女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
広い玉座。何人もの魔族を従えて怪訝そうな顔で座っているのは妙齢の美女。灰色の髪に褐色の肌、紅い眼、漆黒の翼どこを取っても美と死の入り混じった憧憬を覚えさせる彼女こそ、人間と対立する魔族の王だった。
側近の一人が拳大の水晶玉を持って魔王の前に傅く。水晶玉からは映像が映し出され、水色髪の少女が顔を見せた。見た目だけならば魔王より幼く見えるが、魔族にとって容姿は判断材料にはならない。現に、魔王は相手が自分より長い年月を生きていると知っている。
「ギルネリア、我に用があるとな?」
「あっ、はい」
敬意があるのか無いのか分からない、砕けた口調で水晶の向こうに立つ少女──ギルネリアが答える。
「我は忙しい。簡潔に述べよ」
「じゃあ簡単に。ギルネリア、人間と交流して情報収集してきます!」
「…………は?」
叛意とも取れる発言に魔王ですらすぐには言葉を紡げなかった。
「なあギルネ。人間と我らは敵同士だぞ?」
「えぇはい。いやー近くに集落があるんですけど成行きでちょっと恩を売っちゃって。それにつけ込んだらいい感じに人間側の情報とか得られると思いますんで」
「いやいや奴らは賢しく卑しいものだ。恩など感じていないかもしれんぞ」
「でも宴会とかお呼ばれしましたし」
「それはお前を油断させて討ち取る策略だろう」
魔王も口調が崩れて彼女のマイペースに振り回されている。
「まあその時はその時でなんとかなるかなーって。あ、ちゃんと魔王様の避難スポットは隠してあるんでそこは大丈夫です!」
「そうじゃなくてだな」
「ってことで人間の情報なんか良いの仕入れたら連絡します!」
「お、おい待て!」
呼びかけも虚しく通信が切れた。魔王は両手で顔を覆い、深い深いため息を吐く。先程までの威厳も半分以上霧散してしまっていた。
「魔王様、これは明確な反逆では? 奴を討つべきです!」
過激派の家臣が一人声を荒らげる。元々ギルネリアを快く思っていなかった一派の一人だ。この機会に蹴落としてしまいたいという欲が見え見えだった。魔王はふるふると首を横に振る。
「では貴様が征くか?」
「そ、それは」
じろりと睨まれて、蛇に睨まれたカエルのように竦んでしまう。
「貴様でなくともギルネリア・スローン・マスティファクトと戦って首を獲る自信のあるものはおるか?」
返答は静寂。血の気の多い若造も、彼女に辛酸を舐めさせられ続けてきたベテランも誰一人声をあげようとはしない。先代魔王の時代から勇名を轟かせ続け、何人もの勇者を討伐した虚無の魔女は、それ程までに恐怖の象徴として名を馳せていた。
「魔王様のお力ならば!」
若い一人が縋るように言った。魔王は魔族で最も強い存在だ。どれだけ悪名高くとも、魔王ならばという期待が込められた言葉だった。
「確かに我なら勝てよう。だが我という兵力を使って、得られるものはなんだ? 将を危険に晒して『奈落の英傑』を一人失うだけではないか」
「しかし、奴が人間に寝返りでもしたら」
「その時は魔族の終焉よ。貴様らは何度我の前に勇者とやらを持ってきた?」
あっけらかんと言い放つ姿に家臣は絶句する。そしてギルネリアの強さを今更ながらに思い知る。魔王と互角に渡り合うという噂も、彼女達二人だけでその他全ての魔王軍と戦力が釣り合う言葉も嘘ではないのだと、魔王自身が肯定してしまった。
ふむ、と魔王が顎を撫でる。
「だが、放置というわけにもいかんな。奴の配下は誰が共に行っている」
「そ、それが……誰も」
重臣の一人が目を泳がせる。
「誰も連れて行っていない? そんな訳がなかろう」
魔王は眉をひそめる。彼女の知るギルネリアであれば、一人では退屈に耐えかねて暴走する筈だ。ああ、魔王は理解する。その暴走が今回なのだと。おかしなことをする前に自分に愚痴の一つでも溢していれば対応したものを、理解できないところで気を遣う。
「……堰き止めたのは誰だ」
今度も返事はない。名乗りあげた瞬間に首が飛ぶと理解しているからだ。最高戦力の一人を離反させかねない行動に追い立てたとして、死よりも惨たらしい刑罰が待っているのではないかと恐れてしまった。
「ああ、頭が痛い。苛立ちで腸が焼き切れそうだ。貴様らは出ていけ」
斜め上の方向から飛んできた厄介事に腹の辺りがキリキリと痛むのを感じて魔王は嘆く。媚を売ることしか出来ない家臣たちを追い払い、信頼の置ける直属の部下を呼び寄せる。
「セッケ、ネズミ捕りの猫に餌をやらなかった大馬鹿者を調べろ。貴様の独断で処分しても構わん」
「承知いたしました」
「アニタ、ギルネと親交があって今自由に動かせる人員は誰が居る」
「……殆どは対人間との前線で戦っております。呼び戻すには時間が掛かるかと」
「顔と名前が一致する程度でも良い!」
「それでしたら短期間ですが、彼女への伝令を任されていた者が居ます」
「ではそいつをギルネのもとに向かわせろ。逐一連絡させることを忘れるな」
どれだけ無礼を許そうとも、魔王として見過ごせないこともある。
「万が一奴が魔族に仇なすようなことがあれば、その時こそ我が討つ」
ひょうかかんそうおまちしております