女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可)   作:異種百合推進委員会

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かこへん(※であい)

「お前が魔女か?」

 

 岩場に座って一人で硬いパンを齧っていると、知らない男に話掛けられた。また一人になって凄く機嫌を悪くしていたから、返事はせずに相手をじっと観察する。弱くはないが平凡、それが最初に抱いた印象だ。褐色肌で煤けた灰が混ざった白い髪。軽薄そうな笑み。こっちを見ているのかあやふやな赤い眼。今まで混ざったコミュニティで、こういう類の魔族は腐る程見てきた。野心ばかり強くて、全部を道具として使い潰せると思っている傲慢な輩。あたしを兵器として使い、一歩も歩み寄ろうとはしない者達。

 それでも、あたしにとって問題はない。誰が使い手だろうと、あたしの存在価値は変わらないのだから。壊して潰して。守りはしない。守ってやろうと思う程関わることもない。

 

「だったら何。勧誘なら消えなさい」

 

 だけど、この時のあたしは機嫌が悪かったから。意味もなく脅してみせた。しばらくは何処かに属するという気持ちになっていなかったから。適当に追い払って、しつこいようなら潰してしまおうと考えていた。

 

「勧誘のつもりだったんだが、お邪魔みたいだな」

 

 男はへらへらと笑う。あたしが怖いとは思ってないらしい。この辺りでは見ない顔だし、他所からやってきた新参だろう。あたしの噂だけ聞いて、半信半疑で顔を見に来た身の程知らず。

 

「よっと」

 

 あたしの隣に座ろうとする。馴れ馴れしくて気味が悪い。軽く重力で押し潰すことにする。これで死ぬならその程度、死ななかったとしても恐れをなして逃げていくだろう。体勢を崩した男は地面に叩きつけられて呻いた。どうやら死なない程度の耐久はあるようだ。

 

「消えなさい。三度目は無いわ」

「二度は許してくれんだねぇ……」

 

 一切身動きが取れないのに男は薄っぺらい笑みを崩さなかった。演技でもなく、死にかけの虫みたいにカサカサ動いて、諦めたように手をだらんと伸ばす。殺してしまっても良かったのだが、男の笑みの理由が分からなかったから、手を止めた。重力場をかき消す。これで逃げ帰ると思ったのに、寝そべったまま動こうとしない。

 

「消えなさいと言った筈だけど」

「はは、三度目も許してくれんじゃん」

 

 怖い。少しだけそう思った。虫と同じくらい簡単に殺せるのに、恐怖を覚えるなんておかしな話だと思うけれど。あたしの本能が、今こいつを殺したら手堅いしっぺ返しを受けると警鐘を鳴らしていた。

 

「なあ、あんた。なんで()()なんて呼ばれてるんだ?」

「…………」

 

 答えなかったとも言えるけど、答えられなかったとも言えた。魔女と最初に呼んだのが誰か知らない。いつの頃からか呼ばれるようになっていた。身動き一つせず魔族を滅ぼす魔女。あたしの魔法を恐れた誰かが勝手につけた仇名。魔族なんて自称する連中がつけるのだから、並じゃない感情があるんだろうけど、どうでも良い。

 

「俺が前にあった魔女って呼ばれてる人はめっちゃ頭が良くてさ。なんでも知ってるからそう呼ばれてたな。絶対知らないだろって情報まで言い当てて来るから怖かったのなんのって。いやぁ、面識ないはずの初恋の相手まで当てられた時にはビビったね。あれより怖かったことは無いかもしれん」

「……そう。じゃあその記録、更新してあげようかしら」

「その前に俺ぺしゃんこにされるんじゃない?」

 

 本当にぺしゃんこにしてやろうかと魔法陣を出して。呆れて消してしまう。なんていうか、毒気の抜かれる相手だ。殺そうと思えばいつでも殺せるから、つい見逃してしまう。魅力というか、魔力と言うか。変なやつだ。ぺしゃんこにされるって自覚があるのに逃げないんだから。逃げるか、もしくは自暴自棄になって向かってくるかの二つしか見たこと無かったから。

 

「で、何しに来たのよ」

「勧誘ってあんたが言ったんだぜ? でも無理そうだから諦めた」

「じゃあなんでここに残っているのかしら。自分の命が一つだってご存知ない?」

「一つしか無いから気になったとこにはざっくり切り込むつもりなんだよね」

「ナンパ? 趣味悪いわね」

「知的好奇心旺盛と言ってくれよ」

 

 どうあっても去るつもりはないらしい。ここまで無防備だと逆に罠を疑ってしまう。何より、こんなに誰かと話したのは久しぶりだ。そんな程度で情が生まれてしまうなんて、我ながら甘っちょろい。

 

「なあなああんた、名前は」

「は?」

「名前、無いわけじゃないでしょ」

 

 名前、もう随分使ってない。忘れてしまったかと不安になったけど、ちゃんと思い出せて安堵する。でも、言われたままに答えるのは癪に触る。

 

「あんたが名乗ったら答えてあげてもいいけど」

「ほほう、そっちから聞いてきてくれるとは。もしかして脈アリ?」

「潰すわよ」

「それは勘弁」

 

 気が変わらない内に答えないかな。甘っちょろい方だけど、気は短いから。うっかり殺してしまうかもしれない。手加減は苦手なのだ。

 

「フェルトノール。フェルトノール・ケルブ・ゴーンシュタインだ」

「……ギルネリア・マスティファクトよ」

 

 それが、あたしとフェルトノール。先々代の魔王様との邂逅だった。




ゆりのかこにはさまったのでフェルトノールはしにます(ねたばれ)

かんそうひょうかおまちしております
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