女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可)   作:異種百合推進委員会

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かこへん(※こわい)

 あたしは魔族じゃない。あたしは心なく運用される兵器だ。無力な奴を怪物に変える武器だ。弱者を蹂躙する暴力だ。

 

「おい」

 

 声を掛けられてあたしは顔を上げる。相手の名前は、なんだっけ。覚えていない。もしかしたら最初から教えられていないのかもしれない。仲間じゃないあたしにそんなことを覚えさせる必要は無いから。

 

「飯だ」

 

 投げられたパンを掴む。硬い。これだけで誰かを殴り殺せそうだ。唾液で少しでも柔らかくしようと口に入れる。

 

「喰ったら、お前の出番だ。俺達とは別地点で暴れてもらう」

「ん」

「分かってんのか分かってねえのか……」

 

 あたしの反応に気を悪くしたみたいだが、グチグチ言うだけで何もしてこない。むしろ、その目には恐怖が見える。こいつも、あたしが怖いんだ。怖いから捨てたいのに、役に立つから捨てられない。あたしも、そんな関係で良かった。

 

 このコミュニティは何個目だっけ。最初にあった所は、まだあたしを仲間扱いしてくれた。凄い魔法だって褒めてくれて、誇らしいと言ってくれた。それを全部あたしが潰した。強い敵にあって、力の制御が上手く行かなくて、皆丸ごと潰してしまった。

 

 ガリ、と食べ物とは思えない音がした。こんな粗悪品でも食えないよりはずっとマシだ。体を動かせるなら、味なんてどうでも良い。一人ぼっちよりはまだマシだから

 

 仲間殺しのあたしを拾う場所なんて無かった。むしろ、よってたかってあたしを殺そうとした。だから反撃して、荒野だけが残った。何人も潰した。激しくなるほど、あたしも残酷に殺した。そんなことがしたかったわけじゃない。ただ、手加減というものが出来なかった。形を保っていた死体が、気が付いた時には箱のようになっていた。あたしが潰したんだ。いつの間にか、誰もあたしを殺しに来なくなった。そして、あたしは本当に孤独になった。

 

 孤独というものは、敵意や殺意よりずっと辛い。土砂崩れや落雷と同じ、天災のように扱われて。誰もあたしのことを見てくれなくなった。それが苦しくて、耐えられなくて。あたしは兵器に成り下がったんだ。道具になってでも、誰かの近くに居たかったから。都合良く使われて、捨てられても良い。温もりと呼べる程温かくなくたって、体温を身近に感じたかった。

 

「……行くか」

 

 パンはもうなくなってしまった。作戦地点は事前に伝えられている。あたしはそこに行って、そこにある全てを壊し尽くすだけだ。

 

 翼を広げて飛び立つ。誰かが昔、あたしの翼を悪魔と呼んだことがある。悪魔だったらどれだけ良かっただろう。きっと悪魔にはこんな感情は備わっていないのだから。指令には半日と書かれた地点まで半分の時間で到達する。早く来たって遅く来たって結局やることは変わらない。

 

「敵襲……!? 誰だあいつは!」

「水色の髪……嘘だろ、魔女だ! 魔女がやってきた!」

「クソッタレ! マコラの野郎俺達を捨て駒にしやがったな!」

「どうする、逃げるか!?」

「日和ってんじゃねえ! 魔女を焼き殺せ!」

「ぶっ殺してやれあんなバケモン!」

 

 あたしの姿に狼狽えたり、怒ったり。怯えて逃げようとしたり。戦いは嫌いだけど、この瞬間は嫌いじゃない。ここにいる全員が、あたしという脅威に目を向けている。頭を抱えてやり過ごす天災じゃなく、命を狩るハンターとして見てくれる。

 

 だったら、その役を全うしてやろう。

 

「ばけ……もの、め」

「潰れろ」

 

 腕を振るう。魔法陣が浮かび上がる。それだけで、敵の戦力は半分になった。これはただの脅し。ふるいにかけただけ。もっと。もっともっともっと。あたしを見ろ、殺そうとしてみろ。親の敵みたいに、不倶戴天の敵として刃を向けろ。

 

 腕を振るう。魔法陣が増える。重力も増して、相手は全員潰れていく。肉が千切れて、骨が砕ける。丁寧に積み上げた石を崩すように、あっけなく壊れていく。生きているか生きてないかはあたしにとってはどうでも良い。最終的には同じことだから。

 

「何人? いち、にぃ、さん……」

 

 死体の数を数えようとしてやめる。多過ぎて、途中で間違えてしまうだろう。全員殺した。その事実だけ分かっていれば良い。

 

「……あいつら、マコラって言ってたな」

 

 嫌な響きだ。マコラ・トランジルグ。いや、奴自身はそんなに嫌いではない。むしろ好ましいくらいだ。あたしに対して、反抗出来たのは奴だけだ。それも何度も。奴が相手に居たのなら、まだあたしはこの戦いを楽しめただろう。

 

「また逃げたか」

 

 だけど、あいつはそれ以降あたしと面向かって対峙することは避けるようになった。ただ使われるだけのあたしの動きを読むことは、きっとあいつにとっては簡単なのだろう。だから、あたしを避けて、使う奴の方を潰す。

 

「また、何処か拾ってくれるところ探さないと」

 

 どうせ、本隊は罠にでもはめられて滅んだだろう。マコラを相手にするということは、あたしは居場所を失うということだ。怨みの念も湧いてこない。あたしも結局、一人が嫌なだけで、相手のことなんて全く考えていない。

 

 「ばけもの、か」

 

 今のあたしには高尚すぎる呼び名だ。返り血が頬を伝った。




かこへんとつにゅう

かんそうひょうかおまちしております
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