ダンガンロンパ十周年記念小説【ifストーリー】第二章 乙女心☆ポリシーとプリテンダー★ボーイ   作:千葉 仁史

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裁判パート③

55、

 

 皆の視線が一斉に僕に集中する。その視線の強さも色味もそれぞれ異なっていて、或る者の視線は驚愕に染まっており、或る者の視線は疑念に満ち溢れ、或る者の視線は怯えが走っていた。拳を握り込み、己を奮い立たせながら、僕は「まずは」と切り出した。

 

「その前に女子生徒の皆に言わねばならないことがある!」

 

 僕しか発声しない空間はあまりにも静かすぎて、誰かが唾を飲み込む音さえ聴こえたような気がした。腐川くんが僕の背を押すように「さ、さっさと言いなさいよ」と言うものだから、僕は胸を張って【一つの真実】を口にした。

 

「安心したまえ、君たち女子生徒はこれっぽっちも太っていない!」

 

 僕がそう言い切った途端、「はぁ!?」と言う声が女子生徒たちから上がった。

 

「石丸!! な、なんで今、そそそんなことを言うの! 此処には男子もいるのに恥ずかしいじゃん!」

「そ、そうよ! 私の【体重】のことなんてこの事件とは、か、関係ないじゃない!! だから、あんたは空気が読めないって言われるのよ!」

「この私に向かって太っていると仰るなんて全く以て良い度胸をしてらっしゃること……、ブタは貴男の方でしてよ、このイカレポンチ野郎が!!」

「うぬぅ、流石の我でもこれは羞恥の極みぞ」

「僕にはイマイチ意味がよく分かんないけれども、石丸くん、どうして今そんなことを言うの?」

 

 女子生徒の反論を聞きながら、女子生徒の一人だけ発言していない事実に僕は更に袋小路にも似た答えに行き当たったような気分がして、眩暈を覚えそうになる。それでも、僕は口にしなければならないのだ。押し寄せる【絶望の真実】を前にしながらも僕は言葉を続けた。

 

「捜査時間のはじめに皆と一緒に女子更衣室に行ったとき、僕は女子更衣室の体重計に乗ったんだ。僕のプロフィール上の体重は【66㎏】、そして、その時のメモリは【68㎏】。しかし、捜査時間の終わりに一人で女子更衣室に行って量った時も【68㎏】だったんだ」

「なに言ってんだ、兄弟? そんな短時間で体重は変わらないのは当然じゃねぇか?」

「違うのだよ、兄弟。最初のとき、僕は【この上着を霧切くんの遺体に掛けてしまったから着ていなくて、ブーツも脱いだ状態】で体重計に乗ったんだ。そして、二回目、僕は捜査時間を惜しんで土足で女子更衣室に乗り込んだ――風紀委員失格だ、詰ってくれ――最初の時よりも【上着と二足のブーツ、大神くんから貰ったノート、証拠物件の苗木くんの電子生徒手帳と持ち物が増えていた】のにも関わらず【僕の体重はまるきり変わっていなかった】のだ」

 

 大神くんから貰ったノートと証拠物件の苗木くんの電子生徒手帳を掲げる。僕の来ている学ランとブーツは生地がしっかりとしているので、なかなかに重くて、大神くんから貰ったノートはともかく、壊れているとはいえ、生徒電子手帳も電化製品なので重みはある代物だ。それらが加わったのにも関わらず、体重が同じな訳が無い。

 

「つまり、それってよ――」

「そうだ、捜査時間中に【女子更衣室の体重計のメモリ設定は変更されていた】……いや、【元のメモリ設定に戻されていた】のだ」

 

 桑田くんの発言を引き継いで断言する。

一回目、体重計に乗った時、僕は自分の体重が増えていることに大いに驚いた。だからこそ、風紀委員としてやるべきこととして【皆の生活リズムの改変】とさくら色の小さなノートに最後のページに書き込んだが、まさか、こんな形で役立つとは思いも寄らなかった。

 

僕がそう断言した途端、学級裁判の場が水を打ったかのように静まり返った。一呼吸おいて、眼鏡をかけ直しながら、山田くんが「しかし、それが事件とどういう関係があるのですかな、石丸清多夏殿?」と尋ねてきた。

 

「僕はずっと気になっていたんだ。昨日もプールで泳いだのに、どうして霧切くんは今朝もプールに行ったのか、を。それはきっと【体重が増えたことを気にした】からではないだろうか。昨日の女子会前のプール時に【クロ】によって【女子更衣室の体重計のメモリは操作されて偽造】され、霧切くんは【自分が太った】と誤認してしまった。そして、【太った】という事実は【超高校級の探偵】にとっては、とても恥ずかしく、耐えられないものであり、【ポリシー】に反することであったのであろう。だから、彼女は誰にも知られないように【一人で】女子更衣室へ行ってしまい、罠に掛かってしまった」

 

 今朝、僕に出会う前から霧切くんに罠が仕掛けられていたという推理に、我ながら頭が項垂れそうになる。

 

『今の私を見て、なにか言うことは無いかしら?』

 

