奈落の国のグエル   作:PureFighter00

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月面からおさらばする日の朝から始まる。

はい、バントライン来ましたー(棒)


サボテンは踊るのをやめた 後編

「今日出かけるぞー、社長に挨拶しとけー」

「ほい、おニューの身分証。ダブルピースじゃない写真も用意してくれよ……」

「ソフィ・スミス……変なの?」

「ノレア・バントライン?」

「俺はオルコット・スミス」

「そして俺がナジ・バントライン!」

「何よ、バントラインって?」

「え? しらねぇの?」

「バントライン・スペシャル! コルト・シングルアクション・アーミーの12インチバレルモデルだ、かのワイアット・アープも使ったって言うなぁ……」

「ナジ、こいつらは西部劇なんかみねぇよ」

「何、揺動やるの?」

「ちょいとサボちゃんにも働いて貰おう」

「何したの?」

「C4詰めた」

 

 

【C4】

名探偵コナンでお馴染みプラスチック爆弾。パーメット採掘で沸く月面採掘屋界隈ではありふれた爆薬であり、それ故に扱いが「厳密に行われている事になっているが」ザル管理。帳簿上だけカッチリしてるなんてどこの業界でも……(涙)

まぁ、雷管だけは本気でヤバいので鉄壁管理なんですが。こちらはきちんと闇ルートで売買されている。

 

 

「へ?」バン、と手を叩くがサボテンはもう踊らない。

 

「電池のとこに詰めてある。悪いがサボちゃんとはここでお別れだ」

「……嘘でしょ?」ぱんぱんぱんぱん♪

サボテンはもう、動かない。

「流石に死臭は中々抜けねぇなぁ。そいつは怪しまれる」

「今すぐ洗うから、ちゃんと良い匂いにするから! 爆破ならあのウドの大木のケツにマイト仕込めばいーじゃんよぉ!」

「あいつには巨乳2つ分の貸しがある。回収するまで殺せない」

「やだよ、久しぶりの私のものなんだよ! もう私何にも無いんだ! 増やしたいんだよ! ねぇ、ナジ! 私……私……」

「変なものが好きなのは知ってたが、ぬいぐるみじゃなくてもイケたのか……お前案外ストライクゾーン広いな……」

「ナジ……そうじゃなくて……」

「駅の反対側のエロ映画館あったろ、昼にあそこ爆破してポリをそっちに集める。サボちゃんはそこでお陀仏って流れだ」

「やだよぉ、返してよ! なんでくれたのに奪うんだよ! じゃあ渡すなよ! なんで与えてから奪うんだよ! ナジぃ! 殺すぞ!」

「ソフィ……」(ぷち)

「ノ……ノレ……」

「また筋弛緩剤か。それ下手すると死ぬんだぞ」

「オルコットは娘さん背負って行って。私が爆弾置いてくる」

「すまんな……頼むぞ」

「30分頂戴。ちょっと準備してくる」

 

 

「何買って来たんだよ……リュックに詰めるようなモンなんて無いだろう?」

「私にも大切なモノが出来たってワケ。C4詰めたら殺すよ」

「すぐ殺す殺すって……お父さん悲しいっ!」

「……少しはさぁ……」ノレアは盗んできたスクーターのモーターに火を入れた。「好かれる事してみたら? その内本当に殺されるよ、ナジ」

「そんときゃ可哀想だが、死ぬのはソフィだ」

「ったく、愛溢れる優しいお父さんやお母さんが欲しいだけの人生だったわ」

「お前がそんな親になるんだな。俺はゴメンだ。もう子供にクビ狙われるのはオコトワリ!」

 

つくづく、どうしようもない連中だった。

 

 

ふーふーん♪ ふーふーん♪

ふふふふふ〜ん♪

ふっふふふふっふふーん♪

ガサゴソとリュックの中からマスクを取り出しノレアが被る。黄色と黒のストライプ。外周に白いフサフサ。猛虎魂の顕現たる虎の顔。

「……白いーマットのー、じゃーんぐーるーにー♪」

ノレアは、孤児が孤児の為に戦うこのヒーローが好きだった。最後に無情にも死んでしまうのが許せなかったが……

「行け、行け、ノレアー(ノレア〜) ノーレアマースークー♪」

 

ポリスはノレアマスクを見て良しとした。被り物してるだけえらい。シラフで運転してるみたいだから更にえらい。飲酒、ノーヘル、スピード違反が跋扈するこの月面では、とりあえず他人に迷惑をかけないライダーは優良だった。変なコスプレも全身バッタ人間やバイクがザボーガーに比べたらマスクだけな点で控えめと言える。

 

絶好のテロ日和だ。

 

 

ポルノ映画館はアドステラ122年だと言うのに往時の日活臭が抜けていない。と、言うよりも日活臭さがコンテンツとして一つのジャンルになってしまったのだ。女教師、団地妻(ノレアは団地というシステムすら知らない)、若妻昼のよろめき……よろめきって、何だ?

 

ノレアは放映中の映画ポスター(流石にデジタルサイネージ化している)の前にバイクを置き、マスク姿のまま某TikT⚪︎kじみたダンスを披露して撮影する。色々と規制が進んだこの界隈では、撮影主体が肌を晒さねばOKというルールが敷かれており、裸のポスターや背景の動画は特に規制対象ではなく、一部配信者はこれを逆手に取りいかがわしい場所で動画撮影を行うのである。周りの人間も特に疑問に思ったりしない。

 

一通り撮影が終わると、ノレアはぬいぐるみの頭を撫でてこう告げる。

「ヴァルハラで会おう。いずれ私もそこに行く」

ぬいぐるみは、踊らなかった。

 

 

「首尾は?」

「上々、あと10分」

「改札入るか」

「サボちゃん……」

「はいよ」レノアはジップロックに入ったサボテンをリュックから出した。

「──負圧になると膨らむから、空気よく抜いといてね。臭いが漏れるよ」

「……サボちゃん!」ソフィは目を輝かせる。

「アレはどうした?」

「畜ペンに移し替えた」

 

 

【畜ペン】

畜生ペンギンの略。ただし彼はヤクルトさんちの燕である。

 

 

 

畜ペンのヘルメットが空高く舞い上がる音を聴きながら、一行は軌道エレベーターに向かった。

 




結局旅のどこかでソフィはサボちゃんをなくすのだが、その時は「うっかりしてた」で済ますので、ノレアはソフィの琴線がどうなっているのか測りかねている。
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