女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「相変わらず冗談だと思いたくなるような惨状だな」
刺客を全員ねじ伏せて縛り上げた頃に、ちょっとお手洗いから戻ってきたくらいの調子で入ってきた。右手には全身が腫れ上がった魔族っぽいものを引きずっている。
「主君放って遊んでた恩知らずじゃん。その肉塊一歩手前は?」
「今回の下手人だ。王族の出で、此度の戴冠式を快く思っていなかったようだ」
拍子抜けする程予想通りの身の上だ。最初から分かってて、泳がせていたのだろう。そしてこの場で一網打尽。それにしてはフェルトノールの警備が甘かったような気がするけど。
「保険はかけていた。だが、これで死ぬようならそれまでだ」
「そんなんだから背中を狙われるのよ」
「全身狙われてる奴の言葉は重いな。気を付けておこう」
せっかく殺しは避けてあげたのにどうしても死体がほしいようだ。まああたしは寛容だから聞かなかったことにしてあげるけれど。
「反りが合うのが合わないのか分かんねえなお前らほんとな」
王自ら安否確認を行っていたフェルトノールが戻ってくる。ほっとしたような表情を見るに死人は居ないらしい。あのボコられてた客も一命は取り留めたということだろう。来賓にとっては悪夢に見そうな日になってしまったかもしれないが、どうせ百年もすれば忘れるのだから気にしないでほしい。
「で、式とかいう状況じゃなくなったけどどうするのよ」
肩をすくめて周囲を見渡す。会場はボロボロ、負傷者の運搬で人手は足りない。会場の半分はあたしのせいだけど。半分かな、だいたいあたしな気もする。まあ襲ってきたのが悪いし半々にしておこう。えーと、そう。会場も参加者も襲撃されたせいで戴冠式の予定はまるっきり潰れてしまった。
「んー、とりあえず戴冠式はまあ、俺がこれを被れば形にはなるだろ」
「ぶっ」
いつの間にか拾っていた王冠を頭に乗せる。似合わなさ過ぎてあたしは思わず吹き出した。いやぁ、大笑いってこんな感じだったのか。すっかり忘れていた。
「そこまで笑うこたないだろうがよぉ」
本人も似合わない自覚があるのか、さっさと外して玉座に置いてしまう。雑に扱っていいものだろうか。さっきので既に欠けてるし今更か。何はともあれ、これでこいつは魔王になった。理屈の上では全ての魔族に命令権がある。今回の反乱の処遇を決めるのは王の最初の仕事と言えるだろう。
「マコラ、反乱者は牢屋に入れといて。後で名簿と照らし合わせるから」
「分かった。処刑はしないのだな?」
「最後の手段ってことで。別に圧政敷きたいわけじゃないしな……と、そうだ」
忘れていたとフェルトノールが手を叩く。
「魔王として最初の命令だ。ギルネリア・マスティファクト、マコラ・トランジルグ。今回の功績を称え、両名に
スローン姓? いきなり勝手に与えられた単語にはてなが浮かぶ。なんか名誉なことなのかもしれないが、全然ピンと来ない。
「スローンってのは魔王の乳母や後見人みたいな、魔王を支える人に敬意を込めて与えるもんでな。ま、
「先生、ねえ」
むしろ誰かに教え導いてほしいくらいだと思ってしまう。マコラと同ランクっていうのも気に入らない。とはいえ、貰ったものをぺっと突き返すのもマナーが悪いので、名乗るかどうかはともかくおとなしく貰っておく。
「それと、二人を新たに魔王軍幹部に任命する」
「ちょっと待って」
そっちは聞き捨てならない。
「ちっバレたか」
「バレたか、じゃないわよ。幹部って何?」
「俺が進言した」
マコラが引きずっていた首謀者を無造作に投げた。うう、とうめき声をあげるが同情の余地は特に無い。
「魔王であり続ける限り、このような事態は何度も起こるだろう。そして、貴様はその度に首を突っ込みかねん」
「わざわざ足運ぶ程お人好しじゃないわよ。そこに居たら考えなくもないけど」
「外様の人間がそんなことをしてみろ。軍としての沽券に関わる。首領を守るのが赤の他人なんて状況ではな」
「じゃあ他所に頼らなくて良いようにしなさいよ」
「そんなものを用意するより貴様一人を引き込んだ方が楽だ。貴様とて、孤高を気取っているわけではないのだろう?」
そりゃまあ、新しい場所に行かなかったのは、うっかりこいつらと敵対したら面倒くさいという理由だけど。こいつに言われると事実でも否定したくなるな。
「別に何か無理強いするつもりはねえよ。俺としてはただ、名前を借りたいだけだ」
フェルトノールにはそれ以外の思惑もあるらしい。
「お前が居るだけで他の奴らは恐れるわけだ。『
「待て待て待って、なんかこっ恥ずかしい名称がズラズラ出てきたけど」
「『奈落の英傑』は魔王軍幹部の総称、虚無の魔女はお前の二つ名だが」
「誰よ変なのつけたの」
「え、俺だけど。かっこよくない?」
かっこいいっちゃかっこいいけども。いやでも名乗るのはヤバい奴でしょそれ。あたし毎回それ名乗らなきゃならなくなるの? やめようかな幹部になるの。
「あ、安心しろ。マコラの分も用意してあるからな!」
他人事と思って嘲笑ってたマコラの顔が固まった。そしてあたしの顔を一瞬見る。
喜べ、地獄に一緒に落ちてやる。
こうねつがでました
かんそうひょうかおまちしております