女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「夢、かぁ」
呟きが漏れた。スタンをマーサのところまで送り届けて、今度はサトの荷造りを手伝う。
サトはこの村を拠点とする交易商だ。と言っても、村の作物を近くの街に売りに行っているだけなのだが。この村では取れないもの、特に干し肉とか銘酒なんかを仕入れてきては村の人と物々交換している。
「どしたんよいきなりボヤいて」
「いやね、将来の夢とか考えることもあるよねー、って」
「私よりピチピチなのに婆さんみたいなこと言うなって」
「サトも若々しいわよ。最初レイと同い年くらいだと思ったもの」
「そりゃ嬉しいね」
けらけらと彼女が笑う。この間三十になったと聞いたけれど、肌艶とか引き締まった体とか、二十歳でも全然行けそうだ。実際、数年前に一人目の旦那を若くして失っているから、狙っている男衆も居る。本人は仕事が楽しいからそのつもりは無さそうだけど。
「サトって将来の夢とか持ってた?」
「うーん、そうだねえ」
麻袋を荷車に詰めながら聞くと、サトは顎に手を当てる。
「この村を出たい、って思ってたかな」
「あら意外」
「そう?」
サトの夢自体は珍しいものじゃない。実際、成人してすぐ街に行ってしまって帰ってこない若者も多いって聞く。だからこそ、バイタリティのある彼女が、その夢を叶えてないのが意外だ。
「旦那に引き止められたのよ」
「何その話詳しく」
「食い付き良いね」
だってあたし達じゃそういう話に縁が無いんだもの。アズキやミランダはウケが良いし本人が望めばすぐに相手が見つかる気もするけど、アズキは今クリム鍛えるのに夢中だし、ミランダはミランダだからなあ。
「村出てやろうかって時に、旦那にプロポーズされてさ。『別の街でも何処でも一緒に行く』って」
「あれ、話ちがくない?」
「いやこれがズルい話でさ。そんとき、旦那のおっかさんがもう歳だったんよ。もう明日死ぬかも分からないってくらいの」
「あー」
「たぶんありゃ本当についてくるつもりだったんだろうけど。旦那を親不孝者にするワケにも行かないからさ。そこじゃ諦めちまったよね」
サトの旦那さんの話は人づてには聞いたことがある。血の繋がった家族はもう居ないとか。若かったのに、狩りの途中、モンスターから他の人を守るために自分から犠牲になったって。本人を知らないあたしはサトを置いて逝くなんて酷いと思っちゃったりもするけど。
「結局すぐに後追っちまったんだから親不孝だけどね」
「……でもさ。サトは断る選択肢もあったわけじゃん?」
「野暮なこと聞きなさんな」
「あいたっ。ねー麻がひっついたー」
「自業自得」
小突いてみたら顔を赤らめて頭を叩かれる。いざという時他人の為に動ける人だから、サトも好きになったんだろうなって。うーん、若人たちよ。サトを落とすのはまだまだハードルが高いぞ、なんて。
「今はまあ、この村も悪くないって思ってるからね。仕事柄、街に行く機会はあるし出てくぞって気持ちはないかなもう」
よいしょと最後の麻袋を投げ入れて、サトは手についたゴミをぱんぱんと払い落とす。
「私に聞いたんだ、ギルネリアも答えてよ」
「えっ?」
「将来の夢。まさか商人相手にタダで話が聞けるとは思ってないでしょ?」
うーん、道理だ。でも、将来の夢なんて言われても昔のことは思い出したくないし、思い出せることもない。あの頃のあたしは魔族ですら無かったから。今誰かに必要とされたいってことだけ思ってて、だけどそんなことは無いと諦めてて。先のことを考えるようになったのは、ああ、先々代様に出会ったときだろうか。
「あたしはね、昔。何もしないでぐーたら暮らしたいなって思ってたわ」
「おうおう随分身勝手じゃん」
「分かるー、今もこうやって荷造りで働かされてるもんね」
まあ、あたしの夢は叶ってるんだけど。
「あたし強いからさ、引っ張りだこだったのよ。忙しくてもーやだ逃げ出したいってずっと思ってたもん」
「まあねえ。力自慢だし、空も飛べるし」
空も飛べるのは魔族だいたいみんなそうなんだけど。
「だからこうやってのんびり出来てる今はめっちゃ楽しいのよね」
「そりゃ良いことだ。昔頑張ったお陰かもよ」
「良いわねその考え方、採用」
嫌いな昔を少しだけ前向きに受け取れそうだ。あの頃頑張ったから、あの頃のあたしが居たから。メアリに会えて、レイに会えて、こうやってサトとお喋りできている。
ぐー、っと大きく伸びをする。
「それじゃ、お仕事も終わったしぐーたら遊びに行ってくるわ」
「おーう、あそうだ、駄賃。酒と肉、どっちが良い?」
「お酒!」
貰った果実酒片手に歩き始める。もちろん行く先はレイのおうちだ。レイの将来の夢がなんだったのかも聞きたいな。きっと、真面目な彼女のことだから、昔から騎士団を目指していたのかもしれない。
それに、メアリはどんな夢を持っているんだろう。あの子の可能性はまだいろんな所に広がっている。あたしで力になれることは少ないけれど、メアリがやりたいことに真っ直ぐ頑張れるように支えてあげたいなと。自分勝手なあたしはそう思うのだった。
さとにすまいのさとさん
かんそうひょうかおまちしております