 彼女と別れる前の会話が脳裏に甦る。僕は空気が読めないうえに正直にものを言う性質だ。その性質を分かっているからこそ、体重が増えてしまったと【クロ】に騙された彼女はこんな質問をしたのだろう。拳を握り込む。やるせなさが僕を包んでいく。

 

「な、成程! 確かにその方法では【他の誰かを巻き込むことなく、一人という状況で自動的に女子更衣室に行くように仕向けることが可能】ということになりますな」

 

だからなのか、山田くんの言葉に、僕はただ肯定の意味を含んで首を縦に振ることしか出来なかった。だが、いつまでも項垂れている場合ではない。

 

「なら、一人だけ別行動している奴が怪しいよな。もしかして【クロ】は【女子会に参加しなかった腐川】か?」

「うえっ!? わ、私が【殺人鬼】!?」

「違う!! 彼女は【殺人鬼】ではない!」

 

 桑田の推理に僕は顔を上げて、反射のように叫んだ。だってよぉ、と漏らす桑田くんに、僕は否定するための材料を瞬時に頭の中で並べ、追撃する。

 

「何故なら、腐川くんは【体重計のメモリが変更されていたことを知らなかった】からだ。彼女はそれを知らずに、【自分が太った】と思ったからこそ、【女子会】を断り、昨日の夜時間に一人で女子更衣室へ行った。」

 

 そこまで言い切ると、腐川くんの方を向いて、僕は切り出した。

 

「腐川くん、食堂に置いてある【大神くんのプロテイン】を使ったのは君だね?」

「え、あ……」

「プロテインが置いてる棚に、その粉が零れていた。あの棚は僕なら手が届くが、君なら背伸びしなければ手が届かない高さだ。だから君は【プロテインの粉を棚にこぼしたことに気が付かなかった】。そして、勝手に作ったプロテインを持った君は【太っていること】が恥ずかしくて、誰にもバレない様にするため、昨日の夜時間――つまり、深夜に一人で女子更衣室へ向かった。女子更衣室の【カーペットにプロテインを溢したシミの跡】と【ロッカーの一つが濡れていた】ことから、それは証明できるだろう。昨日、大神くんが女子会前に一人で女子更衣室を利用した際に誤ってプロテインを溢したそうだが、モノクマがすぐに掃除してしまったから、今もそのシミが残っている訳がない」

「チッ、腐川め。俺に黙って前回と違う行動をした挙句、夜時間にうろつくとは。……だが、そんなこと今はどうでもいい。おい、勿体ぶるな。石丸、この事件の【クロ】は誰なんだ?」

 

 十神くんが苛々した様子で僕に問い掛ける。ピリピリとした空気が学級裁判の場を支配するなか、僕は僕自身ですら何処を見ているのか認識していない状況で声に出して言った。

 

「霧切くん・腐川くん然り、【クロ】以外は【女子更衣室に置いてある体重計のメモリが変更されていること】を知らなかった。つまり、【クロ以外は自分が太ったと思い込んでいた】んだ。だから、腐川くんは禁止されている夜時間に女子更衣室へ行ったし、霧切くんも今朝に行ってしまった」

 

 重くなる舌を必死で持ち上げながら、僕は推理を述べていく。

 

「皆にも証言したが、僕は今朝、女子更衣室へ向かう霧切くんに会っている。そして、霧切くんと別れた後に、同じように女子更衣室へ向かう朝日奈くんと大神くんと出会ったし、スポーツバッグを持ったセレスくんにも会った。皆、プール時に【女子更衣室の体重計に乗って、太ったと思い込んでいた】からだ。だから、痩せるために運動しようと女子更衣室へやってきた。【超高校級のポリシー】があるからこそ、太ったという事実が恥ずかしくて、各々別々にやってきた。最も、朝日奈くんは大神くんと相談したかもしれないが。……なのに、【昨日プールに行ったのにも関わらず、深夜も今朝もプールに行かなかった】女子生徒が一人だけいる」

 

 腕を持ち上げた僕は【そのただ一人の女子生徒】を指差した。

 

 

 

56、I believe in you, that's why I declare you to be the culprit.(僕は君を信じている、だからこそ僕は君を犯人だと断言する)

 

「それは君だ、舞園さやかくん。君こそがこの事件の【クロ】なんだ」

 

 僕のその言霊が引き金だった。一瞬にして、全員の視線が彼女に弾丸のように降り注ぐ。

 

「兄弟、お前……」

「い、石丸、アンタ、何言っちゃってるの? とうとう、本当におかしくなっちゃったの?」

「あわわわ、『舞園さやか殿を守る』と豪語していた貴殿の口から、とんでもない言葉が飛び出してきましたぞ。これは一体全体どういうことでしょう?!」

 

 それから大和田くんが信じられないものを見るように僕を見詰め、腐川くんと山田くんが茫然とした表情でぎこちなく僕を振り返った。緊張で肌が焼けそうななか、喉が、腕が震えないよう、唇を噛み締めたまま、僕は舞園くんの言葉を待つ。

彼女は酷く驚いた顔をした後、白魚のような手で口元を覆うと、あの星屑を散らす瞳から一滴の涙を零したのだった。

 

