陽キャ?いいえトリプル(無口・無感情・無表情)コンボです 作:By the way
バイトやめたいと思いながら伊地知先輩と合流し、ふらっと現れた山田先輩に少しお高い和菓子を強請られながらテーブルに座る。
精神的疲労がえげつないことになっているので正直今すぐにでも帰りたいのだが、どうやらバイト終わりに軽く併せの練習をすると約束してしまったらしいのである。
「本当に大丈夫…?疲れてるならまた今度でもいいんだけど……」
「郁代、私はこの饅頭が食べたい。餡はこし餡なら尚いい」
「……」
山田先輩は平常運転だが、伊地知先輩がめちゃくちゃ心配そうにしている。……別に人前で歌うことに抵抗はないのだ。人気がないとはいえ公園とかで弾き語りしてる時点で今更だし。
じゃあ何が問題なのかといえば……【閃光】をオリジナル曲と言ってしまったことなのである。
あぁぁぁぁぁぁぁやってしまったぁぁぁぁ!!!!川上〇平さんごめんなさい!![Ale〇andros]の皆様もすみません!!!
私はなんと罰当たりなことを……死にたい……
何故か少しづつ光の粒子に変化しながら消滅していっている手を動かしてギターをアンプに繋げ、ペグを弄ってチューニングを済ませる。……あ、ピック落とした。
人間物理法則とか無視して粒子になれるもんなんだなーあは、あはは、あははは……
「ちょっ!?郁代ちゃん!?」
「郁代はUMAだった」
「言っとる場合か!どうすればいいのこれ!?」
嗚呼、このまま消えてしまいたい……人様の権利を奪って歌うとか極刑でしょこんなの、死刑だよ死刑……準備は出来たけどさァ……!
「あ、戻った」
「残念」
「……スゥ、ハァ…」
深呼吸しても気持ちは落ち着かず、相変わらず深い後悔と罪悪感が心を占めている。もう何度偉大なる御方達に向けての懺悔をイマジナリー教会の中でイマジナリー神父にしたのか分からない。
結局イマジナリー神父も待ってるから歌え(要約)としか言ってこなかったし……
もう一度深い謝罪の意志を込めて心の中で土下座し、指を動かして音色を奏で始める。
「始まった」
「ふむ」
力強くも緩やかなリフが特徴的なイントロの入りの部分。二人の先輩の反応を見るに、やっぱりプロのミュージシャンが手がけただけあって好評らしい
「急に雰囲気が……」
「テンポが変わった」
本来ならドラムの連打が後ろに立ちながらベースの音色を引き立てる所なのだが、ドラムどころかベースすらいないのでギターでなんとかそれっぽく代用する。
……普段弾く時はそんなに気にせず演奏しているのだが、人様の曲をあろう事かオリジナル曲と発言してしまうという極刑レベルの大罪を犯してしまった以上、償いとしてなるべく原曲に近付け無ければ私の気が済まないのである。
「Blinding lights are fading out from the night」
「え、歌ってる……」
「郁代歌えたんだ……」
「あどけない夢掲げた
痛みを知らない赤子のように」
本当に前世の記憶なんていう痛々し過ぎる黒歴史確定の特級〇物なんて持って無いただの赤子だったらどれだけ良かったか…
「Thunders calling to my ears all the time」
ああ〜おまなにしとんねんボケェ!って雷鳴に紛れた暴言が呼びかけてくるぅぅぅ……!!
声が震えそうになるのを必死に我慢し、腹から声を出して歌う。
「揺れる心隠した
痛みを覚えた子供のようにって」
隠せないぃぃ……申し訳なさ過ぎて隠せないぃぃ……むしろこのまま警察呼ばれて独房に突っ込んでもらいたいまであるわ。
頭の中に手錠を嵌められパトカーに乗せられる私の姿が浮かんだのだが、それを見て羨ましいと感じてしまうくらいには罪悪感に苛まれている。
「I'm scared to death and it's so cold all the time」
「……なんでだろ、表情は変わってないんだけど、郁代ちゃんが物凄いダメージを受けてるような気がする」
「独学でこれはかなりのものなのに勿体ない」
「当たり散らし乱れた
認めたくない過去思い出して」
うん、今すぐ自分に当たり散らして乱れて死にたい……!
