女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「ギルネリア様、少しよろしいですか?」
「んー?」
ジスタが改まって訪ねてきたので、部屋に通してあげる。
「魔王様が今人間の首都に向かっているというお話は覚えていますか?」
「そうね。レイと出会ったりもしているのかしら」
あの子を危ないところに出すのは不安だけど、マコラが傍についているなら、人間相手に不覚を取ることは無いだろう。マコラが信用ならないと言われたらそれまでなんだけどね。あれでも魔王軍幹部よりメリットが無いと裏切ったりはしない筈だ。
「どうも、魔王様の居ない間に不穏な動きがあるようで……ギルネリア様のお耳にも入れておいた方が良いかと」
「ああ。そうねえ……あたしに伝える必要は無いわよ」
「え?」
ジスタからすればあたしは大幹部の一人だし、不安を共有する意味でも話したいのかなって思う。でも、あたしとしてはちょっと難しい立ち位置になってしまう。
「あたしね、魔王様と約束してるのよ。魔王様の治世に口は出さないようにする、って。あの子からあたしに命令するのなら話は別だけど、先回りして障害を排除するようなことはしちゃいけないの」
「お話だけでも駄目なんですか?」
「知っちゃったらついお節介しちゃうからね」
そうしたら怒られてしまう。何より、あの子自身が他の魔族に舐められる。過保護な後見人の傀儡だって噂されてしまう。
「あと、それより今、対応しなきゃいけないことが出来たから。話は後でね、ジスタ」
「どうしたんですか?」
「分からない? ほら、気配を探ってみて」
ジスタが真剣な顔で目を瞑ったのと同じタイミングで、アズキも部屋に入ってくる。刀を握って臨戦態勢だ。
「二人。人間のようですが、どうしやしょう」
入り口の罠が起動した。ジスタを捕まえた時とは違って、あっさりかわされてしまったようだ。奥に進むのは危険と判断したのか、その場で立ち止まっている。あたしとアズキはすぐに気が付いて、遅れて理解したジスタも顔を青ざめさせた。
「あたしが出るわ。ニルは?」
「村の方に居ます。連れ戻しやすか?」
「大丈夫よ。ジスタの近くに居てあげて」
ジスタをアズキに預けて、あたしは入り口へと向かう。この場所は、レイにすら教えていない。知っている人間はメアリだけだ。でも、メアリが誰かに話すとも思えない。偶然か、それとも。分かるのは、中々の手練だろうってことだけだ。
「……どう進むか悩んでいたものだが、家主から顔を見せるとはな」
「リスクが減らせてラッキーですねえ」
神経質そうな男と、糸目笑顔の女が、あたしを値踏みするように見る。
「あたしのことを知ってるの?」
「あなたを探してきたのですから。いやはや、苦労しましたよ。麓の村に聞いてもだーれも知らないと言う」
「……魔族を匿うなんて愚かな連中だ」
「誰を前にしているか分かってるなら、言葉は選びなさい」
挑発的な言動だ。まさか村に被害が出ているとは思いたくない。そうだったら、メアリに持たせたお守りが反応している筈だ。
「あなた達の心臓が動いているのは、魔王様が人間との和平を結ばんと尽力しているからに過ぎないわ。それを交渉の材料にできると思っているのなら、認識を改めるべきね」
「ほう? 魔王とやらは知らないが、あの村は貴様にとって余程大事な場所のようだ。蒙昧同士お似合いということか」
「二度目。三度目は無いわ」
殺しはともかく、痛めつけてはおこうか。手のひらを前に出した辺りで糸目女が慄いたように両手を広げた。張り付いた笑顔はそのままだ。
「はいはい、マルクトもストップ。すいませんね、この人魔族嫌いなもので。私達別に敵対しに来たわけじゃないんですよ」
「なら、三つ質問に答えてくれる? 誰の差し金で、何の目的で、どうしてこの場所が分かったのか」
「答えます答えます。えーと、天覧研究所ってご存知です? 私達そこのメンバーでして」
天覧研究所。確か、ミランダが所属しているところだ。
「それが?」
「そこのお偉いさんの命令であなたを研究するように言われているんですよ。だから今回はご挨拶に来たんです」
「……信じがたいわね」
不審な点は幾つもある。でも、何より。
「ミランダを通さないのは何故? こんな場所を探り当てるより、彼女を頼った方がずっとスムーズだったんじゃないかしら」
あたしを調べたいというのなら、先任が居るのにどうして頼らないのか。仮にこの場所に踏み入るとしても、ミランダが居るのと居ないのとではこちらの対応が変わることが予測出来たのに。
糸目女より先に男の方があたしの言葉を鼻で笑う。
「頼る? あの卑しい魔女にか?」
不快な顔は、瞬きの間に遠くへと消えていった。あたしがちょっと強く、こいつを蹴飛ばしたからだ。枯れ草のように吹き飛んで、下の森へと落ちていく。蹴りじゃ死なない程度には加減したけど、落下死までは面倒見ない。
「言ったでしょ。三度目はないって」
隣に居たはずの相方が居なくなり、糸目女は、事態を飲み込めず口をパクパクとさせていた。笑みも引きつっている。
「消えなさい。この場で消し炭にされないことをミランダに感謝して、ね」
厄介な相手なのかもしれないが、関係ない。
友達を馬鹿にするやつは、一番許せないのだ。
ひさびさです