女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可)   作:異種百合推進委員会

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かんわきゅうだい(※ちいさなへんか)

「ギルネリア様、少しお変わりになりましたね」

 

 人間達の祭りの最中、私の呟きを聞き付けたアズキが振り返る。手には麦酒、鳥の串焼き。参加するのは二度目だと言っていたが、警戒の一つもなく楽しんでいる。

 

「ニル、セーブしていやすね。もっと飲まんと」

「あなたのようなハイペースじゃ飲めませんよ。押し付けないでください」

 

 ふっと吐かれた息が酒臭い。ギルネリア様以外を飲み潰す酒豪っぷりは健在のようだ。その癖、他人には飲ませたがる性質なのだからたちが悪い。ベーコンとサラダをつまんでいる私はまだ一杯目も飲み終わっていないというのに、新しいジョッキをぐいぐいと押し付けてくる。

 

「で、なんでしたっけ?」

「ギルネリア様のお顔が明るくなられた、というお話です」

 

 私の知るギルネリア様は、これ程精力的ではなかった。

 

「たかだか五十年。離れていた時期を除けば四十にも満たない間柄ではありますが。あんなにも生き生きとしているあの人は初めてです」

 

 私が初めてあの人に出会った時は、如何にもやる気のなさそうな表情をしていた。西方の内憂を散らす軍勢の指揮官だったあの人は軍議を殆ど当時の副官とアズキに任せ切りで、出撃することすら稀だった。

 

 その頃の私と言えば、雑用係として奴隷のように扱われていた。戦いが苦手な魔族に価値は無い。だが、手先は器用だったので、様々なことをやらされた。むしろ完全な無能より扱いは悪かったかもしれない。無能は見る必要のないゴミだが、私は使い潰せる便利な道具だった。

 

「……ん」

 

 飲みかけの麦酒をもう一口含む。アズキは聞いているのか居ないのか、ジョッキ片手に鳥肉をついばんでいる。

 

「まあニルと出会った頃ってお嬢も不機嫌な時期でしたからね」

「不機嫌? その話は初めて聞きますが」

「簡単なことでさぁ。今の魔王様……リィズ様の指南役を任されて、ようやく馴染んだと思ったところで指揮官をやらされたんです。命じられた時は大荒れでしたよ」

 

 確かに、思い返してみれば最も恐ろしい顔をしていたのはあの頃だろう。後に西方を荒地に変えた時はもっと恐ろしかったかもしれないが、私はそれを見ていない。後始末をしただけだ。

 

「少し、詳しく聞きたくなりました。あの戦線、私の視点ではなくアズキの視点で」

「昔話ってのも悪かないでしょう。酒のつまみにはもってこいです」

 

 適当な場所に腰掛け、アズキは麦酒をまた一杯飲み干した。視界の先では酔っ払った若者たちが音頭を取って踊っている。戦勝の祝いでもないのに随分な盛り上がりだ。

 

「某もびっくりしたものですよ。癇癪を起こして帰っちまいそうなお嬢が、面白いのを見つけたって零したんですから」

「それは私のことでしょうか」

「ええ、なんでも言われた通りにぱぱっと作っちまう。魔法を使ってんだか使ってないんだか分からねえと」

 

 ベーコンを齧る。溢れ出した肉汁が地面にぽたり溢れた。

 

「そんで、他の兵に怒ってもいやしたね。自分より弱いのに、他に芸が無いと」

「それは……理不尽でしょう」

 

 こと戦いに関しては、ギルネリア様より強いものなど歴史上でも数える程いるかどうかだろう。あの人が強さを認めるラインも『奈落の英傑』か、それに準じるだけの力がないといけない。並の兵士では歯が立たないアズキでさえも、武闘派程度の認識である。

 

「でも、お嬢曰く。自分はニルのようには上手く作れないと」

「ええ、その言葉はお聞きしました」

「だから、功労者として報奨を与えたのがニルとグドラインだった」

「あの時、私は肝が冷える思いでしたけどね」

 

 副官としてほぼ全ての作戦を指揮したグドライン・オルティスと違い、数ある兵士を差し置いて、非戦闘員の私が褒美を貰ってしまったのだ。逆恨みや排斥を受けるのは想像に容易かった。

 だからギルネリア様は私を部下に迎えてくださったのだから。

 

「いやぁ、懐かしい話だ」

「そうですね」

「確かに、あの頃に比べればお嬢は活発になりました。メアリさんとレイさんのお陰でしょう。かつてのお嬢は欲しがりはすれど、自分から何かを作ろうということはしませんでしたから」

「アズキも、そう思いますか」

 

 ギルネリア様が料理をするとお聞きした時、実は我が耳を疑った。食にうるさい方ではある。圧倒的な強さを持っていたからこそ、強さ以外の武器を持つ者を配下に集め、囲まれて暮らしていた。料理人は居なかったが、ディアンヌのように料理を出来る同僚は居た。ただ、あの人は作ってほしいとねだるだけで自分から動こうとはしなかった。それはおかしなことではない。むしろ、魔族にとって普通のことだ。

 

 そのギルネリア様が料理を習っていると、自分の住処でも出来るようにしたいと仰ったのは青天の霹靂だったと言っても過言ではない。

 

「でも、お嬢がああも頑張ろうとしているのを見ると、支えたくなりやせんか?」

「それは……間違いないですね」

 

 そう、あの人は変わった。だけど、それは私達にとっても好ましい変化で。何処か不安定なあの人の歩みを見守っていきたいと、そう願わせるのだ。

 

「さ、次は何の話をしましょうか」

 

 気が付けば手元の麦酒は空になり、たった今アズキによって満杯になった。

 

 これはどうやら、末路は決まったらしい。




かんわきゅうだいのあずきしゅつえんりつよ

かんそうひょうかおまちしております
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