女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
夏も少し過ぎ。奈落会議から無事帰ってきたあたしは、ミランダに頼まれて村近くの森に出ていた。この辺に住んでる動物や植物を調べるフィールドワークらしい。普段はレイが護衛についているのだが、今回あたしが呼ばれたのにはちょっとした理由がある。
「ギルネリア様、本当に動物を畏怖させることが出来るのですね」
「だから言ったでしょ。あたしと来ると何も見つからないって」
森に出てからしばらく、鼠一匹見ていない。あたしは動物を怖がらせるから狩りが苦手だという話をしたら、実際はどうなのかとミランダが興味を持ってしまったのだ。だるだると絡まれて断り切れず、一回だけの約束のもとこうして森を巡っているわけである。
「これじゃ仕事になんないでしょ?」
「いえ? 動物を気にしなくて良いということは、植物を調べるのに絶好の環境ということでもございますわ」
「手広くやってんのねえ」
研究者、って人種は魔族にも見たことがあるけれど。何か一つの分野に特化している印象だった。でも、ミランダは本職はモンスターだと言いながら、動植物や文化民俗に至るまで様々な知識を持っている。本当はあたしより長生きなんじゃないだろうか。人間の寿命はそれ程長くない筈なんだけど、半分本気で疑ってる。
「知識、というのは大きな武器であり財産ですわ。知っている、ということが身を助ける例は枚挙に暇がありません。たとえばこちらの可憐なお花。ギルネリア様、こちらが何か分かりますか?」
「んー?」
少し考えて首を横に振る。花の種類とかあんまり気にしたことが無い。
「こちら、元来はカミツレの仲間なのです。カミツレというのはカモミールと呼ばれることもございまして、薬草として古くから使われている植物ですわ」
「へぇ。カモミールは聞いたことあるかも。お茶とかになる奴でしょ」
「ええ、よくご存知で。ですが、実はこちらの花は少々異なります」
ミランダは花を一輪積むと、ふう、っと息を吹きかけて飛ばす。宙に舞った花は、ふらふらと浮かんで落ちる様子がない。
「浮いてる?」
「はい。こちら実はとあるモンスターの体内で種子が発見されたものでして。フライカモレ、と名付けられて降ります。宙に浮く原理は不明とされていますが、わたくし個人としては魔法に近いものなのでは? と類推しておりますわ」
「魔法。魔法かぁ。言っちゃなんだけど、よく分からないのよね」
魔法と他の技術を分けるのは、魔法陣を描くかどうか。それだけだ。だいたい物心ついたときには自分の魔法は使えるようになっているし、逆に結果だけは魔法かどうかなんて見分けがつかない。
「研究者の言葉だと、魔力がどうとか魔素がどうとか知らない単語が出てくるのだけど。あたし達じゃそれは観測できない」
「あら、それはとても残念ですわ」
本当に残念がっているのか分からないトーンで呟き、浮いた花を手にとってかばんに入れる。
「カミツレは薬草ですが、フライカモレは人間には毒になるものが含まれています。然程強力なものではないので、命に別状はございませんが」
「毒を採集するの?」
「単体では毒物でも、他の薬草を混ぜると不思議な結果を生み出すことまでございますの。うふふふ」
「えっ何怖い。何が出来るの」
「そうですね。わたくしが調合したものだと、フライカモレからはぐっすりと眠れる導入薬などが作成できますわ」
「便利そうなのに言ってる本人が本人のせいで恐ろしい薬にしか聞こえない!」
ミランダに一服盛られたら何されるか分からないわ。
「うふふふ、これは天研の成果のほんの一部です。モンスターだけでなく、モンスターによって影響を帯びた動植物の変異、生態系の変化。それら全てが等しく調査対象になりますの」
「下手したら白狼騎士団より相手にしたくないわ」
「わたくし達はあくまで研究者でございますから、戦う力はございませんわ」
モンスター、戦う力。話しているうち昔思った疑問が浮かんでくる。
「そういえばミランダ聞いて良い?」
「はい、わたくしに答えられることであれば」
「モンスターと動物って何が違うの?」
臆病なのが動物、凶暴なのがモンスター。動物図鑑に載ってるのが動物、モンスター図鑑に載ってるのがモンスター。そのくらいの認識で生きてきたから、具体的にどう違うのかあたしは知らない。
「鋭い質問でございますね。結論から先に述べさせていただきますと……無い、もしくは未だ特定されていない、となります」
「ないの?」
「ええ。一応モンスターであるとする定義は幾つかございます。例えば先程のように、生態系に影響を与えること。縄張り争い、捕食行為を伴わない敵対行為を行うこと。しかし、それらを行ってないからといってモンスターではない、とは限りません」
「たまたま発生してないだけ、ってこと?」
「はい。反対に、今まであるモンスターの影響だと思われていたものが、ただの進化や突然変異だった例もございます。便宜上区別しているだけで、その垣根は曖昧なのです。モンスターであると断定されるのは生物学上特異な翼を持つワイバーンや……」
ミランダの話の最中に辺りが暗くなる。そして、バサリバサリと翼のはためく音が聞こえる。
「……グリフォンですわ」
はなしのとちゅうでわるいがぐりふぉんだ
かんそうひょうかおまちしております