「Take the sword and get prepared for the fight
気づけばいつのまにか
新しい世界に染まりだしていく」
そもそも喜多郁代という何の罪もないいたいけな少女の体を奪ってる時点で地獄なのに、ここからさらに罪を重ねたら……ハァ、
「Teach me how to fly」
ここからピッチを含めたあらゆる音の高さが少しづつ上がっていく為、手に構えたギターから放たれるメロディーの音程も高くなっていくのだが、対照的に私の心はマリアナ海溝よりも深く沈み続けて行く……
「これ以上泣かないで
羽ばたけるように」
「……いい曲だから逆に聞きたいんだけど、あのドス黒いオーラ何?なんか凄く不気味なんだけど……」
「……同感」
ウルトラアンハッピーセットのせいで泣くこともできないし……そもそもこんなのでどうやって羽ばたけばいいのやら……
「Just take one deep breath
And hold it still until you see your enemies inside your scope 」
ここから、ここから…!息継ぎの瞬間にギュッと目を瞑り、カッと開眼。頭の中で六本の弦全てを思い浮かべ、どの順番で指を添わせるかをイメージする。
「鳴らない言葉をもう一度描いて
赤色に染まる時間を置き忘れ去れば」
無意識にギターを握る手に力が篭もり、手汗も相まって滑り落としそうになる。
だが、流石に幼少期からずっと一緒に演奏してきた相棒を落とす訳には行かないので、ベルトのかかった左肩を持ち上げて少しギターを浮かして持ち直す。
「哀しい世界はもう二度となくて
荒れた陸地が こぼれ落ちていく 一筋の光へ」
こんなボロボロの心で二番以降も歌おうとはとてもじゃないが思えなかった為、弦を弾いてエンディングに持っていく。
「…!」
地味に忘れかけていたのだが、極度の緊張状態で演奏していたので最後の最後で緊張が緩んで頭の中に黒タイツにカボチャマスクという出で立ちの変態が現れ、その変態の踊るキレッキレのダンスに思わず笑ってしまい指が滑るというミスを犯してしまった。
……最後の最後で失敗するなんて意識が足りないとか言われるかもしれな――いけど事実だから受け入れるしかないね。
「凄かった。本当に凄かった!ギターも上手だし歌もめちゃくちゃ上手かったよ!」
「色々と感想はあるけど、まず郁代ってこんな声だったんだって思った」
「……」
あ、あれ?もしかして、気付かれてない?だったら……いや違う、これ気付いてるけど敢えて触れないでくれているだけだ。何気に一番精神的にキツいやつ。
「確かに、いつも一言も喋ってくれないからびっくりしちゃった」
「……」
ああ……言われてみればこの二人の前で声を出したこと無かったかもしれない。一応歌いながらドリンク渡したりはしてたけど、あの時伊地知先輩はホールの方に呼ばれてたし、山田先輩は受付してたから聞いてないだろうし。
「そういえば」
「?」
「あの日も聞いたけど、歌もギターも本当に独学?だとしたら相当凄い」
「幼少期から始めたっていうのもそれそれで大きなアドバンテージだけど、それって言い方を変えたらずっとひたむきに頑張ってきた末に完成した努力の結晶ってことだもんね」
「……」
外で弾いた時に誰かしらに見られていたりしたかもしれないが、意識的には家族以外に見せたことも聞かせたこともなく、当然ながら他者に評価されたのもこれが初めてだ。
そんな私の練習の成果が認められたような気がして、気分が高揚した。
……まあ九割方【閃光】という圧倒的中毒性を誇る名曲のお陰だってことは分かってるけど。
「でも閃光、かぁ……確かに閃光みたいにハイテンポに駆け抜ける感じの曲だったな〜」
「この曲を結束バンドで演奏すれば絶対成功すること間違いなし。そうと決まれば……」
「いや勝手に何してるの……ちゃんと許可取らないとダメだからね?」
「じゃあ――」
「?」
山田先輩が腕を伸ばして、何をするつもりなんだろう?なんか嫌な予感がするんだけど、この人と居たらずっと感じるし多分大丈夫なのかな?
