女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可)   作:異種百合推進委員会

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かんわきゅうだい(※あこがれた)

 夢を見ていた。幼い頃の夢。もう、殆ど記憶にも残っていなかったのに。まるで昨日のように鮮明に。私は幼い頃の私を後ろから見ている。

 

「レイ!」

 

 幼い頃の私は、彼女にべったりだった。一人娘だったこともあって、歳の近い女友だちなんて居なかったから。五つくらい歳上の彼女を姉のように慕っていた。

 

「クリム。レイちゃん、騎士団の試験に合格したんですって」

 

 突然出てきた騎士団という言葉は幼い私には分からなくて。ただ、レイが遠くに行ってしまうってことだけが重くのしかかった。

 

「レイ、行っちゃうの?」

 

 泣き虫な私の頭を彼女は優しく撫でる。

 

「大丈夫。少ししたら戻ってくるさ」

「私も、私も騎士団に行く!」

 

 子供のワガママに、彼女は笑った。

 

「クリムにはまだ難しいな。少なくとも、私より強くならないと」

 

 幼な心には、それが冗談だと分からなくて。だから私は、彼女よりも強くなると決めたのだ。彼女がどれだけ強くなっても、遠く手の届かないところに行っても、絶対に追いついて、追い抜いて。その隣に居るんだと。

 

「だから私はッ」

 

 全身が痛い。夢から現実に戻ったのだと分かった。私は確か、あの角あり魔族に何度も殴り飛ばされて。最後に担ぎ上げられたところまでは記憶にある。逆に言えばここが何処なのかは分からない。ベッドの上で、ご丁寧にシーツまで掛けられていた。

 

「おっ、目が覚めやしたか」

 

 隣にはあの角魔族が居た。椅子に座って、ナイフでりんごの皮を剥いている。

 

「……私を笑うために待っていたのか」

「そんなこたございませんよ。りんご、食べますかい?」

「……食べる」

 

 差し出された一欠片に手を伸ばすだけで筋肉が引き攣りそうになる。骨折や切り傷は魔法とやらで治されたのに、筋肉痛は治してもらえなかったのか。

 

「すっきりしやしたか?」

 

 問い掛けに無言で頷く。レイ・アルトリウスに感じていた不満はもう無かった。いや、元々不満と呼ぶのもおこがましい感情ではあったのだ。最前線で戦っている、自分の憧れだった筈の彼女が、あんな事件を起こして、姿を消したのが許せなかった。地位も栄誉も、人を守るという信念も、そんなに呆気なく捨てられるものならば、それを目指してきた自分は道化じゃないか。

 

「……どうして」

「ん?」

「どうしてレイは貴様のような魔族を見逃しているのだ。どうして、貴様達は人間の敵だというのにそんなに好き勝手しているんだ」

 

 溢れるのは疑問。いつの間にか、レイが全くの別人になってしまったような気分だ。高潔で、優しくて、強い彼女が敵と仲良くしている光景を信じたくなかった。

 

 うーん、と角魔族は頬をかいた。

 

「実のところ、某にもよく分かりやせん」

 

 分からない、とはどういうことだ。

 

「某は、魔族として前線で人間と戦っていたこともございやすが、まあ怨みというとはありやせん。だからといって、人間と仲良くするつもりもありやせんでした」

 

 ここに来るまでは、と彼女は続ける。

 

「今でこそ、それなりに愛着もありますが。きっかけはお嬢に付き従っていただけです」

「お嬢ってのは」

「そちらが最初に出会った方ですよ。ギルネリアお嬢の意志が某の意志。疑問を介す余地は無い」

 

 りんごをもう一欠片手渡してくる。余地は無いと言った割には、あまりはっきりしない顔だ。

 

「ただ……お嬢がどうしてレイさんと仲良くなったのか、ってのは某もよく分かりやせん」

「想像もできない?」

「そう、ですねえ……百年お嬢に付き従って来ましたが、友達という言葉をお嬢が使ったのは、初めて聞きやした」

 

 友達。レイとあの魔族が友達? 思い返してみれば、お互いに遠慮のない会話をしていたように思う。あの関係性は実際、友達なのかもしれない。

 それよりも、初めて聞いたという言葉の方が気にかかった。百年という月日が魔族にとってどれだけの長さを持つのかは知らない。だけど、それだけ長く居て、一度も出てこない言葉ではないだろう。

 

「あの二人の間には余人には計り知れない何かがあるのだと思います」

「……ずるいな、それ」

「ええ、まったくです」

 

 それは、自然にこぼれた物だったのだろう。角魔族は自分が言った言葉が一瞬分からないようだった。

 

「ああいけない。こんなこと言うつもりはなかったんですがね。そちらに感化されちまったらしい」

 

 彼女は自分で剥いたりんごをしゃくりと齧った。私がレイに置いていかれたように、こいつもお嬢とやらに置いていかれたような感覚を覚えていたのかもしれない。

 いや、逆なのか。適当にぶちのめして終わりの筈だった役目を、わざわざここまで面倒を見にやってきたのは、こいつが私に親近感を覚えていたからなのか。

 

「なあ、お前。名前は何て言うんだ?」

「某ですかい?」

「お前以外に居ないだろう」

「アズキ・ホウジョウと申しやす」

「私は……クリムヒルト・ガスコーニュだ」

 

 痛む腕で、アズキを指差す。

 

「予定変更だ。先ずはお前から私の剣の錆にしてやろうッ!」

「……ふふっ。ええ、何度でもお相手になりましょう」

 

 少し驚いた顔をして、それから笑った。




つたえるにははずかしいから

かんそうひょうかおまちしております
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