女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「ん、何やってるのジスタ」
「ぴゃアアア!?」
今日はジスタが追いかけられてるのを見ないなと探してみたら、木の上に座っている姿を見付ける。飛んで後ろから声をかけると、ハチに刺されたみたいに飛び上がって落ちていった。地面に激突したら怪我をしてしまうので首ねっこを掴んで助けてやる。
「び、びっくりした……」
「びっくりしたのはこっちの方よ。声かけただけじゃない」
「す、すみません……」
枝の上に戻してやって隣に座る。いい景色だ。畑には農作物の葉っぱが瑞々しく揺れているし、山の方もきれいな緑色が見える。川は太陽の光を反射してぴかぴか光っていた。メアリが言っていたけど。こんな天気の日にピクニックに行ったら楽しいだろうな。
ジスタは持っていた布を自分の膝の上に広げる。模様も何もない布だ。季節も暖かさのピークみたいな時期で、寒さをこらえる為とは思えない。
「それで、何やってるの?」
「えと……その、笑いませんか?」
「よっぽど変なことじゃなければ」
ジスタはしばらくあーだのうーだの言ってたがいよいよ覚悟したのか、とても小さな声で答える。
「絵を、描きたいと思って。布を一枚、レイさんから頂いたんです」
「へぇ、良いじゃない」
絵が好きとは珍しいけど、笑うようなことじゃない。まあでも、笑われるかも、って心配する理由は分かる。魔族は絵が好きじゃない。好きじゃないっていうか嫌いって言っても良いかも。正直、魔族の性格ってより社会の方が悪いとは思うんだけど。芸術をする奴は軟弱者、みたいな風潮がある。
「あたしは別にからかったりしないわよ。そうだったらそもそも料理なんてしないし」
「あ……それは、そうですよね」
「でもちょっと不思議には思ったかな。何かきっかけがあるの?」
脳筋みたいな文化だから、絵に触れることも全然無い。絵描きの魔族なんて、あたしでも二、三人くらいしかあったことがないもの。
「フレイザー・リオル、って知ってますか? たぶん一番有名な魔族の絵描きなんですけど。その人の描いた壁画が城下にあって。それを見た時に凄い、感動したんです」
「あー、あれね」
「ご存知でしたか?」
「だってあたし、それが描かれるの見てたし」
「そうなんですか!?」
「わっ!」
悲鳴あげるよりも大きな声だったからびっくりして今度はあたしが落ちそうになる。危なかった。それにしても、こんなに食いつきが良いとは思わなかった。
「だ、大丈夫ですか……?」
「んー、セーフセーフ。それで、フレイザー・リオルの話だっけ?」
「あ、は、はい。お知り合いなんですか? 気難しい性格で、人前に姿を現さないって言われてるのに」
「そうねえ、会話したことはないけど。ジスタはあの壁画がどうして描かれたか知ってる?」
「先代魔王様を称えるため、と聞いていますが」
半分正解ってところかな。実際はもうちょっとだけ複雑だ。
「あれは先代の魔王様が、わざわざフレイザーを呼び寄せて描かせたのよ。もちろん、彼の武名を示すためでもあるけど、もう一つ理由があって。先代魔王様は芸術を城下に広めようとしたの」
優れた芸術作品をみんなの前で見せれば、芸術がもっと盛んになるかもしれない。先代様は常々、武力だけが持て囃される現状を憂いていた。ある意味、改革のつもりだったんだろう。
でも、結果は大失敗だった。殆どの魔族は興味も関心も持たなかった。あたしはわりと楽しんで制作過程を眺めていたけれど、フレイザーはずっと孤独だっただろう。彼は自分の魔法で絵の具を作り、筆を作り、壁に描き続けていた。最初は充実していた顔が、少しずつ曇っているのも見ていた。話しかけようか迷ったけど、芸術のげの字も知らないあたしが言ったところで、何も出来ないと思ったし。あたしが行ったら余計に人を離れさせてしまうからやめてしまった。
フレイザーが人前に姿を現さなくなったっていうのは、確かそれ以降の話だ。
「だから、先代様もジスタのこと知ったら喜んだと思うわ。だって、あなたみたいな子を増やしたくてやったんでしょうし」
「そう、ですかね」
にへら、と笑うジスタは初めて見た。いつも怯えたり泣いたりしてばっかりだったけれど、こんな顔もできたんだ。
「完成したら、見せてちょうだいよ」
「絵を、ですか? ギルネリア様が満足する出来にはならないと思いますが」
「良いの良いの」
あたしも芸術は分からない。たぶん見てもおー凄いって思うだけな気がする。それでも見てみたい。ジスタの絵を見てあげたい。
「いっそ村で一番目立つところに飾りましょうよ」
「えぇ!? いや、それは。ボクって上手なわけじゃないですし」
「でも、ジスタの絵を見た子が誰か、同じように絵を描きたいって思うかもしれないわよ」
「う……」
ジスタがフレイザーの絵を見て感化されたように、誰かが情熱を繋いでくれる。そうなったらとても楽しいことだ。本当なら魔族の間で流行ってくれたらもっと良いけど。
「か、考えさせてくださいぃ……」
考えただけで恥ずかしいのか、ジスタは布で顔を隠してしまった。
いまだ、ひけらかせ
かんそうひょうかおまちしております