女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「アズキー、ひまー」
「おや、お嬢、どうしたんですかい」
もう三日くらい雨が続いて、ジスタ遊びにも耐えられなくなったあたしはアズキの部屋に突撃していた。アズキはベッドの上に座っていた。あたしに気付くと読んでいた本をぱたりと閉じる。殺風景なのは変わんない筈なのに、ほんの少しあるアズキの私物で部屋はそれっぽく彩られている。
「外に出掛けられないからすることがないのよ」
「でしたらこいつを読みますかい?」
「いやー、人間文字は読めないからねえ。覚えるのも苦労するしなあ、って」
我ながらわがままである。
「なんか面白い話して」
「無茶を仰られる。とはいえ、それに応えるが舎弟って奴でございやしょう」
本を抱えたまま考えるアズキの横にあたしも座る。ほんとに面白い話じゃなくても、こうやって話しているだけで気が紛れるということだ。
「お嬢、この傷がなんだか分かりやすか?」
アズキは袖をまくって、二の腕にある傷跡をあたしに見せた。昔からある傷だ。たぶん、あたしの部下になった頃からある傷だと思う。でもその傷について聞いたことはまだ無かった。
「昔からあるわよね。アズキの魔法なら消せそうなのに」
「消しませんよ。こいつぁお嬢さんがつけた傷なんですから」
「え、あたし?」
なんと、アズキを傷物にしてしまっていたとは。
「某がお嬢と初めて会ったときの傷です」
「あー、あの時の……懐かしいわねえ。もう二百年くらい前?」
「そのくらいになりやすかね。あの頃は先代様も壮健でございやしたから」
アズキが言葉を不自然に区切る。どうしたのだろうかと首を傾げていると、壁に何かがぶつかる音がした。
「別に隠す話でもありやせんよ。盗み聞きなんてぇ真似しないでこっち来て聞きゃあ良い」
「す、すいません。ギルネリア様の姿が見えなかったので歩いていたら聞こえてきて……」
申し訳なさそうにジスタが入ってくる。今の音はジスタが何処かにぶつかった音らしい。
「お嬢もよろしいですよね?」
「構わないわ。ほらジスタもこっち座りなさい」
「は、はい」
三人並ぶとベッドじゃ流石に狭い。でも地べたに座らせるのもかわいそうだし、あたしも座りたくないし。
「あの頃の某はやんちゃ
そうそう、それで先代の魔王様から東方にやばい辻斬りが居るから討伐してくれって命令があたしに来たのよね。
「お嬢にあったのはそんな時でした。某はもちろん、ええとあの時はなんて言いましたかね」
「髪の色だったかしら」
「そうだ。そん時の某はまあ恥知らずにもお嬢に向かって喧嘩を売ったわけですわ。それでボコボコにされたわけですな」
アズキから見ればそうだろうし、実際もそうっちゃそうなんだけど。実はあの時のあたしはかなりびっくりしてた。さっさと潰して帰ろうって撃った重力魔法を耐え、ちょっと本気で吹き飛ばそうとしたらぐちゃぐちゃの体を自分の魔法でむりやり治しながら突っ込んできた。あたしもビビって空に逃げたしね。
「一度目についたのがこの傷です。最初はただの治し忘れだったんですけどね。某は思ったわけです。これは戒めだと。勝つまで、この傷は残しておくべきだと」
「ボコボコにした次の日にはあたしの居場所突き止めて再戦挑んで来たんだから凄かったわね」
「アズキさん、そんなに血の気が……いや、今もちょっと残ってますね」
「まあ気質っつうのはそう変わりやせんからね」
血なまぐさい話題なんだけど、朗らかに笑う。今となっては笑い話だから。
「そんで某は何度もお嬢に勝負を挑みやした。倒れても斬られても、死んでないなら負けじゃあないと意気込んで。若気の至りって奴ですね」
あたしも、何度もあたしに向かってくる相手なんてめったに居なかったから、楽しくなってノリノリで引き受けてた気がする。何せ多少無茶に殴っても死なない。あの頃は別件でちょっと気が立ってる時期だったし。
「そうやってた日にですね。某に怨みあるのに囲まれたことがございやして。こいつはまぁ自業自得です。身から出た錆ですから、二十人、三十人に私刑に処されて当然です。ですが、そん時、お嬢はなんと言ったと思います?」
「え、えぇ? なんて言ったんです?」
なんて言ったんだっけ。
「『人の喧嘩に手を出すな』って。言葉と名乗りだけで衆を止めちまったんです」
「その頃にはギルネリア様ってもう……」
『奈落の英傑』もあったし、虚無の魔女とも呼ばれていた。自分で言うのもあれだけど、知名度はあったと思う。
「某は負けを認めました。理由はいくつかありやすが、勝てねえ、ってのとこの人の為に死にたい、って気持ちになったんです。その場で舎弟にしてほしいって頭下げやした」
びっくりしたけれど、部下はたくさんいた方が楽しいって思ってたからあたしもオーケーを出した。
「こいつは、そん時に意味が変わったんです。負けを戒めるものから、お嬢への忠義を誓うものに」
「そんな話が……」
「ねえジスタ。あたしがアズキに最初にやらせたことってなんだと思う?」
「最初にですか? うーん、礼儀とか?」
「半分くらい正解ね」
「某がこれまで狼藉働いてきた人々に詫び入れることでした。一軒、一軒。頭下げて、殴られて。許してもらう話じゃない、ただお嬢の顔立てて見逃してもらうことです。それでも、大事なケジメの一つでした」
「……凄い、壮絶ですね」
まあ野蛮といえば野蛮かもしれない。ジスタの顔はちょっと青ざめていた。
なりたちがやんきー
かんそうひょうかおまちしております