女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「アントニオ! 叶うのならば、私のこの胸を引き裂いて、脈打つ心臓をあなたに見せてあげたい。あなたが戦場に向かうたび、この心臓はあなたを失う恐怖に震え、無力な私を責め立てる。ねえ、私はあなたの隣に居たいだけなのに、どうして運命は無慈悲にも私達を引き離してしまうのでしょう。こうして、無事を祈ることさえ許してくれないのでしょう!」
「ああ、エリザベートよ、許してくれ。僕は君を愛している。片時も離れたくないと思う程に! だが、君の為にこそ、僕は武功をあげねばならぬ。君の父親は、勇名無き騎士が君の伴侶となることを認めないだろう。信じてくれエリザベート。僕は必ず君を迎えに戻ってくると。向日葵のような笑顔で待っていてくれ。それを思うだけで、僕の血潮は沸き立ち、どんな戦場にも向かっていけるのだ!」
公爵の一人娘であるエリザベートは、下級の騎士であるアントニオと身分違いの恋に落ちる。情熱的に愛を囁き合う二人、しかしエリザベートの父親はそれを認めず、二人を引き離そうとする。手柄を立て、騎士としての格を得れば受け入れてもらえると信じ、アントニオは危険な戦場に何度も身を投じる。彼の身を案ずるエリザベートと、功を焦るアントニオとの間にはすれ違いが生じ、ついには喧嘩別れを起こしてしまう。頭を冷やしたアントニオは反省し、この戦場から戻ったら彼女に謝ろうと心に誓うのだが、そこで致命的な傷を負ってしまう。
「信じてほしい、エリザベート。僕のこの愛は神様にだって否定できはしないだろう。この身朽ち果てるのならば、鳥になって君のもとへ飛んで行こう。風を切る音で君に愛を伝えよう。もしくは天より落つる雨になって、君と言葉をかわせない悲しみを示そう。ああ、血を流し倒れゆくこの体が恨めしい。両の腕で君を抱きしめることが出来ないなんて」
息絶えるアントニオ。一人愛する男の帰りを待っていたエリザベートは、一陣の風が吹いたことにより彼の死を悟り、一人涙するのだった。
幕が降りた時、あたしの顔はもう涙でぐっちゃぐちゃだった。こっちを見たレイがぎょっとするくらいに感動していた。こんなに悲しい話があって良いのか。二人はただお互いに愛し合っていただけなのに、どうしてこんなに理不尽に引き裂かれてしまうのだろう。エリザベートの父親を憎らしく思ってしまう。そこにあたしが居たなら、むりやりにでも二人を連れ去って、幸せにさせてあげるのに。
「凄い顔だな。ほら、ハンカチ」
「うぅだってぇ、アントニオがぁ」
「本当に、エリザベートさんもアントニオさんもかわいそうです……」
メアリも涙ぐんでいる。むしろこれを見て涙一つ流さないレイの方が薄情なんじゃないだろうか。
「この脚本自体は十回以上見ているからな。私も最初に見た時はしばらく立ち上がれなかったよ」
「どうしてハッピーエンドにならなかったのよぉ」
「そうだな……アントニオが奇跡的に一命をとりとめ、エリザベートの元に帰る終わり改変された脚本もあるが……悲劇の方が心を打つのだろうな。それに、この物語は実際にあった出来事がモチーフになっているらしいから」
「そうなの?」
「ああ。エリザベートのモデルになった人物はその後教会に移り、生涯操を守り通したそうだ」
「追撃は勘弁して」
悲しさが増すような補足をされて収まりかけていた涙がまた溢れる。
「どうして、エリザベートさんのお父さんは認めてくれなかったんでしょう」
「今でも残っているが……権力者の娘というのは政争の武器として使われるからな。手塩にかけた娘が、無名の者に嫁ぐのは損失だと考えたんだな」
「ひどい……!」
「ひどいのは確かだが。それを怠ったものから潰されていくわけだ。有力者や王侯貴族に嫁げば、その親縁であるという価値が生まれる。後ろ盾が無いと余計に不幸になってしまうこともある」
「身につまされる話だわ」
現在進行系で厄介者だし、魔王様にも肩身の狭い思いをさせている身としてはザクザクと刺さる言葉だ。いや、それでもエリザベートのお父さんは許せないけれど。
「それだけ楽しんでもらえたなら、連れてきた甲斐もあったというものだな」
「うん……とっても面白かった……」
「はい、良かったです……」
そこは疑いようもない。素晴らしい劇だった。
「さ、出ようか。次の公演の客も入ってくるから、迷惑になってしまう」
レイに手を引かれて劇場を後にする。外は日が赤くなってきていた。
「劇を見たら飲み屋で語り明かす、というのは定番だが」
「んー、魅力的な提案だけど、メアリも居るし、帰りましょう」
長居するのはやっぱり怖い。
「そうだな。それなら……」
レイは手近な店に入って、少ししたら出てくる。その手には手提げ袋。中には果実酒の瓶が二本も入っている。それと、焼き菓子や肴になりそうなものが幾つか。
「飲むのは帰ってからのお楽しみとしよう。今回は良い役者に良い演出家が揃っていた。語らいもせずに自分の中で飲み込んでしまうのは無粋過ぎるだろう」
レイも語りたいらしい。あたし達は顔を見合わせてにやりと笑った。
ともだちとえいがとかいいですよね
かんそうひょうかおまちしております