真昼に咲く菊の花   作:テキサス仮面

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アークナイツのモンハンコラボを切っ掛けにモンハンデビューした初心者です。
よろしくお願いします。


プロローグ

 大社跡

 

 かつての人の営みは歳月により風化し、その痕跡だけが残る。その新緑豊かな山道を駆け抜ける一人と一匹。決してペットと戯れてるとかそんな和やかな状態などではない。生きるか、死ぬかの瀬戸際だ。

 

 

 

 まぁ、俺が死にそうなんだけれども。

 

 

 

 俺は人の身の丈を悠々超える巨大なクマ、暴威の権化のようなモンスター「アオアシラ」から逃げていた。凶悪な面構えでまるで岩そのものが動いているのかと錯覚させる巨躯が唸り声と軽い地響きを鳴らしながら迫り来る。丸太のような腕が振り回されるたび、先端から生えた太い爪が周囲の木々を最も容易く粉々に引き裂いた。これでハチミツ大好き! とかギャグか? 

 

 そもそもなんでこんなことになってるんだろうか? 

 

 俺は今日、姉の狩猟練習の見学に無理やり連れてこられただけだったはず。それが現場に着いた途端あれやこれやと準備を手伝わされた挙句、気がつけば一人にされ森の中で熊さんとご対面。

 ……クソッ!話が違う!嵌められた!実践訓練に尻込みしていたからって、強行は無いだろ!

 

「大丈夫!君ならやれる!問題ない!落ち着いて訓練を思い出すんだ!」

 

 何が大丈夫だよこんちくしょう、と頭上から降ってくる姿の見えない声援に悪態を吐く。これだからあの教官は苦手なんだ……! あとかっこいいところ見せるとか言っていた姉は何処だ?そこにいるのか?そもそもの元凶である自身の姉の姿を探したくなったが、今はそれどころではない。勾配の激しい悪い荒れ果てた参道に足を取られながら、振り下ろされる大きな爪を間一髪のところでよけ切った。

 

「何も臆することはない!君は君が思っている以上に才能に溢れているんだ!さあ武器を構えて!大丈夫、君はカムラの里一番の操虫棍使いに……、いや!世界一のハンターになれる!!」

 

 反響する熱血的な肯定を受け止める余裕などない。現に翔虫が出す鉄虫糸をつかむことができず盛大に転んだところだ。この有り様を見てなんでそんなことが言えるんだ?? 

 

「今日は捕獲訓練だ。無理に倒すことを考えなくていい。ある程度疲れさせて罠を仕掛け、捕獲用麻酔玉を使うだけだ」

 

 もうすでに俺が疲れ切ってるんですけど? という悲鳴をあげることもままならず無様に転げ回るしかない。すると「いつでも行けるぞ」と俺の腕に捕まっている大きなカナブン……操虫棍使いの相棒たる猟虫がモゾモゾと足を動かしてその存在をアピールする。

 

そうか! 顔面を狙って貰えば怯んで隙が出来るかもしれない。そうすれば……そうすれば……

 

 

 どうすればいいんだ……? 

 

 

 焦りのあまり、考えれば考えるほど思考が四散していくではないか!いやいやいや!どんだけ実践に弱いんだよ俺!? 想像を遥かに上回る自身の思考力の低下に驚いていると、不意に一瞬意識が遠のいた。

 

[email protected]

[email protected]

 

 くそっ、このタイミングで! 

 窮地な上、頭の中を掻き乱すノイズのせいでもはや武器を構えることもできるかどうか不明だ。再び翔虫を放ち糸に手をかけるも、背中から強烈な一撃を喰らってしまい地面とキスする羽目になった。スピードを上げてタックルしてきた青い巨体は興奮したのか咆哮を放つ。

 これはまずい、非常にまずい。鼓膜が破れたのかと思うような衝撃に意識がシャットダウンしかけた上、視界に火花が飛び、おまけに足に力が入らないではないか。身をよじり闇雲にアオアシラから離れようとするが叶わぬ願い。威圧感か、衝撃によるダメージか、焦る心に体はついてこない。蛆虫のようにもがく俺の頭上からぬっと落ちる影に「あっこれダメだわ」と精神が根を上げる。

 短い人生だったな……再度生を受け十数年、忙しく慌ただしく密度が高く気が休まる時が殆どなかったなぁと感慨に浸る。

 

 ……って、そんな場合じゃないだろ動け動けよ!ジタバタと腕を動かすも土を抉るだけで進みはしない。

 そうだ、ならせめて武器を手に取って抵抗を!と、背中に手を回すが空を掴む。これはもしや突き飛ばされた時に落としてしまったのか??