「石丸くん、酷いです。私を【クロ】扱いするなんて……。貴方は私を守ってくれるのではなかったのですか? なのに、なのに――」

「おい、石丸!! テメェ、なにを寝惚けたことを言ってやがる!? 舞園ちゃんを守ると言った癖して、舞園ちゃんを【クロ】扱いするのかよ!? 舞園ちゃん、安心して。俺が君を守ってみせるぜ、あのイインチョからよぉ!!」

 

 悲しみの余り、震える声のまま涙を零す舞園くんに代わって、桑田くんが台を両の拳で叩きながら反論する。不意に幼い頃に読んでいた絵本で、姫を守るために騎士が化け物を模した呪いの仮面を身に付けるシーンを思い出した。桑田くんの形相はまるで其の騎士のようだった。

 

「耳をかっぽじってよく聞きやがれ、ド腐れ委員長!! 女子生徒がプールに入っている間に【体重計のメモリ変更】できるのは、昨日のプールに参加していない不二咲だけだろうがよぉ!!」

「ち、違うよ。僕じゃあ無いよ!」

「ミジンコ風情が何を馬鹿なことを。不二咲が女子更衣室へ入れる訳が――」

「いや、それはあり得ない!」

 

 桑田くんの問題提起に、僕は瞬時に反論する。即座に反応し過ぎて、不二咲くんと十神くんの発言と被ってしまったが、この際、気にせずに反論を続けた。

 

「恐らく、【クロ】が女子更衣室の体重計のメモリを変更したのは2Fが解放されてすぐだろう。でなければ、プール好きの朝日奈くんにすぐバレてしまうからだ。しかし、これは予想でしかない。正直に言おう、正式にいつ【体重計のメモリを体重が増えているように変更した】か、それは僕には分からない」

「分からないに大口を叩くんじゃねぇよ、このウンコたれ野郎が! 第一、【霧切響子の電子生徒手帳】すら見付かってないじゃねぇか!!」

「君の言う通り、一番の証拠に成り得る【霧切響子の電子生徒手帳】すら見付かっていない。だが、【体重計のメモリを元に戻した瞬間】だけは確実に分かっている!」

「【元に戻した瞬間】だって!?」

 

 ギリギリと弓を引き絞るように桑田くんが睨んでくる。それにも負けじと僕は背筋を伸ばして前を見た。拳を握り締め過ぎて、掌に短く切った爪が食い込むくらいだったが、その痛みすら無視する勢いで僕はただ前を見詰め続けた。

 

「そもそも、石丸が体重計のメモリが変更していることに気が付いたのは【捜査中の最初】と【最後】に女子更衣室に行って、体重計に乗ったとき、上着や荷物が増えているのにも関わらず、体重が同じだったからだ」

「つまり、その間に女子更衣室へ行った人物こそが【体重計のメモリを変更した】人物であり、即ち【クロ】ということになりますわね」

「その通りだ、大神くんにセレスくん」

 

 僕は大神くんとセレスくんの言葉に諾としっかり頷く。

 

「なら、やっぱり不二咲だ! 捜査時間、不二咲がお前と別れた後に女子更衣室へ行って、体重計のメモリを変更したんだ!」

「それこそ無理なんだ、桑田くん! 不二咲くんは僕と別れた後、腐川くんに寄宿舎へ向かう様子が目撃されていて、事件現場に繋がる二階へは上っていない。それに君は言っていたではないか、【捜査中、僕らが事件現場に行った以降は誰も近寄っていない】と! 桑田くん、君こそが不二咲くんが【クロ】ではない証言者なのだよ!」

「違う、違う違う!! ……そ、そうだ。俺は事件現場に入る不二咲を見たんだよ!」

「桑田くん、嘘を吐いては駄目だ。君と一緒に捜査していた兄弟も【僕ら以降、誰も事件現場に立ち寄っていない】と同じ証言をしている。そして、君たちは空き教室のドアを開け放したままで捜査をしていた。あの廊下はよく音が響く。そして、君は【超高校級の野球選手】だ。相手の盗塁も見逃さない君が、人の気配・物音に気付かない訳が無い!」

 

 僕の反論に、今まで顔を真っ赤にして噛み付いていた桑田くんは「うっ」と言葉を詰めらせてしまったが、瞬時に言葉を取り戻すや否や(流石、超高校級の野球選手、タフだと僕は思った)、更なる言霊の弾丸をぶつけてきた。

 

「じゃあ、【クロ】は【捜査の為に女子更衣室に入った女子生徒】――つまり、セレスだ!!」

「あら。この私を【クロ】扱いするなんて、いい度胸ですわね」

 

 桑田くんが今度【クロ】指定したのはセレスくんだった。怒気を露にするセレスくんを守るため、僕は言霊の充填を行うと、一気にその引き金を引いた。

 

