バーテックスには蹴り入れとけ   作:邪魔者パラダイス

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なんでこの小説こんな伸びてんだ…?


覚醒は大体勝利フラグ。

何かが落下する音で、遠のきかけていた意識が戻る風。

徐々にピントが合う視界で見たのは、神秘的な勇者服を身に纏う光一郎。

膝をついて風を見下ろしている。

意識が戻ったことに気づいたのか、ホッした表情を浮かべていた。

 

風の状態を確認した光一郎が、表情を変えて別の方向を見据える。

視線の先には、突如大地に叩きつけられた融合体。

 

「―――――」

 

藍色の瞳に憎悪が浮かぶ。

その場から立ち上がり、柔らかい口調で敵へと語りかける。

 

「弱い者いじめは楽しかった?」

 

地に伏していた融合体が浮かび上がる。

ある種の危機感を感じ取ったのか、周囲に転がる勇者達に目もくれず、雷撃の如き火炎玉を放つ。

轟々と燃え盛り迫る炎は、彼の右手がブレたと同時に消し飛ばされた。

再度、光一郎の口が開かれる。

 

「覚悟しろよ、バーテックス(クソ野郎)

 

紡がれる言葉に柔らかさは無く、余りある殺意が籠められていた。

 

「こっからは、ずっと俺達のターンだ」

 

その瞬間、光一郎の姿が消え、一瞬置いて融合体の目の前に出現する。

突如現れた光一郎に敵は反応が遅れ、その隙に無防備な胴体に蹴りが浴びせられた。

そこから敵の頭上へと飛翔し、右足を頭上に上げて急降下。

落下による加速が乗った踵落としが頭部へと打ち下ろされ、融合体がまたしても大地へと叩き落とされた。

 

「凄い……!」

 

2度目のダウンを取った光一郎を見た友奈が、満開の凄さを実感する。

圧倒的な攻撃や強度を前に苦戦を強いられていたはずの敵が、今度は押され始めている。

やがて、別の場所で光が昇った。

そちらに視線を向ければ、オキザリスとアサガオが上空に咲き誇っていて。

神官のような装いに変身した風と、巨大戦艦を彷彿とさせる浮遊砲台に搭乗している東郷がいた。

 

「これが、勇者の切り札…」

 

自身の手のひらを見つめながらそう呟く風。

融合体が彼女目掛けて火炎弾を放つ。

中空に浮かぶ風はソレをひらりと躱し、体当たりを繰り出して敵を後退させる。

 

「……もう、許さない」

 

気迫が込められた口調の東郷。

彼女が乗る浮遊台座の下から、合体に加わらなかった魚座が姿を現す。

向かって来た魚座を邪魔そうに見下した後、展開された砲台で一斉射撃し、その身体を消し飛ばして御霊を露出させる。

 

「この程度の敵なら、封印の儀式も不要なのね」

 

冷徹にそう呟くと、収束砲撃で御霊を破壊する。

 

「いつ見ても、妙な散り方…」

 

天に昇っていく光を見つめ、東郷はポツリと呟く。

その時、東郷の目の前に突如マップが展開された。

 

「っ!?神樹様に近い…! 何故気がつかなかった…!」

 

双子座が神樹に向かって凄まじいスピードで駆け抜けていく。

すかさず東郷が砲撃するが、双子座は軽やかな身のこなしで砲撃の雨を掻い潜る。

 

「このままじゃ、神樹様が…!」

 

焦る東郷。

ふと視界の端で光が集約している事に気づいた。

振り返ると、咲き誇る鳴子百合の中心に満開を発動した樹がいた。

風と似たような勇者服を纏い、背に金色の輪を背負っている。

 

「私達の日常を、壊させない!」

 

遠くに居る双子座へと開いた右手を向ける。

 

「そっちへ行くなああああっ!!」

 

金色の輪に咲いている鳴子百合からワイヤーが伸びる。

それは走る双子座を追い越すと、その身体を拘束した。

 

「おしおきっ!」

 

掛け声とともにぐっ、と右手を握る。

ワイヤーが収縮して双子座は細切れにされ、露出した御霊はワイヤーに突き刺され破壊された。

 

