陽キャ?いいえトリプル(無口・無感情・無表情)コンボです 作:By the way
「……」
「……」
私のやらかしからかれこれ十分間お通夜状態。
……こんな状況になってしまっているのだが、十分前の私は何故あんなことをしようと思ったのだろうか……普通に考えたら分かるでしょ、あの状況で突然歌い出したらこうなることくらい……
「……」
チラッとギターヒーローことピンク少女…そういえばまだ彼女の名前も聞いてなかったっけ……よし。
「……あっ!?喜多、郁代?」
「(コク)」
……いやほら、人に名前を聞くならまず自分からっていうか、そのビビってる訳ではなくてですね……
「何かの暗号?もしや間違えたら殺されるんじゃ……もし生き延びても一生奴隷のまま暮らすんだぁ……」
うん、何故そうなる??喜多郁代とかどっからどう見ても名前だろうがよ。
ガタガタと震え、やがてギィィィィという不協和音を発しながら作画崩壊を起こした後藤さんを見て、私は現実逃避気味にそう思った。
「……」
さっきも思ったけどオメー絶対人間じゃないだろ。ヒトの皮被ったナニカでしょ。
「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくな死にたくな―――あえ?」
……いやそんななんで私生きてるのみたいな顔されても正直困るんだけど……別に取って食ったりもしないのに。
この人私のことなんだと思ってるんだろうと内心顔を顰めながらスマホの画面を指さした。
「な、なまえ……なま、え……あっ、ご、ごごごごめんなさい!!!」
はいそこーすぐ土下座するのやめましょうね。
「な」
「な、な?あっ…」
「なama、eeeeeeeeee!?なぁ、にぃ〜!?」
「――えっ、え?」
「ナァaaaにィィィ?」
ぐぉぉぉぉぉぉ!?もう精神的ダメージが酷過ぎて発音とかイントネーションがヤバいの一言じゃ済まないレベルになってるぅぅぅ!?
……よし、やめよう。そして大人しく筆談にしよう。
「あっ、その…ご、後藤ひとり、です…」
「……」
「あっ、はい」
急に歌い出し、また急に筆談に戻るとか彼女――後藤ひとりさん視点だととんでもない不審者認定されること間違いなし……本当になんであんなことしたんだろうか……
今すぐ逃げ出したいという本音をなんとか抑え、改めて勧誘に挑戦する。……ただ入ってくれないかと聞くだけだというのに、なんでこうRPGとかでラスボスに挑む直前並に緊張するのか…
「……?」
「あっ、その、はい…興味、あります」
相変わらずずっと俯いていて頷いているのか分かりにくい後藤さんが、これまためちゃくちゃ控えめに頷いて――るよね?てーるな、よし。
今度は…そうだな、陰キャコミュ障にいきなりウチに入って魔法少女(意訳)になってよ!するのは普通酷だし、無難に入ってみたかったりする?とかにしておこう。
「えぇ!?っは、あ、あの…"ウチ”ってもしかして……」
「……」
バンドですが何か?
「や、やっぱりぃぃ……」
一度背負ったギターを再び床に降ろし、今度はメモ帳ではなくロインアプリを開き、音声通話を選択――しかけた所で手を止めた。
……危ない危ない、危うく悪戯電話扱いされるとこだった。いい加減学べよなー私。
電話する代わりに、結束バンドのグループロインにギターヒーロー(本物)が結束バンドに興味あるそうなんですがと送信しながら、万が一の場合は晒されることになったであろう
……電話かけなくてよかった。うん、本当に。
「私がバンドとかこれ本当に現実?いやいやそんな筈ないよね。これは限りなく現実に近い夢に違いないよ、だからこんな都合のいい展開になるんだ絶対そうだ。……夢だったら、好きなことしても、いいよね?」
「……?」
なんか言ってたのかな?ロインの方に集中してて聞き取れなかったけど。
「私は武道館を一夜で埋めた女!!」
「!?」
なんか変なこと言い出したんですけど!?急にどうしたのこの子……
突然の奇行に頭の病気を発症したのか疑う私を置いて、後藤さんは流れるような動作でセッティングを済ませてしまった。
「いっきまーすよ!」
何故急にこんなにもテンションが高く!?一体この人に何があったって言うんですか!
思わず目が暴走し、勝手に見開いたことは無視しながら真面目に119をコールしようか悩み始め――即断即決で画面に指を走らせんとしたのだが、次の瞬間すぐ前から響き出したある種の超越を感じる音色に手を止めた。
「――」
まさしく今この耳に入ってきている演奏は、オーチューブで何度も何度もリピートしてまで聞き続け、最近的には休日を丸々一日費やすまで行ってしまい、流石に反省させられたギターヒーローの音楽。
我ながら気持ち悪いとは思うが、リピートし過ぎて最早彼女の演奏の癖すら見抜いてしまう域に達してしまった私が言うのだから間違いない。
……というか、一応今は同じ高校生とはいえ前世合わせたら普通に倍くらい生きてるというのに、演奏技術的にはボロ負けしてるって逆に怖い。
才能もあるだろうけど、それ以前にかなり努力をしているのが伝わってくる。
オマケに今世の私はこれでも結構前からギターに触れている玄人の枠組みに収まっている筈なので余計に感じてしまうのである。
動画投稿を始めるずっと前からギターに触れているのならともかくとして、数ヶ月から一年程前辺りから触れ始めたといった感じなので、彼女には天性の才能が宿っているのだろうなと思い込み飲み込んだ。
「……」
それはそれとして後藤さんの演奏は本当に凄い。動画で聴いていた時もかなりの実力差を感じていたけれど、実際にこの耳で聴いてみると差が激しい。
……なんというか勝ったやら負けたやらを超越した演奏なのである。
さっきまでめちゃくちゃオドオドして、ずっと視線を床に固定していたというのに、今では溢れんばかりに放っているカリスマ的オーラもその一因だろう。
比喩表現なく光ってるように見えるし間違いない。間違いないんだけど……なんで光ってるんですかね?