「それも無理だ。あの女子更衣室へは【桑田くん・大和田くん・舞園くん・セレスくん・山田くんの一グループ】で入って捜査した。僕は靴紐を解くのに苦戦して、皆に遅れて、後から一人で入室している。そして、僕が体重計に乗ったのは其の時だ。そして、僕が女子更衣室を出る頃には君たちは皆、事件現場から離れていた。だから、セレスくんに体重計のメモリを元に戻すことは出来ない。桑田くん、僕は女子更衣室に入る前に君と会話している。つまり、君こそが僕が一人で女子更衣室へ入っていくのを見たのでは無かったのかね?」

「このくそったれイインチョが!!」

 

 癇癪を起した子供のように桑田くんが台を何度も叩く。本来、僕と討論すべき人物である舞園くんは、ただひたすらに悲し気な様子でいて、これでは、まるで桑田くんの方が【クロ】であるかのようであった。

 

「アホアホアホアホアホ!! じゃあ、逆になんでお前は舞園ちゃんが【クロ】だって断定しているんだよ!?」

「僕が女子更衣室に入ってから、少しして彼女は女子更衣室に入ってきた。そして、【僕が女子更衣室から出るとき、舞園くんは少し遅れて出てきた】んだ。恐らく、其の時に体重計のメモリを元に戻したんだろう。いや、其の時しかチャンスは無い。だって、それ以降は僕が二度目に入ってくるまで、誰も女子更衣室に入っていないのだから。」

 

 桑田くんが台を叩くのをやめた。途端に静寂が訪れ、舞園くんの微かな嗚咽だけが響いている。僕は桑田くんから舞園くんに向き直してから、口を開いた。

 

「舞園くん。君が捜査に付いてきたのは女子更衣室の体重計のメモリを元に戻すためだったのだろう?」

「石丸くん、どうしてそんな酷い嘘を言うのですか? 私はただ、事件解決の為に協力したくて、石丸くんを信じて、勇気を出して行っただけなのに……」

「捜査時間は全ての部屋のドアが開いてしまう。勿論、普段は入れない異性の更衣室にも入ることが可能だ。もし、この操作時間中、誰かが【男子更衣室にある、メモリを変更していない正しい体重計】で測定した後で【女子更衣室にある、メモリを変更した誤った体重計】で測定してしまったら、このトリックがバレてしまう」

 

 声が震えないよう、目頭が熱くならないよう、自分で自分を調整しながら声を絞り出していく。

 

「殺人罠を仕掛けた君なら、あの犯行現場の凄惨さは想像できたことだろう。本職の探偵が亡くなった今、誰もあの悍ましい殺人現場に行かないだろう、と君は思っていたはずだ。だが、僕が『行く』と決めてしまい、何人か付いてきてしまうことになった。だから、君は急遽付いてきたんだ。トリックが露呈しないよう、誰かが男子更衣室と女子更衣室の体重計に戯れに乗ってしまわないよう見張るため、そして、女子更衣室の体重計のメモリを元に戻すために」

 

 現場検証のときのことを思い出す。彼女は僕に着いていく、と言っていたのにも関わらず、男子更衣室に入るや否や、ブーツの紐解きに苦戦する僕を置いて、大和田くん・セレスくん・桑田くん・山田くんたちと一緒に行動して、僕を置き去りにして先に行ってしまった。今なら理由が分かる。この男子更衣室に来た彼女の目的は捜査ではない。セレスくんが言っていた【非協力的なクロ】として、誰かが戯れに体重計に乗るのを防いで【証拠の発見の妨害】、及び、女子更衣室の体重計のメモリを戻すことで【証拠を隠滅】するためだったのだ。

 

「だがしかし、僕だけがブーツの紐を解くのに時間が掛かって、ワンテンポ、皆との行動が遅れてしまった。皆が女子更衣室を去った後、密かに女子更衣室に戻って修正しようとした君は、僕一人で女子更衣室へ入っていくのを見て、きっと焦ったことだろう。君は女子更衣室にいる僕に話し掛け、僕が出た後に女子更衣室の体重計のメモリを修正した。……舞園くん、君は見ていなかったが、僕はその時既に女子更衣室の体重計に乗っていたんだ。加えて、君は『あの恐ろしい犯行現場に誰も二回は行かない』と思ったはずだろう。皆もそう感じていたと思う。だけど、僕だけはもう一度、犯行現場へ――あの女子更衣室へ一人で行って、あの体重計に乗ったんだよ、舞園くん」

 

(風紀委員としての【ポリシー】を捨ててでも、霧切くんの仇を討つ為にも、君を守る為にも、事件解決のヒントを得たくて)

 

 続く台詞は言えず、僕はそれきり言葉を噤んでしまった。

 

「酷いです、酷いですよ、石丸くん。状況証拠ばかりで、全部全部、推測推理、憶測です。そんなので『守ってくれる』と約束した私を突き飛ばして【クロ】認定するなんて、私を【信じて】くれないのですか? そういう石丸くんこそが【クロ】で、私に何もかもを被せようとしているのではありませんか? 私を信じてくれると言ったのは【ウソ】だったのですか?」

 