そんなことを考えながら、今も尚伸びてくる山田先輩の腕を見つめていると、腕がとうとう額に触れた。
「……」
「……?」
グイグイと力を込めて押し込まれるが、片腕だけだからそこまで力が入らないのか、特に抵抗をしなくても山田先輩の思い通りにされることはなかった。
やがて山田先輩が諦めたように手を離し――たかと思えば不意打ち気味に、今度は両手で頭を押さえつけて来た。
「頷いて」
「……っ!?」
「こらこらストップ!何やってるのかと思えば…!!」
伊地知先輩が慌てて止めに入って来て、私達は引き剥がされた。
……元々変な人だとは思ってたけど、これは相当な変人かもしれない。確か実家が金持ちでお小遣い沢山貰ってるのに常に金欠ってレベルで金遣い荒いとかも聞いたし。
「反省しなさい!」
「すぐ目の前に手段があるというのに……クッ」
それはそれとしてこの変人の手綱を上手いこと握っている伊地知先輩には頭が上がらない。
その上でめちゃくちゃ心が広いし優しいし、一緒にいて気持ちいいまであるとか本当に同じ人間ですか?
「リョウがごめんね……」
「……」
びっくりはしたものの、そんなに痛くもなかったから特に気にしてない。
その思いをスマホに打ち込んで見せたのだが、まだ伊地知先輩は申し訳なさそうにしている。……あとチラッと見えたが山田先輩は平常運転――のように見えて目元がちょっとだけ暗くなっている。
「お詫びにはならないと思うけど、これから私とリョウでも演奏するから聞いてくれたら嬉しいな」
「これから郁代が入るバンドがどんなとこなのか、存分に理解してくれたらいい」
「……」
そう真っ直ぐ見つめてくる二人に頷くと、伊地知先輩はパッと花が咲くような笑顔になり、山田先輩も口元が綻び微笑みを浮かべた。普段はダラーとした雰囲気を纏う山田先輩も、今は心做しか生き生きとしているように見える。
つまり、それだけ大切だということなのだろう、結束バンドのことが。
……だったら私はそれを見届けよう。なし崩し的に加入してしまった私だが、かと言って手を抜くつもりは無い。
もし長年続けても凡人の域から出られない私よりも下の実力だと言うのなら、その時は………
そんな私の意思が伝わったのか、準備を終え前に立つ二人の目は真剣そのものであり、言葉にせずとも聴けという思いが感じ取れた。
「それじゃ、結束バンド行きまーす!」
「……」
……さて、お手並み拝見と行きましょうか、先輩方。
そんな私の舐めた思考は、イントロの部分で物の見事に掻き消されることになった。
「!」
え、この二人、結構予想以上なんだけど……
実力的に見れば、”あくまで学生バンドにしては上手い"の部類に入るのだが、私が驚いたのはそこではない。
私が注目したのは二人のバンドに対しての姿勢であり、せっかく入るからには楽しく演奏したいからだ。
……だからこそ、楽器に触れる先輩達がとても楽しそうに演奏していることに気付けたとも言えるし、その姿だけでだらだらと惰性で続けてきた訳ではないのだとわかってしまったとも言えるのだが。
なんというか、このバンド――結束バンドでならこれからもやって行けそうな気がした。……それはそれとして舐めたこと
人様の財産を奪う行為(意味深)=ポカで前世の名曲を披露してしまうということであります。
一応歌詞自体が主目的ではないのですが、万が一運営さんに「アカン」と言われたら編集して再投稿するつもりです。