「ナイスッ、樹!」

 

「パイセン!前見て、前!」

 

樹を労う風に、光一郎が眼前に注意をするように示す。

風が振り返れば、融合体が頭部から放出した火炎を収束させ、巨大な火球を作り上げていた。

 

「なに、このヤバそうなゲンキっぽい玉……」

 

ソレは太陽の如き熱量を誇っていた。

樹海に当たったら間違いなく大損害は避けれれない。

 

「勇者部一同!封印開始!!」

 

そう叫ぶ風は一人、大剣を持って太陽を真っ向から受け止める。

彼女の指示を受けた5人は融合体を囲い、封印の意思を込めて手をかざす。

金と銀のベールに融合体が包まれる中、風が防ぐ太陽は大爆発を起こした。

 

「お姉ちゃん!!」

 

「風先輩!!」

 

「そいつを、倒せぇぇぇぇぇ!!」

 

樹が悲鳴のような叫び声を上げた。

友奈が心配の声を上げた。

それを上回る風の声に、一同は目の前の敵に再度集中する。

間も無く御霊が出現する。それさえ破壊すれば決着がつく。全てが終わる。

しかし、いつまで経っても御霊が姿を現さない。

ふと、誰かが空を見上げた。それに釣られてまた誰かが空を見上げた。

そうして全員が、空を見上げた。

 

「――――は?」

 

光一郎が発したその一言は、この場の全員の心情を何よりも分かりやすく表していた。

御霊は、宇宙規模の大きさだった。

最後の最後で出現した規格外のソレに、樹も夏凛も絶望の表情を浮かべる。

 

「大丈夫!御霊なんだから、やる事は変わらないよ。どんなに敵が大きくたって諦めない!」

 

友奈がその場の淀んだ空気を払拭するように叫んだ。

 

「友奈……」

 

「勇者って、そういうものだよね」

 

彼女の言葉に勇気づけられるように、樹も夏凛も、その瞳に生気を取り戻す。

 

「友奈ちゃん、乗って。今の私なら、友奈ちゃんをあそこまで連れていけると思う」

 

「うん!3人は封印をお願い!」

 

「早く殲滅してきなさいよ!」

 

「友奈さん!東郷先輩!」

 

東郷の元へ向かう友奈の背中に激励を投げかける夏凛と樹。

その時、突然思い出したように友奈が足を止めて、光一郎の元へ跳んでいく。

そのまま軽く拳を上げて手の甲を相手に見せると、何をしたいのか察した彼も同じように拳を上げる。

 

――――行ってきます!

 

――――行ってらっしゃい。

 

コツン、とお互いに手の甲を合わせた。

幼い頃に考えて以来ずっと使っている、2人だけの秘密の挨拶。

満足したように微笑んだ友奈は、今度こそ東郷の元へと跳んでいった。

 

---

 

樹海へと落下する2人を乗せた蕾。

その軌道上に網状に張り巡らされたワイヤーが蕾を受け止める。

しかし蕾の落下速度は予想以上に早く、引っかかってもすぐに千切れてしまう。

 

「っ……!」

 

即座に網を張り直す。何度も、何度でも張り直す。

しかし止まらない。減速はしていても停止に至らない。

 

「ダメ...!止まらないっ!?」

 

闇雲に張っているだけでは止まらない。このままでは地面と激突してしまう。

その時、樹の視界の端で、風の大剣を担ぐ光一郎の姿を捉えた。

 

「え、ちょ、檜森先輩!?それお姉ちゃんの…」

 

「樹!もっかいネット頼む!」

 

樹の戸惑いの声を無視して飛んでいく光一郎。

落下の軌道上で停止したかと思えば大剣を背に180度回転し、精霊バリアと大剣越しに蕾を背中で受け止める。

減速はしているが、それでもなお止まらない。

 

「樹!早く!!」

 

光一郎が焦ったように叫ぶ

それを聞いて何かを察した樹が即座に網目が小さいネットを張り巡らせる。

蕾とともに落下する光一郎がワイヤーに引っかかり、それを足場として全身全霊で踏ん張る。

 

「止まりやがれェェェェェェェェ――――!!!」

 

