女幹部さんは友達が欲しい(※恋人でも可) 作:異種百合推進委員会
「……っていうことがあったのよ」
ミランダの家で駒を指しながら、こないだの失礼な来客について話す。追い返してやったけど、今度来たらどうしよう。土下座して謝らなかったら潰してしまおうか。
「それは災難でございますね。わたくしはちょうど街に出ていたので、そのお二方とは出会っていませんが……」
「天研ってことはミランダの同僚なのだろう? 知り合いじゃないのか?」
横で菓子をつまんでいるクリムが眉をへの字にする。どうもご機嫌斜めなようだ。
「私も顔を見ただけだが、なめた態度の奴らだったからな。剣を抜くのを我慢していた程だ。ミランダでさえ、礼儀は弁えているというのに」
「あんたが礼儀を言うの」
初対面の時に奇声をあげながら斬りかかってきたの、まだ忘れてないからね。
「おそらくは副所長派閥の人間でしょうから……私と協力するのは避けたいのでしょう」
「ふくしょちょー?」
「ええ。詳しい話は省きますが。所長派と、副所長派。天覧研究所は大きく分けて二つの派閥がございます。そして、この二つは基本的に仲が悪いものと思ってくださいませ」
所長、が一番偉いんだろうから二番目に偉い人なんだろう。厄介な相手なんだろうか。他所様の勢力争いに首を突っ込むと火傷しそうな気はするけど。
「期せずして所長派に肩入れしてる形になっちゃったのかしらね」
ミランダが所長派というのなら、あたしはそっち側だ。露骨に協力するつもりはないけど、あの二人組からすれば、狙ってる獲物を囲われた気分でいることだろう。
「まあ、わたくしもギルネリア様については一切報告はしていないのですが」
「……えっ?」
ミランダの言葉に持っていた駒を取り落とした。一方の彼女はきょとんとした顔で首を傾げている。
「あら、最初に申し上げませんでしたか? 上に報告すれば大騒ぎになってしまうからと」
「確かにそんなこと言ってたような気はするけど……まさか本当だとは思わないわよ」
別に逐一報告されていたって怒るつもりは無かった。ミランダが、ちょっと様子がおかしいところはあるけど悪い子じゃないのは分かっていたし、仕事を真面目にやっているだけなんだから。
「それ、大丈夫なのか?」
クリムが眉間にシワを寄せる。
「報告してないのにその副所長派閥とやらが来たということは、国にもう知れ渡っているということだろ。お前がずっと隠していたこともバレてるんじゃ」
「おお……クリムが賢そうなこと言ってる」
「オジョーは私のことを馬鹿にし過ぎではないかッ!?」
机を揺らさないで。駒がずれちゃうじゃない。第一印象が猪突猛進なんだもの、仕方ないと思う。あとなんでか知らないけどあたしのこと名前で呼ぼうとしないし。
「存分に詰られるでしょうね。でも問題はありませんわ」
「そうなの?」
ミランダが次の手を指す。慣れてきたばかりのあたしでも分かる。後三手くらいであたしは詰みだ。
「ええ、所長もこの程度のことで切り捨てられる程、手駒は潤沢では無いでしょう」
「でも、怒られるのは嫌じゃない?」
「慣れたものですわ。所長の癇癪なんて、迫害に比べればずっとかわいらしいものですから」
迫害。ミランダがあっさりと言ったのは、彼女の口から出てくるとは予想もしていなかった言葉だった。あの気に食わない二人組の片方が、ミランダを魔女と呼んでいたのを思い出す。明らかに侮蔑を含んだ呼び方だった。
「……それって、深く聞いても大丈夫な話?」
「構いませんよ。ですが、少し前提となる話をしなければ、もしかしたら伝わらないかもしれません。魔女、という存在をギルネリア様はご存じですか?」
「魔女ねえ。あたしも虚無の魔女と呼ばれることはあるけど。たぶん人間とは違う意味でしょうね」
「モンスターを従えた悪魔の一族だという話は聞いたことがある。だが、今はもう滅びたと聞いたが」
魔族にとっては、強い女は総じて魔女扱いだ。正確には、強すぎて他の魔族からも敵対視される程じゃないと呼ばれないけど。あたし以外に呼ばれていたのは三人くらいしか知らない。
「クリムさんの説明は半分正しいものですわ。かつてモンスターの生態を調査することを生業としている一族が居ました。その一族は危険がある場合には忠告を、恩恵が得られる際には恩恵を与えて生きてきました。それが
「話だけ聞いてると、迫害されるようには聞こえないけど」
「ええ。ですが、知識を与えているうちにやがて、それをより強欲に用いる者も一族の中に現れました。同時に、魔女がモンスターを操っているのだという噂も」
知識ある側が傲慢になり、享受する側も横暴に耐えかねて、露悪的な妄想に踊らされる。どっちが悪いかってのを考えるのは無駄だな。あたしはその場に居たわけじゃないし。
「そして魔女は滅ぼされました。後は血と知識を僅かに継いだ末裔が、細々と人目を憚って生きるばかり。わたくしも、その一人でございます」
いつも楽しそうなミランダの暗い表情にあたしは何も言えなかった。それに気付いた彼女が無理に微笑みを戻す。
「とはいえ、わたくしの頃には実害を受けた人も残っていなかったので。迫害はそれ程でもありませんでしたから」
「ミランダ、苦しいことがあったらすぐに言ってね。力になるから」
「大丈夫ですよ、本当に。それよりこれでチェックメイトですが」
「あーそうね」
話をしていたらもう一戦なんて集中力は無くなってしまっていた。
「おやつにしましょう。甘いものを食べたい気分だわ」
「ええ、では茶を用意いたしましょう」
ミランダはもうすっかり元の調子だった。
ひろいんてきせい