ダンガンロンパ十周年記念小説【ifストーリー】第二章 乙女心☆ポリシーとプリテンダー★ボーイ   作:千葉 仁史

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裁判パート②

53、喧々囂々~学級裁判は踊る、されど進まず?~

 

「おい。とりあえず、今朝の行動を教えろ、容疑者の女子共」

 

 守らなければいけない女子生徒の中に霧切くんを殺害した【クロ】がいる。そんな間違いようのない事実にフリーズする僕を余所に、十神くんが声を上げる。容疑者から外れて【シロ】が確定し、【クロ】を追求する側へシフトした十神くんの声は何処かウキウキとしていて、それは容疑者が絞り込めた時点で悪くなりつつあった雰囲気を更に悪くするものであった。

 

「昨夜の【女子会】の後、僕たちはそのまま【朝日奈さんの部屋】で一晩を過ごしたよ。朝は【七時前】ぐらいに皆が自然と起き始めたからつられるようにして目が覚めて、僕は部屋を貸してくれた朝日奈さんにお礼を言って、少しお話した後で自分の部屋へ戻ったんだ」

 

 震える声で話し始めたのは不二咲くんだった。容疑者枠に含まれてしまった彼女は可哀想なぐらいに震えていて、僕は到底彼女が犯人とは思えなかった。

 

「私も【七時前】に目が覚めましたわ。【電子生徒手帳】には【サイレンス】かつ【バイブレーション機能】で【アラーム】を掛けることが出来ますので。本当は早く自室へ戻りたかったのですが、舞園さんと話し掛けられて、少し遅れて部屋に戻りました。そういえば、私が朝日奈さんの部屋を出るとき、既に霧切さんはいませんでしたね」

 

 不二咲くんとは打って変わって冷静に受け答えしたのはセレスくんだった。お腹の前で両手を合わせて、凛として佇む彼女が犯人とは、僕は到底思えない。

 

「わ、私は皆さんが起き始めたので、自然に起きました。恐らく【七時前】だったと思います。明るい部屋の中で見ると、セレスさんのパジャマの柄が改めて可愛らしかったので、ついつい引き留めてお話してしまいました。その後は、身嗜みを整えたいので自室へ戻って【朝食時間の八時】まで自室にいる予定でした」

 

 まるで交互になるように、舞園くんが恐る恐ると話し出す。震える身体を両手で抑え込むようにしつつも語る彼女が犯人だなんて、僕は到底思うことができない。

 

「我も【七時前】に目が覚め、朝日奈を起こした。格闘家たる者、望んだ時刻に目を覚ますことなど朝飯前だ。頼まれていたとはいえ、寝起きの悪い朝日奈を起こすのは苦労したが、どうにか起こし終え、朝日奈の隣で不二咲の礼の言葉を聞いた。セレスの言う通り、最初に【朝日奈の部屋を出たのは霧切】であった。不二咲に続くようにして、セレスと舞園が部屋を出たので、戸締りがある故、我と朝日奈は最後に部屋を出た」

 

 平生通りに堂々と話すのは大神くんだ。体の前で腕を組み、黒いシミなんて一滴もないと語る彼女が犯人のようには、僕は到底考えられなかった。

 

「私はさくらちゃんに起こされて【七時前】に目が覚めたよ。でも、もしかすると、少しは過ぎていたかもしれない。霧切ちゃんが『もう七時よ、朝日奈さん。私は先に自室に戻るから。昨夜はありがとう』と言って、私の側を通り過ぎて部屋を出て行ったから。でも、この会話が霧切ちゃんと話した最期になるなんて」

 

 まだ本調子ではないのだろう。それでもしっかりと証言する朝日奈くんがあまりにも健気で、僕は彼女が犯人とは到底考えることができない。

 

「じょ、【女子会】なんてものに私は参加しなかったから【死体発見のアナウンスが流れるまで自室で寝ていた】わ。あの放送、音が大きいから嫌でも目が覚めるのよ。こっちは疲れているから、もっと寝ていたかったのに」

 

 女子生徒の最後の一人こと腐川くんが少し不満げに喋る。神経質な彼女は相変わらず爪の先を齧っていて、そんな風に不安定な気持ちを紛らわそうとする腐川くんが犯人だなんて、僕は到底考えることができなかった。

 

