女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「……」
「……」
あたしと女騎士。お互いに気まずい沈黙。だってそうだろう。ここは人間の集落のど真ん中なんだから。
あの後、どうしたものかと悩んでいるうちに他の人間が集まってきた。囲まれたかな、なんて考えていると偉いっぽいお爺さんが一歩出てきて「魔族さん、助けてくれてありがとうございます」とこう言った。牧歌的な言葉にあたしも相手も毒気を抜かれて気が付けばあれよあれよという間に宴の席。今は準備中だから待ってくださいと三人きり。メアリを撫でていなかったら発狂するところだった。
女騎士は全く警戒を解いてくれていない。そっちの方が正しいんだけど真面目だなあという感想になる。村人には強く言えないのもそれっぽい。
んんっ、と女騎士が咳払いをした。
「それで、あなたは何者なのだ」
「んー」
どうしたもんか。あたしの名前って人間にはどれくらい通ってるんだろう。前線に出たことはないから分からないんだよね。でも、メアリがさっきあたしの名前呼んじゃったし、隠す程でもないか。
「言っても良いけど、聞くならそっちが先に名乗るべきじゃない?」
「……白狼騎士団のレイ・アルトリウスだ」
「ギルネリア・スローン・マスティファクトよ」
白狼騎士団。人間に疎いあたしでも聞いたことがある、めちゃくちゃ強い騎士団だ。同じ『奈落の英傑』が討ち取られたこともある。そんな強い騎士団の娘が何故こんな場末に?
「……まさかとは思っていたが、虚無の魔女か」
「あら、知ってるんだ」
「虚無の魔女は知らずとも、十五年前の事件は誰でも知っている」
十五年前、何かやったっけ。その頃は今の仕事に着く前だから、えーと。
思い出せなくて考え込んでいるあたしにレイはマジかこいつ、みたいな視線を向けてくる。
「閃光の勇者殺し。あなたの策謀だと聞いていたが」
「閃光の勇者……?」
なんか聞いた覚えがあるような。閃光の勇者。なんかぴかぴか光る奴と戦った記憶はある。
「ああ、居たね。そんな奴」
一人で魔王軍の本拠地に乗り込んできた馬鹿が居たから、重力魔法でプチっとやったのを思い出す。足は速かったけど、重力かけたら面白いくらいに地面にへばりついていた。適当に追い返すだけでも良かったんだけど、よりにもよってあたしのことをババア呼びしやがったのでオブジェになってもらった。
「彼は当時の最高戦力だと聞いていたのにその扱いか」
「そうなの? でもあたしから見たらあなたの方が間違いなく強いわよ?」
「ありがたく思うべきなのか分からないな」
これはお世辞でもなんでも無い。さっきあたしとレイの実力差を八対二と見積もったけど、その勇者とやらは十ゼロだ。相性とかじゃなくて単純にパワーが足りない。十五年前でもあれより強い戦士は普通に居たと思う。たぶん、勇者だから担ぎ上げられたんだろう。
「しかし、虚無の魔女ともあろう者が、何故このような場所に?」
えーと、なんて答えようか。馬鹿正直に答えるわけにもいかない。だってあたしの守ってる場所が知られたら、人間的には放置しておくわけにもいかないだろうし。かといっていい感じの嘘も思い浮かばない。
「仕事中の散歩よ」
「散歩……その子は」
「散歩中に拾ったの」
「迷い込んだのは私のような」
「メアリ、かわいいそのお口はチャックしましょうね」
嘘とも事実とも言えない誤魔化しでお茶を濁す。ここを深掘りされるとせっかく守ったこの集落を皆殺しにしなくちゃならなくなる。それは流石に気分が悪いので、それっぽく話をずらしたい。
「それこそ、白狼騎士団の騎士様がどうしてこんなとこに? 実は大事な拠点だったりするの?」
「……人々を守る。騎士団として最も崇高な仕事だ」
言葉に間があった。あたしとレイはしばらく目が合う。メアリだけが不思議そうにあたし達を見比べていた。
「「もしかして」」
言葉が被る。
「「左遷されたのでは?」」
頭を抱えてうずくまったのも同時だった。
「え? え? 二人ともどうしたんですか?」
「良いのメアリ。メアリはこんな悲しい大人になっちゃ駄目よ」
「人は、正しさだけでは生きていけないこともあるのだ」
有能堅物女騎士だと思っていたのに一気に親近感が湧いてしまう。
「い、いやでもあたしは左遷されたわけじゃないしー。大事な仕事を与えられたわけだしー」
「民草を守りたい気持ちに貴賤は無い、貴賤は無いがだからといっても前線からこんなに離される理由もないだろう」
「でもせめて部下くらいはくれても良かったんじゃないかなーって思うわけですよ。だって一人ぼっちで待機はいくらなんでも酷いでしょー!」
「騎士団から一人離れこのような場所とは。此度こそ私がいた事に意味があったとはいえ、こんなことを予測していたわけではないだろうに」
言い訳するようにどちらともなく言い始めた愚痴がどんどんヒートアップしていく。
「おうレイさんに魔族の嬢ちゃん。もう少し準備に時間かかりそうだし、酒でも飲んで待ってるかい?」
気の良いおっさんの申し出をあたし達は二つ返事に受け入れてしまった。
かわいそう