❴ゴールドシップ昼飯の流儀❵
トレセン学園にはウマ娘に合わせた大きな食堂があります、人の同じ姿ながら人の数倍から数十倍食べるウマ娘のために日々フル稼働する厨房、そこから漂ういい匂いに誘われて昼時には何百人のウマ娘で席が完全に埋まる。もちろんトレーナーも利用して構いませんが、男性トレーナーは肩身が狭いでしょう。
さて、その中にはゴールドシップもいる、かの問題児も昼ならば大人しくなっていた。
「金トレ、にんじんにはにんじん3個分の栄養があるらしい」
「どうしたゴルシ賢さトレーニング全部失敗したか?」
「シャーラップ! このゴルシちゃんがトレーニングすると思うか?」
「確かに」
担当バが堂々とトレーニングをしてない宣言しているのに金島トレーナー一切動揺せず。もう少しは突っ込め。
ほら見ろ周りのウマ娘が「アイツマジか」見たいな顔で見ているぞ。
「あのーお隣よろしくて?」
「あん? あーどうぞ、名もなき者よ」
「なら名前くださる!?」
ネームドキャラはもう少し先なんじゃ、すまんな。
「でさ金トレはチーズとゴボウならどっち派?」
「うーん……きんぴら」
「あーなるほろ、流石私の選んだトレーナーだ。趣味が合う」
「それ程でもある」
「な、なんなんですの……?」
あぁ相席してしまった哀れなウマ娘よ、どうか強く生きてくれ。
二人は自分達の世界に入ったまま帰ってくる気配を見せず会話を続けた。
「ゴルシは好きな食べ物ある?」
「アタシの? 焼きそばだろ、お好み焼きだろ、唐揚げだろ、カレーに、素麺、あ! ロコモコ丼も好きだね、あとは……ムサカだな」
「ムサカ! いいとこ行くねー!」
「だろー!」
「わ、分かりませんわ、私はまさか無知なのでは……?」
いやそこで落ち込むのは早計と思いますが。
ちなみにムサカとはグラタンのような見た目の野菜料理、調べてみてください。
「ん! しまった! ゴルゴル星への定期連絡忘れてた!?」
「なにっ」
「しゃあ!」
「なんとでもなるはずだ!」
「ゴルシだと?!」
悪魔合体したな何かが聞こえた貴方、SANチェックです。
ともかく忘れ物したゴールドシップは金島トレーナーに一言断りを入れてさっさと自室へ走りさる。ここに残されたのは金島トレーナーと隣のウマ娘だけだった。
「あ、あのー」
「ん? なんだ」
「ゴールドシップさんはいつもあぁなのでしょうか?」
「うんまぁそう、楽しいだろ?」
あれを楽しいと表現するのは余程の人格者か余程のバ鹿しか居ないのでは? 何なら金島トレーナーもゴールドシップに負けず劣らず狂人に見えていた。
「あのもう一つ質問よろしくて?」
「ウェルカムですぞ」
「見たところの新人トレーナーのようですが、昼から会議では? 私のトレーナーもそれがあると言って今も資料をまとめて居ますの」
「っ!?」
──その時金島トレーナーに電流走る
「ありがとう、今はそれしか見つからない」
「え? えぇ」
「いざゆかん忘却せし彼方より目覚めた死地へ、契約により回避できぬ定め……それを乗り越えるオレ!」
三つ隣のテーブルから同志を見つけたとばかりにおめめをキラッキラさせた舞台派ウマ娘が見ているがそんな事は置いておく。
金島トレーナーはパパッと食べ終わると職員室へ駆け出した、因みに会議開始十分前だった。
「お忘れでしたのね……」
同席していたウマ娘はせめて怒られませんように、と心の中で少し祈った。優しい子だ……。
◆
❴レースとゴルシと生き甲斐と❵
ゴルシばゴルゴル星の定期連絡を終えて午後の授業へ、金島トレーナーも前準備なしに挑んでしまった会議に見事生き残り午後の仕事へ戻っていた。
授業も終わり放課後へ時間が進む、帰る者たちは帰り残る者たちは楽しく会話していた、そんな教室へ金島トレーナーが突撃してくる。
「ゴルシィ!」
「うおっ!? 何だよいきなり叫ぶなよぉ、んでどうしたトレピッピ?」
「お前のレースどうしようかと! 凄い大会とかでレースする?」
お前もうトレーナー辞めろ。
「おいおいトレピッピよぉ流石にこちとらウマ娘を名乗るんだから、レースぐらいするだろ?」
「えーだって選抜レースやったし良いじゃん! とか言いそうだし」
ここは教室、放課後とはいえ沢山の生徒が居る、というか誰かに聴かせるぐらいの声量で話しているので隠す気が元よりないのだろう。
そんなことをのたまう金島トレーナーに殺意が向けられてた、本人は気付かないのでゴールドシップは般若心経を心の中で読み上げた。南無南無。そのゴールドシップは周囲から気分で走るなよと軽蔑的な視線が送られていた。金島トレーナーは心の中で聖書を読み上げた。アーメン。
あぁ殿下、ラーメンとは言っていないのでどうかご自身のトレーナーの元へお戻りを。
「ゴルシちゃんは気分が乗らねーと走らねー、ゴリゴリの四十肩なんでな」
「ゴルシ偶にオッサンになるよね」
「子供からオッサンまで心が分かっちまう最強無敵のウマ娘たぁアタシの事よ」
「起きてるうちから見る夢は楽しいか?」
「夢も見れない程老けてないのでね」
またに辛辣なのはお互い様か。
「でもな、条件付きで走ってもいい」
「ほほう?」
ゴールドシップの奇行を同じクラスのウマ娘なら知っていて当然、そのゴールドシップが前向きにレースにでる条件とは何だろうか、興味本位に聞き見を立てるウマ娘達は次の瞬間己の耳を疑った。
「アタシと同じ墓に埋まらねぇか?」
同じ……墓? つまり……えっ待って待ってヤバいヤバいヤバいそんなことあるのあのゴルシがまだ出会ってからそんなに時間も経ってないうちにあの普通のしかも新人トレーナーにそんな積極的にぃ?!
