陽キャ?いいえトリプル(無口・無感情・無表情)コンボです   作:By the way

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たった一話だけながら評価バーに色がついていて思わず三度見しました。皆様ありがとうございます(´•̥̥̥ω•̥̥̥`)


クソベーシストとギターヒーローについて

年頃の女の子らしさが欠けらも無い我が自室に置かれている家具の一つであるロックキャスター付きでグルグルと回転するタイプの学習椅子に腰掛け、鞄から財布を取り出す。そして中に収まっている偉人達の顔が特徴的なお札の数を数えて行き、学習机に突っ伏した。

あの時の記憶が確かなもので、彼らが懐から消えて行ったことも現実なのだと理解してしまったからだ。

 

希望の一万に幸運の千。未来の五千はまだ無事とはいえ他二つに刻印された偉人達は、それぞれ最低でも一人が私の懐を飛び出し巡礼の旅に出てしまった。

確かに高そうなお店ではあったが、どれだけ頼んだらここまでになるんだろうか……不幸にも私は思考停止して放心中だった為現場は見ていないが、きっと常識外れな量やくっそ高い限定メニューでも頼みやがったのだろう。

 

おのれ山田ァ……この恨みはらさでおくべきか!とポケットに無造作に放り込まれていたレシートを取り出し――すぐに仕舞った。レシートに書かれたよく分からん名前の料理なんて知らん。横にかかれた金額も知らないが、ただ一言、許されるのなら文句を言いたい。このクソベーシスト!!と。

 

私達まだ初対面だったんですけど?何で自重もせずにこんなのひょいひょい頼めるんですか?そりゃ確かに私もちょっとは食べたかもしれないけど、こんな食えないし大半アンタの胃袋行きでしょうがどんだけ食うんだよ。

 

即座にLOINEを開き、『お金返してください』と打ち込み送信する。レシートの写メを送ることも忘れない。

STARRYでなんか言ってた気はするが知らぬ存ぜぬ。そもそも初対面相手になんの気兼ねもなくこんだけ奢らせる変人に払う礼儀などない。

 

少し待っても既読がつかないのを見て、スマホの電源を落としベッドに向けて放り投げる。もしベッドから落ちたらどうしようと少しヒヤッとしたが、無事に置かれていた枕に着地した為ホッと胸を撫で下ろした。

 

窓の方に視線を向け、少し曇り気味ながら月と星が綺麗に光る夜空を眺める。

考えるのは今日加入したバンドチーム――結束バンドのことであり、まず第一に発案者のネーミングセンスを疑い、次に考えたのがあの変人だと知りそれならと納得したことを思い出す。

 

『押し切られちゃって、はは……』

 

………何度思い出してもあの時の伊地知先輩の顔は凄かったと思う。この世界には約95万種というとてつもない数の種類の虫達がいるのだが、その中でも最高峰レベルの苦虫を噛み潰したとしてもそうはならないだろうなという程の苦渋の感情に満ちた顔になっていた。

 

けどそのあとの今はもう慣れたし気に入ってるという言葉に嘘はなかったし、本当に慣れてしまったのだろう。

ウルトラハッピーセットに進化して以降、なんとか交友関係を築かねばと他者の感情の変化に過剰に反応していた私が言うのだ。間違いない。

 

バリッバキッバリッ…ムシャムシャゴックン

 

ちなみにだが、その間山田(全ての元凶)はひたすらお○ぎりせんべいを齧りまくっていた。その態度からは話を聞く気が微塵も感じられず腹が立ったが、伊地知先輩に肩を掴まれ思わず振り向き、その目を見たことで理解した。理解してしまった、怒るだけ無駄なのだと。

 

『リョウはそっち系の人間なの』

 

『……』

 

『……ごめんね、お金に関しては私からもちゃんと言っておくから』

 

違う、そうじゃない。私は別にあなたにどうこうして欲しい訳じゃないのだ。あくまでもあのクソベーシストが本人の意思で動かないと意味がないのだ。

まだよくて三、四時間くらいの極々短い時間しか一緒に過ごしていない私でも分かる。あれの本質はダメ人間だ、それも生粋の。

 