 

 終わった……。

 

 両手を広げ耳を劈く雄叫びあげる青熊獣。猟虫が俺を引っ張って逃がそうとするも、咆哮の衝撃に吹き飛ばされてしまった。視界から消えた相棒の行方を追おうとするが、俺を睨む威圧感に気圧され体が動かない。痛みと焦り、濁った視界にくぐもった耳、そして使い物にならない精神。こりゃひどい。

 俺に狙いを定め振り下ろされる爪に思わず目を閉じて身構える。

 

 

「手を貸すわ! 我が弟君!」

 

 

 突如、鈴のような声と鈍い打撃音が林の中に響き渡る。ハッと顔を上げると、アオアシラはよろめき後退りしていた。

 

 なに? 何が起きたの? 

 

 俺の目の前に華麗に着地したのは忍者を連想させるデザインの男物の鎧を身に纏う長身の女性。真昼の太陽のような明るい髪が勢いで揺れ煌めく。

 

「今の蹴り見た? どう? 約束通りかっこいいでしょ?」

 

 俺の姉、マヒルはポカンとしている俺を一瞥し、あざとい笑みでウィンクを飛ばす。この仕草に勘違いさせられた男が何人いるのか、やめろ変な虫がつくぞ。

 

「見てなかった? かっこよくなかった?」

 

 俺が期待通りの反応をしなかったのが不満なのか、眉を下げ「次はもっとかっこいいところを見せる!」と、目の前で呻く巨大に指を差した。マヒルの飛び蹴りを喰らい、苦悶の色を滲ませながらアオアシラが態勢を整える。

 

「よいしょっと」

 

 彼女は背負った巨大な武器、スラッシュアックスを構える。折りたたまれていた刀身が変形し、それは巨大な剣の姿となった。

 女性としては長身な方であるマヒルの身長とほぼ同じ大きさの武器を構える姿はどこか現実離れしているが、とてもかっこいい。

 

 乱入者の登場により一層息を荒げるアオアシラと目を合わせる。マヒルの顔から優しさがサッと消え、静かな覚悟に切り替わった。

 

「行くよ」

 

 輝かしい山吹色の髪を靡かせ、マヒルは駆け出す。

 雄叫びをあげ振り下ろされるアオアシラの爪を掻い潜りその傍に入ると、鉄蟲糸を使って真っ直ぐ飛び上がる。翔虫の放つ淡い光がまるで彗星のように糸を引き、下から上へ流れるように刃を走らせ青熊獣の巨体の胸を悠々と切り裂いた。その衝撃にアオアラシはたまらず後ろによろめく。

 

「気炎万丈ぉぉぉ!!」

 

 彼女はその隙を逃さない。頭上まで飛び上がったマヒルは鉄蟲糸を地面に向け猛スピードで刀身ごと突撃し、アオアラシの背面に命中する。見事な一線は分厚い皮を切り裂いて、鮮やかな赤で地面を染めた。鮮血がマヒルの精悍な顔に降りかかるが、それすらより一層彼女を引き立てる。マヒルは警戒を解かぬまま後ろにバックステップ。重傷を負いながらも青熊獣は闘志を熱く燃やすが、それ以上動くことはなかった。

 ビンから溢れた薬液によって属性爆発が起き、アオアシラは糸が切れたように地に伏せたのだ。

 

「狩猟成功ー! 見た? かっこよかった?」

 

 俺が一度も攻撃を与えられなかった巨躯をまるで朝飯前と言わんばかりに倒したのだ。凄い、凄いよ、

 

 

 これが『捕獲訓練』じゃなければよかったのに。

 

「まぁうん……お疲れ様!」

 

 いつのにか姿を現した教官が渋い顔をしながら姉を労った。当の本人は何も気が付かないまま無邪気にドヤ顔を向けてくる。……いいか……別に言わなくても……。姉の笑みを眺めていると、気が抜けてどっと疲れが襲ってきた。それに続くように体の節々が悲鳴をあげ、不意の痛みに思わず顔を歪める。イテテ……。

 

 

 

「大丈夫? 怪我ない?」

 

 己が狩ったモンスターには一瞥もくれず、姉は俺の元へ駆け寄る。無様に土まみれになった俺をペタペタと触り負傷の有無を調べ、目立った外傷がないことに満足したのかほっと息を吐いた。自分自身は返り血まみれでベタベタだというのに、気にする素振りは微塵もない。その端正な容貌に満面の笑みを浮かべ、

 

「何があっても私がぜーったい守ってあげるんだかr」

 

 傷だらけの手を差し伸べた……と思いきや、何かに気が付いたのか一目散に駆け出していくではないか。

 

「待てマヒル! オサイズチは今回の狩猟対象じゃないよ!」

 

 新たなモンスターと縄張り争いを始めた姉とそれを止めに掛かる教官に置いて行かれ、ポツリ一人山の中。

 

「やっぱりハンターになるのやめよう……」

 

 俺は哀れに転がったアオアシラを見つめてやるせなく何度目かわからない諦めを口にするのであった。

 

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