ダンガンロンパ十周年記念小説【ifストーリー】第二章 乙女心☆ポリシーとプリテンダー★ボーイ   作:千葉 仁史

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エピローグ(これにて終わり!)

63、泥とダイアモンド

 

 兄弟が不二咲に泣きついている光景を【絶望的】な気分で見ていた――ただし、今朝とはまた違う【絶望感】で。

 

 今朝の午前二時過ぎのことだ。

 泣き疲れて寝入ってしまった石丸に服の裾を掴まれてしまって動けなくなった俺は、まんじりとした気分で彼奴の寝顔を見ていた。昨日、石丸は俺の手を掴み、共に秘密が書かれた用紙を焼却炉に燃やしに行き、真面目一辺倒で同級生との遊び方をろくに知らない彼奴は勉強会を考えて、全力で兄弟である俺を励まそうとしていた。その気持ちは本当に嬉しかった。救われた。だからこそ御礼を言った。秘密を知っても兄弟でいてくれ、とも言った。

 だが、彼奴は【超高校級の風紀委員】、つまり曲がったことが大嫌いの正義漢だ。男らしさの極致である【超高校級の暴走族】が、実は己の弱さで前総長である兄を死に至らしめた――【殺した】と知ったらどう思うだろうか。いくら兄弟でも許容できないだろう。いや、兄弟だけでない。【超高校級の暴走族】の【ポリシー】を一撃で粉砕する、この秘密。暴露されたら、もう俺は生きていけない。何故、モノクマは知っていたのか。いや、そんなことはどうでもいい。秘密をバラされたら、【超高校級の暴走族】として頂点に立ち、誰からも【男の中の男】と見なされていた俺の残りの人生は、他人に後ろ指を差され続けて終わるのだ。

 

(そんなの、耐えられる訳がねぇ!)

 

 秘密をバラされたくなきゃクラスメイトを殺せ、とモノクマは言った。運良く、目の前に【無防備に眠るクラスメイト】がいる。細くも無ければ、柔くもなさそうな彼の首に手を伸ばした瞬間、彼が「ううん」と唸った。起きたか? と危惧したが、彼は眠ったままだった。そこではじめて自分の息が荒くなっていることに気付き、指先も震えていることに気が付いた。震える指先から汗がひとつまみ、眠る彼奴の横顔の上に落ちる前に、爪が食い込むぐらいに拳を握り締める。

 

 駄目だ、と思った。

 

 桑田や山田だけでなく、女子生徒までが俺が気絶した石丸の面倒を看ることを知っている。つまり、此処で石丸を殺してもすぐに俺が【クロ】だと特定されてしまうのだ。霧切によって【学級裁判】で【クロ】だと特定されて【オシオキ】されてしまう。

 

 そこまで考えて、今此処で殺さない理由が【兄弟との友情】ではなく、【失敗する確率の高さ】で判断している己自身に吐き気がした。兄弟だって、クラスメイトの誰かを殺さなければ秘密を暴露されてしまう、俺と同じデスゲームの参加者だ。そんな同じ立場でありながら、兄弟は俺を気に掛けてくれている。ひたすら自分のことばかり考えている俺と他者を思いやれる石丸。これでは、泥とダイアモンドぐらいの差があるようではないだろうか?

 

(違う! きっと石丸の秘密は俺みたいに深刻じゃねぇんだ! バラされた瞬間、【超高校級の暴走族】としての【生】が絶たれてしまう俺とは、まるで状況が違う! 彼奴は俺と違って【余裕】があるんだ! そうだ! きっとそうに違いねぇ!!)

 

 俺は【超高校級の暴走族】の証である髪型の頭を掻き毟りながら、どうか誰かが俺以外の誰かを殺してくれないだろうか、と祈った。誰でもいいから、俺の【秘密】の為にクラスメイトの誰かを殺してくれないか、と強く望んだ。【超高校級の探偵】の霧切がいる限り、【クロ】に勝ち目は無いはずだ。そして、【学級裁判】で負けて【オシオキ】されて死ね、と思った。

 

 そうやって【超高校級の暴走族】として【生】と俺自身の【命】にしがみ付いているうちに、朝七時を迎えた。

 【超高校級の風紀委員】でありながら君に迷惑を掛けるとは、と余裕なく心から詫びる兄弟に、俺はまるで余裕があるように「気にするな」と声を掛けてから一人自室へ戻り、自室に戻るや否や、恐怖と【絶望感】のあまりみっともなくも叫び出さないように頭から布団を庇って怯えた。やっぱり事件を起こせば良かった、とも後悔した。

 

 天啓が訪れたのは、それから僅か十数分後のことだ。七時十七分、この時刻を俺は生涯忘れ得ないと思うぐらいの天啓だった。

 

『ピンポンパンポン! 死体が発見されました。一定の自由時間の後、学級裁判を行います』

 