 舞園くんがもう一粒、二粒、涙を零した。その涙に学級裁判所にいた(一部を除いた)誰もが彼女に同情の眼差しを向けると同時に、僕に手厳しい疑念の視線を投げ掛けた。彼女の瞳は潤むあまりに、学級裁判所の明かりに反射して其の涙は水晶のように見えるほどであった。それは僕に、あのプールサイドの煌めきを思い出させた。でも、その時の感動までは甦っては来なかった。自身の胸を右手で掴む。嗚呼、苦しいと呻きたくて仕方なかった。

 

「信じているよ、舞園くん。僕は君の【超高校級のアイドル】としての才能と努力を信じている、だからこそ僕は君を【クロ】だと断定する」

 

 舞園くんが不意に顔をあげたので、彼女の涙がパッと散っていく。まるで花弁のようだ、と僕は馬鹿なことを思った。皴になるくらい胸元を掴みながら、僕は口を開いた。

 

「君の言う通り、証拠は無い。【霧切響子の電子生徒手帳】は行方不明だし――恐らく君の部屋にあるのだろう、捜査時間は個室だって開いてしまう。だから君は自室に戻った後、ずっとそれが見付からないように自室にいたのだから――、今この場に体重計を持ってきて女子たちを乗せてもメモリが昨日とは大きく変わった、即ち修正されたという証拠にはなるが、それだけだ。女子更衣室の体重計の指紋照合だって勿論出来ない」

「では、どうして!?」

 

 【ウソ】の涙を流す彼女に、僕は言った。

 

「君が【超高校級のアイドル】だからだ、舞園くん」

 

 【舞園さやかが超高校級のアイドルである】という【マコト】を知る僕に、彼女の【ウソ】は通用しない。

 

「セレスくんは【超高校級のギャンブラー】としての【ポリシー】の維持を目的として、即席のカジノを作り、そのギャンブラーとしてのあの妙ちくりんな衣装を着こなすために、今朝、プールへ行こうとした。大神くんも朝日奈くんも然り。一昨日の僕と兄弟の勝負のとき、手本として、山田くんが描いてくれた絵、そして、桑田くんが投げた剛速球。あれも普段のトレーニングや練習が無ければ出来ないことだ。何もしなければ、技術も筋肉も衰えていくばかりで、とくに腕を使う投球なんて下手したら故障の原因になる」

 

 【超高校級の風紀委員】として、一人一人が持つ【超高校級のポリシー】を拾い集めていく。僕は【超高校級の探偵】では無い。霧切くんのような冴え渡る勘なんてものは無く、証拠に裏打ちされた論理的な推理は出来ない。ならば、僕は僕らしく【超高校級の風紀委員】として出来る方法で、この事件を解き明かしていくしかないのだ。

 

「不二咲くんだって、使われていないノートパソコンを見付けて、自身の腕が鈍らないようAIを作り、【太った】と思い込んだ腐川くんだって、よく分からないが【超高校級の文学少女】としてダイエットをしようとした。兄弟だって、その腕っぷしや筋肉が衰えるような風にはとても見えないし、【超高校級の御曹司】の十神くんだって、その【ポリシー】を守る為の上から目線の口数が減ることは無い。皆、【超高校級】としての【才】と【ポリシー】が衰えない様に、見えない所で努力し、維持しようとしている」

 

 この場にいる生徒全員に耳を傾けさせ、僕一人だけに集中させる。気が付けば、僕はもう震えていなかった。先程まで胸を押さえていた手は体の横にきれいに揃えられ、直立不動の僕は【超高校級の風紀委員】として堂々と淀み無く話していた。

 

「舞園くん、君だってそうだ。【超高校級のアイドル】としての【ポリシー】を守るため、君はこの封鎖された学園生活でもボイストレーニングや体調管理を怠らずに行ってきたことだろう。でなければ、空き教室で行ったライブにおいて、あのようなタイトな舞台衣装は着れないし、歌もダンスも出来ないはず。だからこそ【超高校級のアイドル】である君が【太った】ことに対して、何かしらのリアクションも取らない訳が無いのだよ――【女子更衣室の体重計のメモリが変更されていることを知らない】限りは。……それとも、君は【才】を伸ばすための【努力】をせず、【才】に胡坐を掻いて、束の間の脚光を浴びる【大勢の中のただのアイドルの一人】だったというのかね?」

 

「違います!! 私は【超高校級のアイドル】です!!」

 

 彼女の心からの【マコト】の叫びが空間を切り裂いた。舞園くんの顔に先程までの【ウソや誤魔化しの悲壮感】は無かった。彼女の瞳は【超高校級のアイドル】としての【ポリシー】を侮辱された【真実の怒り】で、宝石のようにキラキラと輝き、その拳は僕が握り締めるときよりも確実に強く握り締められていた。

 

「舞園ちゃん……?」

 

朝日奈くんが恐る恐る呼ぶ。呼ばれたことで彼女は正気に戻ったが、もう遅い。彼女の顔色が蒼く染まっていく。僕の【口車】に乗せられ、彼女は自分が【超高校級のアイドル】であると、【クロ】であると自供してしまったのだから。

 

