女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
雪が溶ければ春、なんて言うけれど昔の人は上手いこと言ったものだ。雪遊びから数日で一気に春の兆しが見えてくるようになった。春になればどうなるのかと言うと、スーザン達が首都に戻る日も近付いてくる。あたしとしてはどうか戻って言いふらしませんようにと祈るばかりなんだけど、話はどうやら予想外の方向に進んでいるようだった。
「……私にキピタに戻れと?」
遊びに来たあたしの耳に入ってきたのはピリピリしたレイの声だった。思わず入口から逸れる。外の窓から様子をこっそり覗くと、スーザンとレイが向かい合っているのが見えた。
「別にここから離れろと言っている訳ではない。一度戻ってみないかというだけだ」
「私がここに居るのは白狼騎士団の指示あってのものだ。理由無く持ち場を離れることなどあってはならない」
こんなに鋭く尖っているレイを見るのは初めて会った時以来だ。逆説的に、今レイは敵の魔族に向けるくらいのプレッシャーでスーザンを睨みつけている。首都に戻るというだけの話なら、そりゃあたしは悲しいけれど、レイがそこまで怒る話なのだろうか。
「それに、スーザン殿のプランにも賛成できない。なぜギルネのことを奴らに伝える必要がある。余計な犠牲を増やすだけだ」
あたしを伝える?
それは本当に、理解が出来ない提案だ。いや、スーザンが首都にあたしを密告するのは分かるのよ。あたしは所詮魔族で、一冬監視しただけじゃ信用されないのも分かる。場合によってはあたしを討伐する為にもっと援助を募ってくる可能性もある。
でも、それをレイに伝える意味は何だろう。だって、前のやり取りでレイはあたしの敵にならないと分かっているじゃないか。仮にまだ脅されていると考えていたとしても、出発前に話せばあたしに漏れるリスクは高まる。
裏切られたような気分だけど、それが返ってあたしを冷静にさせた。
「別に討伐隊を組もうという話ではない。友好的な魔族の存在は周知しておいた方が良いという話だ」
「首都のお偉方にそんな理屈が届かないことなど私にでも分かる。いたずらに身を危険に晒すだけだ」
「では君は、これからも魔族を匿い続けるというのか? 私が口をつぐんだとて、いずれは知れること。その時より状況の悪しき時なんてないぞ」
今にも剣を抜きそうな言い争い。聞いていた限りだとどっちにも理がある。いや、あたしが一番理外なことをしているのが実際には悪いのだ。敵の陣地であろうことか馴染んで茶飲み友達をしているなんて、誰も信じてはくれない。明かしても、隠しても地獄が待っている。今まではレイだけがくす玉の紐を持っていたけれど、今回スーザン達にもきっかけのボタンが渡されてしまった。
「では公開するメリットがあるというのか」
レイの詰問に、スーザンは目を瞑る。
「……ある。賭けるだけの価値は」
どういうこと? とあたしは窓により耳を近付けた。
「……極秘事項だが。人間と魔族は近々休戦協定を結ぶことで合意した」
「……なんだと?」
レイにとっては青天の霹靂だったに違いない。自分の耳を疑って、今度はスーザンの言葉を疑っている。無理も無い、だって、数千年に及ぶ戦争が突然、一時的にとはいえ終止しようって話なのだから。
「そんな与太話が」
「信じて良いと思うわ」
嘘と断じたレイがそろそろ暴力に訴えそうになったところであたしも乱入する。
「ギルネ、いつから」
「わりと前から? まあそこはともかく。一時休戦に関しては確度の高い情報よ」
直近のジスタによる報告で知ったことではあるんだけど。事の始まりは半年以上前。夏の奈落会議で魔王様が話していたことだ。人間との休戦を考えていると。当然マジュサとブーケは反発していた。どうしてそんなことをする必要があるのかと。
簡単に言ってしまえば、他に注力すべき事柄が出来たからに尽きる。魔族にとっては北方の内憂が解決しないまま人間と戦争を続けたくない。そして、人間の側ではこの前の真竜騒ぎのような、モンスターによる被害があちらこちらで起きているという。
この緊急性の高い事変に対して、人魔の戦争は惰性だ。口実さえあればやめたいと思うのは自然だろう。
「あたしも機密ではあるんだけどね。魔族サイドでも同じ情報が出てる。厄介な事件でもない限りは、とりあえずは止まるでしょうね」
さて、これが公開情報になっているのならスーザンの話もなんとなく見えてくる。
「あたしとレイを人魔の融和の象徴にして、休戦を終戦にしたいってことでしょ?」
時期は関係ない。人間と魔族が、それも騎士と幹部が仲良くしてますよ、って情報は反戦を煽るのに使えそうだ。もちろんわだかまりは残るし、気を付けないと次の種火になるけれど、戦争を終わらせる方向に向かっていける。だってあの戦争は意地で、勝っても得なんてほとんど無いから。利益が無いのに感情という燃料まで尽きたら後は反乱と内紛だ。
「君達と敵対するつもりはない。それだけは真実だ」
「……少し考えさせてくれ」
全く考えもしなかっただろう事態に、レイは頭を抱えていた。
いちねんでなじみすぎ
かんそうひょうかおまちしております