今はまだ学生だからいいが、あんなのを社会に解き放つのは不味い。本人のこれからもそうだが、まず第一に周りの被害がえげつないことになってしまう。

 

『ああ…えっと、その……』

 

急遽ダウンロードしたメモ帳アプリを起動させ、カタカタとフリック入力を駆使して高速で書き込んだ要約した私の思考が写し出されたスマホを見せれば、先輩の言葉が露骨に詰まった上に、非常に困ったような表情を浮かべた。

……待て、嫌な予感がする。

 

『被害、なんだけど……』

 

いやだから何故そこで山田を見る……?

私は動かす仕事人(表情筋)が家出中の筈の頬が引き攣るのを感じた。

 

『人聞きの悪い』

 

『……!?』

 

先程までバリバリとおにぎり型のせんべいを齧っていたというのに、気配もなくいきなり背後に現れた山田……先輩に態度には出ないものの内心驚愕の声を上げた。

……というか、私この人が人生の先輩なんだって認めたくないんだけど……まあ前世含めたら私の方が歳上ではあるし、いいのかな?

 

『人聞きの悪いって……そんなこと言うってことはみんなにお金返したんだよね?』

 

『………』

 

『……』

 

伊地知先輩のド直球キラーパス的追求にクール系の無表情のまま躱――あ、違うわこれ。僅かだけど目を逸らしてる。ってことは……

 

『…彼女達が自らの意思で支払いを行った以上、私の方に責任は波及してこないと『そんな屁理屈通用するかァ!』痛い痛い痛い』

 

案の定先輩同士の揉み合いになり、元々死んでいる私の目はさらに死に、もみくちゃにされながらものらりくらりと逃げようとする山田…先輩にある感想を抱いた。

 

『…く』

 

『『く?』』

 

『クソベーシスト』

 

『?、ありがとう?』

 

『褒めてない、褒めてないよそれ……』

 

……初めてできた友人達に対しての第一声がこれとか、何たる屈辱。死にたい……

 

―――なんて一幕もあったのだった。軽く思い出すだけで酷く憂鬱になるくらいにはしっかり記憶として刻み込まれてしまっている以上、忘れることはできないだろう……

これから訪れるであろう結束バンドとしての生活と、それについて回ってくるであろう問題の数々が頭に浮かび、また目が死んで行く。

あの先輩がなんかやらかすのは目に見えてるからな……主に金銭面的な意味で。

 

例の青髪ベーシストがお金貸してと告げる姿と、それを知った伊地知先輩が必死に頭を下げる姿目に写ったことで色んな意味で目が腐りかけたその時、ベッドに放り投げたスマホが通知音を鳴らした。

なんだと思いながら立ち上がり、電源をつけてみればステータスバーに某動画投稿サイトで登録しているあるチャンネルが最新動画を更新したと表示されていた。

 

いそいそと立ち上がり、スマホを回収。そのままロックを解除し、ステータスバーをタップしてアプリを起動させる。

普段はイヤホンを着けて視聴するのだが、疲れていて気力が湧かなかったこともあってわざわざ付けるのも面倒に感じた為、そのまま動画を開くことに。

全画面表示を使い画面いっぱいに表示されたのは、極々普通と言っていい特にこれといった特徴のない和室とギターを持ったジャージを来た少女。

 

この投稿者が投稿したこれまでの動画と何一つ変わらない背景と服装であり、何も知らない人ならばまたかと動画を閉じるかもしれない。

だが、私のようにこの投稿者が普通では無いと知っている者達はこのまま視聴を続ける。

 

画面の中の少女が腕を動かし、その手に構えられたギターから緩やかな音が奏でられ始め、突然曲調が急激に変化する。

見事な指捌きで行われるその演奏は、一体どれだけの修練を積んだのかすら分からない程であり―――唯一理解できるのが、投稿者がギターに対する並々ならぬ想いを持っているということだけだった。