「つまり、今朝【朝日奈の部屋を出て行った順番】は【一番最初は霧切、少し時間が開いて、不二咲→セレスと舞園→大神と朝日奈】という訳か」

 

 鼻で笑うような仕草を醸しつつ、十神くんが女子生徒の証言を整理整頓する。十神くんも大神くんと同じように体の前で腕を組んでいたが、彼女のような威風堂々さは無く、所詮は人を上から見下ろすようなものでしかなかった。

 僕は【守るべき女子生徒の中に犯人がいる】という事実に打ちひしがれていたが、少しでも自分の常を取り戻そうと、ペン先だけは動かしていた。さくら色の小さなノートに書かれた文字は以前に書かれた文字と異なっていて、少しよれていたのが我ながら情けない。

 しかし、僕に悄然としている間は無かった。あの十神くんがとんでもないことを言い出したからだ。

 

「よくよく考えれば、今回の事件は【罠トラップ殺人】だ。今朝の行動の証言なんて、どうでも良かったな。どうせ、【クロ】は舞園か、セレスのどちらかに決まっている」

 

 十神くんの発言に円形裁判所にいた皆がどよめいた。特に名指しされた二人の女子生徒は絶句していて、目を大きく見開いていた。

 

「はぁ!? なに急に訳の分かんねぇことをいってんだよ!? 舞園ちゃんが犯人とか、有り得ねぇだろが!」

「そうですとも! ぼくのうさぎさんがそんなことをする訳がありまちぇん!!」

 

 そんな女子生徒二人の代わりとばかりに、桑田くんと山田くんが顔を真っ赤にして反論する。山田くんに関しては必死になる余り舌が縺れる程だったというのに、十神くんは皮肉だと言わんばかりに小さくけらけらと笑うだけであった。

 

「随分とはっきりと断言しやがる。なにか理由でもあるのかよ?」

「この二人には【いざとなれば、人を殺すことが出来る程の浅ましい心】があるからだ。今回は女子生徒が容疑者だからな、この二人以外にあるまい。最も逆に【前回】みたいに【クロ】が男子生徒に絞られた場合、俺は遠慮なく貴様を指名していたがな」

「テメェ!!」

「よせ、大和田。今はそれどころではない」

「財閥眼鏡のくそったれめ!!」

 

 大神くんからが制止するが、大和田くんが構わずに傍聴席にも似た柵をあの大きな拳で大きく叩く。すると、それが号砲であったかのように次々に皆の口から発言が弾丸ダンガンの雨の如く発せられた。

 

 ほぼほぼ言い掛かり同然の十神くんの言葉に「そんな……っ! 十神くん、酷いです」と舞園くんは泣き崩れ、桑田くんが弁護しようとする余りに「アホアホアホアホアホ!! 舞園ちゃんな訳ねぇだろ! 性悪なセレスならともかくよ!」と口を滑らすものだから、セレスくんが「人が黙って聞いてれば、好き勝手に喋りやがって、この腐れブタ共が! この私が【クロ】な訳ないだろうが!!」と烈火の如く暴言を撒き散らし、山田くんが額に掻いた汗を拭きもせずに「セレス殿! そのような発言をしては尚更疑われてしまいますぞ!」と必死に宥めの声を掛け、腐川くんが頭を掻き毟りながら「【超高校生級】と謳われようが、私たちに探偵の真似事なんて出来る訳なかったのよ! もう終わりよ、絶望的だわ!! どうせ【クロ】以外、みんな【オシオキ】されちゃうのよ!!」とヒステリックに叫んだことで不二咲くんにも伝染してしまい、不二咲くんが「オ、【オシオキ】!? あ、あんな残虐な方法で僕たち殺されちゃうの? 僕、まだ死にたくないよぉ」と泣き出し、朝日奈くんが慰めようとするが「不二咲ちゃん、泣かないで。……私も、私もまだ死にたくないのに」と涙と共に弱音を吐き出し、大神くんが二人を心配気な眼差しで見詰めるが言葉が出ないようで静かに「うぬぅ」と唸ることしか出来ず、再三に渡って「舞園かセレスのどちらかが【クロ】に決まっている!」と訴える十神くんに対して大和田くんが「大した理由も無い癖にいい加減にしろよ、この腐れ財閥眼鏡が!!」と怒鳴り散らし、モノクマは「あーあ! 弁論できる準備をしないから、最終的に【クロ】が思い付かないので【嫌いな奴に投票しましょう】なんていう、まるでクラスの美化委員を決めるようなことになっちゃうんだよ」と呆れ返って嗤っている。