 モノクマの軽快な声が殺人事件発生を伝える。その瞬間、俺は天を仰いで【クロ】に感謝した。あんなに怯えていたのが嘘のように心が晴れやかに澄み渡り、大声で笑った。笑って笑い過ぎて、涙すら出た。そうやって散々笑った後、石丸がノックしてきたから、欠伸をすることでその涙を誤魔化すのに苦労したぐらいだ。誤魔化せたが、寝ていて放送が聞こえなかった設定なのに、つい「誰か殺されたのか?」ではなく、「誰が殺されたんだ?」と聞いてしまったが、石丸が憔悴の余り気が付いてなかったようだったのが幸いだった。

 殺されたのが【探偵役】の霧切だと知った時は正直焦った。まずいな、と思った。殺人事件により俺の秘密の暴露は免れたが、このままでは命が無い。どうしようもない状況に顔を歪ませかけた。しかし、兄弟は「だからと言って諦める理由にはならない」と言い切った。そして、惚れた女こと舞園を守る為、【クロ】特定に頑張ろうとする兄弟を見て、俺も【クロ】特定に全力を尽くそうと、彼奴に手を貸してやろうと思った――そんな石丸を少しでも手に掛けようと思った俺の弱い心を握り潰しながら。

 

 だからこそ信じられなかった。

 俺らを助けるために惚れた女を糾弾し、追い詰める石丸の姿に。

 

「俺たちを助けるために惚れた女を追い込まざるを得なかった兄弟の気持ち、テメェみたいなクソには一生掛かっても理解できねぇよ。テメェなんざ、とっとと殺されちまえばいいんだ」

「大和田、今度は貴様が殺人犯になる番か? 俺は知っているんだぞ、貴様が殺人をできる非道な奴ってことな!!」

「……っ!! 失せろ、十神! 本当にぶち殺されたくなければな!!」

 

 そんな石丸を笑う十神を殴り飛ばしてやったが、返された台詞に言葉が出なかった。反応できる言葉が無い時に拳が先にでてしまうのが己の悪い癖だと分かっている。確かに俺は【秘密】を守る為に【誰かを殺してもいい】【誰か殺してくれ】と思った。だが、惚れた女のために奔走する兄弟を助けたいと思ったのも間違いなく俺の【本心】だ。

 

(嘘じゃねぇ、嘘じゃねぇが……)

 

 不二咲にしがみ付いて、顔から出すもの全部出して大泣きする石丸を見下ろす。

 石丸が石丸自身の秘密【石丸清多夏は最大最悪の汚職事件で総理大臣を失職した石丸寅之助の孫】であることを自ら暴露したとき、俺はその真意に気付かず、馬鹿正直に反応してドン引きしてしまった。誰かが呟いた通り、【超高校級の風紀委員】の癖して、とも思ってしまった。どうして、今この場で兄弟が暴露する必要がない秘密を急に告白しだしたのか、俺は考えもしなかったのだ。

 その暴露の真意に気付いたのは、不二咲が【自身が男であるのに女であると偽っていた】と己の秘密を曝け出したときだった。兄弟は、自身の秘密を口にすることで非難される標的(ターゲット)を舞園から己に移し替えたのだ。もう【オシオキ】が決まっていて、三百秒もしないうちに死ぬ女の心を護るために【超高校級の風紀委員】としての【ポリシー】を自らの手で握り潰したのだった。不二咲もそんな石丸の気持ちを察して、勇気を奮い起こして、あの小さな体で石丸をフォローしたのだ。

 

 では、石丸の兄弟と豪語する己は、いったい何をしたのか?

 

(俺の秘密は【兄の死】が絡んでいる。俺の秘密は【俺が殺人者であること】だ。彼奴等の秘密とはレベルが違う。そうだ、彼奴等とは違うんだ……っ!!)

 

 石丸が不二咲にしがみついて、わんわん泣いている。 その泣き顔は泥塗れのようだった。だが、涙はダイアモンドのように輝いていた。その【砕けないダイアモンド】が放つ【強い心】の光が、俺の惨めな【弱い心】を照らし出そうとしているような気さえしてくる。 【誰かの為に】弱い心も秘密も曝け出せる【強い心の持ち主】である二人を見ながら、そうではない俺は――大和田紋土は今朝とは違う絶望的な気持ちに襲われていた。

 

 

 

64、今度こそ

 

 泣き崩れる朝日奈を尻目に、山田を連れて学級裁判所を立ち去っていく。自身の顔が誰にも見られていないことをいいことに、私は声を出さずに笑った。

 

(思い出した! 思い出しましたわ! どうして今の今まで忘れていたのでしょうか! 【超高校級の探偵】も【超高校級の幸運】もいない今こそ絶好の好機! ……前回とは状況が異なりますが、舞園さんが死んで落ち込んでいる石丸くんを【また】狙うのも良いでしょうが、私と同じように【思い出している人物】を狙うのが勝率の為にもベストな選択になるでしょう。あんなにもベラベラと話すおかげで、誰が思い出しているのか、すぐに分かりましたわ。恐らく彼のことだから【前回】になぞって己は殺されないとタカをくくっているでしょうし、いざという時のボディーガードになりそうな【二重人格殺人鬼】も目を覚ましていない。これ以上ないチャンスを、この【超高校級のギャンブラー】こと、セレスティア=ルーテンベルクが逃す訳が無くってよ!)