もし彼女が犯人でなければ、女子更衣室の体重計のメモリを触っていないということ、つまり、体重計のメモリの変更を知らないので【太った】と勘違いして、何かしらのリアクションを取るはずなのだ。第一、【太った】と思い込んだ他の【超高校級】の女子生徒については、腐川くんは女子会を断って、深夜一人でプールへ行ったし、朝日奈くんと大神くん、セレスくんは朝活の時間を利用してプールへ向かっている。不二咲くんはそもそもプールへ参加していないので、体重計に乗っていないので【太った】と勘違いすることは無い。けれども、舞園くんだけが【超高校級のアイドル】でありながら、何のリアクションを起こしていない。どうして、何のリアクションを取らなかったのか。答えは簡単だ。彼女は自身の体重が変わっていないことを知っていて、つまりは女子更衣室の体重計のメモリを変更したのは他ならぬ彼女自身であったからだ。

 

殺人犯を前にして誰かが後退る音が聞こえたのを皮切りに、山田くんが「くわばら、くわばら」と呟く。セレスくんがらしくもなく大きく目を見開いていて、不二咲くんは泣き出しそうな表情を浮かべている。大和田くんは「マジかよ」と呟き、腐川くんは何回も「え? え?」と言葉にしていて、十神くんは「やはりな」と微かに嗤っている。大神くんは目を瞑って「うぬぅ」と声を漏らし、桑田くんは「陰謀だ。嘘だ。誤魔化しだ。そんな訳がねぇ」と只管呻くように繰り返している。

 

そして【クロ】である舞園くんは立ち尽くし、対して【シロ】である僕は其の場に崩れ落ちてしまっていた。

 

 

 

57、クライマックス推理(別名:超高校級の○○○の独壇場)

 

「では、事件を振り返ってみるとしよう」

 

 そう言って切り出したのは十神くんだった。

 

「葉隠が苗木を殺したことで殺人の機会を失い、【超高校級の探偵】としての霧切の高い推理能力とオシオキの恐ろしさに尻込みしていた犯人だったが――いっそのこと、そのまま尻込みしていれば良いものを――、二階が解放された後、再度の探索中に偶然にも一階の【玄関ホール】の横の【レターケース】の中に第一の事件で亡くなった【苗木誠の電子生徒手帳】と【葉隠康弘の電子生徒手帳】を見付けたことで、モノクマが言っていた【女子更衣室に男子が入ろうとした場合、問答無用でガトリング砲で撃ち抜くシステムプログラム】を用いて、犯人は今回の殺害トリックを思い付いた」

 

 茫然と座り込む僕を置いてけぼりにして、【シロ】即ち【勝利者】に許された正義の権限と余裕を奮って、僕が荒く導き出した事件の真相の輪郭を、十神くんは更にクリアに磨いていく。

 

「まず、犯人は【苗木誠の電子生徒手帳】と【葉隠康弘の電子生徒手帳】を回収し、【葉隠康弘の電子生徒手帳】を空き教室に隠した。レターケースの中に【葉隠康弘の電子生徒手帳】だけが残っていたら、【苗木誠の電子生徒手帳】がどうして同じ場所に無いのか疑われてしまうからだ。第一の事件後にモノクマが亡くなった生徒の電子生徒手帳をあちこちに無造作に置いたと思わせておけば、【苗木誠の電子生徒手帳】が見付からなくても不思議には思われない。二階が解放された際に空き教室を調べているにも関わらず、その時には見付からず、第二の事件の後に見付かっているというのが何よりの証だ。次に犯人は【女子更衣室の体重計のメモリ】を体重が増えたかのように狂わせた。体重計は更衣室にしか無いからな。【男子更衣室の体重計】に乗らない限り、女子生徒にメモリが狂っていることがバレることは無い」

 

 誰も何も言葉を挟まない。僕はまるで彼の唇から零れ落ちた言葉を見るかのように、ただただ床を見詰めていた。

 

「事件前日の第二の動機が提示された後、朝日奈が女子生徒をプールに誘い、犯人が仕掛けていた【体重が増えているかのようにメモリが変更された体重計】に乗ったことで、参加した【女子生徒は皆】自身が太ったと勘違いをした――無論、霧切も。もし、朝日奈が女子生徒を誘わなければ、犯人がそれとなく誘っていたことだろう。そして、プールの後に石丸らが行っていた【男子会】に倣って【女子会】が開かれた。誰が女子会をしようと言い出したか知らぬが、恐らく犯人は女子生徒らの不安を煽って上手くそれとなく誘導したに違いない。犯人がいつ【苗木誠の電子生徒手帳】と【霧切響子の電子生徒手帳】の交換をしたのか分からないが、霧切を一人個室に戻してしまったら、何かの拍子で気付かれてしまう可能性が高い。だから、女子会を利用した。皆が語り合っているなか、電子生徒手帳をじろじろと観察したり、推理に耽ったりする時間は無いからな。加えて、気付かれる可能性を考慮して、交換はギリギリに行われただろう。例えば、石丸が夜の十時過ぎにぶっ倒れた瞬間とかな。そういえば、大神と霧切が中心に看病したらしいな。誰もがその騒動に注視するなか、交換なんぞお茶の子さいさいだったのだろうよ」

 

