる。
紐人形は体に対して随分と大きいソフトボールを抱えながら心配になるほどヨタヨタとグラウンドを歩いている。秒速30㎝ぐらいのスピード感だ。
(あれなら「寿命」は2時間ぐらいかしら。だとしたら単純計算で記録は2㎞強……)
要はボールが落ちなければいいのだからこれも立派な記録だろう。だとしても投げ始めてから2時間も結果が出ないのは異常だと自分でも思うが。
というか私はいつまでこのリングの中にいればいいいのだろうか。
グラウンドに乾いた風が吹き抜ける。ふらつきながら進む人形を前に奇妙な沈黙が場を支配した。
――――――――――――
結局ボール投げの記録は自己申告になった。
これで私も最下位脱出かと思ったのだが、同じく鳴かず飛ばずだった緑谷君が色々あってソフトボール投げで大記録を出したので私は変わらず最下位のままになってしまった。
なによ緑谷君貴方バリバリの増強系じゃない。指がとんでもない方向にねじ曲がってたけど。
ただ、幸いにして最下位除籍は流石に噓だったらしい。正直な話ホッとした。本当に除籍されてたら黒霧にどう説明すればいいのか分からないところだった。
最も、不可抗力ということでこの潜入を辞められるチャンスだった可能性も否定はできない。というかこれからも舐めてかかったらイレイザーヘッドに除籍されそうだ。
(もうちょっとヒーローを目指す、ということに対して真剣になるべきね。もっと貪欲に努力する姿勢を見せておかないとクラスで浮いてしまいそうだし。)
そんな反省もほどほどに、波乱の入学初日も終わった。
とても久しぶりの学校生活だったが、やはり疲れた。正直ずっと椅子に座り続けて授業を聞くというのが苦痛だった。
荷物をまとめて人が減り始めた教室を出る。階段を降りて靴を履き替えようとしたとき、見覚えのある緑の天然パーマが目に入った。
「今日はお互い大変だったね。でも貴方の”個性”、すごかったよ。」
「えっ?!こここここここんにちは、えぇっと……」
「人型雛。そんなに緊張しなくてもいいのよ緑谷くん?」
話しかけてみたがどうやら驚かせてしまったらしい。
私が彼を見上げると目に見えて挙動不審さが増し頬は赤くなっていく。ここまでわかりやすいとちょっと面白い。
安心させる意図も込めて微笑みかけると、彼も少し落ち着いたようだ。
「貴方、指大丈夫なの?テストでは凄いことになっていたでしょう。」
「あ、それはもう大丈夫だよ。保健室に行ったらすぐに治してくれて……」
「へえ、確かに雄英の保健室の話は有名だもんね。リカバリーガールだっけ。医療系”個性”の医者がいるからどんな大怪我でもすぐ治してくれるって。ダイナマイトボディのとんでもない美女だって噂だけど実際はどうだったの?」
「ん??うーん……。そう捉えられなくもないというか……」
「一応言っておくけど冗談よ。」
そういってクスクスと笑うと緑谷君もだいぶ緊張がほぐれてきたようで軽く笑い返してきた。
そのまま成り行きで二人で外履きに履き替えて外に出た。折角一緒に帰る流れとなっているので、いくつか気になったことを聞いてみる。
「爆豪って名前の彼とは知り合いなのかしら?なんかいろいろありそうだけど……。」
「あ、かっちゃんとは幼馴染だよ。家が近所で幼稚園の頃からの知り合いで……」
「ふーん……。仲はいいの?」
「あ、うーん……。仲は……仲は…………良くはないよな……。」
緑谷くんは恐ろしく微妙な表情をした。踏み込んだことを聞いてしまったかと思い、一度引くことにする。
男同士色々あるのだろう。彼らからは何か複雑な雰囲気がする。
「……ま、色々あるもんね。いつか教えて頂戴?ところで彼は何か無個性がどうとか言ってたけど。」
「ん!?そ、そうだね!僕の”個性”実は14歳ぐらいまで発現しなかったんだ!だからかっちゃんも僕を無個性だと思ってたんだ!!」
「へえ……そうなの?まああの威力と反動じゃあり得る話よね。」
それにしたって極端な”個性”ね、と心の中でそっとつなげる。出力こそ凄まじいが、いくら何でも一度発動するたびにあの大怪我じゃ扱いづらいのではないだろうか。
「本当はもっと色々できる力なんだけど……。」
「それじゃあお互いに頑張りましょう?私も色々課題の見えた入学初日だったし。」
そんな話をしていたら分かれ道。話はここまでだ。
「それじゃあまた明日!最近物騒だから気を付けてね人型さん!」
「最近話題の『T-レックス』の事?あれまだ捕まっていないのよね……。とにかくまた明日会いましょう。お大事に。」
人型雛。入学初日。
とても大変だったけれど友達もできた。私は緩む口元を抑えて帰路についた。
――――――――――――――――
T-レックスとは昨今世間を騒がせているヴィランである。
恐竜に変身する”個性”を持った大男でこれまでの殺害人数は判明しているだけでも31名。手口は残虐そのもので未だに捕まっていない凶悪ヴィラン。
その素性は、いまだ明らかになっていない。
「ようお嬢ちゃん。帰ってくるの遅かったなァ!」
「仕事は?」
「勿論無事終わらせてきたわァ!今回もメチャクチャ楽しめたぜェ!!」
人型雛が借りているワンルームマンションのドアを開けると、だみ声が響き渡る。
私はうんざりしながら後ろ手で扉を閉める。こんな場面見られたら一発アウトだ。
T-レックスは全身をうろこで包まれた異形系の大男だ。ソファに座って親しげにこちらに手を振ってくる。
「…………一家全滅させろとは指示していないんだけど?ターゲットは一人だけのはずよ。」
「でもよゥ、あんな旨そうな女房とガキを見せられたら我慢できねェよゥ!!あんたもきっとそう思うはずだ!!やっぱ女の肉とガキの脳ミソが……」
「[解除]」
私は唾をまき散らしてしゃべる大男に手を向けた。
刹那、男は瞬時に消え失せて代わりにそこには全長1,6m程の大きな恐竜の彫刻が出現する。大型肉食恐竜を模したその大理石製の石像は、うつろな目をしてソファの上を占領している。
私は物言わぬ彫像に変身したそれを見て、そっとため息をついた。
それとも「戻った」とでもいうべきだろうか。
私の「生命造形」は、自分の造形物に命を吹き込む能力だ。
能力を解除すれば、偽の生命を持つ無生物は物言わぬ造形物へと逆戻りする。
(どうにも上手くいかないのよね。強い造形物を作ろうとすればするほど性格がひん曲がって行くのはどうしてなのかしら……。やっぱり異形系の変身ギミックが足を引っ張っているのかな。こんな下品な大男にする予定はなかったのだけれど。)
「生命造形」は、ただ人形を動かすだけの能力じゃない。私が本気を出したならば、造形物は実際の生物と見分けがつかなくなる。
ヴィランとしての私の仕事は多岐にわたるが、その本質は暗殺だ。言い換えるならば、殺人鬼を生み出して操ることこそがガラテアというヴィランの本質だ。
状況に応じて、ガラテアは必要な駒を見極め、創り出す。警察やヒーローはその駒に夢中で、その裏にいる少女の事は目に見えない。
はっきり言っておくが、私は悪党だ。
これまで殺した人数は、200人を優に超えている。
私がそれに罪悪感を抱いたことも、一度もない。
感想とかジャンジャン下さい。モチベーションに直結するので……何卒よろしくお願い申し上げます。