女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「調子良いみたいね」
フェルトノールはどんどん勢力を伸ばしていた。毒気を抜いてしまうあいつの人柄と、マコラの陰険だが優秀な策で、西方ではフェルトノールより強い勢力はなくなっていた。驚きなのは殆ど戦をしていないことだ。話し合いと、諮り合いの二つで消耗することなく相手を降伏させているらしい。
「でっしょー? マコラがめっちゃ頑張ってくれてるからねえ」
忙しい身だろうにフェルトノールはしょっちゅうあたしのところへ世間話をしに来ていた。こんな状態になるとあたしもどっか別の勢力につく気にはならないし、かといって一度断った手前フェルトノールの傘下になるつもりもない。だから外部のご意見番みたいな立ち位置になっていた。こいつはあたしの意見なんて聞かないし、あたしもまともな助言なんて出来ないけどね。そういうのはマコラの仕事だ。
「ふぅん、それでもっと頑張るべきあんたは何してんのかしら?」
あたしが訊ねるとフェルトノールは手を止める。その手元には果実なんかが乗せられたパン生地が三つ。
「こいつはセアダスって言ってな。俺の故郷じゃよく食べられるんだが、この辺りだとあんまり馴染みないか?」
「別にそれが何なのかはどうだっていいわよ。あたしが聞いたのは、なんでそんなもん作ってんのって話」
「みんなで食うために決まってるだろ」
「みんなって」
「俺と、お前と、マコラ」
仲間でもないのに勝手に勘定に入れられてるらしい。いや百歩譲ってそれは良い。茶飲み友達扱いなのは理解できるし、じゃあみんなで食事でもしようかってのも理解はできる。でもなんでこいつは今ここで作り始めているのか。これが分からない。
「マコラ、あんたのとこのトップがまた変なことしてるけど」
「そいつの奇行はもう諦めた。神輿として使えるならそれで良い」
マコラの目は濁っていた。ナンバーツーとしていろんなところに連れ回されているようで、顔には疲れの色が見える。そろそろ反逆を目論み始めるんじゃないだろうか。まあ厚遇されてる今、反乱するメリットもたいして無いだろうけど。自分が上に立って失敗してるから。
「賢しい苦労人はかわいそうね」
「何も無い虚無女には分からない苦労だろうな」
「だーもう、お前ら会う度に喧嘩するのやめろって」
連れてくるのが悪いと、しっしと手で追い払う。フェルトノールは額を叩いて嘆いた後、地道にこねていたパン生地に魔法陣を当てた。
フェルトノールの魔法は炎魔法だ。魔族にとっては珍しくもない普通の魔法。特別強いなんてこともなく、普通の炎には無い特殊な性質を有しているわけでもない。本当に平凡で平均的な魔法。それでも戦うには十分な魔法を、事もあろうにただの料理に使おうとしているらしい。
「ふぁいやー! って強過ぎるな焦げる焦げる」
普段の出力では燃えカスにしてしまうらしい。ぷるぷると腕を震えさせながら炎の出力を抑え込んでいる。
「馬鹿じゃないの」
あたしは手を貸すことも、邪魔することもしないでじっとそれを見ていた。変なやつが変なことをしているのを見るのは好きだったから。
「うお、珍しい。ギルネが笑ってる」
「は?」
口元に手を当てると緩んでいるような、気のせいのような。フェルトノールの言うことなんて真に受けるだけ時間の無駄だが、もしかしたら本当に笑っていたのかもしれない。笑うっていう行為がどんな状態になるのかすっかり忘れてしまったから、確認のしようがないけど。
「良いね。楽しい時には笑わないと、ってああ!? 焦げた!?」
「一度に全部焼こうとするからだろう、馬鹿が」
「両方に馬鹿って言われたが」
そりゃそうだろう。馬鹿だから馬鹿って言ってるんだし。そもそも食事なんて腹に溜まれば良いんだから。味が良ければ幸運程度に思っておいた方が良い。真面目に作ったってより腹が膨れるわけじゃないんだから。
「甘いなギルネ。食事の満足度ってのは馬鹿にならないんだぜ」
「仮にあったとしてここで実演する必要はないでしょ」
「いいや、あるね」
自信満々に口にするからには、さぞや高尚な理屈が出てくるんだろう。うんざりした顔で次の言葉を待つ。
「…………」
「…………」
「…………」
「えっ終わり」
「終わりだが」
「あんた……どうやって交渉のテーブルに立ってるのよ」
「実に恐ろしいことだが、その馬鹿は会議の場においてもそんな調子だ」
「うっそでしょ」
まああたしもあんまり人のことは言えないんだけど。だいたいのことは脅せば良かったし、相手が勝手に望んでくるから対価を求めればだいたい通った。交渉なんてやったこと無い。
「まあ食ってみりゃ分かるだろ、ほれ食ってみ」
唇を尖らせたフェルトノールからところどころ焦げた完成品を受け取る。セアダスだかなんだか言ったっけ。見た限りだと甘い食べ物のように見える。見てくれはあんまり良くないが、これだけ推すんだからきっと美味しいんだろう。火傷しないよう、注意深く一口齧ってみた。
「……微妙」
「えっ」
フェルトノールも一口齧る。そして一言。
「……微妙だな」
まぞくにりょうりはできない
かんそうひょうかおまちしております