 

「……♪」

 

この人の演奏を聞いている時だけは、僅かながら感情が面に出る。今だってそうだ。普段は横一文字に結ばれた口元は緩く綻び、目も薄く笑っている。

 

最早家族すら引き出せなくなってしまった”私"という存在を引き出せる唯一の存在。

 

その名は【guitarhero】。なんの捻りもないシンプルな名前だが、私にとっては紛れもなくヒーローであり、とても強く心に残っている。

思い出すあの日、スランプに陥ってしまいどれだけ努力を重ねても上手く弾くことができず、才能が無いのかと涙ながらに開いたある一本の動画。

 

――私のギタリストとしての真の人生の全ては、そこから始まったといっても過言ではないだろう。

……まさか他人の演奏を聞けば多少は慰めになるかもしれない、と気休め程度に開いた筈の動画が本当にスランプを解決してしまうとは思わなかったが。

 

ん?この曲……と、始まりのイントロの時点ですぐに分かる馴染み深い曲が聞こえてきたことに僅かに喜びを顕にしつつも、とある事情から小首を傾げた。

 

その理由はギターヒーローが二曲目として選んだ曲が、偶然にも二日程前に私が河川敷で演奏した少し古いがお気に入りのボカロ曲だったからだ。

Pの弛まぬ努力が感じられる渾身の一曲であり、早いテンポと他にない特徴的な歌詞で語られる独特な世界観に惚れ込み、何度も何度も練習を重ね自信を持って演奏できるほどにはなったが、ギターヒーローはそんな私の限界を安く飛び越えて行く。

 

こういう部分に凡人と天才の差が現れているのかもしれないが、私はいつかギターヒーローを超えたいと思っている。

確かに現状では何一つとして勝る部分はないだろう。実力然り、気概然りといった感じに。

 

しかし、誰が言ったか『負けを認めなければ負けじゃない*1』という名言を信じ、いつかはギターヒーローを超えてやろうと画策しているのだ。

まあ超えたところで動画上げたりはしないしただの自己満足でしかないんだけど。

 

……まあそれはどうでもいいとして、最近のギターヒーローの動画ではこんなことが度々あるのである。気まぐれに私が外で弾いてみれば、ギターヒーローもまた同じ曲を投稿するということが。

 

確かにそんな毎度毎度のことでもないし、ただの自信過剰だと顔を赤くしたのも二度三度ではない、のだが……ただの偶然にしては出来すぎているような気もするのである。

でもギターヒーローがまさかの近隣住民でしたなんてそんな都合いい展開そうある筈ないし、これまでとこれからの人生の全ての運が全て吸い尽くされたんだろうなと思い直した。

 

……でも、もしあのギターヒーローが私なんかの演奏で感化されたのだとしたら……それはとても素敵なことなのではないだろうか?

我ながら女々しいとは思うが、別に咎める人もいないしいいと思う。

 

「……!」

 

不意に顔も名前も知らない筈のギターヒーローと隣合ってギターをかき鳴らしている光景が目に浮かび、思わず頭を振り払ってそんな夢を見るのはまだ早いと自らを戒める。

もし仮に今の私がギターヒーローと一緒に演奏なんかした暁には、その圧倒的実力を相手に自信をなくしてギターをやめかねないからだ。

 

いや、せっかく幼少期から続けて来たんだしそんな軽々しくやめるつもりはないけど……

なんて考え事をしている内に、いつの間にか動画は終わってしまったらしく沈黙した画面のみが残されていたので、再度再生したりはせずに他に何か面白そうな動画が無いか漁った後、ベッドに身を預け目を閉じた。

 

今夜はいい夢が見れそうな気がする。

*1
ドラマ『ワイルド・ヒーローズ』第1話において、瀬川希一が昔言った言葉として登場




タグも追加しましたが、めちゃくちゃ亀更新なので気長に待って頂ければ幸いです。
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