(僕がのぼせ上げた瞬間を利用して、電子生徒手帳は交換された? それだけではなく、朝日奈くんが皆と交流を深めようと、事件に対する不安を紛らわすために設けられたプールと女子会を最大限に利用して、犯人は犯行の準備を仕立て上げていった。当初、霧切くんは皆との交流を絶っていた。けれど、僕は霧切くんを交流の場に――舞園くんのライブに勧誘した。それが追々、霧切くんが皆と交流を持とうとする心の変化の切っ掛けになったのかもしれない。だが、それでは、まるで僕が、彼女を……)

 

 分かり切っていた事実を前にして、僕は頭を垂れる余りに証言台の柵に額をぶつけていた。

 

「その翌日――つまり、犯行当日の朝の七時前、朝日奈の部屋に泊る女子会はお開きになった。【今回の朝食会は朝八時】に行われる。昨日のプールで【メモリを変更された体重計】の件で太ったと勘違いしていた女子たちが七時から八時の間の一時間の【朝活】時間を利用して、ダイエットをしようと思うのも宜なるかなことだ。朝日奈の部屋を出る前に、犯人は朝日奈と大神と不二咲が話しているのを確認すると、セレスに話し掛けた。霧切一人でプールに行かせるためには、霧切とセレスと同タイミングで行っては困るからだ。もし仮にブッキングしてしまえば、霧切はプールへ行くのを取り止めてしまうかもしれないし、犯人一人による殺害可能人数は二人までとはいえ、学級裁判で犯人の絞り込みになった際、一人でも容疑者が多い方がパーセンテージ的に【卒業】できる可能性が高くもなるからだ。……そうして、犯人の思惑通り、霧切は一人でプールへ行き、女子更衣室のドアを開けるために電子生徒手帳をタッチパネルに掲げた――犯人によって【苗木誠の電子生徒手帳】と交換されていたとは知らずに。結果、【異性の電子生徒手帳で更衣室に入ろうとした場合、ガトリングが発動するシステムプログラム】が作動し、霧切は命を落とした」

 

 十神くんがらしくもなく音が鳴る程に一瞬だけ歯軋りをしたので、僕は思わず顔を上げてしまった。

 

「ガトリングで生身の体を撃ち抜くという所業により、犯行現場は凄惨を極めた。探偵役の不在により、恐れ戦いて誰も犯行現場に行かないと犯人は思っていたが、此処で二つの誤算が起こった」

 

 人差し指を立てて、十神くんは説明を続けた。

 

「一つ目の誤算は【超高校級の風紀委員】がやる気を出してしまって、それにつられて何人かが犯行現場に行くことになってしまったことだ。もし万が一にも、男子更衣室と女子更衣室の体重計に乗られてしまっては、この殺人トリックがばれてしまう。だから犯人は捜査に同行せざるを得なかった。犯人は男子更衣室と女子更衣室の体重計に乗らない様に生徒たちを見張っていたが、ブーツの靴紐を解くのに手間取った石丸はワンテンポ皆より遅れて捜査したことで、犯人は石丸が女子更衣室の体重計に乗ることを阻止できず、それどころか乗ったことを知らないまま犯人は【捜査時間中、石丸が目を離した隙に女子更衣室の体重計のメモリを元に戻して証拠の隠滅】を謀った。犯人は石丸を女子更衣室から遠ざけたことで安心し、体調不良だと偽って自室に閉じこもり、捜査に非協力になることで学級裁判が立ち行かないよう画策したが、無駄にフェミニストに目覚めた石丸が、学級裁判前に風紀委員の禁忌を犯してまで再度女子更衣室に捜査に行き、その体重計に乗ったことで折角のトリックが露見してしまった。メモリの変更が石丸の嘘かどうかは此処に女子更衣室の体重計を持ってきて、他の女子を乗らせればすぐに分かることだ。昨日よりもあからさまに変わった体重に疑問を持たぬものはいないだろうよ」

 

 今度は中指と人差し指を立てて、十神くんは語る。

 

「二つ目の誤算は【苗木誠の電子生徒手帳】が完全に破壊されなかったことだ。犯人は【苗木誠の電子生徒手帳】はマシンガンにより完全破壊される予測を立てていたが、そうはいかず、更に証拠品として回収されてしまった。電子生徒手帳のカバーに名前は書かれておらず、本体ごとデータは破壊され、誰のものなのか不明――霧切のものだと誤解されたままになる予定が、苗木が自身の家族写真をカバー裏に貼っていたことで、その電子生徒手帳が霧切の物ではなく、苗木の物だとバレてしまった。……おっと、霧切が霧切自身の電子生徒手帳に苗木の家族写真を貼ったなんて言うなよ。電子生徒手帳のカバーは工具が無いと開けられない様になっていて、工具セットは男子生徒にしか配られていないから、女子生徒である霧切にそれをカバー裏に貼ることは不可能だ」

 

 両の掌を見せて、不可能(impossible)のジェスチャーを披露する。そして、蛇蝎の如く【クロ】を睨み付けながら総仕上げに入っていく。

 

