陽キャ?いいえトリプル(無口・無感情・無表情)コンボです   作:By the way

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不良喜多ちゃんとかぼっち喜多ちゃんがいる時代なんだから、無口喜多ちゃんがいてもいいと思うの


ここから始まるプロローグ

私の名前は喜多郁代。秀華高校に通う高校一年生であり、俗に言う華のJKとかいうやつだ。まあ色々あって華要素は空に浮かぶお月さまを超えてブラックホールまで吹っ飛んで行ったのだが。

 

……いきなりだが、私には常々考えていることがある。それは”この世界って色々おかしいんじゃないのか”ということであり、今現在進行形で私の心に無駄に目力の強いネコ*1を宿らせている原因でもある。

 

何がおかしいのかは道行く人々を見ていればすぐにわかる。そう、髪色が普通なら有り得ない色なのだ。まだ明るい茶髪は理解できるけど……地毛で金髪とか亜麻色とかどうなってんだよいい加減にしろよここ日本なんだけど。

 

……かくいう私の髪も思いっきり日本人離れした赤色であり、毎朝毎朝顔を洗おうと鏡を見る度に血を連想してしまい思わず溜め息を吐いてしまう。

400を超えた辺りから数えるのもやめてしまったが、多分一万回の大台には乗ってるんじゃないかと思う―――いや、逆に乗ってないとおかしいと思う。時々ならともかく毎朝やってるし。

 

というか、我ながら何故これで頭髪検査引っかからないのか理解に苦しむ。前世なら一発アウトの生徒指導室直行便の片道切符を握るところなのに……

お父さんやお母さんに聞いてもこれが普通だと答えるし、学校の先生も「別に変なとこなんてないぞ?」と逆に首を傾げる始末。あの時は思わず背中に宇宙を背負うばかりか、勢い余って新しい扉を開きかけた。

 

「……まあ、これも全部漫画やらアニメの世界だって言えばそれまでだけど」

 

うん……身も蓋もない言い方をすれば、それで全部説明がつくのである。髪色が変なこと然り、それを誰も疑問に思わないこと然りといった具合に。……まあそれも当然か、髪色なんてキャラとして立たせるならかなり重要な要素なのだから。

 

ぶっちゃけこの世界がそうだって気付いた時は足元がガラガラと音を立てて崩れ、目の前が真っ暗になるという錯覚に陥った。実際これからの人生が全てが、物語という大枠に沿ったものになってしまうというショックは計り知れないものだった。

まさかもうダメだ、おしまいだ……をリアルでやることになるとは思わなかったのだが、そんな鬱屈とした感情は一瞬で吹き飛ぶことになった。

 

――だってそもそも私この世界のこと知らないのだから。

他ならぬ私の名と顔によって、この世界が前世の友人が激ハマリしていた『ぼっち・ざ・ろっく!』という作品の世界だと知ることになった。

幼いとはいえ、友人がやけに推していて散々見せつけられたとあるキャラクターと瓜二つと言っていいほどそっくりだし、何よりも名前……

 

「喜多郁代なんて名前、初めて聞いたし……」

 

他の漢字なら同姓同名の人もいるかもしれない。だが、少なくとも私の知る限りでは喜ぶに多いと書いて”きた"と読み、この馥郁の郁というらしい漢字に代替わりの代で郁代と書いて”いくよ"と読む人はいない。

―――つまり、お察しである。

 

顔そっくりでワンヒット、髪色も同じでツーヒット、終いに名前が書きも読みも全部同じで三打目クリティカルヒット。逆にこれをどう否定しろと?

 

「それに、今となっちゃあもう確定しちゃってるし……」

 

なんやかんやでメンバー加入を経て交流関係を持つに至ってしまった二人の先輩が頭に浮かび、思わず半目になって遠くを見つめてしまう。……なにせ、あの事件(・・)は本当に突然起こったのだから。

 

友人の話によると喜多郁代()は結束バンドという何故その名前にしたと一言目に出てくるような謎すぎる名前のバンドチームのギターボーカルのようで、歌はバチくそ上手く、ギターの方は比較対象がおかしいだけで普通に上手の範疇に入るとのことだったのだ。

 

……となればなら今世は行けるんじゃないか?となってしまうのも仕方ないと言えるだろう。

前世から引き継いだギターという楽器への憧れから幼少期にギターを誕生日プレゼントとして強請り*2、幼少期から弾き語りをやってみたいという一心で練習に励み続け、気づけば肉体が無口、無感情、無表情の三点セットを備えたウルトラハッピーセットに進化を遂げていた。

 

