「俺はスレッタ・マーキュリーに──進めていないっ!」
怖かった。心臓が拍動を止めそうなほど冷たかった。
テロリストの隙を突いてデルスターを奪うまでは、俺のMS操縦技術があればと誤解していた。そしてプラント・クエタに向かいスラスターを吹かして暫くした後、どこかの誰かのMSが爆発したのを見て──俺は震え上がった。漸く目覚めたんだ。──ここでは死ぬ事があるって。
終わるんだ、死んだら何もかも終わるんだ。あの爆発を自分がやらかしたら俺は死ぬ。散々フィクションで見て来て戦場で泣き言とは……と鼻で笑っていた俺だった。何体もの挑戦を受け決闘で血祭りにあげて来た俺だった。それで増長していた哀れな子供だった。
そして今、死神に心臓を握り潰される様な痛みを感じて小便と涙を垂れ流し操縦桿にしがみつく俺は、フィクションの中で俺に鼻で笑われた主人公より圧倒的に哀れで幼いガキだった。無意識の内に指がトリガーを引き無駄玉を虚空にばら撒く無能なガキ。
何者かに撃たれて破茶滅茶な空間機動をする。誓って言うが意図したものじゃない。ただ単にビックリして、恐ろしくて、慌てて……そして混乱してランダムに動いただけだった。側から見たら教本通りのランダム機動に見えただろうが、恐怖に囚われた俺は発狂したかの様に操縦桿を動かして、俺はグエルだ、グエル・ジェタークだ、助けてくれとオープンチャネルで喚き散らす虫みたいなものだ。
「グエル……グエルなのか!」
その声を聞いた時、母さんと母さん2号が出て行ったあの日の夕焼けを何故か思い出した。俺がラウダと真の兄弟になり……
今思い出すと、父さんは俺たちと親友になりたかったのかもしれない。
大きな背中だった。俺はあの頃見た父さんの背中を思い出して思わず叫んだ。「父さん! お父さん! 助けて!」
「馬鹿者が、なんでこんな所に……探したんだぞ」
「父さん、父さん!」
「しっかりしろグエル。戦場では……」ここでビームが飛来した。良く良く考えればテロリストの機体とジェタークの機体がIFF(identification friend or foe 敵味方識別装置)で重なって見える訳だ。友軍機からは格闘戦している様に見えたんだろう。この時の俺はそんな事も分からない程に混乱していた。「父さん! 父さん! 味方が撃って来る!」
「俺の機体の後ろに隠れろグエル! お前の機体が……」テロリストの機体だからと言いたかったのだろう。
俺を守る為に、父さんは友軍機にライフルを向け、撃った。父さんは偶にこういう事をする。家族を守る為なら家族以外を敵に回す事を厭わない。
「俺の息子に銃を向けるとは……命知らずがっ!」
冷静に考える事が出来る今なら分かる。その攻撃で友軍機判定が外れたのだろう。IFFは俺のデルスターも、父さんのディランザも敵と判定して即座に応射した。ディランザが友軍判定だったから
ウチのディランザは優秀だ。その一撃はプラント防衛隊の機体を一撃で粉砕した。そして敵機はディランザの装甲を貫けない。
「父さん! 父さん! 大丈夫か父さん!」
「将来お前たちが乗る事考えて、非常識なまでの重装甲にしておいたのが生きたな。命拾いしたわ。もう大丈夫だグエル、この悪が
パチっと空電ノイズの様な音がした。
父さんのディランザが俺のデルスターを突き飛ばした様な気がした。
そしてディランザは花火の様に爆散して、デルスターは爆発の余波でその機能を停止した。
「……父さん……お父さん…………おとおおおおぉあああああっ!」
俺は産まれたての赤子の様に絶叫し、泣いた。父さんは最後までこのバカ息子を護り無駄に死んだ。
「俺の敵は俺が決める。例え友軍機でも俺が敵と認めたら敵だ。立ち塞がるならば俺は躊躇わず撃つ。FCSのフレンドファイア防止機能は外せ。
何をゴネている? 俺は立ち塞がる者は撃つと宣言した筈だぞ?(かちゃっと銃口を向け、流れる様な手捌きでセーフティを外す)
お前以外にもメカニックは居るからなぁ(優しい顔)」
オープンチャネルのグエルの無線を聞いたオルコットは、ガンド腕を軽く摩った。息子の最後の姿が脳裏を
「ナジ、グエル・ジェタークを捕縛する」
「デリングの始末に失敗した。別に行きがけの駄賃で殺しても構わんぞ」
「……交渉材料や人質にできるかもしらん」
ナジはまた悪い癖が出たなと呆れた。今お前、そいつを助ける為に理由を探したよな?
「まぁ、そうでもなきゃ……」その先は言葉にならなかった。
そうでもなきゃ、ドミニコス辞めてテロ屋に転職したりはしない、か。
テロ屋というのは、青汁の様な青臭さを煮詰めた奴しか成れないらしい。不味くて苦い稼業だ。
タヌキもウサギも穴掘って住むからなぁ。