「犯人の何よりのミスは、霧切を一人で女子更衣室へ行かせることに注視するあまりに、己の行動を失念していたことだ。体重計のメモリの変更により体重が増えた=太ったと勘違いした女子生徒は皆、霧切を含めて運動をするために女子更衣室へ向かった。腐川に至っては女子会を断り、他人のプロテインを無断拝借し、本来は行動禁止の夜時間にプールへ行く始末だ。朝日奈も大神もセレスも行った。なのに、女子生徒で一人だけ行かなかった人物がいる。【超高校級のアイドル】という、外見には人一倍気を配る肩書を持っているにも拘らずにだ。」

 

 前日、あまり減らなかったお昼ご飯を思い出す。きっと、それは女子生徒が太ったことを気にして食事を制限していたからだろう。本日の捜査時間中、朝日奈くんは『身も心も凄く痩せたような気さえしてきちゃうなぁ』と呟き、セレスくんは『最も朝食なんて抜いたぐらいで丁度いいかもしれませんが』と言ってのけ、腐川くんは『アイツ等、どうせ私をブタとか言って笑うんだわ』とヒステリックに叫び、大神くんに至っては『詮索は止せ。乙女のポリシーの問題だ』と恥ずかしそうにしていた。そもそも昨日のプールに行かなかった不二咲くんは何も触れてはいなかったが、同じようにプールに行ったにも拘らず、そのことに触れなかった女子生徒が一人だけいた。答えは、この時から既に用意されていたのだ。

 

「何故、行かなかったのか。それは、貴様が体重計のメモリを変更したことを知っている、否、変更した張本人であり、この事件の【クロ】だからだ、【舞園さやか】!!」

 

十神くんが独壇場とばかりに舞園くんを指差す。彼は身を震わせながら感情の奔流をほんの少し舌の上に乗せると、そのまま一気に放出に掛かった。

 

「霧切は……奴は生前に【犯行をする上でのリスク】を述べていた。今まで人を殺したことが無いのに殺そうとする【度胸】、殺そうとしたところを逆に目標に【返り討ち】される危険性、まるで犯人ではないと言いたげに振舞い、閉幕するまでし続けなくてはならない【完璧な演技】、そして必要とされる【証拠の隠蔽】。貴様は【殺人罠】を仕掛けることで殺人へのハードルを上げ、心理的【度胸を軽減】、及び、犯行現場に居合わせないことで【返り討ちされる危険性を除外】し、ひたすらに悲しむ振りをして【余計な発言をしないよう己を律し】、捜査に関わりつつも【証拠の隠滅】を行った。加えて何よりも【探偵役を殺害することで犯人の特定をより困難にする】という根本的な解決方法を取って見せた。全く見事なものだ、【体重計のメモリ変更】と【電子生徒手帳の交換】という【たった二つの簡単なアクション】で貴様は殺人劇をやってのけたのだから」

 

 フン、と鼻で嗤う十神くんの勢いは止まらない。あんなに霧切くんとは衝突していたのに、いつの間に絆を積み上げていたのだろうか、とぼんやりと僕は思った。

 

「貴様は桑田から寄せられた好意を利用することで、奴を学級裁判時に反論させる小道具として利用した。可憐な少女を演じて【おべっか】を売ることで石丸も同じように利用する予定だったろうが、逆にあの石頭は捜査に奮起し、行かなくて済むはずだった更衣室に行くことになったうえ、【体重計のメモリを変更していた】ことがバレてしまうとは皮肉なものだな」

「十神くん。他人の褌で相撲を取るのは楽しいと思うけどさぁ、そろそろ投票に移ってもいい?」

 

 熱が入っていく十神くんとは対照的に、そのまま欠伸でもしそうな口調でモノクマが提案する。その落差に十神くんが辺りを見渡すなか、僕は緩々と立ち上がる。皆が口を挟まなかった理由は、きっと十神くんの話を静聴していたからではないだろう、と回らない頭でなんとなくそう思った。

 

 

 

58、

 

「さぁて、おったのしみの投票タイムだよ! 【クロ】だと思う人の名前のボタンを押してね!」

 

皆が手元のボタンを押していく。僕も亡霊のように【苗木君に守ってくれと頼まれた女子生徒の名前】を押した。遊園地のようのアトラクションのように楽し気にスロットマシーンは動き出し、見事、青髪の少女の顔で止まり、ファンファーレが鳴り響き、沢山のコインが出て来て、挙句の果てに華まで咲き乱れた。

 

「大正解!! 【クロ】は【超高校級のアイドル】の【舞園さやか】さんでした!! 【超高校級の探偵】もいないのに、よくやったねぇ! はなまるぴっぴ、あげちゃう!!」

 

ハナマルが書かれた幾つもの紙片が僕らの頭上へ降り注ぐ。だが、誰もそれを見ようとはしなかった。

 

『君に僕の【チカラ】をあげるよ。だから、どうか――』

 

 空虚に近付きつつある僕の脳裏に、苗木くんの笑顔が浮かぶ。

 舞園くんの方を見ることは、今の僕には到底出来そうにない。

苗木くんと結んだ約束の続きは途中で掻き消え、永遠に果たされない約束に僕は静かに瞼を落としたのだった。

 

 

…to be continued

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