ギターに関しては、普通に上手いのならてっきりある程度の素養はあるものだと勝手に思っていたのだが……まあ普通に考えたら当たり前というか、人生そんな甘くはなかったというか、思い出すことすらはばかられる程の醜態を晒す羽目になった。

 

思わず顔色が髪と同じ赤を超えて青すらも超越し、土色になったあの苦い経験。これを糧とし、まずは私ではない(喜多郁代)も経験したであろう特訓に打ち込んだ。

……前世というアドバンテージを持つ私ですらこれなのだから、きっとオリジナルはもっと酷かったに違いない。そう思わないとやってられなかった。

 

そうしてひたすら歌とギターに全ての時間を費やしながら同年代の女子達からも逃れ続け、誰とも交友関係を広げぬまま過ごしていたら上述のウルトラハッピーセットになっていた訳だ。

余りの仕事の無さに表情筋が辞表を差し出し、並ぶようにして他二つも失い今に至る。

家族からも大変心配されて友達作ったかと毎晩夕食の度に聞かれる始末。なんという屈辱。

 

女の子達から逃げたのも色々と事情があって心境的に抵抗があったからなのだが、まさか逃げ続けた果てにこんな屈辱を味わう羽目になるとは思いもしなかった。

 

お母さんとお父さんの私を見る目がいよいよ可哀想な子を見るそれに変わって来てしまったことで危機感を感じ、それからはなんとか友達を作ろうと奔走した。

伝統芸に従い肩を叩く―――のは少しハードルが高かったので普通に話しかけようとしたのだが、長年に渡り家族以外と会話を経験しなかった我が口は完全に横一文字に結ばれ一切の言葉を紡ぐことも無く、なんか無言で前に立つ不思議ちゃん扱いされ元から孤立していたのがさらに溝を深める形になった。

 

その日、抑えきれない落胆を顔には一切出さずに――というか出せずに学校を後にし、お気に入りの人気が全くない公園でギターでもとケースを背負って歩いていた時、その辺の草をモチャモチャと食べている青髪の美少女を見つけてしまった。

 

「……」

 

「……」

 

私は元より草食少女も何も言わず双方無言になり、気まずい空気が流れた。なんか見覚えがある気がしたものの、こんな所で草を食べる変人の知り合いはいないと顔を逸らし、弾く気を削がれたこともあって帰ろうとした。が、できなかった。

 

「待っ、て」

 

「……」

 

草食の変人が腕を掴んできたことで、逃亡は阻止された。相変わらず私の表情筋は世界一周の旅に出ている為迷惑そうな顔をすることもできず再び膠着状態に。

 

「ギター、弾くの?」

 

「……(コク)」

 

「そう」

 

見た目的な特徴で言えば、まずボーイッシュに切り揃えられたショートカット?セミロング?いやでも肩には届いてないからセミロングでは無いか……あ、ミディアムボブだこれ。

髪型とか全く興味無いからあんまり知らないんだけど、なんでかこれは知ってた。なんでだっけ?

 

「……何か食べれるもの、持ってたりする?」

 

「……(スッ)」

 

「ありがとう」

 

差し出したカ○リーメイトをなんの躊躇もなく口に運んでいる。

ん?ちょっと待って…なんの躊躇もなく、だと……!?普通ちょっと遠慮したりしない!?え、この人なんなの!?

内心UMAでも見るような目になりながら大絶叫するも、我がマイボディはそれらをおくびも出さない。ただバクバクと爆速でバランス栄養食を捕食する変人を見つめるのみ。

 

「まだ持ってる?」

 

「……(フルフル)」

 

ありません。物凄く期待したような眼差しを向けられても在庫はそれまでなのでありません。

 

「そう……」

 

「……」

 

いや、この世の終わりみたいな顔されても困るのだが。

……さっき草食べてたし、もしかして食べ物に困っていたりするのだろうか。

少し考え、その辺に転がっていた石で地面に『お腹空いてるんですか?』と書き込む。

 

「うん」

 

「……」

 

多分常人には気づけないだろうくらいに薄く目を細めながら、次は『お金とかも無いんですか?』と書き込み、こんな事ならコミュケーション用のメモ帳とか用意しとけば良かったと後悔した。

 

「無い」

 

「……」

 

お客様めちゃくちゃ堂々と宣言されても困ります。そこ無駄にキリッとするとこじゃないですよ。

『餓死とかされても後味悪いので、コンビニで何か買ってきます』と無意識に口から溜め息を吐きながら書き、今も謎にクールな表情を保っている変人を視界に入れないように立ち上がる。

僅か短時間ながらヤベー人だと知ってしまった以上、あんまり関わりたくない。

 

「待って」

 

「……?」

 

何故か呼び止められ振り向くと、変人は衝撃的な一言を告げた。

 