 

 高笑いしたくなるのを抑えつつも、次の犯行計画を練りながら、成功報酬に舌鼓を打つ未来を手にするため、【今度こそ】と力強く歩き去っていった。

 

 

 

65、超高校級の○○の死

 

 翌日、三階のフロアが解放された。何があるのか全て知っていた俺は鼻で嗤いながら他のクラスメイトの様子を伺っていた。【超高校級の探偵】と【超高校級の希望】がいないのが痛いところだが、【黒幕】の正体も動機も理解している今、必要以上に恐れなくてもいいだろう、と判断する。

午前中に他のクラスメイトによる三階の探索は終わったようで、今こと午後の時間――午後四時に三階へ行くのは俺だけらしく、随分と静まり返っている。

舞園が起こした殺人事件により、【超高校級の野球選手】こと桑田は【女嫌い】になったらしく、女生徒に敵意を向けている。舞園に裏切られたのが随分と応えたらしい。【超高校級のスイマー】こと朝日奈もセレスから言われた【当然の正論】に傷付いたらしく、【超高校級の格闘家】こと大神さくらとしかつるまなくなっていた。

前回の【学級裁判】で舞園を絞首台へ追い詰めた張本人である【超高校級の風紀委員】こと石丸はあれから廃人状態になっていて、【前回】同様に静かだ。【超高校級のプログラマー】の不二咲千尋と【超高校級の暴走族】の大和田紋土が心配して常に一緒にいるようだから殺害するのは難しそうに思える。もしかすると不二咲千尋が【前回】のように――【今度】は舞園のアルターエゴを作り出して、【前回】と似たような展開になるかもしれないので、それは心に留めておくことにした。

 

(いや、そんなことに使うより、不二咲にはこの学園のセキュリティをハッキングすることに全力を尽くして貰わねば。だが、難点は大和田だ。石丸の近くにいる不二咲に近付こうにも大和田が威嚇するから、秘密裏に接触できん。【クロ候補】の癖して番犬気取りか、笑わせる)

 

臍で茶を沸かすとは正にこのことだな。そう結論付けながら簡単に三階をチェックする。【前回】と異なる点が無いことを確認した後、二階へ向かった。階段を下りながら、次は二階の男子トイレで捜査を、と手順を考えているときだった。

 

 後ろから衝撃があり、身体がふわっと宙に浮いた。

 

 声を出す間もなく、床に叩き付けられる。【誰かに階段から突き落とされた】のだ。強かに床へ強打したせいで上手く呼吸が出来ない。眼鏡が外れていないことを幸運に思いつつ、いったい誰なのか確認しようと、うつ伏せ状態から仰向け状態へ、身体を反転した瞬間だった。階段を駆け足で降りてきた【俺を突き落した犯人】が段差を利用して、そのまま飛び掛かるように俺の腹の上にマウントポジションとして乗る。あまりの衝撃と重さに、ぐふっと息が漏れた。貴様は……! と言う前に、その【犯人】は手に持っていた【金槌】を俺の顔面へと振り下ろした。

 

眼鏡のフレームが歪み、レンズの欠片が目に入った。痛みで声を上げたが、【犯人】は構わずに振り下ろし続けた。

 

(どうして、何故、俺が……っ!? 【前回】とまるで違うではないか! この【超高校級の財閥】である十神白夜が何も残せず、何も為せずに終えるなんてことが許される訳が――)

 

 十数回目の金槌が振り下ろされる。次の瞬間、全ての音と熱が遠ざかり、そして決して戻ってくることは無かった。

 

 

 

66、犯人の呟き

 

 十神白夜が動かなくなった。それでも念のために金槌を数回振り下ろしておく。高い鼻も折れ、金槌から顔を守ろうとした指も滅茶苦茶に折れ曲がり、顔なんて直視できないレベルで、やった本人が言うのもなんだが酷い有様だ。とりあえず立ち上がり、息を吐く。そして、汗で滑らないよう嵌めた白手袋の血が付いていない面でレンズに付いた血を拭い、【今度こそ】上手くいくように、と改めて決意した。

 

 

 

67、次回予告

 

やぁ! みんなが大好きなモノクマ劇場だよ!

デ・デ・ディスプレイを見るときは部屋明るくして離れて見てね♪

 

『あ……ありのまま、今起こった事を話すよ! ボクは三階のフロアを開放して、翌日には動機の提示をしようと思っていたら、もう殺人が起きていたんだ。な……何を言っているのか……分からないと思うけど、ボクも何が起きたのか分からなかった……頭がどうにかなりそうだったよ……やる気あり過ぎとか早すぎとか、そんなチャチなもんじゃあ断じて無いね。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったよ……!』

 

 

 

68、会話

 

「……」

「どうしたの? 黙りこくっちゃって」

「いや、こんな話だったっけ? って思って」

「長い間放っておいたからバグっちゃったんじゃないの? 一度、電源オフしてみたら?」

「それもそうだね」

 

 

 

69、電源オフ

 

 

おわり

 

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