色恋沙汰に敏いウマ娘が一斉に声をあげようとしたその一瞬の間に滑り込ませるように金島トレーナーの返答が刺さる。
「ヤダ」
「「「「んっふ」」」」
でかかった大量の空気を喉元で誤爆させてむせ返ったウマ娘が多数いた、いやその流れは断ったらアカンやろロマンチックの欠片もないやないか! バッサリ切られたどころか傷口が見えない程鋭く刈られた思いだった。
「トレピッピ、その心は?」
「そう言って自分の奇行の責任と手柄を押し付ける気だろう? それとも墓穴掘ったら二人で埋まろうとか言うんじゃないだろうな?」
「うーん相性が良すぎるのも考えものだな~」
「我ながら担当バが怖いよ」
──いや私達は貴方達が怖いですけどねぇっ!!!
あの二人を除く総意だった。
もう奇行というか意味不明の域達しただろうやり取りに、二人はもはや誰も理解出来ないのでは? ボブは怪しんだ。
◆
❴不純異性交遊ではないぞ。byゴルシ❵
各トレーナーには専用の部屋が割り当てられている、トレーナーと担当バが作戦や情報交換に使うことを目的に作られているが実態はトレーナーと駄弁ることやトレーナー自身の暇潰しに使われることが多い。それでも真面目な者なら有効活用している。
ホワイトボードと四人がけのテーブル、備え付けのテレビ、それとエアコン、小さな部室と表現するのがピッタリだ。
「トレピッピトレピッピトレピッピィ!」
「来たな問題児! 今日は何をしたんだ?」
「ひでぇじゃねぇかよぉ! ちょっと任天堂に聖晶石前借りしてグラブルのガチャ回しただけじゃんよ〜、所でドラガリアロストはどこにロストした?」
「なんか悪寒したぞ」
それ以上はいけない。
「ってこんな事話に来たんじゃねぇ!」
どっかりと椅子に座り金島トレーナーの正面へ、持ってきた資料を机に叩き付けるように置いた。
「トレピッピ! これは、どういう了見か!」
「これは……」
金島トレーナーがその資料を手に取り読む、タイトルはこうだった。
──近年漁獲量が減っている魚種についての研究と報告、そして対策について。
あれ、これ論文じゃね? しかも水産系の。金島トレーナーは困惑した。
金島トレーナーはゴールドシップと息が合う、ウマが合うとは思っていたが流石にこれは理解が因果地平の彼方へすっ飛んだ、そもそもウマ娘が自国の水産資源危機に目を向けている事とそれを自分のトレーナーに持ってくる事がどうしても理解出来ない。
できてたまるか。
「なぁゴルシ、これ」
「そう! 我らの愛するお魚が消えてしまう危機! それが分からんのか!」
「分からんも何も専門じゃねーよ」
全くその通り。
しかしゴールドシップは、何故か熱の入った弁説を披露する。
「昨今の──」
「それでいて云々──」
「で、あるからして──」
「つまりは個人の意識が大事になってくる、分かったか!」
「うっす……」
金島トレーナーあまりの熱弁に思考停止、ゴールドシップは満足したのかたい焼きの入っている金魚鉢を部屋に飾り、【養殖】と書いてある札を貼り付け笑顔で部屋から出ていった。
「き、今日はエグかったな……ぐふっ」
なおこのあと金島トレーナーは例のカレーがリフレインして眠れなかった模様。