奈落の国のグエル   作:PureFighter00

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サーカスの子供

「ガキはコマんだよね」

サーカスの男、イワンは真顔でこう告げた。

「どしてよ? お宅子供多数いる。木を隠すなら……」

「いやぁ、人身売買と嗅ぎつけられて全部売っぱらってきた。今また子供は不味い」

「一応2人は俺たちの娘って事にしてあるが?」ナジは少しだけ焦った。ガンダムへの生贄を今失うのは不味い。テロ屋としてのご商売に関わる──

「誰がどう見ても悪党と情夫か、奴隷の類だろう。俺の中東方面顧客にあんたそっくりな奴がいたよ。花嫁だと言い張っていたがね」

「……イ……インシャラー(神の御心のままに)……」

「ナジ? 何それ?」

「せめて芸人と言い張れるだけの仕事が出来ればな……」

「──それだけで、いいの?」

 

 

「ひゃーーっほぅーーっ!」

恐らく読者の5割以上が想定していたであろう。ソフィは空中ブランコを難なくこなした。

「怖く無いのかよ?」

「紐ついてるし、落ちてもネットがあるし!」

「それでも死ぬ時は死ぬぜ?」

「死ぬ時は何しても死ぬんだから悩むだけむだー☆ ほら、戻して!」

「……キャッキャしとるな」

「ナジ、あの子何よ?」

「ちょっと、こー……頭がな……」

 

ガンダム乗りは自分の手足の様にMSを操る事ができる。それはつまり運動能力が低いものはその機動性を活かせないと言う事にも繋がるし、身体操作能力が低いものがガンダムのアシストを用いて「無理な身体操作」をしようとすると──データストームの反動はより大きくなる。

ソフィは仲間の中でもとりわけ身体能力──運動神経がいい。戦乱が無ければ体操種目などでオリンピック強化選手枠に入ることさえ出来ただろう。ただ、それは彼女が戦乱から遠い場所で生まれ、環境に恵まれたらの話だ。戦場では身体能力に優れたものは前線に立つ。

 

 

「ちゃんと避けなさいよ」

「……何故俺が……」

「クマやライオンと格闘したく無いって言ったのお前だろ?」

「無芸なお前に出来るのは的になることぐらいだ」

「──まと……?」

ノレアの投げナイフが鋭くグエルの眉間に向かって飛ぶ!

「!」グエルの眉間があった位置に深々とナイフが刺さる。

「──当てたらダメだぞ」

「大丈夫だ。ノレアは投げナイフは達人級だから、避けられれば当たらない」

「……避けられるのは癪だけどね」

「避けられないとどうなるよ?」イワンは少し困った顔をしている。

「……ナイフが刺さる、それが何か?」

「それは、困るんだ。いや本当に。当てないでくれるか?」

「……外したら、反撃される」

「は、反撃ぃ?」

「敵より早く、何よりも早く」ドスっ

「武器は非力な者が強者を倒すのに必要なもの」ドスドスっ!

「ナイフを持てば子供でも多少は有利に」ドスドスっ!!

「銃でもあれば更に優位に!!」ドスン!!

「──なんで私たちは同じ武器が持てないのかしらね」

ノレアはそっぽを向いて歩き出した。グエルが安堵したその瞬間!

ドスっ

「──勘はいいのね」

「おー、大したもんだ」

「不意でも突かないと当たらないモンだが、不意を突かれても避けたか」ナジはニヤリと笑う。悪い癖だ。敵でも味方でもナジは優秀な戦士に目がない。

 

 

「さあって! 行くよノレア!」

「バランス取るのよ?」

「分かってまーす!」

綱渡り。大体そろりそろりと歩いて渡るものだが、ソフィはロープの上を全力で駆けた。重心を左右にも上下にもぶらさない……まるで獲物を追う猫だ。

「凄いは凄いが……スリルは無いかな……」

「スリル足そうか? ノレア、ゆっくりでいいから反対側から歩けるか?」

「出来るわけないでしょ、ソフィでもあるまいし」

「オーソドックスなロープ渡りなら出来るか?」

「当たり前でしょ!」

「ならそれでいい。ソフィ、ロープの真ん中でノレア飛び越えろ!」

「アイコピー! らっくしょう☆」

スルスルと身体を伏せた姿勢でノレアがロープを渡る。それはそれで見事な技術だ。サーカス的では無いが普通兵隊がやるのはこの方式。それをソフィが側転じみた体の旋回で飛び越える。大きく揺れるロープに堪らずノレアは上下逆さまでロープにしがみつくが、ソフィは速度も落とさず駆け抜けた。

「まるで猿だな」

「中身は野良猫だがな」

「あんたこっちに気遣いないの!」

「ノレアなら落ちないでしょ! 信頼、シンライ!」

「ナジ、悪いことは言わない。あの子手放した方がいい。ウチで引き取るよ。あの子は死神と踊る子だ。いずれお前に災厄をもたらす……」

「イワン、親切心からの言葉と感謝するが──」オルコットは遠い目をした。悲しい目だ。「──それは俺たちみんな、同じことなんだ──」

 

「ナジ、お前はそんな無茶する指揮官じゃなかった筈だ」

「縁に雁字搦めにになっちまった。今はデカ過ぎる世帯抱えて首も回らん貧乏父さんだよ」

「! 明日、アンゴルモアの大王が地球に落ちるな! あの冷徹なナジが!」

「好き好んで兵隊してる奴なら切り捨てられるさ。だがな、情ってもんは鎖より強いし重い……」

「……家族は、もう持たないんじゃなかったのか……」

「そうだ。もう実の娘に命狙われるのは真っ平だ……でもな、でも……やはりインシャラー(神の御心のままに)なんだよ」

 

ナジにはその昔、家族があった。暖かな家庭だった。難民だった妻との間には長女と双子の息子。幸せだった。家族を守る為に兵士となり、無慈悲に過激派、テロリスト、武装集団と戦い続けた。お父さんはその時な……と仕事の話を家族にもした。

そして悲劇が起きる。

ウチで飯でもどうだとイワンを連れて自宅に戻ると、小さな影が拳銃を構えた。娘はライフルを担いでいた。何のことはない、息子娘達がナジの話を聞いてそれを真似ただけだ。動くな!と無邪気に拳銃の【オモチャ】を向けた息子2人をナジはいつも通り反射的に応射して射殺した。

いつも通りの、手慣れた反撃だった。そして息子たちは神に召された。

「ナジ、悪いことは言わない。もう辞めろ。畑でも耕そう。もうお前に戦場にいて欲しくない」

「だがな、こうでもしないと仲間が飢えるんだ。死ぬんだよ。俺が武器を捨て戦いに背を向けると大勢の仲間が死ぬ。もう仲間を殺したくない、だから敵を殺すんだ……」

「ナジ……」

「お前だけでも真っ当に生きてくれ。人身売買は気に食わんが死なせないだけ上等だ。ああ、俺たちの密航をやり遂げてからな。真面目になるのはその後だ。くれぐれも、今すぐ真人間になり俺たちを売り飛ばさないでくれよ……」

「俺は……あんたを敵に回したくないし、俺を殺して欲しくはない」

「命乞いか?」

「生きながらに地獄の業火に焼かれる知り合いの為に、焚き木を焚べたくないだけさ」

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