女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可)   作:異種百合推進委員会

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いっぽうそのころ(※しゅとはとおく)

 あの村から首都キピタに向けて出発して十日程経った。出立の日には数十人規模だった集団だが今は私を含めても七人しか居ない。先遣隊として向かったり、他方の事件の応援に向かったりと、冬を過ぎて忙しさを増しているようだ。

 

「ようやく首都に帰れるはずだったのに、彼らも災難だな」

 

 グラスに注がれた果実酒に口をつける。現在地は北方でも大きな都市であるウェナ。それなりに良い宿が取れたので、併設されている酒場で晩酌といったところ。他の兵士達はまた別の場所へ飲みに行ったようだ。まあ、ここは値が張るみたいだからな。この果実酒一杯分でエールが三杯飲めるとなれば、大衆酒場に向かうのもおかしくないだろう。

 

「貴殿は部下と行かなくて良かったのか?」

「私が居ても萎縮させてしまうだけだろう。それに、私が居ると厄介もあるからな」

 

 テーブルを挟んで向かいに座るスーザンは、私のよりも三倍は薄いであろう葡萄酒をちびりちびりと舐めている。椅子に座ると足が届かない彼女の言う厄介が何かは概ね想像できた。

 

「それに、浴びるよりは舐めているくらいの方が良い」

「そうか」

 

 気持ちは分かる。私も前線に居た頃はあまり宴に混じることも無かったし、あの村に行ってもしばらくは祭りにも顔を出すだけだったからな。それがいつの間にか晩酌を楽しむ程度には嗜むようになってしまったのは誰のせいなんだか。

 

「これは酒の席だから、聴取というわけではないのだが」

 

 春野菜のサラダを注文しながらスーザンが問う。

 

「君は何故、ギルネリア・スローン・マスティファクトを信用する? 何かきっかけのようなものでもあったのか?」

 

 言う通り聴取、詰問の類では無いのだろう。好奇心が一番近い。

 私もチキンステーキを追加で注文する。身の上話をするならつまみくらいはあった方が良い。

 

「酒の席で意気投合したからだな」

「…………」

「冗談だ」

 

 スーザンからの視線が厳しくなったので手を振って取り消す。彼女が村に度々来るようになった理由は間違いなく酒だとは思うのだが、求めている答えではないらしい。

 

 何処から話すべきか。まあ、あいつと初めて言葉を交わした時のことからで良いか。

 

「あの村は以前にもモンスターの襲撃を受けていてな。それを退治したのがギルネだった」

 

 あの時のことは今でも鮮明に思い出せる。十を越える卑竜の群れが民家を襲わないよう牽制するので精一杯だった。やっとの思いで一匹落とした時、亡骸が一つ多いことに気が付いた。そして卑竜の攻勢が止み、空を見上げるとあいつが居た。

 

 手のひと振りで巨体が押し潰され消えていく。恐怖を覚えなかったと言えば嘘になる。力量だけで言えば、赤子の手を捻るように自分を殺せる。それでも、自分は村の守護者として立ち向かわなければならない。

 

「……それだけで彼女を信用するに至ったのか?」

「まさか。ギルネに刃を向けた時、私の前に立ちはだかった者が居たのさ」

 

 スーザンが怪訝な顔をする。

 

「それはいったい」

「メアリさ。ギルネに偶然保護されていた、滅びた村の少女だ」

 

 地面に降りてきたギルネの手から離れ、逃げるでもなく、へたりこむでもない。メアリは、何の力も無いはずの少女は、私からあいつを守ろうとした。

 

「私なら狂言を疑うな」

「そうかもしれんな」

 

 酒を舐めるペースが上がった彼女に同意する。魔族が人に溶け込む為ならば、ありえる手段だ。

 

「ただ面白いのが、ギルネが困惑して彼女を説得しようとしたことだな」

 

 人智を超えた存在が、一瞬で幼子に振り回される苦労人のように思えた。あれが狂言だったとするならば、筋書きを書いたものは相当腕利きの劇作家になるだろう。

 

 グラスが空になった。ウェイトレスを呼んで、果実酒のお代わりを頼む。

 

「貴殿は?」

「ふむ……私ももう一杯だけ頂こうか」

 

 そう答えるスーザンは酒が回っているのかほんのりと頬が紅潮している。どうやら彼女は随分弱いらしい。

 

「それで、メアリの剣幕と、外敵を追い払った村人達の歓喜に流されてあれよと言う間に宴会さ」

「誰一人として魔族を咎める者は居なかったのか……」

「居なかったな」

 

 一番強いはずのギルネが一番肩身を狭そうに座っていたのを覚えている。村人からすれば、卑竜に滅ぼされる筈だった村を救ってくれた英雄。そこに人間も魔族も違いは無かった。本人達の方が線引きして縛られていたような状況だ。

 

「民の純朴さを尊ぶべきなのか、無知と謗るべきなのか。全く分からんな」

 

 ぐらぐらと揺れながら頭を抱えている。椅子の足がその度に浮くが倒れない。酔いが回ってもすばらしい体幹だ。

 

「で、酒を飲み交わした結果が今ということさ」

「冗談だと言ってなかったか?」

「嘘だとは言ってないぞ」

 

 本当の嘘は、その時私はまだあいつのことを信じ切れていなかったということ。あいつも、まだ私に心を開き切ってはくれていなかったことか。先に絆されたのはきっと私だが。

 

 なんだか少し、メアリに妬いてしまうな。浮かんだ感情を悟られないよう、私は来たばかりの果実酒を喉に流し込んだ。




ぶれいこー

かんそうひょうかおまちしております
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