女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
彼女を見たとき、ボクはこの目を疑った。のほほんとした様子がボクの記憶にある彼女とは一致しなかった。
ボクが彼女と出会ったのは十五年程前、魔王様の就任に対して不満を持つ一派が西方で反乱を起こした時だ。けして味方ではない重臣、引き継ぎもろくに出来ない状況で、指揮を取ることすらできなかった魔王様は彼女一人に鎮圧を命じた。そして、彼女の成果を報告する仕事を与えられたのがボクだった。
その時の恐ろしさはもう、言葉にすることも難しい。彼女はいつも同族の死体の山の上に居て、ボクには見向きもしなかった。ただ敵と認識したものをすり潰し、引きちぎり、原型を留めない程に破壊する。モンスターに襲われて壊滅した集落を見たことがあるけれど、その比じゃない。まさに地獄絵図を描いたようだった。
その地獄の中心に居た彼女が、すっかり牙の抜けた様子でパンを差し出してきた。彼女を腑抜けさせてしまったのが人間なのかもしれないと考えると恐ろしかった。だって、魔族には勝ち目がなくなってしまうから。皆が皆、気が抜けて、戦えるような状態じゃなくなってしまうから。
彼女に連れられて人間の集落に行った。最初に出会ったのは歳を重ねた男。敵対しているのを理解すらしてないような牧歌的な表情で、彼女に作物を分けていた。毒物にしか思えなかったが、彼女は疑いもしていなかった。
次に出会ったのが細剣だけを下げた女性。手練なのはボクでも分かる。もしかしたら『奈落の英傑』にも匹敵するんじゃないかという凄みがあった。何故前線から離れた壁に実力者が控えているのか分からないが、さらに不思議だったのはボクのことを心配していたことだ。白狼騎士団だと言っていたのにどうして魔族を気に掛けるのか。その騎士が口にしたメアリという人間に接触すれば何か判るのだろうか。
だけどボクの予想は外れた。メアリというのはどう見ても無害な子供だった。彼女にメアリの手伝いをしろと追いやられ、渋々従う。芋の皮を剥いて、潰して焼くらしい。剥いてくれと刃物と芋を渡された時、ボクは考えた。今この刃を突き立ててればこの子供は簡単に死ぬだろう。彼女がどんな反応をするか、おそらくは怒り狂うのだが、それで魔族の側に戻ってくるのならボクの命など安いものだ。
それでも、ボクはやらなかった。子供の背中があまりに無防備で、毒気を抜かれてしまった気分だった。それに、怨みで人間の側に寝返る可能性だってあると思い直したからだ。
確かに、彼女という強大な魔族と、白狼騎士団の騎士が居て争いになっていないのは、メアリという子供のおかげらしい。今の彼女達は、敵の命を奪うことさえ躊躇うのだろう。その良し悪しはボクには分からない。
「──以上がジスタ・ジオからの報告になります」
水晶玉の向こうにいらっしゃる魔王様は難しい顔をして考え込んでいた。処分しようと考えていたら、白狼騎士団というイレギュラーのせいで話が変わってしまったのだろう。相応の戦力を使わなければ彼女を処すことは出来ない。そこに敵対勢力の実力者まで現れてしまえば不可能に近い。
「ご苦労だった。引き続きギルネリア・スローン・マスティファクトの監視を命ずる。定期報告は不要だが、何か異変があれば伝えるように」
「承知いたしました」
「……それと、一つ質問に答えよ。貴様から見て、ギルネリアという女はどう見える」
質問の意図が掴めなかった。だが、魔王様からの言葉に答えないわけにもいかない。
「……唯我独尊で、傍若無人な存在かと。魔王様にすら敬意を見せず、自己の赴くままに暴れまわる、制御不能な災害。それが、今回のように牙を抜かれた原因は未だ不明ですが、根底にあるものは変わっていないかと」
「そうか」
期待通りで期待外れ。そんな表情だ。
「貴様が任務を続けるにあたって、あれについて幾つか我の見解を伝えておこう。先ず……あれは存外に寂しがり屋だ」
「は……?」
「さらに言えば争い事は嫌いだ。貴様は此度の状態を
魔王様の言うことだ。間違いではないのだろう。だけど、ボクが抱いていたイメージとは全く違う言葉はにわかには信じがたい。あれだけの強さをもって、好き勝手に振る舞ってそれはおかしな話ではないか。
「あれが冷酷になるのは、自らの遊び場を荒らされたときだ。その点で言えば貴様は今回崩壊の引き金に指をかけていたことになるな」
「……メアリという人間のことでしょうか」
「そうだ。その人間の子供の何処が琴線に触れたのかは分からぬが、今、あれの行動原理はメアリという人間にとって益となるか害となるか。それに集約されている。即ち、こちらが手を出さなければ奴が叛意することも無い」
「人の側で戦乱に臨む可能性も低いと」
「爆薬のようなものだ。点火しなければ良い」
お前はけして起爆剤になるなと、釘を刺された気がした。
しごとはまじめにやるたいぷ
かんそうひょうかおまちしております