女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「レイ・アルトリウス。前へ」
名前を呼ばれ、前へ出る。実用性の無い装飾きらびやかな鎧が擦れて金具の音を立てた。
謁見の間には、限られた人のみが顔を連ねている。玉座に座る国王陛下と、それを守る近衛兵。各騎士団の団長と、内政を司る大臣達。そして、魔界からやってきた賓客、魔王リィズベルト・ケルブ・ゴーンシュタイン。大事になることは覚悟していたが、いざそうそうたる面々を前にすると緊張で背筋が伸びた。
「偉大なる国王陛下におかれましては、ますますご健勝のことお慶び申し上げます」
「前書きは良い。長く時間も取れんのでな」
「はっ……」
膝を付き、頭を垂れる。
「私が今回謁見願ったのは、一つの懺悔と一つの嘆願を陛下にお伝え申し上げる為でございます」
内容を十全に知っているのは口利きをしてくれた青獅子の団長と、我らが白狼騎士団の団長のみ。少なからず動揺を与えてしまうことは覚悟している。
陛下は声色一つ変えず、申してみよと仰った。
「一つ、私はこの一年間。とある魔族を匿っておりました」
大臣達の方からどよめきが起こる。騎士団長の方々は騒がしさこそ無かったが、私の睨みつける視線が一層厳しくなった。
「魔族の名はギルネリア・スローン・マスティファクト。当人の言を信じるならば、魔族においても有数の実力者です」
「それが懺悔か」
陛下の言葉は重く鋭い。この場において首を刎ねられることは無いと確信していても、膝が震えそうになる。
真竜騒ぎの時に出会ったと嘘を吐いてしまえば、少しはマシだったかもしれない。実際スーザンにはそう提案もされた。
だが、それは自分の行いを否定することと同義だ。私は、私の意志で一年間共に過ごしたのだ。不器用と言われようが、曲げる訳にはいかない信念の部分。
「はい。現在は停戦を結んだ間柄ではありますが、私が敵国の間諜に目を瞑っていたことは事実でございます」
「まあ良い。では嘆願を聞こう」
「……ギルネリア・スローン・マスティファクトの滞在を、公式に認めていただきたく」
「……なんだと?」
下げた頭では陛下の表情は窺いしれない。傲岸不遜な要望に腹を立てているだろうか。
「彼女は我々にとって良き隣人です。私は二度、彼女に命を救われました。それが彼女にとって苦境こそあれ、見返りなど得られないと分かっていたのに」
「騎士たる貴殿が、魔族に助けられたと?」
「恥ずべき話であることは重々承知で御座います。しかし、無私の施しに対して、私は報いなければなりません。彼女は人と語らい、平和を愛する者です。彼女が怯えることなく、気を煩わせることなく友と過ごすことを認めていただきたいのです」
これは方便だと自分で分かっている。彼女は気にすることは無いのだろう。だけど、私はギルネを様々な場所に連れて行ってやりたかった。首都の喧騒を、若い騎士達の鍛錬を。喜劇を、悲劇を、名作を駄作を。私が観た幾つもの演劇を見せてやりたかった。酒場に付き合わせて飲み潰れるのも悪くない。私は見たことが無いが、海に行ってみるのも楽しそうだ。皆で楽しく過ごせる日々を作りたい。
「ゴーンシュタイン王、貴殿はこの話を知っていたか」
陛下の言葉に、まだ若いと見える魔王が答える。
「ギルネリア・スローン・マスティファクトは間違いなく我が配下の一人である。そして、それが人と関わりを持っていることまでは把握していた。そも、此度の停戦もギルネリアの進言が一因にあると言って良い」
「その者なくして条約の締結は無かったと?」
「まさしく。人魔の架け橋足り得る人材と心得ている。その騎士の嘆願が無ければ、我の方から使者として名を挙げただろう」
「ふむ……」
「僭越ながら陛下、私からも一つよろしいでしょうか」
口を挟んだのは青獅子の団長だ。
「申してみよ」
「先程報告を頂いたのですが。冬前の真竜騒動、青獅子の一個小隊も件の魔族に助けられたそうで。わざわざ負傷者の手当まで賄ってくれたようです」
「ほう」
魔族の長と騎士団長からの援護。これ程ありがたいものはない。
「面をあげよ、アルトリウス」
「はっ」
陛下の表情は何一つ変わらぬ平静のまま。感情というものがまるで読めない。
「その魔族、確かに我らが良き隣人と呼べるようだ。貴殿の申し出を叶えよう」
「真に有り難きお言葉でございます」
安堵の息が洩れそうになる。
「だが」
緩みかけた緊張が再び糸を張る。
「貴殿はこの国を守る騎士として相応しくない行いをした。それを見過ごすわけにはいかぬ」
ギルネリアは良い。だが私は許されない。覚悟していた言葉だった。どれだけ言葉を繕おうと、外患を匿っていた事実に変わりはない。偶然、戦争が止まっただけだ。本来ならば極刑でもおかしくない者を、無罪放免としては他の騎士に面目が立たない。
「処分については、追って沙汰を知らせる。下がるが良い」
「……失礼致します」
その場に居るもの全ての視線を感じた。私は、何も気にしていないふりをして、謁見の間に暇を出すことしか出来なかった。
あけましておめでとうございます
ことしもよろしくおねがいします