筋肉が悲鳴を上げる。骨が軋む音がする。

悲鳴を上げる身体を、雄叫びを上げ黙らせる。

筋繊維の1本たりとも気を抜くことは許さず、全身体能力を総動員する。

 

「止まってぇぇぇぇ――――!!!」

 

樹の叫びと共に生み出されたワイヤーを操り、何重にも蕾に絡めて引っ張る。

ワイヤーが千切れた端から蕾に絡ませ、全力で勢いを止める。

 

やがて勢いが衰え、地表ギリギリのところで停止した。

蕾は地面に着くと花弁が開き、友奈と東郷が姿を現す。

 

「ナイス根性!凄いわよ樹、光一郎!見て!あんたらが止めたのよ!?」

 

普段人を褒めるような事のない夏凜も、2人の頑張りに激励の言葉をかける。

力が抜けたのか、ファインプレーを見せた樹はその場に、光一郎は大剣にもたれかかり座り込んだ。

 

「夏凜さん…行ってあげてください」

 

「わ、わかったわ!」

 

樹の言葉に、友奈達の元へ向かう夏凛。

その背中を見送る樹の満開が解ける。

 

「私も…サプリ、キメとけば、良かった…か、な…」

 

そう呟いたのを最後に意識を手放して、地面に横たわった。

 

「友奈!東郷!」

 

夏凜が叫んでも、2人は微動だにしない。

不安が募り、脳裏に最悪の予想が浮かぶ。

 

「…ッ!光一郎!」

 

勇者部唯一の男子部員も、既に満開が解け元の姿に戻っている。

座ったまま項垂れており、いくら声を掛けても返事が返ってこない。

焦りながら周囲を見回す夏凜。満開をしていない自分だけが立っている状況に思わず涙ぐむ。

 

「大丈夫だよ…夏凜ちゃん」

 

咳き込も音と共に、友奈の声が夏凛の耳に届く。

その隣にいる東郷も眼を開けて微笑んでいる。

 

「……はぁい。なんとか、生きてまーす……」

 

「けほっ…けほっ…」

 

風と生存報告とばかりに手を上げ、樹も生きてることを知らせるように咳き込む。

 

「い゛っでぇ…あんなんもう2度とやんねぇ…」

 

光一郎が大剣に頭を預けながら身体中に走る痛みに後悔を漏らす。

全員生きている事実に、夏凜は安堵の涙を流す。

 

「何なのよみんな…! もう…! 早く、返事しろよぉ…!」

 

涙ぐんだ声と共に、世界が花びらに包まれた。

 

---

 

気が付くと、友奈達は例の如く学校の屋上にいた。

夏凛以外の面々は地面に横たわっており、東郷は車椅子でぐったりしていた。

 

「いやぁ…美人薄命だからあたし危なかったけど、セーフ…」

 

普段ならツッコむであろう風のセリフに、夏凛はただ微笑むだけった。

そこに、夏凛のスマホから着信音が。相手は大赦からだった。

 

「三好 夏凜です! バーテックスと交戦。負傷者5名。至急至急、霊的医療班の手配を――――」

 

大赦へ報告を行う夏凛を他所に、友奈が隣で横たわる光一郎を見やる。

 

「こういっちゃん」

 

「ん?」

 

ツンツンとほっぺを突つく友奈に、光一郎が目線を向ける。

 

「私ね、頑張ったよ」

 

「おう、知ってる」

 

「だからね、いっぱい褒めてほしいなって」

 

「よーしよーし。友奈は良く頑張ったねー」

 

「……ちょっと雑じゃない?」

 

「口も頭も回らねぇのよ。また今度褒め散らかすから許して友奈陛下」

 

「む、良いでしょう。結城友奈は寛大なのだー」

 

わざとらしく高らかに笑い声をあげる友奈。

ふと、光一郎が思い出したかのような顔をする。

 

「友奈、友奈」

 

「ん?」

 

光一郎が手の甲を見せる。それに気づいた友奈が嬉しそうに微笑んで手の甲を見せて。

 

――――おかえり。

 

――――ただいま!

 

お互いの手の甲をコツン、と合わせた。

 

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