奈落の国のグエル   作:PureFighter00

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その塔はシンガポール沖、インドネシアとかつて呼ばれていた国の領海上に浮かぶアイラーヴァタという名の人工島の上に「浮かんでいる」


海賊大作戦

「一つだけ良いことを教えておこう。この辺りは昔オックスアースって会社があって、結構な割合の人間がそこの関係企業で働いてたんだ。そのありがたーい会社を企業行政法とやらで解体したのが、ジェターク・ヘビー・マシーナリーって会社でな……この会社はこの辺では悪鬼の様に嫌われてる。うっかり俺たちとはぐれて警察に行き、本名名乗ると何故かお前は脳天に穴が空く奇病で死ぬからはぐれるなよ」

若干の誇張は入っているが、概ねナジの解説は正しい。後処理が大変だから締め殺されて魚の餌にされる程度の違いだ。

 

中国系企業が開発を開始したアジア圏第一軌道エレベータは建築開始から10年ほどで建築好況に湧くシンガポール主導に切り替わり、更に5年後に建築用MS最大手のインド・オックスアース、中国系ゼネコンCRECG、インドネシア財閥アストラ・インターナショナルを主管とする企業合同体……ちょこちょこ資本や技術が入れ替わり、何だかよく分からないカオスの様な状態で開通から100年、訳のわからない運営を続けていた。どこが頭かわからない……他地域からはウロボロスと馬鹿にされている。

まぁ、つまり複雑怪奇な利権構造にして利益を中抜きしている経済マフィアが暗躍しているのだが。それ故にホワイト極まりない企業「以外」はこのインド神話モチーフのレリーフに彩られた軌道エレベータを愛用している。大抵の無理は金で解決出来るし、金で解決出来ない問題は暴力で解決できる。規則だなんだとうるさく無い、大変交渉しがいのある組織なのだ。

「……で、今回は? シャブを漁船で日本海までとかもう勘弁してよ」

あれは最悪だった。ヤクザやお小遣い稼ぎに精を出す某華の国の沿岸警備隊に散々追い回され、日本海ではカミカゼに吹かれて本当に往生した。

「今回は楽だぞ。タンカー奪取して上海だ。大船に乗った気持ちでいてくれ! タンカーはいいぞぉ! 船内設備充実! 揺れも少ない! 俺も中東で……」

「ケナンジじゃないけど、悪い予感するんだよなぁ……」浮かれるナジを眺めつつ、オルコットだけは不安を感じていた。

 

「でさぁ、何でオイルタンカーにMSが積んであるワケ?」

原油なら、まぁそんなに……と思っていたのに、積まれていたのはMS、つまり兵器だった。もちろん兵器密輸は特大級の犯罪だし、搭載MSが24機というのは対艦ミサイルをしこたま喰らっても文句が言えない。

「そりゃあ……欲しい人が居るからだろう……俺たちの実力を高く評価して頂いたというか、何と言うか……」

「護衛で使えるMSがフォブラーのホズラー、ホズラーだよ? 5年落ちの! ルブリスとは言わないけどハインドリーやディランザ、せめて……」

 

ホズラーを馬鹿にするな(怒)

 

「無理だよノレア。スペーシアンのMSなんか使ってたら余計にアーシアンを怒らせちまう。フォブラーだって純アーシアン企業じゃないからまずいと言えば不味い」

「叩いちゃえばいいじゃん!」

「行政単位を相手しようとしなさんな。数が違い過ぎる」

「臨検さえ喰らわなきゃ平気平気。寄港予定無いし」

「……なら、何で外様の俺たちに運ばせるんだ? ナジ」

そう、そこが問題だ。

 

「そもそもの行き先はシベリア自治区、か……」

「それを強奪して上海に届ける。華の国ってシベリアと揉めてたっけ?」

「対モンゴルで敵の敵は味方だった様な……?」

「──シベリアと揉めてるの、北海道じゃなかった?」

「運び屋の俺たちには関係の無い話だろ。運んで金貰ってお終いよ」

ソフィとボブはカレーを食っている。奪取するその時までは単なる客だ。船員からは裏ルートの密航客として認識されている。カレーはなんて美味いんだ。

「何か臭うな……」

オルコットは福神漬けを山盛りにしてカレーを口にした。

 

 

上海近くの公海上、本来はここで船を制圧するポイントで、ナジ達は一切動かなかった。

「どう言う事かな、ナジ大人(ターレン)?」

「何か変かな?」

「あなた、ここで船奪う筈。何のんびりしてる?」

「え、だってそれを理由にこっち撃ったり捕縛するつもりでしょ?」

「なぜしてる! どこから嗅ぎつけた!」

「金曜カレー」

「なんでよ!?」

「あれ、日系海軍の習慣で他には無い。あとカレーに牛肉入れてたろ? なんでヒンズーやイスラムの宗教混合地帯から出る船がトリや羊肉を使わないんだい?」

「乗組員は全員とは言わないが軍属。目的は俺たちフォルドの夜明けをスペーシアンに売って貸しを作る事……この企みにシベリア自治区も乗った、そう言う筋書きなんだろ?」

ナジ達の部屋の小さな窓からホズラーの可愛いお目目が中を窺う。

「ホズラーは貰っとくぜ」

「いい機体だなぁ、ほんと」

ノレアのホズラーが壁を切り裂く。「ナジー手に乗ってー」

「最高のクルーズだった。ビーフカレー美味かったよ。お国は中東?」

「ワタシ違うよ!」

「……そうなの? 一言も(ウェイ)と言わずにペルシャ語訛りが抜けない中国人?」

「回族かな?(すっとぼけ)」

「シルクロードにでも行くんだな。良いぞシルクロードは……逃走経路に最適なんだ!」

 

ノレアのホズラーが救命ボートを下ろして曳航する。いやぁ、ホズラーはいい機体だ。面構えが違うわ。

 

行け行け僕らのホズラーくん!

負けるな僕らのホズラーくん!

 

フォルドの夜明けご一行様は手のひらをくるくるひっくり返してホズラーを讃えた。自動操縦で上海の港湾施設に突っ込ませ、慌てて消火、避難、略奪、喧嘩と爆竹の様に混乱が発生する。その騒ぎに乗じて彼らは上陸を果たした。

 

さらばだ僕らのホズラーくん!

さらば、さらばだホズラーくん!




ホズラーくんを讃える回
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