女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
ギルネリアが数日家を空けると言ってきた。理由は明かさなかったがおそらく幹部同士での会合でもあるのだろう。毎年この時期になると前線から魔族の幹部格の姿が見えなくなるから、そう予想はついていた。
「幹部、か」
鍛錬中、独り言が漏れる。あいつは、魔王軍の魔族。人間の敵。普段は気にしないことが唐突に思い出される。私は、あいつに対して刃を向けることができるだろうか。その首を刎ねる時に、躊躇わないと胸を張って言えるだろうか。
無理だな。数秒も考えずに結論づける。私は、魔族を殺したくて騎士になったんじゃない。手の届く範囲の人々を救いたくて、無辜の民を救いたくて騎士になったんだ。ギルネリアは、彼女達はもう、その範囲に入ってしまった。きっと、完全な殺意を向けられても、私は躊躇してしまうだろう。
騎士としては失格だな。こんな僻地に居る間にどうも腑抜けてしまったようだ。
「おお、レイさん。こんなところに居やしたか」
「アズキか」
ひと仕事終えた後のようで、汗を拭いながらアズキが歩いてくる。ギルネリアの部下と言っていたが、格式ばった関係性は二人の間には無い。彼女から上官への関係性は揺るぎないものだと見れば分かるが、おそらくギルネリアの方が堅苦しいのを良しとしないのだろう。
「誰か呼んでいたか?」
「いや、某は少しそぞろ歩いていただけでございやす。こちらで鍛錬していたんですね」
アズキは地面に放り捨てられた木剣を手に取る。
「どうです。型ばかりじゃ勘も鈍るでしょう。某と一本」
「……そうだな。お相手願おうか」
木剣同士がぶつかりあって鈍い音を立てる。片手突きを主体とする私の剣術と異なり、アズキの構えは両手で振り下ろしたり、片手で振り上げたり自由自在だ。そして強い。一撃が重く、鋭かった。受け方を間違えれば手が痺れて叩き落されそうだ。
「ふっ」
突きを二回、続けざまに放つ。一つ目は陽動、体の軸を動かした瞬間を狙って本命の一撃。だが、既のところで剣の腹で受け止められた。体が浮き上がり、間合い二つ分浮く。
「いやぁ、強いのなんの。すいやせん。今ので剣にヒビ入れちまいやした」
アズキが構えを解く。彼女の握っていた木剣はパキりと音を立てて砕け散った。知らずのうちに力を入れ過ぎていたらしい。
「鍛錬の道具壊しちまって申し訳ない」
「いや、消耗品だ。怪我が無くて良かったよ」
自分の剣を地面に置いて考える。もし彼女がこの村を滅ぼそうとしたならば、自分はどれだけの人を守れるだろうか。不謹慎で、不誠実な仮定だと分かっている。だが、この村の平和は、それだけ危ういバランスの上で成り立っている。
「なあ、アズキ」
「なんでございやしょう」
「君は、人間のことをどう思っている?」
「どう、とは?」
「君は、前線で人間と戦ってきた身だ。人間に対して怨みの一つや二つあるだろう。ギルネリアは関係ない、君の感情はどうなのか、気になってな」
ギルネリアが人間を恐れない、怨まない理由は分かりやすい。彼女は強いからだ。人間の誰よりも、或いは全ての魔族よりも。傷つけられたら滅ぼせば良い。裏切られた時のことは裏切られてから考えれば良い。圧倒的な強さと余裕が、彼女の善性を生み出している。
「ああ、なるほど。某がお嬢に気を遣って内心を秘めているのではないかと、そういう話ですか」
「誠実な聞き方ではないと自覚している」
「気にしないでください。某もいつかは聞かれることだと思ってましたから」
折れた木剣を落とした。
「これは、某の話で、魔族の話じゃあございやせん。某はそもそも人間だとか、魔族とかあんまり気にしちゃいませんで。目につくものに当たり散らす荒くれ
そう話すアズキの目には、凶暴な光が宿っていた。その目には見覚えがある。騎士団にも居た、戦場でしか生きられないものの目だ。だけど、戦場でなくとも彼女は生きていける。ギルネリアという支柱があれば。
「お嬢についてる
「では、ギルネリアが人間に敵意を抱いたら」
「敵になるでしょうな」
さも当然であるかのように彼女は言ってみせる。
「でも、そうはならんってレイさんも分かっちゃいるでしょう。そういうヒトだから、某らはお嬢についていくんです」
「……ああ、そうかもしれないな」
薄氷の上の平和。だが、薄氷と呼ぶにはあまりに硬い鋼のような氷。
ギルネリアはどうして、そうなるに至ったのだろうか。あれだけの力を持ちながら、平穏を尊ぶ気質に育ったのか。自分がまだ、あいつのことを全く知らないのだと、思い知らされたような気がした。
じつはきょうけん
かんそうひょうかおまちしております