背後から差し込む謎の光のオーラを纏いながら高速で弦を掻き鳴らし始めた彼女を視界に収めながら、その演奏をひたすら記憶領域に書き込み続けていたのだが、突如としてある閃きが脳内を駆け巡ったのだ。
後藤ひとり→陰キャでぼっちであり、ひとりという名前を変換したらぼっちになる+ギター即ちロック=ぼっち・ざ・ろっく!なのでは?という閃きが。
……完全に盲点だった。そうだ、そういえばこの世界ってぼっち・ざ・ろっく!っていう漫画かアニメの世界じゃないか。
そりゃ主人公の一人や二人いてもおかしくないよね。
しっかし、バンドがテーマらしいからてっきり音楽系の作品だと思ってたんだけど、まさかローファンタジー系だったとは……
「……」
毎日毎日視界に納まってくる妙にカラフルの髪に加えて、質量保存の法則をガン無視しての形態変化を繰り返す主人公らしき人を頭に浮かべていたのだが、原因がしっかりと理解できる頭痛を感じ速攻で思考から追い出した。
……どうしてだろうか、先程まで素直に感嘆していた筈の演奏に魅力を感じなくなってしまった。
あんなに凄い以外の語彙が無くなる程に尊敬していた筈のギターヒーローなのに、なんというか、その……
「……」
一度視線を窓に固定し、外の景色を存分楽しんだあとにチラリと目を向けてみれば――やはりというか当たり前というか、そこにいるのは今尚高速パートを弾きまくるギターヒーローであり、先程と演奏曲こそ変わっているものの、その姿自体にはあんまり変化は無い。
人型のナニカが凄まじい演奏してるなーって感じだ。めっちゃ激しいアレンジパートも加えてるし、相当努力に努力を重ねたんだなと素直に感心はするがそれまでだし。
でも演奏自体は私じゃ足元にも及ばないレベルだから文句も言えない。こんなかっこいい失恋ソング私知らないもの。
うんうん頷きながらも、時々首を傾げたりしたりしていると名残惜しくも終わりが近づいて来たらしく、曲がエンディングに差し掛かり―――
「いやー、できて当たり前ことでこんなに評価されるなんて参っちゃうな〜」
弾く手を止めた途端にこの一言。私なんも言ってないんだけど?
「――は?」
あ、やべ素では?とか言っちゃった。……っていうか何気に今初めて歌以外で声出た気が――そっか、ギターヒーローの演奏だからか。
「えへへ…ふへ」
あ、今度は物理的に溶けてる。うーんこれで間違いなく本物だって分かったんだけど、まさか主役が人外系とは……
絶対後でなんかバトルとかに巻き込まれるだろうし、誘わない方が良かったかなと椅子に腰掛けながら考える人のポーズを取っていると、ロインの着信音が鳴った。
「……」
もうなんとなく先の展開が読めて、若干の胃痛に腹を擦りながらスクロールバーに表示されているロイン通知を確認すると、そこには案の定として歓喜する伊知地先輩の一言が。
他にも何かあるっぽかったのでグループロインそのものを開いてみると、なんと山田先輩もコメントしていた。
『え!やったじゃん!ギターヒーローさんってどんな子?』という伊知地先輩に対して『ギターヒーローならかなり稼いでるだろうし――』から始まる常識どこ行ったよなぶっ飛んでるインパクトマシマシな山田先輩……流石は金遣い荒すぎて草食ってるだけはある。
「……」
「ふふ、ふぇ?あっ……」
『素晴らしい演奏でした』
「え!?」
『イントロの辺りから惹き込まれていましたが、サビの部分は言葉にもならない素晴らしさです』
「あっ、え?え、えぇ!?」
……まあ混乱するよねぇ、なんせさっきはいきなり歌い出した奴が今度は某検索エンジン先生の読み上げ機能使って感想言い出したんだし、よっぽど肝が据わってる人じゃないと例外無く困惑すること間違いなしだよこれ。
人によっては失礼に値するからって普段は使わないんだけど……まあトリプルコンボのウルトラハッピーセットの時点で今更か……はは。
『そんな素晴らしい腕前を持つあなたに折り入ってお願いがあるのです』
「あっ、はい……はい!?」
……語彙力が足りなさ過ぎてほぼ素晴らしいしか言ってないんだけど、なんか過剰に反応してるし行けそうか?
『是非とも、我がバンド――結束バンドにリードギターとして加入して頂けません開拓地』
「あっ、えと――開拓地!?」
あ、入力ミスった。
『既に我ら結束バンドにはベース及びドラム、そしてギターボーカルが揃っています。ですが足りません。我々に必要なのは超常的技量を持つギターヒーローたるあなたなのです』
この承認欲求の塊のような人間*2を説得するには何が必要か?……決まっている。そう、賞賛の言葉だ。
相手が褒められ過ぎて困るくらいまで褒めちぎり、頭を混乱させ口を滑らせた所で言質を取る…!その為ならば無い知識を限界以上に捻り出してみせる!
さぁ、受けるがいい後藤ひとり!(多分)いずれ世界を救うことになるであろう英雄よ!
これが我が全身全霊の―――
「あっ、あっ、あ……わ、わかりましたぁ!?入ります!入りますからぁ!?」
――え
という訳で、割とすぐ解けることになる勘違いタグ追加よー(´・ω・`)
みえるさん誤字報告ありがとうございました!