「食べたい物は私が選ぶから」

 

「―――」

 

元より無口だが、思わず言葉を失う私。コイツ今なんて言った?間違ってもアンタの立場で言っていい言葉じゃないと思うのだが……

戦慄する私を置いて、変人は既に立ち上がっていた。

 

「ほら、行くよ」

 

「………」

 

完全に思考停止し、変人の赴くままに歩いた結果、何やらお洒落な喫茶店で食事代を払わされていた。

な、なにを言っているのかわからねぇと思うが、オレ()もなにをされたのか分からなかった……頭がどうにかなりそうだった……

パシリだとか、タカリなんてもんじゃあ断じてねえ、もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……

 

「……(呆然)」

 

「ご馳走様、ありがとう」

 

「――こんなところで何やってるの?」

 

「あ」

 

財布の中身を確認して呆然としていたら、何やら金髪サイドテールのこれまた美少女がやって来た。

なにやら変人が金髪の追求をのらりくらりで躱そうと必死になっているようだが、懐から飛んで行った偉人達に思いを馳せている私には関係がなかった。

強いて言うならなんか今日だけ総合顔面偏差値がえぐい事になってるかもと思った程度だ。

 

「リョウが本当にごめんなさい!」

 

「……」

 

「虹夏、謝る必要はないよ。郁代は快く払ってくれたんだから」

 

いや、それは無い。何を言っているんだお前は内心叫んで―――とまあ、そこから流れで伊地知虹夏という金髪の子のお姉さんが店長をしているというライブハウスSTARRYに連れて行かれ、一緒に演奏したり、例の山田リョウというらしい変人のベーシストとしての腕前がかなりのものだと知り驚いたり、なんかこの二人見覚えあるような気がすると首を傾げたりと色々あった。

 

「じゃあ、これからよろしくね!」

 

でも一体全体何がどうしてあそこから加入の流れになるんですかね?なんか気が付いたらギターボーカル枠に収まってたんですが。

LOINEの友達欄に新たに登録された二人分の名前を見ながら、傍らの路肩に停められているバイクを見る。

 

「……」

 

本音を言うとバイクは嫌いである。何故かと言うと、バイクはある意味前世での死因とも言えるのだから。

……その日の()はいつも通りの何も突出することのない平凡を体現したような人生を送っていた。バイト帰りに音楽を聴きながら歩き、交差点で信号待ちをしていた時だった。

 

「――え」

 

突然衝撃が襲って来たと思った次の瞬間、凄まじい勢いで地面に叩き付けられ全身の空気が一瞬で吐き出された。

 

「が、は……」

 

何が起こったのかが理解出来ずパニックを起こす体は、まるで何かに引き摺られるようにアスファルトの地面を滑り続け、地面についている部分から激痛が走る。

 

「ああああああああぁぁぁ!!!!」

 

絶叫を上げても痛みは収まらず、俺はそこでようやく自分が何かに引き摺られているということに気付いた。

涙で滲む視界を必死に凝らし、完全にそれだけに集中することで極力痛みを意識から追い出す。

 

「ば、い……く?」

 

見えたのは曲がった棒にミラーが付いたハンドルのようなパーツと、それをしっかりと握るヘルメットを付けた人の姿。

自分をこんな目に合わせたのはこのバイクだと認識した瞬間、湧き上がったのは怒りであり、死を恐れる恐怖心すらちっぽけに思えたのだ。

 

「が!?――う、ぐぅぁ、ぁぁ……!!」

 

真っ赤に染まり、明らかにアウトだと分かる右腕とは違い比較的無事な左腕でバイクに跨る人を引きずり落としてやろうと腕を伸ばしたその時、俺の体は宙を舞い再び地面を転がった。

 

「うぅぅ……はっ?」

 

そして次に見たのが、己の目前に迫るトラックのタイヤだった。痛みは一瞬だったのだが、頭が潰れる感触を確かに体感してしまった悲しいこれが前世の最後の記憶である。結局はあのバイクが全ての元凶であることは間違いない為、私はバイクを苦手としている。

 

バイクから視線を外し、窓ガラスに反射した私の姿を見る。相変わらず前世の常識を逸脱した髪色の少女が写っている。

ガラスの中の少女は死んだ魚のような目と一条に結ばれた口が特徴的であり、どちらも私を語る上では外せない要素である。

 

「――」

 

……改めて私の名は喜多郁代、俗に言うTS転生者というものだ。

*1
よろしくお願いします

*2
両親の顔が盛大に引き攣っていたのを今でも覚えている。ごめんなさい……




加入の流れの色々は後ほど幕間などで入れようと思います。

舐代容耐様、誤字報告ありがとうございました!
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