 

「第一、【女子生徒はよく集団で行動するのに、何故、ピンポイントで霧切殿一人だけを狙えたのでしょうか?】 もし、昨日みたいに女子生徒六人でプールに行って、霧切殿が代表して、知らずに苗木殿の電子生徒手帳で女子更衣室の扉を開けようとしてしまったら、その場にいた女子生徒六人が皆マシンガンでやられてしまうことになりますぞ!」

「その通りですわ! 【クロ】が殺害できるのは二人だけで、それ以上の場合、【クロ】も【オシオキ】されてしまうルールです。こんな愚かしい軽率な真似、このセレスティア=ルーテンベルグ、【超高校生級のギャンブラー】の【ポリシー】に則って、決して乗ったりは致しませんわ」

「じゃあ、誰なんだよ!? いったい、誰が犯人なんだよ!? それが分からねぇと、【クロ】以外の俺たちは皆【オシオキ】されちまうんだぞ!!」

「聞け、プランクトン共! セレスか、舞園のどちらかに絞って投票すれば二分の一で当たるはずだ!」

「十神のクソボケカスが!! まだそんな寝惚けたことを言ってんのかよ! 舞園ちゃんは【クロ】じゃねぇ! 俺が、この俺が【男のポリシー】で舞園ちゃんを守るんだ!!」

 

 山田くんが【この事件を紐解くための最大の疑問点】を吐き出し、セレスくんが同調するが、答えではないため、大和田くんが大声で質問をぶつけてくる。十神くんはまだ二人の女子生徒に拘っていて、桑田くんが目を血走らせながら反論している。腐川くんはヒステリックが最高潮に達したようで言葉にならない声で泣き叫んでおり、舞園くんと朝日奈くんと不二咲くんは泣き崩れ、大神くんも額に幾度も汗を流しながらも悩み抜いているようだった。

 

 セレスくん、舞園くん、腐川くん、朝日奈くん、不二咲くん、大神くん。

 死に際の苗木くんと交わした【女子生徒を守り抜く】という【男の約束】。

 その守るべき対象の女子生徒の中に霧切くんを殺害した【クロ】がいる。

 間違いなく【存在している】。

 

 僕は必死になって、さくら色の小さなノートを捲った。汗が額から流れ落ち、何度も飲んでしまったが、気にせずに捲り続けた。

 

 掌に苗木くんの消えつつある体温が甦る。

 瞼の裏に霧切くんの去り際の笑顔が甦る。

 

 捲り過ぎるあまりに【最後のページ】に行き当たってしまった。このページには【学級裁判】の後に【超高校生級の風紀委員】として為したいことが書かれてあるだけで、今は何の意味も持たない。学級裁判の後なんて、もう存在しないかもしれないのに。それでも、最期に【超高校生級のポリシー】に縋るようにして最後の一文を見た。もう、これしか僕の内にしか残っていない、と言わんばかりに。

 

 途端、僕の脳裏に苗木くんと約束を交わしてから以降の総てのことがフラッシュバックする。

 白くスパークした脳内は次第に真っ黒に塗り潰された。

 

「うぷぷぷぷ。石丸くん、【クロ】が分からないあまりに絶望しちゃった?」

 

 最初に落ちたのはペンだった。次に落ちたのはさくら色の小さなノートで、最後に僕まで崩れ落ちてしまった。それを見たモノクマがさも嬉しそうに嗤う。それに対し、僕は静かに「ああ、そうだ」と頷いた。だけれども「だが、少し違う」と続けた。震える指先でペンとさくら色の小さなノートを拾い上げる。何処にも縋らないで僕は証言台にも似た席に立ち上がる。兄弟、と心配気な大和田くんの声が聞こえた。大丈夫だから、とは言えなかった。瞼を一度落とし、見えないチカラでこじ開けるようにして瞼と共に口を開いた。涙は出なかった。泣くには、まだ早い。

 

 

 

54、それは絶望にも似た

 

「【クロ】が分かったんだ」

 

 ここまで来たら、分かるわね?

 この瞬間、一度も聞いたことのないはずの彼女の台詞が僕の鼓膜を幻影の如く叩いたのだった。

 

 

 

…to be continued

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